幕間
※
白い法衣を身に纏った老人、それは“黃の国”で現れたあの老人であった。
老人は、自分より幾分か若いこの“協会”の主に、形ばかりの謝罪をと、まずは頭を下げる。
「いやいや、やはり冒険者なんぞに頼むものではないですな。失敗してしまったようで。主には誠に申し訳……」
そこまで言いかけ、主が優しく微笑んでいることに気づく。主はゆっくりと首を横に振ると、
「いえ、謝る必要はありません。そもそも貴方にお願いしたワタシが間違っていたのです」
と表情ひとつ崩さず言い放った。老人はう……と言葉に詰まる。主のこの笑みには、いつも薄ら寒いものを感じる。体を抑えつけなければ、震えるくらいには。
しかしそれでも、次の策を講じていることを話さねばと、老人は我が身を奮い立たせた。
「し、“白の国”の北の海に、クラーケンがおりましたな?先ずは失敗した冒険者を消す為、“黃の国”と“白の国”の航路に、それを投じようかと」
「……消す?冒険者をですか?」
「え、えぇ、はい」
主から笑みが消えた。
何かまずいことでも言ったかと、老人は息が詰まる思いで次の言葉を待つ。
「消すだなんて、そのようなことを口にしてはなりません。その冒険者もまた、ワタシたちと同じく、神に愛された人、なのですよ?しかし」
主がふっと口元を歪める。
それはなかなか見ない表情であり、老人はその底知れぬ笑みに、全身の鳥肌が立つのを感じた。
「海に不幸な事故はつきものです。クラーケンが縄張りを変えることも、あるでしょう」
「は、はっ。ではそのように手配を致します」
「えぇえぇ、お願い致しますよ。あぁ、それからあの国にもお願いしましょうか」
老人は頭を深く、深く下げ、部屋を後にした。
主はそれを優しく微笑んで見送り、その姿が見えなくなった頃、その笑みを歪ませた。
「新魔王、ですか。ふふ……、この世界に化け物はいらないのですよ」
主はただただ笑い続けた。
目指す理想を、思い描きながら。




