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深い深い、底の底。

 ※



 魔王たちが扉の奥へ行ってから、だいぶ降りてきた。相変わらず綺麗な景色だけど、もう誰も堪能なんかしていない。


「……腹減ったなー」


 堪能というか、自分の欲に忠実なだけだった。僕は勇者の肩から魔法使いの肩へと飛び移る。


「なりきん」

「おめー、まだそれ言ってんのか?どんだけ前だと思ってんだ?」


 魔法使いが僕を掴んで横に引っ張った。


「むににー」


 やめろ!自慢のもふもふがびよんびよんになっちゃうだろ!

 だけども馬鹿力のせいで、うんともすんとも身動きが出来ない。くそう。


「もう。魔法使いさん、いい加減にしたらどうですか?もうちょっと緊張感を持ってですね」

「いらねーよ、んなもん」

「あのですねぇ」


 呆れだした武闘家に、魔法使いが盛大にため息をつきながら、僕を武闘家の頭に乗せる。


「元々オレらのこの旅に、緊張感なんて無かっただろ?命をかけて戦う騎士サマや一国の主でもない。かといって世界を救った英雄サマでもない。今から救うわけでもねー。だから、普段通りでいーんだよ」


 それだけ言って、魔法使いは「な?」と勇者を見る。勇者は少し何やら考えているようだったけど、魔法使いの普段通りの態度に笑顔を見せて、


「そっか。そうだよね!僕たちは何も変わってない。ただ僕たちがやりたいと思ったことをするだけだね!」

「そーゆーこと」


 かたん、と床が止まった。青かった海は、真っ暗な闇へと姿を変えていた。扉が現れると、僕たちを招くように開いた。


「行こう、皆」


 勇者が僕を受け取って頭に乗せる。

 通路の先は真っ暗だ。少し怖い。でも勇者はお構いなしに進んでいく。ある程度進んだところで、真っ暗だった通路が急に明るくなった。


「きゃ!」

「明かりが……。一体なんで」


 どうやら通路自体が発光しているらしい。

 でも目には優しい明かりで、チカチカするわけでもない。


「防衛機構というものでしょうか?」

「いや、逆だろ」


 魔法使いの言葉に、エルが「逆なのです~?」と首を傾げた。


「暗かったのが邪魔されてる状態。んで、これはアイツらがなんとかしてるんだろーよ」

「そんな根拠、どこにも」

「根拠なんかいらねー。そう信じて顔を上げていればいーんだよ。そうしねーと、世の中なんて信じるのがアホらしーことばっかだからな」


 まだ文句を言いかけた武闘家の口に指を当てて「信じとけ」と魔法使いはにやりと笑った。武闘家が呆れたように、でもはにかみながら「わかりました」と頬を緩めた。


 明るくなった通路には、それなりにたくさんの扉が続いていた。その扉ひとつひとつに何か文字が書いてあるようだけど、掠れているものが多くて読めない。

 更には、どうやら知っている言葉とは微妙に違うようで、博識な武闘家に言わせると昔の言葉らしい。それでもなんとか読み取れる範囲で読んでもらうと、どうやらこの扉は錬金術士(アルフィリスト)たちの自室であることがわかった。

 その最奥に、あの紋章が書かれている扉が見えてきた。


「あの扉、かな」


 緊張を含んだ声で勇者が言う。

 僕もこの先のことを考えて、なんだか震えが止まらなくなってくる。武者震いだ、怖くなんかないぞ!


「でもどうやって開けるんでしょう」

「リーパーは触って開けてたけど、僕たちも出来るのかな?」


 そんなわけあるか。

 勇者が扉に触るけれど、もちろん開きそうもない。


「めんどくせー。どきな」

「え?魔法使いさん、まさか……」

「よし!頼んだよ!」


 いやいや待って!勇者も何頼んでんだよ!

 魔法使いは「よっしゃ」と杖を握ると、それを大きく振りかぶって、


ごめんください(フルスイング)!」


 と力任せに振り降ろした!

 ガシャン!とヤバい音がして、扉の形が歪む。仮にも歴史的建造物だよね、ここ!簡単に壊していいの!?


「流石だよ、魔法使い!」

「魔法使いの魔法はすごいのです~」


 勇者とエルがはしゃぐ。これ二人が使う魔法とはかけ離れすぎてるだろ。いやでも、魔法使いの使う魔法だから、もうなんでもありかもしれない。


「ま。ちっと形が歪んじまったが、後で謝ればいーだろ」


 そういう問題なのかな。

 僕だけがジト目で魔法使いを眺めるのを他所に、少し歪んだ扉を素手でバキバキと剥がしていく。全部剥がし終えて中へ入ると、たくさんの光る絵?みたいなのが壁にたくさん見えた。


「これは一体……」


 用心しながら入っていくと、奥に動く人影が。

 その影を見た勇者が剣を抜いて、魔法使いが後ろに武闘家を庇って立った。


吸血鬼(ヴァンパイア)……!?」


 その影は吸血鬼だった。けれども吸血鬼は僕たちを見ても、いつものように嫌味な台詞のひとつも言ってこない。魔法使いが「違うな」と杖を握りしめた。


「雰囲気が違い過ぎる。なー、協主サンよ」

「協主だって?まさか」


 信じられないというように、勇者が人影を見つめる。警戒はそのままに、剣先を向けたまま。


「……全く、貴方がたは礼儀を知らないのですか」


 その声は吸血鬼そのものだけど、話し方も雰囲気も、僕たちが何回か会ったことのある協主と同じだ。


「はんっ。生憎頭のイカれた奴にかける礼儀は持ち合わせてねーんでな」


 いつも礼儀の“れ”すらない奴が何を言っているんだ。

 吸血鬼、いや協主は僕たちに向き合うと、手元の何かを押す。

 どうやらスイッチだったらしいそれは、協主が操作した瞬間に部屋の中をたちまち明るくしていく。見慣れない光る絵に写る文字列が、すごい早さで次から次へと流れていった。


「見てください!素晴らしい、素晴らしいですよ!ワタシではこの操作が出来ず困っていたのです!ですから、少しお借りしました」

「借りた?まさか、吸血鬼を乗っ取ったのか!?」

「乗っ取るとは言葉が悪いですね。協力、して頂いたのです。彼もまた優秀な錬金術士だったので、その記憶を」


 両手を広げてくるくる回る協主は、普段はそんなことをしない吸血鬼の姿も相まってとても不気味に見えた。


「システム、起動。全機通達、確認。準備段階、移行」


 無機質な声が響いて、それはどう聞いてもよくないものだというのがわかる。


「一体何をしたんだ!」


 焦りを含んだ勇者に、協主が「何を、ですか」と冷ややかに笑った。


「この国には、ある伝承がありましてな。ワタシのような下等な錬金術士には知らされてもいなかったのですが、どうやらこの中枢には、願いを叶える何かがあると言われていたのです」

「願いを、叶える……?」

「えぇえぇ。しかしワタシはそれを知らず、場所や方法を突き止めるのに膨大な時間を費やしました。いや、知らずではなく、忘れていたのかもしれませんがね」


 魔法使いが我慢出来ずに飛び出した!

 杖で協主を殴りつけて吹っ飛ばすと、その何かを止めようと杖を振りかぶる。


「魔法使い駄目だ!何があるかわからない!」

「チッ」


 杖を降ろして、魔法使いが協主の胸ぐらを掴んだ。


「今すぐ止めろ!どーせロクな願いじゃねーんだろ!?」

「ロクな……?ワタシの悲願を、ロクななどと愚弄するのですか!弟もワタシのようになっていれば死ぬことは無かったというのに!そうだ、そうです!全てがワタシになれば争いなど起こらないのです!」

「てめーと同じ存在だと?はっ、そんなのこっちから願い下げだ!」


 壊れたように笑い続ける協主に呆れて、魔法使いが床へ放り投げる。首があらぬ方向へ曲がったけれど、それでも奴は笑い続けた。


「準備段階、終了。通信、開始。システム、再開」

「こうなったら殴ってでも止めるしかねー!文句言うなよ!」


 魔法使いがスイッチをぶん殴る。ガキンと何か割れるような音がした。けれども流れる文字は止まらない。


「っ」

「魔法使い、血が出てるのです~!」


 殴ったほうの手が血まみれだ!すぐに僧侶が薬草を渡してから、怪我を見るために手を開かせた。

 あんなに強く殴ったのに壊れないなんて……。勇者も同じく近くを殴ってみるけれど、こっちはヒビどころか割れてもいない。


「無駄、無駄無駄無駄無駄無駄無駄ですよ!たかだかそれぐらいで!さぁ、侵入者を、侵略者を、排除しなさい!」


 首が曲がったままの格好で、協主が喉が枯れるくらいの声で叫んだ。それを合図に、床がパカパカと開いてあの自動人形(オートプッチェ)が出てくる。


「あの邪魔な魔王どもめ、ここまでは手が回らないようですねぇ!さぁ、早くお掃除してしまいなさい!」


 協主の声に反応して、自動人形たちが僕たちに向き直る。勇者が剣を構えて、


「信じよう!魔法剣士さんたちを!皆、行こう!」


 と床を蹴った。




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