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三者三様。

 

 天気は快晴。

 これから最後の戦い(たぶん)に行くには中々いい船出なのではないだろうか。

 渋い顔で、手すりから海を眺めている魔王を除けば。





 港で剣士たちに出会った僕たちは、その騒ぎを聞きつけて更にやって来た魔王に、首根っこを捕まえられる勢いで男爵邸へ引っ張られたのだ。剣士たちもとばっちりで連れて来られたんだけど……。


「あのさ。君らはどんだけ目立てばいいわけ?てかなんで剣士くんがいるのさ」

「一緒に“灰の国”に行ってくれるらしいです!」

「誰も返事してねぇ!てかこいつ誰だよ!?」


 ん?もしかして剣士は、“魔法剣士”に会うのは初めてだったっけ?記憶を手繰るけれど、うん、そうだ。僕の知る限りでは初対面だ。


「あれ?剣士は魔法剣士さんと会うのは初めて?この人魔王なんだよ!」

「なんで言うの!?」

「ガキ……、言っていいことと悪いことくらい学べよ……」


 大して剣士は驚かず、むしろ魔王に同情するような視線を送る。


「もういい、諦めたよ。それで?剣士くんたちも“灰の国”に来るって?」

「いや、誰も行くなんて言ってないんスけど」


 ないないと顔の前で手を振って、剣士は「行かねぇだろ?」と他の仲間を見た。ゆる子が「んんん?」と可愛らしく首をちょこんと傾げてみせ、


「興味はあるのでぇ、行ってみたいですぅ」

「未知、探求」


 とノリ気の二人。いつもなら「狩人ちゃあん」とか気持ち悪い声で剣士もノリ気になるのに、やっぱり今回の目的地が目的地なだけに、簡単には頷けないらしい。

 そこに黙っていた人形使いが「オイラは……」と、不安そうにジェシカを抱く腕に力を込める。


「オイラは怖い、かな」

「おうおう、ならやっぱ行かねぇに越したこと」

「でも行ってみたい。オイラは行かなきゃいけない気がする」

「ちっ」


 舌打ちをした剣士を気の毒そうに見て、魔王が「君は連れて行かれるほうか……」と苦笑いした。

 こうして僕たちは剣士一行も加えて、次の日、男爵に船を一隻借りて“灰の国”へと出港したのだ。





 大陸をぐるりと回るということで、着くのは二日後らしい。もちろん順調に行けば、ということだけど、この天気なら大丈夫じゃないかな。


 ちなみに船の舵を取っているのはリーパーだ。本人曰く「長生きしてると、色々覚えるんだよ」と苦笑いしていたけれど、そういえばあいつ、いくつなんだ?


 甲板で寝そべってお昼寝をしている勇者を置いといて、僕は皆の様子を見に行くことにした。何か面白い話でも聞けるかもしれないし。


 船首から船尾へ向かうと、渋い顔で海を眺めている魔王がいた。なるべく静かに近寄ろうとしたけれど、やっぱりヘタレでも魔王、気づかれてしまい「ほら」と手を差し伸べられた。


「まお!」

「あはは。君はロディアと違って話すのが苦手なんだね。あれ、ロディアも余り得意じゃなかったかな?いや、結構馬鹿にされてたような……まぁいいか」


 魔王は僕を慣れた手つきで頭に乗せると、また海を眺め始めた。


「フロイ、だっけ。君のやりたいこと、俺はわかるよ。でもそれは、たぶん違うんじゃないかなぁ?」

「ちが、う……?」

「君はきっと気づいてるはずだよ、そのことに。でもまぁ、今はいっか。あ、皆の様子を見に行くんだろう?俺と一緒に行こうよ」

「え」


 なんで僕がお前なんかと!と思ったけれど、よく考えてみれば船のことよく知らないし、頭に乗せたまま案内してくれるなら楽チンだし、僕は「ん!」と従うことにした。


「よしよし。じゃ、まずは食堂かなぁ。広いし、皆いそうだ」


 階段を降りて食堂へ向かう。

 ご飯は女性組(僧侶含む)が作ってくれるらしい。食材は日保ちするものを男爵が提供してくれた。ちなみにエルはいない。子供だからな!

 早速入る前から、中から何かが割れるド派手な音が聞こえてくる。


「あーもう!邪魔するなら出てってよ!」


 お嬢の怒鳴り声がする。魔王は「修羅場ってるねぇ」と扉を開けた。

 怒り心頭のお嬢がブンブンと包丁を振り回し、それを身軽によける魔法使いの図(良い子の皆は真似しちゃ駄目だよ、僕との約束だ)。


「邪魔なんてしてねーだろ!オレはおめーの包丁の持ち方が違うって言ってやっただけだろーが!」

「うるさい!包丁なんて切れればいいの!」

「おめーの持ち方だと指落とすってんだ!」


 わーきゃーまた喧嘩をしている二人をほっといて、武闘家とゆる子、狩人と僧侶が和気藹々と料理を作っている。たまに飛んでくる包丁やお玉を華麗によけているのだから流石と言うべきか。


「もぉ、埃立つからぁ、二人とも出てってくれないかなぁ」


 少し気怠そうにゆる子が言うけれど、魔法使いとお嬢は言い合うばかりで聞こえてなさそうだ。魔王は頭を掻いて近づいていくと、


「二人ともいい加減に」

「うるさい!」

「うるせー!」

「ぷげら!」


 同時に拳が飛んできて、両頬をそれぞれ殴られた。それなりに整っている顔がぐにゃりと歪むけれど、殴った二人が気にする様子は全くない。魔王は二人を恨めしそうに見る。


「もー!邪魔なの!」


 ついにお嬢が持っていた包丁を投げつける。けれどそれは手からすっぽ抜けて入口辺りに飛んでいく。


「あ!」


 一同の視線が包丁に釘付けになって、そして、


「やっぱり、肩、凝るなぁ。年、なのか、なぁ……」


 運良く(いや、運悪く?)扉を開けたリーパーの脳天にぶっ刺さった。普通なら死ぬんだけど、もう奴が死なないことくらい皆知っている。

 お嬢が魔法使いを押し退けてリーパーへ駆け寄った。魔法使いが「おい」と呆れた声を出したけれど、お嬢はお構いなしだ。


「リッくん大丈夫!?一体誰が」

「おめーだろーが!」

「いちいち煩いわね!」


 頭に刺さった包丁をそのままに、リーパーがお嬢の頭を優しく撫でる。相変わらず甘やかし過ぎでは?

 魔王がそんなリーパーにため息をついてから、


「リーパー。普通の人は頭にそれを刺したまま動かないから、とりあえず抜いたら?それから、皆もう君のことは知ってるわけだし、君の好きなように振る舞えばいい」

「え?あ、あぁ、そう、か。それは失礼したね」


 ポンと包丁を抜いてから、リーパーはそれを机に置いた。武闘家が「動かないというか、死にますよね……」と呟いたけれど、そんなことは今さらだ。


「舵は?」

「剣士くんたちがやってみたいって言うから、簡単に教えてボクはこっちに来たんだ」

「そっか。よし、フロイ。今度は操舵室へ行こう」


 魔王は皆に「じゃあ」と笑って食堂を出ていく。後ろからはまだ魔法使いとお嬢の騒ぎ声が聞こえていた。

 操舵室へ歩きながら、魔王はさっき殴られたほっぺを擦っている。やっぱり痛かったらしい。皆がいる手前、見栄を張っていたんだろう。


「ふふふ。ちょっと格好悪いとこ見せちゃったけど、次はああならないから大丈夫。てか二人とも本気で殴らなくても……いてて」


 ほっぺを擦りながら廊下を歩いていく。


「お、ここだここ。さて、誰がいるかなっと」


 開けると、恐らく打ち合わせをするであろう大きな机に剣士、人形使い、舞手、戦士が座っていて、何やらカードを手元に広げていた。エルが四人をぐるぐる回って「人形使い強いのです~」と歓声を上げている。


「おい役立たず、ちっとは手ぇ抜け」

「それな。お前もやし並みの性格の悪さだな」

「いや、戦いは真剣勝負だ。人形使い殿、抜かなくてよい」


 魔王が扉を閉めて少し遠くからそれを眺めている。

 中央にカードの山があって、皆の手元には五枚ずつカードがある。何か勝負でもしているのかな。


「オイラだけエルちゃんに感想言われてるし、それだけでだいぶハンデだと思うんだけど。ジェシカちゃんも動かしてるわけだし」


 首を鳴らして、人形使いは舵を律儀に握っているジェシカを見た。操縦というか、ぶら下がってるように見えるけれど、リーパーが任せたのだ、大丈夫なんだろう。


「カードが強い、ねぇ。流石……、何代経とうとも血は変わらないのかな」

「何か言いましたか?」


 最後のほうは聞こえていなかったのか、首を傾げる人形使いに「何も」と魔王は笑って、それから机に近づくと剣士のカードを一枚抜いた。


「あ!てめっ」

「大丈夫大丈夫。これで勝てるさ」

「何言って……」


 剣士が顔をしかめながら、山から一枚カードを取る。その結果を見る前に、魔王は「行こうか」と操舵室を出ていった。

 閉めた扉から剣士の「うおおおお!」と言う叫び声と、エルの感嘆にも近い声が、その結果を物語っているようだったけれど。

 廊下をまた歩いていく。窓から見える波は、とても穏やかだ。


「こういうの、久々だなぁ。フロイ、君はいつもこんなに楽しく過ごしているのかな。だとしたら、俺は君が、君たちが羨ましいよ」

「まお、いや?」

「嫌じゃないよ。でもたまにね、皆とただただ旅をしていた時が酷く恋しくて、そして憎らしくなる。あぁ、そろそろ君をご主人にお返ししないとね」


 魔王は名残惜しそうに僕を肩に乗せて、今度は船首へ向かっていく。

 相変わらず気持ちよさげに寝ている勇者。


「ねぇ、フロイ。俺は魔王だよ?魔王なら勇者を倒す絶好のチャンスなんだけど、さてどうしようか」

「ゆうちゃ……、まお、たおす?」

「あはは。そんな顔されたら出来ないなぁ。じゃ、またね、小さな友人」


 そう言って僕は勇者の隣に降ろされた。手を軽く振って行ってしまう魔王の背中は、何か淋しそうな、少し小さな背中に見えた。




 そうして“灰の国”が見え始めた頃。

 僕たちは深い霧へと、迷い込んだのだった――。


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