向かうはいずこ。
魔王が来たその日の内に、じいさんとばあさんに話をして、僕たちは翌日早速旅立つことになった。
「でさー、森妖精ってどこにいんだ?」
「あ。魔王に聞けばよかったねぇ」
呑気に町の中を歩いて、必要なものを買い揃えながら勇者は「うーん」と空を見る。
「お二人は“緑の国”出身なんですよね?何か、こう、そういった伝承とか、噂とか、何か聞いたことは?」
「僕はないかなぁ」
「オレも……、あ、待てよ」
紙袋を一旦勇者に渡して、魔法使いはポケットから折りたたまれた小さな紙切れを取り出した。それを広げると、中には世界の地図が書かれてある。
「ここが“白の国”で、その南にあるのが“緑の国”。オレらは前、こっから西回りで旅しただろ?なら、東のほうは行ってないわけだ」
「つまり今回の旅は東回り、“黃の国”から先に行くということですか?」
「そゆこと」
勇者が紙袋から顔をなんとか覗かせて、同じように地図を覗き込んだ。
「確かに、行ったことがないほうへ行くのはありだね」
「じゃ、決まりだな」
紙袋を持たせたままで、魔法使いが「行くぞー」と拳を掲げて通りを歩いていく。僧侶が勇者から紙袋を受け取って、頷いて後を追っていく。
勇者も「ありがとう」と笑うと、武闘家に示して、町の出口へ向かった。
前に向かった道は、どちらかと言えば街道で、進むのも余り苦労はしなかったのだけど、今回向かう道のりは、ちょっと険しい道のりになりそうだ。
お日様がてっぺんになる頃、僕たちは大きな森へと差しかかった。
「うわぁ……」
「でけー」
木の一本一本がとても太く、まるで森というより、幹を見せられているようだ。
どうやら道はここで終わりらしい。
「これ、進めるんでしょうか……」
近くの木に手をやって、武闘家が木を見上げながら呟いた。
足元は草が茂っているし、もちろん日光なんて入ってきてない。見える限りだと、まぁ通れそうではあるけれど、好き好んで進むような場所じゃないのは明白だ。
「道……は、ないけど、行けるかもしれないし行ってみよう!」
勇者は僕を肩から頭に乗せ直して、膝まである草を掻き分けて進み始めた。続いて魔法使い、そして武闘家、僧侶が続く。
「皆、木の根が張ってるかもしれない。気をつけて」
先頭を歩く勇者が道を決めて、魔法使いが踏み潰して歩きやすいようにしていく。なんだかんだで優しいのが少しムカつく。
「どうだー、なんか見えたか?」
「んー。特に何も……って、あれ?」
立ち止まった勇者が、不思議そうに足元を見る。
魔法使いも何事かと覗き込んで、目を細めた。
「オレらが通った跡、だな」
「うん。どういうことだろう」
僕たちはいつの間にか回っていたのだろうか。
いや、真っ直ぐ来たはずだし、何よりおかしかったことなんてなかった。
「あの、私気になったんですが……。動いてる気が、して……」
「木が?」
「いえ……、草、が」
武闘家が言いかけた瞬間、足元の草が一斉に揺れだしたかと思うと、僕たちを取り囲むように急激に伸びだした!
「久しぶりで出来るかわからないけど……、青北風!」
風の魔法だ!
勇者を中心に風が巻き起こって、それは竜巻のようにして草を巻き込んで上空へ上がっていく。
「よし!リーパーのお陰だ!」
伸びた草は綺麗に刈り取られた。
けれどおかわりというように、次の草が伸びてくる。
「勇者!火はどーだ!?」
「皆丸焼けになっちゃうよ!?」
「それは困ります!」
僕も丸焼けは嫌だよ!
でも草は待ってくれないし、なんなら更に本数が増えてるんですけど!
「勇者、オレが杖を投げたところに雷を落とせ!ありったけのやつだ!」
「え?えええ?」
「いいからやれ!投げるぞ!」
魔法使いが草の間を抜けるように器用に杖を投げた。
杖は特に変哲のない地面へ刺さる。
「ほ、火雷大神!」
勇者が魔法を放った!
杖の真上の空だけ黒い雲が集まって……。
それは耳をつんざくような音と共に雷を地面に叩き落とした!
「きゃあ!」
「やりすぎだー!」
勇者が咄嗟に僕を懐に入れて伏せる。
魔法使いも武闘家の頭を押さえ込んで伏せる。
僧侶は微動だにしてない、流石というべき?
「いや、だってありったけって……」
「加減考えろよ!」
「あはは……」
伏せたままで苦笑いしてみせ、勇者はそうっと頭を上げた。
杖は無事で、杖を中心に結構な広さが焼け野原になっていた(むしろこの杖って素材なんなの)。
「よし。道は出来たな、これで」
「待つのです〜!」
進もうとする僕たちの後ろから、緊張感の欠片もない可愛い声が聞こえてきた。
振り返ると、勇者よりも小さな女の子がプンプンしながら走ってくるのが見えた。尖ったあの耳、魔王領で見た森妖精と同じだ!
「貴方たち~、森をいじめたのです〜!そんな悪い子には~、お仕置きが必要なのです~」
「え、ちょっと待って。僕たちは……!」
「悪者には~、もんど~むよ~なのです~!」
その女の子が腰につけていた、杖よりも小ぶりな、スティックみたいなものを取り出すと、それをくるくる回しながら歌い始めた。
「くるくるくる~。回れば楽しい~、皆で楽しい~。あらでも不思議~、気づけば皆~、悪夢へようこそ~」
「ちょっと……、まっ、て……」
勇者が意識を失う。
魔法使いも、武闘家も!
そうだ僧侶は?あいついつも微動だにしてないから大丈夫かも!
「……Zzz」
これは寝るの!?
あ、駄目だ、僕、も……。