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魅了の舞い。

 




 結局予選を通ったのは勇者だけだった。しかも本戦は明日ということで、今日の夜は街の外で野宿ということに。

 剣士御一行も「金がぁ!」と叫んでいたから、魔法使いが“優しく”大盛り炒飯のことを教えていた。あぁ、きっとこれで剣士御一行もご飯にありつけるだろう。


 ……完食できなかったらどうなるんだろう?


「さて!じゃ、僕は水を探してこようかな!」


 勇者が伸びをしながら笑う。

 まずこの地下で、水のある場所ってあるのかな?水くらい、街で分けてもらえばよくない?


「では私は、木を拾ってきますね!」


 はいはい、いつもの役割ですね。

 僕はくわぁと欠伸して、胡座をかく魔法使いの頭に乗った。僧侶が包丁を取り出して研ぎ始めてる……、あの着ぐるみの中に色々仕舞ってんのかな……。


「……」

「……あ?」


 魔法使いがちらりと僧侶を見る。

 なんか言ったの?この僧侶。僕にはちっともわからない。


「……」

「わーってるよ。大丈夫だろ、オレらの勇者サマなら勝つさ」

「……」

「食わねーよ」


 なんとなくわかる。

 明日のことを心配してて、勇者にご飯をしっかり食べさせろって言ってるんだ。最後の「食べない」は、きっと勇者のご飯を横取りしないって意味、だよね。

 ……そうだよね?


 この待っている間に、魔法使いは少し休む。

 何度か野宿をしてきてわかったことだ。勇者が見張りを代わると言っても聞かないから、仕方なく僕がたまに一緒にいてやる。


 今日もそうなりそう。


「私はお先に休ませて頂きますね」

「うん。おやすみ、武闘家」

「おやすみなさい」


 焚き火に背を向けて、武闘家は葉っぱやら木やらで簡単に作った寝床に転がった。最初はこんなものいらないと言っていた武闘家も、勇者が「女の子なんだから」とゴリ押して毎回作っている。


 男組は地べただ。


「あー、今日は悔しかったなー」

「あぁ、予選?」


 勇者が焚き火に木をくべる。地上が寒いからか、いつもより火を強くしないと、すぐに寒さで死にそうだ。


「わりーな」

「気にしなくていいよ」

「今回ばかりは、魔法、かけらんねーなー」


 手持ち無沙汰だったのか、魔法使いは頭に乗っていた僕を掴むと、顔の前まで持ってきて、両手でムニムニと引っ張り始めた。痛くはないけど、されるのも癪だったから「ひやー」と抵抗を試みた。


「まほうちゅかい……」


 あ、駄目だ聞こえてない。

 でも、気のせいか、魔法使いは悲しそうに見えた。


「魔法使い失格だな、こりゃ」


 そう笑った魔法使いが、いつもより頼りなく見えた。

 だから僕は、それ以上抵抗する気が起きなくなってしまった。

 すると勇者が燃える火を見つめたまま、魔法使いには目もやらずに話しだした。


「ねぇ、魔法使い。魔法ならかけてもらったよ。君の魔法は、いつも僕たちを笑顔にさせてくれる。君の、君だけが僕たちに使える、大切な魔法だ」

「勇者……」


 ムニムニする手が止まった。

 俯いた魔法使いの顔は、きっと勇者からは見えない。

 だから奴が、何か噛みしめるような顔をしていたのは、誰にも言わないでおこうと思う。


「僕も寝るよ。いつもありがとう、魔法使い。おやすみ」

「……おー」


 魔法使いはまた僕を頭に乗せると、木にもたれかかって空、ううん地上を見上げた。


「笑顔の、魔法、か」


 その真っ暗な地上を僕も見上げる内に、僕もいつの間にか眠ってしまった。



 ※



 本戦は朝から行われて、トーナメント式に勝ち上がっていく。最終的に八人が出揃って、もちろん僕たちの勇者もいた。

 ちなみになぜか人形使いもいた。


「な、なんでオイラなんか……」

「よろしく、人形使い」


 勇者が朗らかに笑いかける。人形使いは緊張しているのか、握った人形に着せている洋服が汗で湿っていた。

 さらに言えばあの綺麗な武闘家もいて、奴は余裕そうに軽くステップを踏んでいる。腰に、昨日は見なかった扇をつけているのが見えて、奴も本気で賞金を狙っていることがわかった。

 代わりに鈴みたいなのはついてない。道理で静かなはずだ。


「お、勇者見習い。どうだ?いけそうか?」

「はい!今日はとても調子がいいので!」

「そうか。お前と当たらなくてよかったぜ」


 そう豪快に笑う姿はやっぱり男なんだけど、僕は気づいている。観客席に座る人のほとんどが、奴に見惚れていることに。

 綺麗に男女差って、ないんだな。


 決勝のルールを読み上げる司会。

 それを一言一句聞き逃さないように全員が聞いている。ルール理解していない奴がいたからな、皆そりゃ聞くだろう。


「ではルール説明です!至って簡単!こちらが用意した魔物と戦って勝つ!それだけ……ん、どうした?」


 何やら騒がしい。

 司会に受付のおっちゃんが何か耳打ちしている。司会は段々青くなっていって、なんだなんだと辺りをキョロキョロしていると。


「ウボァァアアア!」


 それは一つ目巨人男だった。

 勇者何人分かわからないくらいに大きい。観客席から見てても、本当に大きいのがわかる。


「すすすすみません皆様!手違いで逃げ出してしまいまして、早く避難を……うわーー!」


 司会と受付は一目散に逃げていく。ちょっと!主催ならちゃんと誘導しなよ!

 もちろん魔物は待ってくれない。

 大混乱の観客席に向けて、えぐりとった地面を投げつけてきた!


「きゃあ!」


 武闘家が僕を抱きかかえ立とうとしたけれど、人の波で足がもつれて、そのまま転んでしまう。近くにいた魔法使いと僧侶の姿も見えない。


「ぶとうか!」


 こんなとこで僕を巻き沿いにしないでよ!せめて僕だけは離してほしいともがくけど、武闘家は僕をぎゅうっと更に抱きしめた。


「怖くないですよ。私がいますから」


 違うよ!むしろ離せ!

 うんうんもがく僕と、勘違いで力を強くする武闘家。ちょっと、誰かこいつを引き離して!

 武闘家と格闘してる間に、魔物は次の地面を担ぎ上げていて、早く逃げないと次は当たってしまうと本能的に感じた。


「にげる!ぶとうか!」

「で、でも足が……」

「あー!たちゅけてー!」


 役立たずに頼った僕が馬鹿だった。

 もう駄目だと思った僕は、とにかく声の限り叫んだ。逃げる人の足音やら叫びやらで聞こえてるのかはわからない。

 あぁ、駄目だ、地面が飛んできた……。

 せめて痛くありませんように、武闘家に先に当たりますように。


連続射撃打(レーザービーム)!」

「へ?」


 魔法使いだ。

 声に釣られて見てみると、杖で地面をたくさんついていた。そして次第に細かくなったそれらは、勢いを無くして落ちていく。


「まほうちゅかい……!」

「迷子になってんじゃねーよ」


 口の端をくいと持ち上げて笑ってるけど、迷子になったのはそっちだからな!僕らは一歩も動いてないからな!


 魔法使いと一緒だった僧侶が武闘家を立たせてくれて、僕はやっと解放された。あ、そうだ勇者は!?


 すぐに魔法使いの頭まで跳ねて登る。勇者たちのほうを見ると、狼型の魔物や、植物型の魔物までいて、ここよりもてんやわんやしていた。

 人形使いを庇いながら逃げようとしていて、あのままじゃ勇者も倒れるのは時間の問題だ。


「ゆうちゃー!」

「落ち着け非常食。なんとかして下に行ってやっから……!」


 そう言うけど、あぁ!ウルフが勇者に噛みつこうとしてる!歯を剣で受け止めてるけど、後ろから違う奴来てるよ!気づいて勇者!


「ゆうちゃー!」


 シャラン。

 それは、鈴の音、みたいな何かだった。


 シャララン。

 聞いてると、なぜか心地よくなるその音は、あの綺麗な武闘家が出していた。腰に差していた扇は無くて、代わりに手足に鈴がついている。


「あれは……もしかして、舞手?」

「なんだそりゃ」


 武闘家が綺麗な武闘家(舞手って言ってたな)を食い入るように見つめている。

 舞手が一歩踏み出す。合わせるように音が響く。

 舞手がひらりと手をかざす。空気が震え、音が満ちていく。


「舞手というのは、手足に鈴をつけたり、鳴子を持ったりして、その規則的なリズムと舞いによって士気を上げたり、逆に下げたりして戦う方々のことです。舞手の動きは優雅で、かつ勇ましく、そして誠実に。でも舞手……舞踏家がまだいたなんて……」


 とても綺麗なその舞いは、あいつが男だとか女だとか、そんなことが小さく感じるくらいに、とても、とても綺麗だった。


 僕たちだけでなく、逃げ遅れた観客たち、魔物相手に武器を振るっていた人たち、更には魔物たちも魅了したその舞いは、舞手のタンッというステップによって幕を閉じた。


「完了。檻に戻すか」


 舞手がタンタンと手を鳴らす。すると、今まで暴れていた魔物たちが嘘かのように寝てしまったのだ。

 確かにあのリズムは心地よかったし、そういう効果があるのかもしれない。


 戻ってきた司会と受付によって魔物たちは戻されていったけれど、すっかり闘技大会どころじゃなくなってしまった。

 闘技場は後始末をするらしく、賞金は本戦出場した人数で分けられ、あまり手元には残らなかった。いや、今日の宿代くらいは出る、かな。


 騒ぎの中、寝込んでいたらしい剣士のとこまで人形使いを送って、それからあの舞手にお礼を言いたくて探したけれど、もうあの舞手は、街のどこにもいなかった。




「舞手、かっこよかったですねぇ……」


 宿にて、椅子に座っていた武闘家がふぅとため息をついた。


「はー?オレのがかっこいーし」

「貴方みたいにガサツじゃなさそうですし。だって舞手ですよ、舞手!」


 また始まったよ。

 それに苦笑いしながら剣の手入れをする勇者も、隅で薬草の枚数を確認する僧侶も。

 僕が呆れながら見ているのだって。

 変わりないいつもで、本当に、よかった。





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