ある魔王の憂鬱 二
町でも村でも、まぁ行商処でもいいのだが。
とにかく俺は、今現在進行形で隣を歩く奴の隣を、歩きたくないといつも、常々、思っている。
女性にも負けず劣らずな美貌を持つこいつは、舞踏家。
舞いと呼ばれる、まぁなんかすごい技を継承している村の奴で、その華麗な動きの前ではどんな奴も足を止めて彼を見てしまう。
少し離れた場所にいる女性二人組が、何やら俺たちを見てコソコソと話している。
これはいつものあれだ、またあれだよ。
「モテるっていいよなぁ、俺もモテたい」
「は?お前何言ってんの」
舞踏家が呆れたように腕を組んで、それから気づいたのか、二人組に妖艶に笑って手を軽く振った。女性たちはウットリした表情を浮かべている。
歓声すら上げないとか何。ああ、これだから顔がいい奴っているだけで嫌味なんだよなぁ。イケメンって悪だよな、うん、悪だ。
「悪は滅ぶべきだと思う」
「は?何、自滅願望?」
「そうですね、どうせ今の俺は悪そのものですよ」
「は?ネガ期ならもやしにでも愚痴ってろ」
見た目と反して、ほんとにこいつは口が悪い。
どうしても女性と間違われてしまうから、こうなってしまったのはわかるが、それにしても、もう少し気を使ってほしい。
仮にも魔王なのだし。
「リーパーなら、今頃愛しの“そうちゃん”と楽しく花見てるんじゃないかな……はは」
「何お前、本当にネガ期なわけ?」
「煩い!どうせモテない独り身なんて、今日も淋しくお一人宿屋ですよ!」
舞踏家は、旅先で会った女性のとこにいつも転がり込むし、そうなると、俺は一人淋しい一泊を過ごす羽目になる。
誰かいないかな、戦士……は家族いるし、リーパー連れてくと僧侶が拗ねるのが目に見えてわかるし、何より面倒くさい。
「はぁ……、じゃ集合は明日の朝、ここで」
宿屋へ入り、店主に一人分の代金を出す。
「おっちゃん、一人分空いてる?」
「一人?兄ちゃん、後ろの方はお連れじゃないのかい?」
「へ」
振り返ると、心底面倒くさそうに目を細めた舞踏家が立っていた。
「舞踏家?」
「明日もネガ期は面倒くせぇからな。早く金出せ」
「うぅ……、ぶとぅかぁぁあああ」
「泣くな!くっつくな!うわ、鼻水つけやがった!」
なんだかんだで、この舞踏家は優しい。
口は悪いままだけど。