ある魔王の憂鬱 三
今日は久々に皆が揃っての会議だ。
前回はなんだっけ。あ、確か誕生日と学校とデートで、結局暇人のリーパーしか来なかったんだっけ。
でも今日は来るって言ってたし。そうだ、前回申告したパーティーの件、改めて聞いてみよう。ちなみにもう俺の誕生日は過ぎたし、リーパーはちゃんとケーキを焼いてくれた。
美味かった。
「皆!おはよ、う……」
玉座の裏手にある会議室へ入った俺は、いつもはいないメンツに固まった。
「あ!魔王さま!」
戦士んとこの娘ちゃんだ。相変わらず可愛い、いやいや、なんでいるの。
「あー、うん、娘ちゃん、元気にしてた?」
「うん!あのねあのね、今日の頭ね、リーパーくんにしてもらったの!」
そう言って、くるくると回ってくれる。ハーフアップって言うんだっけ、これ。髪飾りがワンポイントでうん、可愛い、いやいやそうじゃない。
「えっと、娘ちゃん、なんでここにいるの?」
娘ちゃんの髪型を崩さないように撫でながら聞く。
「すまんな、魔王殿。今日は嫁が出かけていてな、一人にするわけにはいかず、連れてきたのだ」
「あー、そっすか」
託児所じゃないんだけど、ここ。でも可愛いし、いいか。いやいやよくない。
俺は魔王としてはっきり言ってやらねばと、少し背の高い戦士を見据える。威厳があるように腕組みもして。
「いいか?いくら可愛くても、ごほん、ここは魔王城だぞ、わかってるのか?」
いかん、本音が出るとこだった。
「……魔王さま、わたし、邪魔?」
「違うよ邪魔じゃないよ!むしろ俺が邪魔だったわごめんね!」
不安そうな娘ちゃんをぎゅうっと抱きしめる。
あ、これ落ち着く。まじ天使、可愛い。
そういえば、戦士と娘ちゃんはいるけど、あれ?他の三人は?
「他は?特にリーパー。あいつ暇人だろ?欠席したことなかったろ?」
「リーパーくんはね、今そうちゃんお迎えに行くって、ちょっと出てったの。そろそろ戻って……あ!」
花が咲いたように笑って、俺のことはもういないものとして扱うように、娘ちゃんは扉へ駆けていく。もちろん入ってきたのはリーパーだ。
「リーパーくん!おかえりなさい!そうちゃんも!」
「わぁ、娘ちゃん、待ってて、くれた、の?」
飛びついてきた娘ちゃんを受け止めて、リーパーは愛おしそうに抱きしめた。
隣の、愛しのそうちゃんが冷たい目をしてるのは見ないことにする。
「わたし、リーパーくんのこと大好きだもん!待ってるよ!」
「ほんと?嬉しい、なぁ」
「リーパーくんは?リーパーくんはわたしのこと、好き……?」
あの年で上目遣いとは。将来が怖い。でも可愛いから許す。
「ボクも、娘ちゃん、大好き、だよ」
隣のそうちゃん、ヤバい顔してますが。
「じゃ、わたしのこと、お嫁さんにしてくれる……?」
「娘ちゃんが、おっきくなっても、ボクの、こと、好きだったら、ね」
あれが天然タラシってやつですか、はいそうですか。
うちにはイケメンやらタラシやらいて、俺のポジションって何かなって悲しくなる。
「……リーパー殿」
「何、かな?」
「娘はやらぁぁああああん!」
「うわぁぁあああ!」
戦士がリーパーの手を掴んでフルスイング!からの壁に場外ホームラン。
ざまあみろ。
「パパのバカ!大嫌い!リーパーくん、大丈夫?」
娘ちゃんの言葉は、どうやら戦士にも相当なダメージがいったらしい。隅っこで大の大人が丸くなるのは勘弁してほしいものだ。
モテるのも、少しは考えたほうがいいかもしれない。
「……アタシのことは、どう思ってるのかな」
ぽつりと聞こえたそれに、俺は少し乱暴に頭を撫でてやる。
「……少なくとも“好き”だろうなぁ」
「うん……」
まぁ、あいつの好きはよくわからんが。けれども俺は、この不器用な“妹”を応援してやりたい。
ちなみに舞踏家は今日も来なかった。
不真面目すぎだろ!