表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/120

そして世界から魔王は消え、る?

 ※



 今日も勇者は、魔王領(エルケニアート)男爵領(フライヘルト)、更には“緑の国”の孤児院やら“黃の国”の植物園の手伝いに奔走している。


 え?あれからどうなったのか、だって?

 聞いてくれよ。


 大量に押し寄せてきた水は、あれよあれよという間に僕たちを最下層から押し上げ、“学院”の屋根から僕たちを天高く放り出したんだ。すごい高さまで上がった僕たちは、もちろん今度は地面に向かって急降下。


 勇者なんかは「わぁ、こんな高い場所は初めてだ!」とかなんとか騒いでたけど、特に武闘家は声にならない叫びを上げていた。


 そこにたまたま、ハッチから外に出ていた剣士が気づいて、風の魔法で僕たちを受け止めてくれたわけだ。


「ありがとう、助かったよ。でもなんで外に?」

「さっき変なカウントと二人組の声が聞こえたからよ。俺様だけ様子を見に来たんだ」


 さっきの動く絵のことだ。てかあれ、国全体に聞こえてたのか……。勇者が「あぁ!」と納得したように手をポンと打つ。


「あれはリーパーの」

「あああああ!早く乗ろうすぐ帰ろう今すぐ出よう!」


 リーパーにぐいぐいと背中を押される勇者は「え、でも」と何か言いたげだ。それを見て、何かを察した剣士が頭を掻きながら「ガキ……」と苦笑いしたのは、どっちに対してだったのやら。


 後でリーパーから、あれは侵入者を外に放り出して、そのまま地面に叩きつける“お仕置きシステム”なんだと聞いた。そのまま死ぬんじゃないかと思ったけど、なんでも、悪い人には制裁が必要だからねだってさ。


 そうして帰ってきてから、ずっとこうだ。

 僕としては、いい加減に勇者を倒したく思ってるんだけど。


「だからさぁ……。なんで少年がいるの。なんでまた増えてるの」


 緑の椅子で頬杖をつきながら魔王が見たのは、僕と勇者、それから剣士たちだ。魔法使いたちは各々用事があって別行動中である。


「なんか用があるって言ってたので、連れてきたんです!」

「ま、そんなわけで連れて来られた」

「意味がわからないよ!?」


 ため息と一緒に頭を抱えだす魔王をほっといて、剣士が少し偉そうに腕組みをする。


「魔王討伐をしたい」

「は?」


 魔王が顔を上げた。その表情はさっきとうって変わって真剣だ。と、なぜか部屋全体が少し肌寒い、ような……?

 いや、気のせいじゃない!リーパーから微かに冷気が出てる!


「リーパー。君が俺に対して誓ってくれてるのは嬉しいけど、他ならぬ剣士くんの話だ。とりあえずは納めて納めて」

「……わかったよ」


 パキンと氷が割れて、徐々に暖かさが戻っていく。


「それで?受付嬢を通さずにお目通りしたいと言うんだ。それなりの理由があってのことだよね?」

「あぁ、もちろんだ」


 剣士は竦むことなく、堂々と魔王を正面から見据える。


「俺様は、こいつらの為に“勇者”になろうと決意した。魔王を倒した“勇者様”の仲間に対して、やれ賢者だの聖女だの蛮族だのと言わせねぇ為に」

「もう君たちにそれを言うような奴はいないだろ?ま、いたとして、そんな奴らを黙らせることなんて簡単なはずだけど」


 手元の書類をトントンと整頓してから、魔王はカップに口をつけた。


「別に魔王をどうこうしたいわけじゃねぇさ」

「オイラたちの、最初の目的だから」

「魔王、倒す」

「ちゃあんとぉ、キメるとこキメないとねぇ」


 そう笑う四人を見て、魔王は「なるほどね」とふぅと息を吐いた。それからリーパーに「予定は?」と促す。


「明日の午後なら全員空いてるよ」


 魔王は満足そうに頷く。


「剣士くんたちは、俺たちを倒したら解散かい?」

「一応旅は終わらせる予定だ」

「そっか。なら」


 立ち上がった魔王が腰に片手を当てて、意地の悪い笑みを口元に浮かべた。


「手を抜くわけにはいかないね。リーパー、明日までに城を魔法で覆っといて」

「わかったよ」


 魔王はそれだけ言うと「ちょっと休憩」と言い残して部屋を出ていく。勇者は少し迷った後、皆に頭を下げてから魔王を追いかけだした。


 一定の距離を取ったまま、二人は無言で歩いていく。

 休憩だと魔王は言っていたけど、休憩するなら会議室を出なくてもいいはずなのに。


「……」

「……」

「……少年」

「はい!」


 魔王が止まった。でも振り返りはしない。


「何か用かな?俺は休憩するって言ったよね」

「イカ焼き、食べませんか?」

「は?」


 肩越しに見える魔王の表情は、少し呆れ気味だ。


「約束してくれたじゃないですか。帰ったらイカ焼き食べるって」

「まぁ、うん、したねぇ。した、なぁ」


 思い出した魔王が考えるように黙り込む。けれどすぐに苦笑いを僕たちに向けると、


「それは“魔法剣士”とだろ?俺はここを統治する魔王であり、少年、俺は君とイカ焼きを食べたことなんてないよ」

「それが貴方から笑顔を奪っているモノですか?」

「少年、君は何を言って……」


 魔王がハッとしたように勇者を見つめる。勇者の視線はただ真っ直ぐで、まるで魔王の中を見透かすようだ。


「魔法剣士さん、貴方は前に話してくれましたよね。“ふとした幸せで笑顔になれる世界”を守りたいって。今の貴方が不幸せだとは言わない。それが貴方の決めた道なら尚更。でも僕は、貴方にもそうであってほしいと思ってます。だから」


 勇者が握り拳を作って、それを魔王に突きつけた。


「僕は魔王を倒します。魔王を倒して、僕は魔法剣士さんとイカ焼きを食べたい。いや、もっともっと仲間たちと笑顔でいたい。それが僕の、この旅路の答えです」

「ゆうちゃ……」


 ということは、僕の目的も近い。

 勇者を倒して最弱の汚名を返上だ!

 僕はやっと念願叶うと思って、嬉しくなって飛び跳ねた。


「あはは、フロイもそう思うんだね」


 違うけど。ま、この勘違い勇者ともお別れか。

 ……あれ?なんでかな、なんだか、なんだか……、悲しい?

 僕の気持ちに勇者は気づいてないようだけど、魔王はどうやら違うらしい。


「それが少年、君の答えなんだね。あぁでも、俺は小さな友の為にも負けられないなぁ。まだ気づいてないようだから」

「小さな、友……?」

「こっちの話さ。そうだな、明日は埋まっちゃったし、明後日空けるように皆にも言っておくから、またおいで」


 魔王はそれ以上話すつもりはないようで、背中を向けて足早に奥へ消えていった。それを呼び止めるわけでもなく、勇者はただ静かにそれを見送った。





 剣士たちがどうなったのか。

 その結末を、僕は知らない。

 でも目の前の豪華な椅子に座る魔王と、並んで立つ四天王がその答えだ。


「相変わらず見栄の塊のよーだな、魔王サマってのは」


 魔法使いが杖をくるりと回して構える。対するのは舞手、いや戦舞姫(ヴァルキリー)かと思ったけど、意外に反応したのは深淵(アビス)だ。その首には鎖が巻かれていて、女王(クイーン)がしっかりと握っている。あれから色々あったんだろうな……。


「口を慎め、人間風情が。我が主を侮辱すること、万死に値する」

「ちょ、ちょっとリッくん。頑張りすぎ……!」

「え?でもゆうくんがこれぐらいやれって」


 コソコソと話すのが丸聞こえだ。魔王が「しっ、聞こえてるよ」と注意すると、二人は慌てたように姿勢を正した。


「魔王!僕はお前を倒して“皆”に笑顔を取り戻しに来たんだ!ここまで長い道のりで、答えを出すのに時間もかかったけど……」


 勇者が柄しかないあの剣を構える。呼応するように虹色の剣が現れ光を放つ。


「少年。強く、強くなったんだね……。でも」


 魔王が椅子から立ち上がり手を広げた。


「我ら魔王軍!簡単にやられはせんぞ!」

「魔王、覚悟!皆行くぞおおお!」


 勇者が床を蹴る。

 旅路で見つけた思いを、その一振りに乗せて――。





 これにて僕たちの旅路は終わりだ。

 え?結局どうなったのかって?

 そりゃ魔王軍は強いからね。

 きっと僕が語るまでもないだろう。


 結局僕は勇者と一緒にまた旅に出た。

 でも。でもいつか。いつかきっと。

 あの港町で、また二人が話しているのを見るんだ。


「フロイ、今日は何食べようか」

「んー?ちゃかな!」

「そっかぁ、じゃ魔法剣士さんを誘ってイカ焼きを食べよう!」


 そう勇者は笑って、魔王領へ向かう。

 あの日と同じようにイカ焼きを食べるために。




 ~完~

いつもありがとうございます、とかげになりたい僕です。


最初期からお読み頂いているかた、途中からお読み頂いたかた、それから完結後にここまでお読み頂いたかた、皆様本当にありがとうございました!


これにてフロイのお話は終わりになります。

結局倒してないとか、ゆうちゃはどうなんのとかあるんですが、それも含めて楽しんで頂ければなと。


次回作の構想ですが、なんとなく予想出来る通り、報告でも書いた通り、魔法剣士たちの話を書こうかなと。誰か楽しみにしてくれるんだろうかと一抹の不安を抱えながらも、書きたいと思ったものを書きたいしなと思いつつ……。


もしよろしければ、皆様からの感想や評価を頂けますと嬉しいです!励みになります!


最後になりましたが、応援してくれた皆様、本当に本当にありがとうございました!また次回作でお会い出来ましたら、よろしくお願いします!


とかげになりたい僕でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 感想を書くのって、色々な意味で難しいですよね。 と最初に言っておきます。 フロイさんが可愛いくて、ほっこりする。これに尽きるかなと思った次第です。もちろん、魔法を使わない肉体派の魔法使い、…
[良い点] もふもふフロイの愛らしい視点そのままに、属性がそのまま呼称になったユニークなキャラクターたちを、ときに愉快に、たまに感傷的に、巧みな十指であやつる人形劇さながらに展開しており、とても楽しめ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ