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勇者が勇者であるために。

 自動人形(オートプッチェ)たちは、口からよくわからない光とか、指先からこれまた原理のわからない光を出しながら、僕たちを撃ち抜こうと狙ってくる。


 魔法使いが杖で首を殴って動かないようにしても、身体だけで動いてくるし、勇者が身体を二つに斬っても這いずってでも追いかけてくる。


 魔王じゃないけど、蛆虫みたいだって文句のひとつでも零したくなるよ、本当。


「っらー!キリがねーぞ、どーすんだ!?」


 近くの自動人形を壁に飛ばして、魔法使いが勇者を振り返った。


「僕も何も考えてない!」

「そりゃー奇遇だなっと!」


 首を失くして身体だけになった自動人形を、これでもかと木っ端微塵にしながら魔法使いが笑う。人形だからって手加減しないところがまた怖い。


自動(オート)……人形(プッチェ)……?」


 何かを考えるように武闘家が呟いて、それからハッとして木っ端微塵になった自動人形を見つめる。足元に散らばるそれらは、小さく振動してはいるものの、動こうとはしていない。

 その中の破片から、武闘家が一際輝く破片を手に取った。


「これ、確か人形使いさんが……。ジェシカさんと一緒、魔法石、組み込む……?」


 考える武闘家の背後から自動人形が襲いかかる!


「武闘家!」


 勇者が声を張り上げる!でも気づいた武闘家は避けられない!


「排除、排除、排除」


 同じ単語を繰り返す自動人形。その手が武闘家に伸びた!


「チッ」

「魔法使い、さん……!?」


 自動人形の手を受け止めたのは魔法使いだ。

 ミシミシと骨の軋む音がする。


「魔法使いさん!」

「何かわかったんだろ!?ならそれをやれ!」


 自動人形はもう片方の手で魔法使いの頭を掴むと、そのまま魔法使いを床から持ち上げた。手だけでなく頭の骨が鳴る音に、魔法使いが苦しそうに呻く。


「魔法使い!」


 勇者が助けようとするけど、あぁ駄目だ、自動人形が多いよ!

 僕は気づいたら勇者の頭から飛び降りて、魔法使いの身体をよじ登って、自動人形の手の上で跳ねていた。


「まほうちゅかい!まほうちゅかい!!」

「ひ、じょ……しょ、く……にげ」

「にげる、だめ!まほうちゅかい!」


 僕のことをいつも食べるなんて言ってさ。

 でもいつも皆の先頭に立って守ってくれてさ。

 意地悪ばっかりで、でもたまに、ううん、こいつはそうだ、いつも優しかったんだ!


「まほうちゅかい、しぬ、だめー!」

「フロ、イ……!く、そ……!」


 僕は一生懸命手の上、頭の上、顔に頭突きだってした。でも全然魔法使いを離してくれない。


「異物、確認、排除」


 自動人形の顔が僕を向いた。無機質な目が僕を捉える。ぞっとするその目が、光を帯びていく。きっとこれは、あの光を僕に向かって撃つつもりなんだ。当たったらどうなるんだろう、死ぬのかな。


 カツン。


 魔法使いの懐から何かが落ちる。

 それはこいつがたまに使っていたあのナイフだ。それを武闘家が拾い上げて、


「ここです!」


 と自動人形のお腹に突き刺した!

 途端に耳が痛くなるくらいの音が鳴り出して、自動人形が電気を発しだす!それは武闘家の肌を焼いて、嫌な臭いが立ち込める。


「武闘家!」

「っ、私、だって……!」


 武闘家は全身のありったけの力を込めて、自動人形のお腹部分をナイフで引き剥がした!中に青白く光る玉が見える。


「エルちゃん、魔法を!」

「は、はいなのです~!」


 エルがスティックを向ける。息を深く吸って、それから、


驟雨(しゅうう)!」


 と水の魔法を(うた)無しで使った!

 スティックから出た水の渦は一直線に玉へ走る!

 ぶつかった瞬間、激しい水蒸気が発生して、あんなに煩かった音がピタリと鳴り止んだ。

 魔法使いの身体がずるりと床へ落ちる。武闘家も続くように魔法使いの体の上へ倒れ込んだ。


「ったく……。無茶、しすぎんな、よ」

「あ、貴方に言われたくありません」


 なんとか話せる余裕はあるみたいだけど、どう見ても動ける状態じゃない。僕は二人の周りを跳ねて「まほうちゅかい!ぶとうか!」と激を飛ばす。


「二人とも、動けるかい!?」


 剣を振る勇者が叫ぶ。でも二人は動けない。

 エルを振り返る。(うた)なしで最高位の魔法を使ったせいか、足に力が入っていない。僧侶は自動人形に腹パンして玉を壊しているようだけど、これだけの数を捌けるわけない!


「ゆうちゃ、ゆうちゃ!」


 僕は望みをかけて奴の名前を呼ぶ。

 そうだよ、お前は勇者なんだろ!こういう時になんとかするのは、お前の役目だろ!


「勇者?まだそんな戯言を言っているのですか!所詮、貴方が持つあの剣は、ワタシが造らせたただの棒切れでしかないというのに!」

「違う!あの剣は、勇者しか抜けないって商人が言ってた剣だ!」


 炎火竜(フランヴルム)にもらう前の剣のことだ。

 確かに立派な剣では無かったけど、協主が造らせたってどういうことだ?


「あの剣はですね、ワタシの“勇者計画”の為に造らせたものです。自分を勇者だと信じ込み、魔王を討伐させる為のね」

「じゃ、この剣は、本当に……」

「えぇえぇ。ただのナマクラです」


 つまり……。

 え?あの剣は伝説の剣でもない、つまり勇者じゃなくても抜ける。勇者は勇者じゃ、ない……?

 僕はあまりのショックに、ただ呆然と勇者を見つめていた。


「ゆうちゃ、ちがう?ゆうちゃ、ちがう……」


 勇者じゃない勇者についてきた僕。

 今までの苦労はなんだったんだろう。

 ぽたぽたと、意図せず涙が零れてくる。


「フロイ……」


 勇者が僕を呼ぶ。

 でも僕はふるふると体を振って「ちがう、ちがう……」と何度も呟くだけだ。


「……違わないよ」


 その優しい声に、僕は勇者を見上げた。

 にっこりと笑うその顔は、初めてあいつと会った日の、あの笑顔そのままだった。


「僕は勇者だ。初めて吸血鬼(ヴァンパイア)に会った時、“勇者だからじゃなく、友達だからフロイを守る”と言った。シスターになぜ勇者と名乗るのかと聞かれた時、僕は“勇者だから”と答えた」


 剣が虹色に光りだす。勇者の優しい、真っ直ぐな心を映すように。


「友達を守るのに“勇者”なんて肩書きはいらない。でも、その友達が僕を勇者だと信じてついてきてくれる限り、僕は何度でも言うよ。僕は勇者だと!」


 勇者の剣が真横に振り抜かれる!

 何も斬った様子はない。けれど、周囲にいた自動人形のお腹が一斉に割れていく。倒れていく自動人形の先、協主が憎たらしいとばかりに唇を噛んでいる。


「何が、何が勇者ですか!そんなちっぽけなもの、勇者と呼べるはずがない!」

「はは……。協主サマってのは、存外、頭が、かてーんだな」


 天井を見上げたまま、魔法使いが笑う。


「勇者さんが、皆さんの勇者である必要なんて、どこにもないんですよ……」


 魔法使いの上に倒れたまま、武闘家がくすりと笑う。


「勇者は勇者なのです~。だからエルちゃんは嬉しいのです~」


 いつの間にか座り込んだエルが、ふにゃりと笑う。


「そうよ。だって勇者ちゃんはワタシたちの勇者ちゃんなんだから」


 おう僧侶、着ぐるみ脱ごうよ。表情がわかんないよ。


「皆、ありがとう。僕は皆のお陰で、迷わずに進める!皆の為に勇気を持てる!だから僕は、僕は……!」


 勇者が剣を振りかぶって床を蹴る。


「協主!僕たちの思い、受け取れ!」


 虹色の剣が協主を貫こうとして――

 剣が協主に触れる寸前、刀身が粉々に砕け散った!

 あの見えない壁みたいなものが弾いたんだ!


「こんな、こんな剣如きで!ワタシが止められると……!」

「止めてみせる!この、思いで!」


 勇者が強く強く剣を握り直す。

 刃を失ったはずのその柄から、虹色に輝く刀身が形造られていく。


「その力は、初代国王の……!」


 信じられないというように目を見開く協主。勇者はそれに構わず、その身体の中心を迷いなく貫いた!

 眩い光が部屋に満ちる。

 その中に、協主の悲しみとも取れるような雄叫びが反響して、全て消えた時。


 勇者は柄だけ残った剣を握りしめて、僕たちを振り返ってから「終わったよ」と笑ったのだ。



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