全ての終わりと、そして始まりと。
今から十年前。
ある五人の若者たちによって、魔王は討伐されたという。
後に彼らは、勇者と呼ばれた。
※
「結界?」
“白の国”の森の、更に奥地にて、俺たちは足止めを食らっていた。
焚き火を起こしながら、俺は、まだ幼い僧侶を膝の上に乗せているリーパーを見た。
「そう。キミたちは、このままだと、魔王城すら見えない、どころか、入ることすら、出来ない、よ」
うとうとしている僧侶に、リーパーが「そうちゃん、寝ようか」と優しく頭を撫でている。気持ちよさげに目を細める僧侶には、最初にリーパーと出会った頃の面影は全く見られない。
よくここまで懐いたものだなと思ったけれど、まぁ彼自体が元来優しいのもあるのだろう。
「その結界とやらはなんとかならんのか」
火の面倒を見つつ、戦士がリーパーに問う。リーパーは「あるよ」と軽く言い、
「ボクが、外、から結界を解くよ。中の空間も、そのまま、安定させる、から。その隙に、皆で、魔王の元に行って、ほしい」
僧侶の目がカッと開かれた。
「リッくんは?そしたらリッくんはどうなるの!?」
「考えられるとしたら、あれだろ。もやしをやっちまえば中にいるオレらごとやれるんだ。魔王軍は残りの総出でもやしを狙うだろうな」
「そう、なる、だろうね」
舞踏家の言葉にリーパーは同意して、泣きそうになっている僧侶の頭をポンポンと優しく叩いた。明日は違った意味で荒れそうだと内心ため息をつく。
俺も、それが一番いいとは思っているし、彼がそんな軟弱な奴らに負けるとも思っていない。そんなことは、彼自身が一番わかっていると思う。
けれども。
「やぁだぁぁああああ!リッくん!リッくんも一緒じゃないとやだぁぁあ!」
「そうちゃん、大丈夫。ね?皆いる、から。あ、じゃその辺、お散歩、しよっか?」
「あたしじゃないの!リッくんが一緒じゃなきゃぁああ!」
泣き続ける僧侶を「よいしょ」とおぶって、リーパーは森の中に消えていく。泣き疲れた頃に戻ってくるつもりなのだろう。
「本当に、リーパー殿を残すしかないのだろうか」
「もやしがいいっつってんだろ。任せとけ任せとけ」
「その代わり、俺たちが魔王をやるんだ。早く倒せば、リーパーへの負担は減るはずだ」
俺たちはお互いの顔を見合わせ、頷いた。
明日、俺たちは魔王を討伐する。
翌朝、リーパーが示す方向へ向かうと、深い谷が広がっていた。
そこで何かしらリーパーが口にし、手をかざすと、橋が現れ、その先に黒い穴が出現する。見たことのあるそれは、リーパーが空間移動をする際のそれによく似ていた。
「さ。早く行って」
「後は頼んだよ、リーパー」
頷くリーパーから離れようとしない僧侶。その目は泣き腫らしたように真っ赤だ。
「リッくん……」
「ボクは、死なないよ。でも、ちょっとだけ、借りるね」
屈んで僧侶の目元を拭ってやると、リーパーはその涙がついた指を舐めた。途端に赤く染まる目に、彼もまた、本気なことが読み取れた。
「さぁ、早く行って」
地面から湧き出る軍勢を睨みつけ、リーパーが俺たちに闇を示す。俺は頷き僧侶の手を取ると、その闇へと歩き出した。
「キミたちはここから通さないよ」
意思の強い彼の声が、聞こえた気がした。
※
三年後。
俺たちは再び集結することになる。
自分たちが討伐したはずの、魔王軍を名乗って。