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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

龍星雲(りゅうせいぐも)

作者: HäK

その日は、蝉の鳴き声が煩いな、と感じた。


君の言葉を耳にした時、初夏の暑さの所為なのか、と言い訳をしながら思考を止めた。


「ご、ごめん。

もう1回言って?

風の音??で聞こえなくて、さ。」


嘘だ、風なんて吹いてなかった。

風が本当に吹いてくれたなら、君からそんな言葉聞かなくて済んだのに、聞こえちゃったから、確かめるしかなかった。


「あぁ?いや、だから、俺さ?

鈴木の事が…好き、なんよね。」


そのまま君は嬉しそうに話の続きをする。

鈴木の何処が可愛いだの、何処が好きだの。


僕の顔は君の瞳に映っていない事を、今になって思い知らされた。


僕はそんな君が好きだ、と言えないまま僕の恋は幕を閉じた。






「まじ、アイツの何処がいいんだよ…。

ぶりっ子で?クソビッチで?

男を弄ぶだけ弄んで、捨てるような女だぞ…。

ぼ、僕の方が君を大切に想ってるっつーの!」


何処に吐き捨てる訳でも無い、つい2時間前の僕の失恋を、少し御機嫌斜めになった僕そっくりの空にぶちまける。


僕達が仲良くなったのは、今から丁度1年前の汗で肌にシャツが張り付くくらいの暑苦しい夏だった。


入学したばかりで、うまく皆がクラスに馴染めるようにと教師達で勝手に決められていたふれあい学習という行事があったんだ。


僕は誰とも仲良くなるつもりが無かったから、何がふれあい学習だ、他人同士、いやたかがクラスメイトってだけで何故ふれあわなきゃいけない?

と、どうやって上手く躱そうかと決めあぐねていた。


今では、僕はあのくだらない行事に、感謝している。


あの日、僕達は初めてお互いの名前を知ったんだ。






ボケーッとしていたら、ある程度のイベントが終わっていたらしく、皆が決められた班毎に自由行動をしている。


僕も渡す人なんて居ないのに適当にお土産を見ていた。


「はぁ…来るんじゃなかった…。」


結局手に取った物はひとつも無く、班の皆と合流しようと周りを見渡すと、見知った顔がひとつもない。


まじかぁ…迷子とかダサっ。


下を向き、もう一度そこそこ大きな溜息を吐くと、よく見れば多分同じ班だったような人が僕に話しかけてくる。


確か…クラスの中でもやたらと目立っていた様な気がするヤンキーみたいな見た目のこの人、もしかしたら他の人の居場所知ってるかも。


「あぁ?お前、1人??

アイツらは?…って、もしかして俺達迷子だったりする?」


2度目の、まじかぁ。という心の声がついつい外に漏れた。


「君、あの人達の連絡先知ってるの?」


「あ〜…そういや知らねぇな!」


全く使えない!!

この人ヤンキーじゃないのか?

派手な色をした短髪に、僕はつい見た目で判断してしまったって事か?


なんか、それは勝手にこっちが決め付けて判断したって事だからちょっとした罪悪感は…ある。

口調は完全にヤンキーだけど。


「そういや、お前、名前は??

俺は、天乃あまの 龍夜たつや、よろしくなっ!」


ニカッというような効果音がつきそうないい笑顔に、僕は眩しくて、惹き込まれてしまいそうで、目を逸らす。


「…僕は、星野ほしの 星夜せいや

……よろしく。」


「お、マジでっ!?!?

俺等名前めっちゃ似てんじゃん!!」


僕の肩を揺らしながら喜んでいる君に、僕はちょっとした胸のざわつきを覚えた。

きっと、存在が、行動が、言動が、表情が、ウザイからだろう、と心に言い聞かせた。


今思えば、僕達の名前が僕達の関係を結び付けてくれた“運命”なんだ。と言える。






その後、何とか班の人達と合流が出来た僕達は、嫌々お互いの連絡先を交換し、長い様で短かったふれあい学習は終わった。


それから君は、僕に何かと絡んできた。


今日の朝飯の菓子パンの賞味期限が切れてた、だの、テストの点が1桁だった、だの、全部くだらない日常会話だった。


「こんなの、まるで友達…みたいじゃないか…。」


君との関係に慣れてきた頃、君にダル絡みをされて仕方無く付き合った夏休みも終わり、長袖に腕を通すくらいの、少し肌寒い季節に変わっていた。


「な〜に言ってんだよっ!!

…俺達は心友、だろ?なっ、星夜。」


時間は過ぎても変わらずにあの頃みたく僕の肩を揺らす君。


「あぁ、そうだね。

…龍夜。」


そう、僕はすっかり君に慣れてしまったんだ。



そんなある日の放課後、龍夜は僕に紹介したい人が居る、といつもの笑顔で話し掛けてきた。


何故か胸の奥がザワザワと不安を訴える。


僕達はいつも2人で行動していたから僕以外と仲良くしている姿は、見た事が無かった。


…苦しい、苦しい……くる…しい…。





………なんで?






龍夜が僕に紹介してきたのは、森川 たいら(もりかわ たいら)、という男だった。


夏休みの間、に本屋の少年漫画コーナーで、お互いの趣味嗜好が一致し、仲良くなったそうで。


…にしても……


「へぇ?キミが天乃の心友クンの星夜チャン、かぁ〜。

思ってたんとなんかちゃうわ〜(笑)

あ、オレ、森川 たいら。

星夜チャンは特別に、たいら、でいいぜ〜??」


すっごい軽薄!!!!

てかウザっ。


相手が女じゃなくて良かった、という感情と、こんな男と仲良くしないでほしい、という感情が抑えられず、僕は龍夜以外に初めて肩にまわされたその腕を振り払った。


「僕、帰るね。ごゆっくり。」


付き合い悪ぃ〜。

という森川の声を無視して、僕はその場から逃げた。


「龍夜、哀しそうな顔してたな…。」


眩しすぎる夕焼けが誰かさんに似ていて、僕は背を向け、帰路を歩く。


そもそも何で女じゃなくて良かった、なんて思ってしまったんだろうか。

正直、男でも自分以外と仲良さそうにしてると嫌だった。


そうか…相手がどんな奴とか関係無く、龍夜が他の誰かと居るのが嫌で、自分だけを見てほしい。


そう思ってしまうくらい、気が付いたら僕は君に深く依存し、“好き”になってしまっていたんだ。





遅い自覚は、自らの頬を染めていく。



赤く


赤く


夕日で隠せないくらいに耳まで染まっていく。




「……星夜?」


すっかり耳に馴染んでしまったその声が、足を止め、僕の中の“好き”を加速させる。


はぁ…ダメだ。

もう引き返せない。


この時、僕は初めて愛しい、という意味の溜め息を吐いた。


その存在は僕の足を軽くさせ、気が付いたら僕は君の胸の中に飛び込んでいた。

君は僕の身体を突き放す訳でも無く、そっと僕の気持ち事そのまま抱き締めてくれた。


理由も聞かず、僕を慰める様に頭を撫でる。

その体温に己のした事にハッとし、漸く我に返る。


「…ごめん!つい……。」


急いで龍夜から離れると、思いもよらない言葉が返ってくる。


「な〜んか、可愛いな、お前。」


1度は暗くさせてしまった君の顔が、いつもの笑顔に戻り、君に好きだと素直に言えたら…なんて、たらればな気持ちでいっぱいになる。


次の日、君はいつも通り僕に話し掛けてくる。



あれ以来、森川という男の姿は見なくなっていた。






今思えば、1年前は本当に色々なことが山積みで、龍夜の表情や、行動に勝手に一喜一憂してたし、あのクソビッチの事が好きって龍夜が思う前にもっと自分からアピールしておけば良かったのかな…とか一向に晴れないモヤモヤの行先を探しては、そんな1年後の自分はまたあの場所に戻って来ていた。


こんな事したって何になるって言うんだ!

虚しいだけじゃないか!!

今更何も変えられないくせに、自分が男だから!男だから…なんで男なんだよ…。


あの日、君は嘘偽りなく、珍しく素直な僕に可愛いって言ってくれた。

なのに、産まれた身体が男だからって理由で君と愛は育めない。


いつから自分はこんな重い人間になっていたんだろうか。


…もう辞めてしまおうか。


好きでいるのも、求めてしまうのも、女の名を呼ぶ君の声も、心友の僕を好きでいる君も、この身体も…もう疲れた。嫌だ。


捨ててしまえば、無かった事にしてしまえば…あれ……好きって、どうやって辞めればいいんだっけ…?


あはは…分からないや。






君が抱き締めてくれた場所のすぐ近くには、夏休みに君とよく遊んだ公園がある。

何となくブランコに腰を掛ける。


君は馬鹿みたいにこのブランコから柵を飛び越え、怪我をしては呆れた僕が手当し…


『な?かっこよかったろ?

越えられない壁なんてないんだぜ!

まぁ、多少?怪我はするけどさっ。』


なんてアホ抜かして、また笑うんだ。

僕は、怪我したら元も子もないだろ。なんて現実突き付けて、でもそんな事言える人を探していた様な気がして、きっと心のどこかで君の言葉に救われていた。


…あれ、君はあの後僕になんて言ったんだっけ?


…そうだ。


「“怪我を恐れてちゃ、身体が臆病になって、いつの間にか挑戦するって事をやめちゃうだろ。

そうしたら、人間が人間でいる事に理由なんてなくなるんだ…ぜ。”…か。」


操られて、言いなりで、踏み出す力を喪ったらそれは植物人間と同じ、と君は言った。


「…本当に、嫌になる程…かっこいい奴。」


僕の中の時間は止まったままなのに、僕以外の影は濃くなり、過ぎ去ってゆく。


嫌なのに、諦めたいのに、思い出すのは君の強い言葉と、馬鹿すぎるけど見た目に反して真っ直ぐで優しい性格と、もう無い1年前の君の体温ばかりが頭の中を占めている。


どんな言葉も、どんな顔も、どんな声も、僕にとっての君の全てが、僕の視界を歪ませていた。


「雨なんて降ってないくせに…全然止んでくれないじゃん…。」


乾かない地面が、あの日僕が突き付けた現実ばかり思い出させる。




もう1人の影を見つけるまでは。






「あれ?星夜??

こんなとこで何してっ…てえぇえええ!?!?

ど、どうした!?何があった!?」


本当に間の悪いヤツ。


今1番会いたくない人と会ってしまった。

しかもまたこんな情けない姿を見せてしまった…。


「ほんとにどうしたんだよ…。

なんかあったん?

それともなんか悩んでるんか??

この俺に話してみ??聞くぜ???」


全く、誰の所為だと…。


お前が、僕をこんなに好きにさせたんだ!!

僕の好きを勝手に奪っていきやがって!

全然タイプじゃないのに…好きになっちゃったんだよ…。

本当に最悪だ!!!!


あの日も、出会ったのも、好きになったのも、この涙も、全部全部お前の!お前の…お前……の…………



僕の所為だ…。


好きだ…よ…。

そう告げる為の唇の準備は出来てるのに、今更素直になれない僕は、また君の好きな僕になる。


「なんでもないよ。

ただ、ブランコ漕いでたら、風でちょっと砂が目に入っちゃっただけ!

ほら、治ったし!

…何も無いから、気にしなくていいよ。」


「そう…なんか…。

そんならまぁ、いいんだけどよっ。

…大丈夫じゃなくなる前になんかあったら言えよ。

俺達心友、だろ。」


中途半端な優しさが心の奥底の傷を抉る。

そんな最低な君が好きだよ。

だから、絶対に僕はもう揺らがない。


どうせ、好き以外にはなれないのだから。


「大丈夫大丈夫!

さっ、帰ろう?」


明日、僕は君と同じ最低になる。


同じ最低でもきっと君は嫌ってくれるよね?

だって僕と同じ好きではないのだから。






「おはよう、鈴木さん。」


「??…お、おはよう?

というかぁ、お話したのは初めまして、だよね!せい君♡」


初会話で僕の名を軽々しく呼ぶのは、鈴木(すずき) (もえ)

忌まわしい龍夜の好きな人。

やけに鼻につく女臭い香水に、男に媚びる様な話し方。

小柄な身長に、そんな自分が一番可愛いと、それを分かった上での上目遣い。


敵を知るには敵の内に入るべし、と思い、話し掛けてはみたが…勘弁してくれ。

これの何処が可愛いのか全く僕には分からなかった。


「僕の名前、知ってたんだ。」


「勿論だよぉ!せい君ってとぉっても美少年だよねぇ〜、女子の間で噂だよぉっ♡」


噂も何もお前…仲良い女友達居ないだろ!?


じゃなかったら僕がお前に嫉妬する必要なんて無いんだよ…。

なんで、龍夜が好きになった人が、僕が悔しくなるくらい良い人じゃないんだ。

中途半端な気持ちがどれだけ人を傷付ける事か、知らないんだろうな。


こうなったら全部暴いてやる。

その芸術的なメイクごと本性を引き剥がして、龍夜に現実を見せてやる。


「…一緒に登校してもいいかな?」


「いいよぉっ!萌も、せい君とお話ししたかったしぃ♡」


態々合わせる歩幅に、その存在全てに嫌気がさし、それでも着実に道を歩いていく。


…早く龍夜に会いたい。


龍夜に会えればこのイライラ全部消えるのにな、なんて考えながら一歩、また一歩。


後ろの存在に気付かずに。


「___…星夜。」








それから学校に着いても何かと鈴木は僕に話し掛けてきた。


龍夜はというと、朝の挨拶も無し、全部鈴木に邪魔されてるというのもあると思うが、何となく避けられて…る?


まぁ、こうなる事も想定内…だけど…代償がデカいな。


龍夜に話し掛けようにも気付いたら龍夜はいないし、見つけたと思ったら今度は鈴木の相手。

このループから抜け出す方法を教えてください。


そんなこんなであっという間に1日は終わってしまった。


しかもこれが1日だけならまだしも、2日、3日…1週間……そして今日で1ヶ月が経った。


最早気まづすぎてお互い話し掛けられる雰囲気では無くなってしまった。


増え続ける僕と、鈴木のありもしない噂に、1つも増やしてほしくない僕と、龍夜の不仲説に僕のストレスは限界突破していた。


この1ヶ月で知れた鈴木という人間は、兎に角彼女持ちとか関係無く色んな男に手を出す様な女だった。


承認欲求が強く、他人に必要とされたい。

そうでないと意味の無い、と言わんばかりの男遊び。

その為、女の敵で、当の本人もそんな自分を受け入れてくれないのなら、女友達は要らない様子だった。


噂は噂と言うけれど、鈴木の噂に関しては全部本当だった。

救いようのない自己中。


そんな女に溺れる男は、余程チョロい男なんだろうな。

なんだそいつ、絶対そこら辺に売ってる偽物の高い壺とか買わされるタイプじゃん。


そんな奴……独りいたわ。


鈴木がヤバい奴すぎて忘れかけてたけど、僕の想い人の、想い人なんだよな。ありえない。


鈴木のいい所がひとつも見つからないまま、ソレは突然訪れた。


ソレは、僕達の関係が変わる瞬間だった。







【龍夜side】君の為の、暁光。


遠くに大好きな心友を見つけて、それだけでついつい嬉しくなって、自慢の体力と運動神経で星夜目掛けて一直線に走り出す。


あと少しで、あと少しで、追いつく。


昨日の事があったし、なんか心配だから朝から抱き締めてやろっかなぁ!

なんて陽気に走り続け、御目当ての人物に声を掛けようとした瞬間。


「___…星夜。」


俺の瞳に映ったのは、星夜…と意外な人物、鈴木だった。


は…?何でアイツと居るんだよ…。


驚きのあまり、俺は咄嗟に物陰に隠れた。


いや、全然隠れる必要なんて無いんだけど、それは分かってんだけど、あまりの状況に頭が追いつかず、現在に至る。


話し声は聞こえない。


でも星夜がいつもは見せてくれない笑顔を、鈴木に向けている。


………はぁ?どういう事??

なに、俺の頭が悪いんか??


大切な奴が、好きな人と居て、笑ってる。

傍から見たら幸せそうなカップル。


仄かに胸を支配し始める苛立ちの行く先は、何故か鈴木に対してだった。


心友の好きを、俺は受け入れられなかった。

それはライバルだからじゃなくて、何故か分からないけど心友の恋の先を嫌いになった。


好きな人が好きだった人になった瞬間だった。

心が勝手に好きな人より心友を優先させてしまう。


馬鹿な頭では処理しきれない複雑な感情に、その場で頭を抱え、蹲った。


「はっ…なんだよ、それ。

意味分かんねぇじゃん…。」







その日から急に星夜の周りは騒ぎだした。


誰から聞いただろうか。


『鈴木と、星野、付き合ってるんだってよ!!

美男美女カップル誕生かぁ〜!!』


”お似合いだね。“


うるさい。


”オレ萌ちゃん狙ってたのにー。“


うるさい。


”星野くんと付き合うってマジ、鈴木ありえないんだけど。“


うるさい。




”そういえばさー。


星野と仲良かったアイツ、えーっと…誰だっけ?(笑)


あー、そうそう、天乃!


アイツも可哀想だよなー(笑)


美少年に勝てるわけねーのにっ(笑)


知ってる?


アイツ、鈴木に振られた挙句、心友に捨てられたって(笑)“




……巫山戯んな。


気が付いたら手の色は赤く染まっていた。

先程までくだらない噂で浮かれていた奴らは、もう動かなくなっていた。


「星夜に聞こえたらどーすんだよ。

お前如きが星夜を、俺を、語るなよ。」


既に屍と化した廃棄物を蹴飛ばした。


息があるだけマシな方だと思え。

そう言い捨てて俺はその場を後にした。






星夜に出逢ってからは一切他人に手を出したりなんてしなかったのに、守りたい人が出来たからか意識せずとも少しヤンチャしていた数年前に戻っていた。


俺は今、誰の為に手を出した?


アイツらは今、誰のモンに手、出した?


俺はこの間からおかしい。

狂ってしまったんだ。


星夜が居ないと好きな俺でいられない。


俺にとって星夜は、大切で、大好きで、心友で…運命だ。


初めて話した時の違和感が今でも確かにココにある。

コイツはきっと俺にとって居なくてはいけない人なんだと思った。

だから俺は、星夜と心友になった。


でももしかしたら本当は最初から全て間違っていたとしたら…?


何故こんなに大切で、好きで、守りたくて、自分のモンにしたくて…愛しいって思うんだ…。


全部心友だから、で今まで解決してきたのに、ふと頭の中に過ぎったひとつの可能性が真実に変わる。


「あっ…あぁ………こ、い……?」


1度口に出したらもう変えられなかった。


…俺は、星夜をそういう意味で愛してる。



【龍夜side_end.】







光射す、龍星雲。





僕は…何をしているんだろう。

いや、何をされているんだろう。


「ねぇ、せい君♡

せい君も、萌とこういう事を望んでいたんでしょぉ?♡

せい君なら…いいよっ♡…シよ♡」


放課後、鈴木に本校舎とは隔離された空き教室に呼び出されたかと思えば、いつの間にか嫌いな女に押し倒されて、僕の上に跨っていた。


突然の出来事に呆気にとられて、僕は彼女にされるがままになっていた。


彼女は僕のシャツに手を掛け、ボタンを1つずつ外していく。

そして自分の制服のリボンを解いた辺りで漸く彼女を突き放せた。


当然相手は女だ。自分より力も無い。

手加減をしなければ傷をつけてしまう。

という配慮がダメだったみたいで、突き放したはずの彼女は微動だにしていなかった。


僕は違う意味で恐怖を覚えた。


”ヤラれる。“


怪我はさせたくない。

でも当たり前だけど、ヤラれたくもない。


女相手に必死に出来る限りの抵抗をする僕はみっともないだろう。

彼女の服がどんどん乱れていく。


彼女の手が僕のズボンに手が掛かった時、誰も来るはずのない教室の扉が開いた。







音の鳴るほうへ視線を向けると、そこには怒りで気が狂いそうになっている龍夜の姿があった。



……終わった。


心友に裏切られたって思って僕はきっと、2、3発くらいぶん殴られるんだろうな…という覚悟を決めた。


足早に龍夜が此方に近付いてきたかと思えば、手を出してきたので、殴られる準備として僕は目を瞑った。


でも一向に痛みや衝撃は来ず、うっすら目を開けると龍夜は、僕の上に跨っている鈴木を軽々と退けて、僕の腕を掴み、彼女に向けてこう言い放った。


「コイツ、俺のだから。

お前みたいな尻軽女如きが星夜に手、出すなよ。汚れるだろ。

女だから1度は赦すけど……次は、殺す。」


逆ギレをする彼女を独り、空き教室に置いて、僕は龍夜に腕を強く引かれた状態で、学校を後にする。


暫くの無言に耐えきれず、僕は君に話しかける。


「ど、どこ行くの?

こっちって龍夜の家の方向…だよね?」


「…黙れ。」


思わぬ返事に身体が強ばる。

1年間で君の事はよく知れたと思っていたけど、その顔も、その声も、全部初めてだった。


でも…どうしよう…。


見慣れない新しい龍夜は、怖いけど、鈴木の時の怖さじゃなくて、なんだろう…ドキドキする。


久しぶりの君の熱が嬉しい。

凄く、凄く…どうしようもなく、好きだ。


つい求めてしまいたくなる。


”同じ愛を。“







目的地に着いても君は手を離してくれない。


龍夜の部屋に無理矢理連れてこられ、そのままベッドに押し倒された。


1日に2度も、それも別々の人に押し倒される人なんて居るのだろうか。


やっぱり相手は好きな人な訳で、急に恥ずかしさが込み上げてきて、不自然に龍夜から視線を逸らしてしまう。


それに気付いた龍夜は癇に障ったのか、力ずくで自分の方を向かせたかと思えば、瞬きもする時間も無いくらい一瞬で、僕の唇を奪った。


慌てて胸を押し返すと、君は今にも泣きそうな顔をしている。


「な…んで……なんで、キスなんか…。

僕の事が嫌いなら、こんな事するなよ!!!!」


勝手にキスしてきた癖に、一丁前に被害者面をする君にイライラして頭ごなしに怒ってしまった。


でも、君の想いが僕の頬に触れた瞬間、すぐに冷静になった。


「好き、だ…。好きになっちまった…。

ごめん、ごめんな…こんなつもりじゃ無かったのに、お前が鈴木のモノになるのがどうしても耐えられなくて…。

お願いだから…お願いだから!

鈴木と付き合わないで…くれ…。」








1年前の僕達の立ち位置が逆になる。

今、君が僕の胸の中に居る。


慣れない重みに、君はあの時、こんなに重い想いを軽々と抱きとめてくれたんだな、と、改めて君の偉大さを知る。


「龍夜は鈴木が、好き…なんでしょ?

僕なんかずっと独りでいいんだよ。

君が幸せになるのなら、もうこれ以上は望まないから、期待させないでよ。

君が僕を好きになる事は…無いよ。」


あくまでも気の迷い、という事にして、君の目を覚まさせようとする僕の唇をもう1度塞いだ。


君の愛が少しずつ深くなる。


息をしようにも、直ぐに唇は塞がれる。

苦しくて、死にそうで、死ぬほど気持ちが良くて、幸せ。


どれ程長い間、僕達はキスをしていたのだろうか。

ようやく離れた唇が、僕に優しく微笑みかける。


「…好きだよ、お前だけ。

これからも、ずっと。

だから、一生俺の傍に居て。

お前が不安なら何度でも、いつでも、伝えに来るから。

…俺の人生、星夜に全部あげるから、星夜の人生も、全部俺の。なっ!」


確かめる必要は無かった。

お互いが、お互いじゃなきゃいけなくて、それ以外望まないというのなら、僕の応えは…


「…うん。

龍夜の傍に居る…ずっと。」


それだけで充分だった。


僕達は次の朝が来るまで抱き合った。


”きっと今日は、晴れてくれるだろう。“


僕の胸の中で眠りについた龍夜を強く抱き締めて、そう思った。

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