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灰の国。

 周囲にあれだけいた自動人形(オートプッチェ)たちが引いていく。霧もリーパーが払ってくれたし、これで“灰の国”へはラクに入れそうだ。手を叩きながら爽やかに笑う魔王が、


「流石だね。じゃ、“灰の国”へ向けて……って人形使い、くん?」

「ぐ、ふふふ……。すごい、すごいよ、これ。ジェシカちゃんに組み込んだら更に可愛くなるに違いないよ……」

「……おおい?」


 主人のお腹辺りをゴソゴソまさぐる人形使い。なんだか雰囲気が違うような?


「あぁ、やっちまった……」


 目眩がするのか、剣士が頭を押さえて大きなため息をついた。魔王が横歩きで剣士の横へ移動すると、何やらコソコソと話を始める。


「何あれ」

「俺様は止めた。“何も知らねぇ奴が”ってな」

「いやいや、あの流れってさ、明らかに悲しい過去云々の流れだったよね。俺予想外なんだけど」

「それこそ知るか。そっちの勝手な妄想を押し付けんな」


 コソコソ話す二人を他所に、人形使いがお腹からぶちりと何かを取り出した。武闘家とエルから悲鳴が上がる。ゆる子と狩人は慣れているのか、我関せずといった感じで知らんぷりだ。


「あーはははは!この部品!見てよ剣士くん!艶、色、形!どれを取っても文句なしだよ!もしかして“灰の国”にはこんなのがたくさんあるのかな!?あぁ、楽しみだよ、早く着かないかなぁ!」


 そう言って、人形使いは更に部品を千切っていく。さながら狂った研究者のようだ。魔法使いが呆れたように欠伸をしてから、


「あー、アホらしー。着くまでちっと寝るわ」


 と床に寝そべってしまった。それを見た各々も、休憩とばかりに座り込んでいく。


「……じゃ、剣士くん。相手よろしく」

「待て。おめぇが相手すんだよ」

「無理」


 魔王と剣士が押し問答していると、ゆらりと近づいた人形使いが二人の頭をがしりと掴んだ。


「ひっ」

「ほら見てよぉ、綺麗だよねぇ」


 大の男二人が怖がる様子を尻目に、僕も少し休むことにした。空を見上げると、少し疲れた様子のリーパーが降りてくるところだった。





 “灰の国”。

 一面に灰が舞い、灰が積もり、灰色のその世界は、想像以上に色が無かった。


 僕たちは国の港だった場所に船を止めた。そこはハッチと呼ばれる場所で、大きな建物の中のようだ。今まで見てきたどの港とも違う光景に、魔王たち以外戸惑いが隠せない。


 船に誰か残ったほうがいいのではと思ったけれど、そもそも船を攻撃してくるような危険はないらしい。

 港に降りた武闘家が、不安そうに辺りを見渡す。


「この“灰”は、吸っても問題ないのですか?」

「それなら問題ないよ。そもそも“灰”と定義しそう読んでいるだけで、キミたちが知っている灰とは別物だからね」


 慣れた様子のリーパーが「こっちへ」と先頭を歩いていく。


「あの、もしかしてここは、昔のまま……?」


 不思議そうに設備を眺める勇者に、魔王が「御名答」と笑う。


「驚いただろ?俺たちも初めて来た時は驚いたさ。でも、これは序の口だよ」

「序の口って……」


 リーパーが大きな扉の前で止まる。扉に描かれている絵は、これまでに何度か見てきたあのツボ?と葉っぱの絵だ。


「おい役立たず」

「うん。家の紋章と同じ……」


 落ち着いた様子の人形使いが、ジェシカを抱え直して扉を見上げる。そういえばこいつ、“赤の国”でもこの絵に反応していたような?


「これは錬金術士(アルフィリスト)の紋章だよ。溢れんばかりの叡智と、栄光にまみれた(なげ)かわしい跡さ」

「じゃあオイラはやっぱり……」


 俯く人形使いに、扉を開けようとしていたリーパーが振り返る。優しく、そして申し訳無さそうに眉を寄せながら。


「キミは何もしていないし、それを嘆く必要もないだろう。ただ“賢者”と呼ばれ続けてしまったこと、その原因全てを創り出したこと。キミにだけじゃない。ボクは、本当にすまないと思っているよ」

「……」


 人形使いは何も答えない。

 リーパーはそれを問い詰めるわけでもなく、ただ静かに扉へと触れた。

 扉が光り、音も立てずに開いていく。見えたのは――。



 高い高い建物。

 透明な通路?みたいなものが宙で建物と建物同士を繋いでいる。

 どう見ても、すごくすごく高度なその文明は、悲しいかな、一瞬にして歴史から消えていったことがわかる。


「なんだ、こりゃー……」


 圧倒される光景に魔法使いが口を開けたまま空を見上げた。僕も勇者の頭から見上げるけれど、建物のてっぺんが全く見えないや。


「これがかつて栄華を誇った“虹の国”。きっと賑やかだったのでしょうね……」


 風も吹かない街並みは、とても物寂しい。


「さて。俺たちが目指す場所だけど」

「お城ですか!?」

「ハズレー。錬金術士たちの研究所、かつて“学院”と呼ばれていた場所を目指す」


 外れたことに肩を落としながらも、勇者が「学院……」と繰り返した。魔王はそれに頷いて、


吸血鬼(ヴァンパイア)にしろ協主にしろ、そこの資料がほしいと思うんだよね。ま、手に入るかどうかは別にして」


 と先を歩き出した。一歩進むたびに灰が舞う。あまり気分のいいものではないけれど、歩かなければどうしようもない。ま、僕は歩かないからいいんだけど。


 そうして歩いて、階段を登って、少し小高い場所にある周りより低い建物の前に着いた。これまたあの絵が描いてある。

 どうやら錬金術士というのは、やたら自己主張が激しいらしい。

 リーパーがまた扉を開けようとして触れる。


 ビー!ビー!ビー!


「な、なんの音なのです~!?」


 けたたましい音が鳴って、地面に次々と四角い穴みたいなのが出来ていく。そこから出てきたのは、たくさんの自動人形たちだ。さっきのとは微妙に形が違う。


「シン――発見、侵入者――ケン――」

「おい役立たず!支配下に置いたんじゃねぇのかよ!?」


 剣士が人形使いの胸ぐらを掴んで目一杯揺する。それに慣れているのか、人形使いは至って冷静に言葉を返す。


「それは防衛機構用だね。対侵入者用のではないから、オイラの手は離れてるよ」

「先程のように、主人はいないのか!?」


 戦士が斧を構えて吼える。魔王が「いないねぇ」と人形の一撃をかわしながら笑う。


「キリがないし、誰かが囮になってくれると助かるなぁ」

「ゆうくん、それは……っ」


 慌てたリーパーが止めようとする。でも人形に邪魔をされて話が出来る状態じゃない。


「……オイラ、なんで自分だけ違うのかと疑問に思ってた。奇跡も使えない、でも元素魔法も使えない。何かを生み出す、異端の力」


 ジェシカと目線を合わせるように持ち上げて、人形使いが優しく微笑んだ。


「人形使い。君はその力を恨んでたのかい?」


 勇者が人形の腕を落として、ジェシカに目をやった。

 人形使いが、ふっと口元を歪めた。


「まさか!感謝してるよ!だってこの力は、理想の嫁(ジェシカちゃん)を創り出せるんだから!」


 人形使いが右手の人差し指と中指を立てた!


「我が力を贄にし、現し世に姿を現さん!萌人形(ジェシカ)!」


 ジェシカが大きくなって、人形使いより少し小さな女の子へと変化した。女の子になったジェシカは人形使いを「マスター」と甘えた声で呼んだ後、周囲の人形たちを一瞬にして切り刻んだ!


「流石オイラのジェシカちゃん。最高に可愛いよ」

「お褒めに預かり光栄です、マスター」


 そんな二人?を呆れた様子で見ていた剣士が、やれやれとばかりに剣を抜いた。そして僕たちにひらひらと手を振ると、


「おら行けよ。やりたいことがあんだろ?カードの借りはここで返してやるからよ」


 と更に地面から出てくる人形へ向かっていく。狩人が矢を握り、


「姉さん、頼む」


 と僧侶にぼそりと呟いた。僧侶が頷くのを見て、狩人もまた矢を構えて剣士に続く。


「さぁ、早く行ってぇ。皆が仲良く暮らせるようになれるといいねぇ」


 ゆる子の言葉に勇者が頷いて、リーパーに「行こう」と扉を開けるよう促した。

 開いた扉に僕たちが入っていく。そして扉は、再び閉じた――。



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