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家族とお空と僕。

 沈んだ太陽、登ってくるお月様。

 僕はパチパチと静かに燃える焚き火の火を見つめながら、ほらやっぱり野宿だとため息をついた。


「腹減ったなー」

「言ってる暇があるなら寝ててください。煩いです」

「お前さー、段々オレに対して容赦なくなってないか?」


 武闘家が僧侶から受け取った薬草を魔法使いに突き出した。


「はい」

「おい」


 でももらうんだ。ちゃっかりしてるのか、それとも馬鹿なのか。まぁ断然馬鹿だからだろうけど。

 それはそれとして。野宿の時は、魔法使いが寝ずの番をしてくれているし、休める時に休んでほしいのはある。


「まほうちゅかい、ねる」

「非常食まで言うか?」

「はは、フロイも心配してるんだよ。いつも魔法使いが頑張ってくれてるから」


 火に木を放り投げて、勇者が困ったように笑った。


「あ、そうだ。これさっき街で買ったんだけど、よかったら食べるかい?」


 勇者が腰に下げた道具袋から、四角い包み紙をいくつか取り出して魔法使いに渡した。魔法使いがそれを広げる。中に入っていたのは、美味しそうなクッキーだった。


「街で流行ってる健康栄養食なんだって。一枚で一食分の栄養が取れるらしいよ」

「へー」


 一口でいくなよ。もっと味わえ。

 でも美味しそうだなと僕も見ていると、魔法使いが包み紙を外して半分に割ってくれた。それでもまだ大きくて、口にくわえてフゴフゴしていたら更に細かくしてくれて、食べやすいように手の上に広げてくれた。


 気が利くのか利かないのか、よくわからない奴だ。


「あれ、勇者さん、これ……」


 武闘家も渡された包み紙を見て、それから「またですか!」と立ち上がった。


「これ、ただのクッキーじゃないですか!また騙されましたね!?これで何百回目ですか!」

「あれ?そうだっけ」

「そうですよ、もう……」


 力が抜けたように武闘家が座り込む。

 この勇者、こういうことはしょっちゅうだ。人を疑うことは基本しないし、言われたことは鵜呑みにするし。

 もう武闘家も諦めて、最近では怒りはするけど責めなくなってきた。


「ま、うめーからいーじゃねーか」

「……ただのクッキーですからね、美味しくなかったら問題ですよ」


 そう言う武闘家も、魔法使いから渡されたクッキーを食べてる辺り、文句を言える立場じゃないよね。


「クッキー、かぁ……」

「勇者さん?」


 勇者が手の中のクッキーを、懐かしそうに目を細めて見つめている。どこか愛おしそうに、どこか淋しそうに。


「いや、ばっちゃが作ってくれたお菓子を思い出しちゃって。じっちゃもばっちゃも、元気かなぁ」

「お祖父様とお祖母様……?勇者さんは、その、ご両親は……?」


 勇者が胸元からペンダントを引っ張り出した。

 それを開くと中に小さな絵が入っていて、二人の男女と小さな男の子が描かれてる。言われなくても僕にもわかる。

 勇者のパパとママなんだろう。


「はい、二人が父さんと母さんだよ」


 武闘家はそれで察したのか、険しい顔をして俯いた。


「すみません……」

「いいよ、気にしないで」


 ペンダントを胸元にしまって、勇者はまた火に木を入れた。

 僧侶がスープの入ったカップを渡してくれる。湯気のあがるそれは、“青の国”ほどではないけど肌寒いここでは、体を暖めてくれる貴重なものだ。

 ゆらゆらと揺れる火を見つめながら、勇者はぽつぽつと話し始めた。


「両親と住んでた村には、魔法学校も、普通学校も無かったからね。読み書きや魔法を学ぶ為に、じっちゃとばっちゃのとこに来たんだよ。流石に旅立つって言った時は驚いてたなぁ」


 勇者はスープを一口飲んで「申し訳ないことしたかも」と苦笑いした。


「そうだ!旅が終わったら、皆で街においでよ!ばっちゃの料理ご馳走するよ。きっとばっちゃも喜ぶ!」


 そう明るく笑ったけれど、無理して笑ってるんじゃないかと武闘家は気が気じゃないみたい。甲斐性のない魔法使いも、少し空気が重い。


「ほら、皆早くスープ飲みなよ。冷めちゃうよ」


 勇者が目配せし、瞬きを何回かした後、自分の分をぐいと飲み干した。ぷはっと満足そうに口を離した勇者を見て、魔法使いも習ってスープを一気飲みした。


「よし。ぜってー魔王を倒そーぜ。んで、墓にいい土産話を持っていこーや」

「そうですね!きっと喜びますよ!」


 武闘家もスープを飲んだ。「あつっ」と途中でむせて、僧侶に背中をさすってもらっている。


「お墓……?魔法使いの知り合いかい?」

「いや、おめーの親の……」


 そこまで言って、魔法使いが何かに気づいた。


「……死んだって言ってねー気が……」

「ん?僕の父さんと母さんなら生きてるよ?」

「流れ的に死んだ流れだったじゃねーか!いや、生きてるならいーんだけども!」


 うん。僕も死んだものだと思ったよ。だってペンダント出して、憂いげに見て、両親だよって、勘違いもしちゃうよ!

 全くこの勇者は本当に質が悪いよ!


「二人とも元気だと思うよ?まぁ、帰らずに旅してるからわかんないけど」


 へらっと笑う勇者にため息をついて、魔法使いが苦笑いをしつつ立ち上がった。


「ま、よかったよ。じゃ、オレは見てくっから安心して休んでな」

「ありがとう、魔法使い。あ」


 勇者の間抜けな声に、全員が注目する。


「旅が終わったらさ、皆を父さんたちに紹介したいなぁ。一緒に頑張ってくれた仲間で、そして僕の友達だよって」


 その言葉に、僧侶が薬草を二枚出す。

 武闘家は目をぱちくりさせて、でもすぐににっこり笑って「はい」と嬉しそうに返す。

 魔法使いはちょっと照れ臭そうにほっぺを掻いて「仕方ねーな」と歩いていく。


 全く。

 未来の話なんかしても意味がないのに。

 僕が勇者を倒して、ジ・エンドなんだから。


 お皿に入れてくれたスープをちまちまと舐めていると、勇者が僕をそっと両手で持ち上げた。

 飲んでるのを邪魔されて、僕はちょっとだけムッとしたけれど、勇者が嬉しそうに笑っているものだから、されるがままに放っておいた。


「フロイ。もちろんフロイも一緒だ。これからも、ううん、この先も僕たちは仲間で、友達だ!」

「ゆうちゃ……」

「頑張って魔王を倒そう!」


 こいつらまとめて本当に馬鹿ばっかりだ。

 でも、なぜだかこいつらといると楽しくて、心のどこかがポカポカしてくる。

 このポカポカが何かは、今の僕はまだ知らない。


「あ!そーいや勇者、そのペンダント銀製だろ?」

「ん?うん、たぶんね」

「売ったら金になりそーだなー」

「ちょっと!?魔法使いさん!?」


 前言撤回。

 僕は魔法使いを、軽蔑の意を込めて睨んだ。



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