表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/120

高貴な森妖精。

 ※



 結局僕たちもリーパーの家まで戻ってきた。

 閉まったままの扉の前で、お嬢が鍵を握ったまま立ち尽くしている。


「……お嬢」

「わかってるわよ!」


 勇者を睨みつけて、それからひと呼吸置いて、お嬢は意を決したように鍵を差し込んだ。

 がチャリと鈍い音がして、ゆっくりと開いた先。


「いらっしゃい」


 金の長髪と、長い耳が特徴的な男が立っていた。


森妖精(エルフ)……?」


 勇者が呟いたそれに、森妖精(?)は可笑しそうに笑うと、


「大体は合ってるね。それより早く入りたまえ、あまり外界の空気を入れたくはないものでね」

「あ、すみません」


 慌てて二人が入る。

 改めて男を見てみると、確かに耳は森妖精のそれだけれど、明らかに他の森妖精とは異なるものがあった。

 身長だ。勇者よりも、いや今まで会った誰よりも高いそいつは、楽しそうに、そして珍しそうに僕たちを見下ろしている。


「さて。久しぶりに鍵を使ったお客さんのようだが……、どうやらここが何かを理解していないようだね?」


 お嬢の手元の鍵を見た後、何かしら考えるような素振りを見せた。


「あ、あの、貴方は?」

「私か?私は高貴な森妖精(エーデ・エルフ)という者だよ。エーデルフ、と呼んでくれて構わない」


 森妖精、とはどうやら違うようだ。何が違うのかはわからないけれど。

 僕はキョロキョロと辺りを見回してみる。どうやら何かのお店なのか、棚には色んな小物やよくわからない壺やら置いてある。


「ここは、望みのものが手に入る店、と言ったほうがいいかな」

「望みの、もの?」

「そう。二人は何かしら欲しいものがあるから来たのだろう?」


 勇者とお嬢はお互いの顔を見合わせた。先にエーデルフを見上げたのは勇者だ。


「友達を助けたいんです。何が必要とか、欲しいとかはわからないけど、助けられる何かが欲しい」

「ほう、自分ではなく“友”の為だと?」


 エーデルフは喉を鳴らして笑うと「失礼した」と口に手を当てたままの格好で勇者を見た。なんだかいけ好かない奴だ。


「その友について、聞いていいかな?」

「それなら彼女のほうが詳しいと思います」


 そう言うと、勇者はまだ警戒しているお嬢を示した。エーデルフはお嬢を見、それから更に笑い出した。


「な、何よ!」

「いや?君が来たということは……、そうか、あの化け物はまだ狂っていないのか。大した精神力だ、認めざるを得ないということかな」

「……アンタ、リッくんを知ってるの?」


 勇者の影に隠れたまま、お嬢が恐る恐るエーデルフを見上げた。リーパーを“化け物”呼ばわりされたことに対して、やっぱりいい気はしないのか、顔は険しいままだ。


「まぁ、昔、ちょいとやりあってね。それで?欲しいのはそうだな……、腹を空かせた化け物へのご飯かな?」

「あるんですか?」

「まぁ、なくはないさ。それ欲しさに奴は来たくらいだしね」


 エーデルフは近くの棚から、森に○が書いてあるラベルを張った小瓶を手に取った。中には飴玉が入っている。

 それをもらった勇者が、代金を支払おうとベルトにくくりつけた袋を漁るけれど、大した金額は無かったようだ。


「お金は……」

「あぁ、いい、奴につけておく。だから、今度は鍵を使って来いと言っておけ」


 勇者とお嬢は目を何回か瞬きした。そして勇者が嬉しそうに笑うと、


「わかりました!ありがとうございます!」


 と頭を深く下げた。お嬢は小さく「ありがと」と言っただけで、特に何もしてない。

 エーデルフは特に気にした様子はなかったけれど、興味深げにお嬢を見つめた後、


「人魚の鱗、か。花妖精(ニンフ)にでも何か頼むつもりだったか?」

「な、な、なんで……!?」

「やめておけ。アレが作る薬にろくなものはない。素直に、化け物に薬を作ってもらうほうが得策だぞ?」


 真っ赤になったお嬢をからかうように笑い、エーデルフは棚の下にある引き出しから、小さな箱を取り出した。


「これをやろう、鱗と交換だ」

「何よ、これ……」

「中には香水の瓶が入っている。お前の魅力を引き上げる代物だ。人の心なんぞを操るより、数倍意味あるものだと思うが?」


 お嬢は何も言わなかったけれど、無言で差し出した手に握られた鱗が答えのようだ。鱗を受け取って、代わりに箱を渡したエーデルフが、早く帰れと言わんばかりに手を振る。


「人がこんな場所に長居するものじゃない。まぁ、困ったことがあればまた来るといい。気が向けば歓迎してやろう」

「エーデルフさん……」


 勇者がもう一度頭を下げる。

 それからお嬢に「早く帰ろう」と手を引いていく。

 扉を出る際、肩に乗った僕がちらりと振り返ると、エーデルフは、もうどこにもいなかった。





 入った場所と全く同じに出た僕たちは、そのままリーパーの家へ入った。

 リビングには、先に帰った魔法使いと武闘家、それから魔王とリーパーがいた。エルはお昼寝の時間らしく、二階で僧侶と寝ているらしい。


「ぁ……、二人とも、おかえ、り」


 弱々しく笑うリーパーの目は白い。てか、顔色もよくない。

 お皿に盛られたお菓子を食べていた魔法使いが、勇者が持っていた小瓶を見てにやりと笑った。


「会えたよーだな。欲しいもんはあったか?」

「うん!リーパー、これ」


 勇者が、持っていた小瓶をテーブルに置いた。直接渡さなかったのは、こいつなりに気でも使ったんだろうな。

 魔王が先に小瓶を手に取って一瞬驚いた顔をした後、リーパーにすぐ手渡した。


「これ、エーデルフ、の……。勇者くん、キミは、会えたんだ、ね」


 リーパーが噛みしめるように言って、そして飴玉をひとつ口に含んだ。段々良くなっていく顔色に比例して、勇者は少し疲れた顔を見せた。


「なるほど。周囲の生気を少しずつ吸い取る仕組みなわけだ。これならリーパーも大丈夫そうだね」

「う、ん……。全く、あの人の、考えること、は、よくわからないな」


 苦笑いするリーパーは、もう全然苦しそうには見えない。

 と、それまで黙っていたお嬢が、いつの間に箱から出したのか、あの香水を手首に吹きかけた。


 あぁ、なんだろう。

 いい匂いがする……。


「リッくん!」

「え、な、何?」

「アタシ、どうかな?」


 どうって……、いい匂いだなぁ。って違う違う!

 あれ?体が勝手に……、お嬢にスリスリしちゃう!


「フロイ、どうしたんだい?」

「ゆうちゃ、ちがう……!ちがう!」


 足首辺りにスリスリし続ける僕を見て、勇者は何かに気づいたのか、あろうことか僕をお嬢の肩に乗せやがった!


「お嬢のことが大好きになったんだね、フロイ!」

「ゆうちゃ、ちが、あぁ……!」


 なんで?なんで僕以外効いてなさそうなの!?

 魔法使いとか効きそうなのに!


「……っ」

「ゆう、くん……?」


 テーブルを叩いて立ち上がったのは魔王だ。顔が赤いのを隠そうとしているけれど、僕にはわかる。

 お前も効いてるな?


「俺は……」

「ゆうにぃ……?」

「俺は妹に欲情したくなぁぁあああい!」


 それだけ叫んで出ていったのを、皆がポカンと見送る中、僕だけがスリスリしながら冷ややかに見送っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ