三人揃えばレア度はみっつ。
「ううん、どうやって調べたらいいのかな?」
先頭を歩く勇者が、視線を上に彷徨わせながら言った。
僕たちはリーダーがまとめる貧民街を抜け、今は街の中心部に来ていた。大きな卵型の建物、闘技場が遠目に見える。
「貧民街の情勢や、住んでる方々の顔ぶれを見て歩くにしても、私たちのような見慣れない人間に話してくれるとはとても……」
「だよねぇ」
リーダーの貧民街でさえジロジロ見られたんだ。あれよりももっと見られるんだろう。
全く、僕は見世物じゃないんだぞ!金を取るんだからな!
勇者の頭に乗ったまま、僕は憤りを隠せずに、その勢いのまま跳ねる。
「どうしたんだい、フロイ。何かいい案でも……あ!そうか、フロイ、流石だよ!」
え。何?
勇者は僕を優しく持つと、満面の笑顔を浮かべる。
「フロイなら怪しまれないじゃないか!ありがとう、フロイ!」
まままま待てよ、こいつは何を言っているんだ。
怪しまれるどころか、人気者フワリン様が一人(一匹)でいたら危ないだろ!お前、僕を友達って言ってなかった!?友達になんてことさせようとしてるの!?
「勇者さん、流石にフロイさんだけでは……」
そうだよ武闘家、もっと言ってやって!
僕は少し目を潤ませながら武闘家を見つめた。
「エルちゃんも一緒だとレア度アップです!」
「ほえ~?なんの話してるのです~?」
僧侶に肩車されたまま、話の見えないエルが呑気に僕たちを見下ろした。ちなみに手には、買ってもらったリンゴ飴なるものを持っている。
「じゃ、こうしよう。旅の僧侶と愉快な癒しの仲間たち!僕と武闘家は二人で別行動しようと思う」
「何か目的が?」
「うん。行けるかわからないし、どこにあるかもわからないけど、地上にあると言われる雪妖精の村を探そうと思うんだ」
地上って、確かあの寒い場所だよね。
勇者についていって凍えフワリンになるのも嫌だけれど、癒しの仲間たちとして見世物もあまり気のいいものじゃない。
迷う僕を差し置いて二人は話を進めていき、僕と僧侶とエルの三人は、富裕街を囲む貧民街へ着いてしまった。
「うぅ……、ゆうちゃ、ゆうちゃ」
「フロイは寂しがり屋さんなのです~。大丈夫ですよ~、お姉さんがいますからね~」
僕を頭に乗せたエルが、そう言って上機嫌に笑った。
一応言っておくなら、別に寂しいわけじゃない。僕みたいな優秀、そして人気者である魔物が、なんでこんな子供(百五十才)のお守りをしなきゃいけないのか。
これは勇者の陰謀に違いない。僕のモチベを下げる作戦だ、今頃武闘家と二人でさらなる作戦を立てているに違いない。
悔しい……!
「じゃ、フロイちゃん、エルちゃん。気を引き締めて行きましょ」
「はいなのです~」
なんでまたお前は話し始めるんだよ。エルもいい加減突っ込め。
エルは鼻歌混じりに歩く。本人は気づいてないみたいだけど、明らかに周囲の人たちが見ていた。格好からしても、あんまりいい暮らしはしてないんだなって想像出来る。
「……よし、二人とも。ここら辺で少しいいかしら?」
「どうしたのです~?」
僧侶は懐から薬草を何枚か取り出した。その中には、いつだったか勇者に渡したことのある、飲む薬草の小瓶もあった。
「あたしは旅の僧侶。よければ薬草を配りたいと思うのだけれど、皆様いかがかしら?」
いつもより(まぁ殆ど声を出さないんだけど)、大きな声で辺りを見渡すと、ちらちら見ていた内の何人かが、ゆっくりと僕たち、いや僧侶の前へとやってきた。
「薬草……、病気の親に……」
「腹の足しになるかな」
「こっちの飲みやすそうなほうをくれ」
代わる代わる声をかけられて、けれども僧侶はそのひとつひとつに丁寧に返していく。
そうしてだいぶ落ち着いた頃、僧侶はさり気なく薬草を手渡しつつ声をかけていった。
「ねぇ?あそこは少し裕福なかたでも住んでるのかしら?」
「なぁに、俺らがお世話になってる方々が住んでる場所さ」
「お世話?」
薬草の小瓶を飲み終えた別の奴が、口元を拭いながら鼻高々に話しだした。
「まぁ、イロイロ仕事はあるんだ。割がよくてなぁ。そういや最近、なんか珍しいもんが手に入ったとかで、自慢していたよ」
「そうなの……、地下街に住むのは大変なのね」
余った薬草や小瓶を懐にしまいつつ、僧侶は労りの言葉をかける。奴らはそれに頷きながらも「仕方ねぇさ」と苦笑いを浮かべた。
「ここ以外の暮らしも知らねぇし、今さら出ようとも思わねぇ。わけぇもんは出るもんもいるが、ほとんどが一生地下暮らしよ」
手を振って去っていく奴らを見送って、僧侶は「やっぱり」と目を伏せた。
「どうしたのです~?」
エルが僧侶の袖を引っ張った。僧侶は「ごめんなさいね」とエルを安心させるように笑うと、
「彼らに渡した薬草は、普段皆に渡してるものとは別でね。少しだけ素直になるおまじないをかけてあるんだけど……」
こわっ。こいつそんなことが出来るの?
震える僕を寒いと勘違いしたのか、エルが両手で持ち直してくれた。
「素直にならなかったのよね……。ということは、彼らはもっと強い何かで洗脳されているわ」
「せんの~?」
「えっとね、つまり彼らは操られているのか。それとも生き様から来る何か、かしらね」
僧侶はそこまで言ってから首を振って、エルの手を引いて歩き出した。心なしか早歩きなのは、たぶん気のせいじゃない。
「皆と相談してみないとね。勇者ちゃんと武闘家ちゃんは今日帰れるのかしら……?」
呟いたそれに、僕も多少なりとも頷きながら、いや帰ってきてくれないと困るんだけどと思っていた。