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緑の国の、小さな町で。

 僕はフワリン。

 なんだか前にも言ったような気がするから、細かいことは全部省略だ。


 目の前で、楽しそうに汗を流しながら薪割りしているのが勇者。奴からは“フロイ”なんて呼ばれてる。

 割った薪をまとめて、縛っているのが魔法使い。ちなみに奴は、魔法使いとは名だけで、魔法の魔の字も使えやしない。

 その魔法使いが縛った薪を運んでいるのが僧侶。僕は知っている。このおっさんは、おっさんの着ぐるみを着たごついおっさんだということを。


「皆さん、ご飯ですよ!」


 家から手を振っているのが戦えない武闘家。育ちは四人の中で一番いいのか、知識も教養もある。ちなみによける時の動きがキモい、本当にキモい。


「おー!昼飯だー!早く帰ろうぜー!」

「そうだね。ばっちゃと武闘家が作ってくれたご飯、楽しみだなぁ」

「……」


 男三人は斧やら紐やらを適当に片付けて、家へと入っていく。


「フロイ、おいで」


 勇者に呼ばれて、僕は勇者の頭に飛び乗った。相変わらずいい匂いだ、魔法使いとは違う。


 ……って、違う違う!何平和に過ごしてんの!

 僕たち確か魔王城に行ったよね?それで世界を見てくるって話したよね?

 勇者の育ったこの町で、かれこれ一ヶ月近く過ごしてるよ!勇者のじいさんとばあさんも突っ込めばいいのに、どれだけいてもいいのよとか言うから、なんだか皆、目的忘れてるじゃないか。


 そういう僕も、毎日美味しいご飯を食べられるから、特に問題視していないんだけど。


「なー、勇者」

「どうしたんだい?」

「オレら、なんでここにいるんだっけ」


 魔法使いナイス!そのまま思い出すんだ、僕たちの目的を!


「魔王に送ってもらったんじゃないか、忘れたのかい?」

「そーだったな。送ってくれるとか、魔王も案外優しかったなー」


 間違ってないよ、間違ってないけれども。

 じゃ、なんで魔王が送ってくれたと思ってるの!


 チャリンチャリン……。

 家の呼び鈴が鳴って、ばあさんが「お客さんかねぇ」と玄関まで歩いていく。半ば、こいつらもう駄目だなと僕が諦めていると。


「皆さんにお客さんよ。ばっちゃはお片付けしておくから、行ってきなさいな」

「僕たちにお客さん?誰だろう」


 食べ終わった勇者が、簡単に食器だけまとめて玄関まで出ていく。僕も頭に乗ってついていく。


「や、少年。久しぶり」

「あ!お久しぶりです、まお……ふぐっ」

「俺はしがない魔法剣士だろ?何言おうとしてるんだい?」


 そう、そこにいたのは、一ヶ月前に魔王城で会った、魔王その人だった。

 勇者の口を押さえてにっこりと微笑むのが少し怖い。


「仲間の皆も……、あぁ来たみたいだね。ちょっと外で話そうか」


 魔法使いたちも揃うのを確認して、魔王は勇者を引きずるようにして外へ出ていった。





「どうしてこの町に?あ、もしかして世界征服の第一歩とか?」


 町の中央にある広場にて、魔王から開放されるなり、勇者はそう微笑んだ。ちなみに剣は置いてきたから、特に何も持っていない。

 お昼時でそれなりに騒がしいからか、僕たちの会話を気にする人もいない。


「落ち着け少年。征服するのにこの町に来る意味もなければ、そもそも君に会う必要すらないだろう」

「そ、それは、確かに……」


 勇者の覇気が無くなったことを確認して、魔王はその辺のオープンカフェの椅子へと座る。促されて僕たちも座ると、魔王は注文を取りに来た店員に、いくつかの飲み物を注文した。


「で。君たちはいつ旅立つつもりなんだい?」

「へ?いつって……?」

「かれこれ一ヶ月だ、一ヶ月。気の長い俺でも、流石に様子を見に来ちゃったよ」


 運ばれてきたカップに口をつけ、魔王はため息をついた。


「まさか自分で言って忘れたわけじゃ……ない、よな?」


 勇者の額から汗が流れるのが見えた。

 これはあれだ、忘れてたな、たぶん。


「いや、別にさ、忘れても俺はいいよ?けれどね、自分で“今の僕にはわかりません”とかなんとか言っといて、それは流石にないんじゃないかなって俺は思うわけ。で、だ。いつ旅立つんだい?」


 肘をついてにっこりと笑う魔王。

 怖い。

 僕は勇者をちらりと見た。顔が引きつっている。

 あ、思い出したな?


「え、と、じゃ、一週間後に」

「一週間後?」

「いいいいいえ、明日!明日には旅立ちます!な、皆!」


 仲間たちもコクコクと頷く。

 魔王は満足そうに頷いて、残りを飲み干すと、近くを通りかかった店員に代金を支払った。


「じゃ、答えも聞けたし、俺はもう帰るよ。君たちの旅路に幸あらんことを」


 立ち上がって背を向けた魔王が「あ」と何か思い出したのか、背を向けたまま立ち止まる。


「そういえば“緑の国”の森妖精(エルフ)に用があるんだったなぁ。あいつらの村どこだったかなぁ」

「森妖精……」


 忘れたなぁとぼやきながら雑踏に消えていく背中を見送って、勇者はコップをぐいと飲み干した。


「よし。皆、明日から森妖精の村を探そう!」

「りょーかい」

「はい、勇者さん!」

「……」


 だから薬草五枚で会話するな!

 そんなこんなで、僕たちはまた明日から、新たな旅をすることになった。

 あれ、魔王って結局何しに来たんだろう。



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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで拝読させて頂きました。 キリが良さそうなので一度、感想をと思いまして。 初期の作品でしょうか(違っていたらごめんなさい)。 冒頭は一部、誰が話しているのか分かりづらい部分も散見され…
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