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戦い 一日目

14日間の戦いがゆるゆる始まりました。

もちろんフィクションです。

独立日本スターティングメンバーの定例会に参加して、俺の心と頭は疲れた。


一休みしたいところだが、明日から投票ウィークスが始まる。


俺は急いで公式選挙サイトのアピールメッセージを追加投稿し、自作ページを更新し、公式選挙サイト内にたまっていた3件の取材メッセージに回答を送信した。

それから、昨日から今日にかけて届いた約50件の応援メッセージに回答し『元アイドルグループ、サクラ・ジョウルリ』さんからの応援メッセージは他の人も見れるようにピン止めした。

ピン止めについては、もちろん事前にアキラちゃんから許可をもらっている。


少し居眠りしてしまって、気付いたら22時になっていた。


ユナに毎日連絡すると約束したのに今日はまだ連絡できていない!約束違反になってしまうと焦って、俺は彼女に急いで通話申請を送ったが、彼女は反応しなかった。


翌朝ユナから連絡が来た。

俺はつべこべ言い訳せずに謝るしかないと思った。でも、もし俺の通話申請に彼女が気付いていなかったら『昨日は連絡してくれなかった』と誤解されてしまう。


「昨日は連絡遅くなってごめん。あの時間はダメだった?」


俺はさりげなく連絡した事を伝えた。


「うん。隣の部屋の子が、毎日21時30分から22時30分まで寝る前のリラクゼーションをするの。それをしないと精神がまいっちゃうんだって。

だからその時間は私たち周りの人が静かにしないといけなくて」


「そうか」


「でも連絡くれてありがとう」


シェアハウスに住んでいる人はいろいろ気を使うものだな、と俺は思った。


「マサコさんは、昨日は忙しかった?」


「そうだな、今日から投票ウィークスなので昨日は直前メッセージの投稿とか、サークル活動とかいろいろやっていた」


「そうね、いよいよ始まったものね。

今日から二週間、マサコさんのことを私なりに見守っているわ。あなたがどうなっていくかとても楽しみ」


「俺がどうなっていくか?」


「うん。きっと良い結果になると思う」


どういう意味だろうかと思ったが、画面越しの彼女は優しく微笑んでいた。俺をばかにしたりからかっているわけではないようだ。


「そうか、ありがとう。

今日の夕方…また連絡してもいいか?」


「もちろん。ねえ、選挙はやっぱり大変?何か私にできることはある?」


「いや、気にしないでくれ。

政治活動休暇で仕事は休んでいるし、他にやらなきゃいけないこともないし、意外に余裕があるんだ」


「そうなのね。

選挙は大変って、私たち小学校で教わったじゃない?とても大変なイメージしかなかった」


「あぁ、俺が行ってた学校でも年度の初めに毎年のように言われた。政治の授業だろ?

先生は『もっとみんなが政治に参加しよう』と言うけど『選挙は大変だよ』って、本当は政治に参加して欲しくないっていうか参加したくない生徒が好きなのだろうと思ったよ」


「そうね」


彼女は苦笑した。


「まあ、当時は立候補するだけでもらえる補助金なんてなかったし、政活せいかつ休暇の補助も今より少なかった。

選挙のために仕事を休めない人がそのぶん多かっただろうし、各種補助金だけで暮らしている人にしても、一種でも申請しそびれたら死活問題なわけで、投票ウィークスだからといって申請期間を無視できなかったはずだ。

大変な人がいたのは間違いないと俺は思うよ」


「そうね。先生は自分たちが、立候補したくてもなかなかできない立場だからあんな風に言っていたのかもしれないわね」


それから俺たちは20分くらい雑談して通話を終えた。

夕方連絡するのを忘れないよう、俺はすぐにアラームを設定した。



いよいよ始まった、か。

自分で思うよりも人に言われて、俺はじわじわ緊張してきた。


今日から二週間で結果が決まる。

俺は正直なところ何としてでも当選したいわけではない。むしろ俺が当選するようではハッキリ言って人手不足が心配なのだが、戦いには勝ちたい。


攻めの姿勢で、俺はまず俺以外の『マサコ』を排除することにした。

東京では俺を含め3人のマサコが立候補していた。

俺は3人の中で最初に届け出をしたから、候補者名は『マサコ1』だ。


投票ウィークスの期間中なら、興奮して過激な事を口走っても罪に問われない。最初から強めに言ってやろう。


俺は公式選挙サイトの候補者討論ページに、こう投稿した。


『マサコ1だ。俺は独立日本の提唱者だ。

他の二人のマサコにズバリ質問する。

君たちは誰に命令されて立候補した?

自分の意思ではないだろう?

至急、回答をくれ。

今日22時までに回答がなければ、答えられないつまり誰かに言われて立候補したと認めたものとみなす』


数分後、回答の代わりに某ニュースサイトから取材の申し込みがあった。

いつでも応じると返事をしたら、すぐに通話申請が来た。


「やぁ」


「マサコさん、こんにちは。先日も取材させてもらったミッキーだ。

こんなに早く対応してくれてありがとう」


「投票ウィークスの中で、今日が一番ひまだろうから」


「なるほど。では早速質問を始めさせてくれ。

討論ページの投稿を見たよ。マサコさんが3人も立候補したのはちょっと不自然だな、と僕も思ったけれど、誰か黒幕がいると確信した理由は?」


俺は二人のマサコを出したのは『犯権会』の逆恨みか、日本を乗っ取りたい『世界想像連盟』の思惑かどちらかだと思っていた。


スケナリをかくまっていた時、俺は表立って行動しないようにして、日常生活を滞りなく送る事を優先していた。そうして犯権会に遠回しに反撃していた。

だから犯権会から俺は少し目をつけられただけだった。集中攻撃される事はなかった。


でもいよいよ日本が想像連盟に吸収されそうになり、スケナリもシェルターに行くことができてからは、俺はついに正面に立って犯権会に反対して、独立を宣言した。


その時から俺は、奴ら二つの集団を敵に回したのだ。


これが、俺が黒幕の存在を信じている理由だ。

だがここで本音を言うわけにいかない。


犯権会とのいざこざはプライベートな話だ。

それに犯権会は組織としては空中分解したけれど想像連盟はまだ力を失っていないため、世間では変な組織とは思われていない。

彼らの腹黒さについて俺がいくら批判しても、そんなのは妄想だと言われてしまうリスクがあった。


本音を言えない以上、根拠がないのと同じだ。

でも問題ない。俺がカッとなったふりをすればすむ話だ。


俺は言った。


「状況が真実を示していると思ったからだ。

マサコという名前は、まあまあ珍しい。古代には女性の名前だったのが今は男性の名前になったものだからな。

そんな珍しいマサコが偶然3人も集まるのはおかしい。

これは俺に対する嫌がらせに違いないと思った。俺を落選させたい奴がどこかにいるに違いない、って」


「直感でそう感じたと。

怒りを覚えた?」


「もちろんだ。怒りに任せて罵りたいくらいだったよ。

でも俺は自分を抑えて、彼らのアピール文を読んでみた」


「なるほど」


「しかし、アピールページを見てより一層怒りが増したね。『マサコ2』は俺とほとんど同じ主張だった。真似するな!と思ったよ。

『マサコ3』はアピール文自体が投稿されていなかったし、静止画すら載せていなかった。ひどすぎる。当選する気がない事は明らかだ。

こいつらは誰かに頼まれて立候補したのだと思った」


「そうか。

名前が同じで不自然に感じていたところへ、マサコ2とマサコ3のアピールページを見て、彼らには主張がないと感じた。わざと同じ名前で立候補したのは、自分への嫌がらせだと確信した」


「そんな感じだ」


「この話、記事として公開していい?」


「どうぞ」


「OK、ありがとう」


「それと、奴らが黒幕を素直に白状するとは思えないから、黒幕が誰なのかミッキーさんの方でも調べてもらえると嬉しい」


「おー、なるほど。調査が得意な仲間に相談してみるよ」


「ありがたい」


「これから二週間、マサコさんに注目していくよ」


「じゃあ、何か良い情報があったら教えてくれ」


ミッキーとの通話を終えて、俺は昼食を食べた。

ポテトのおにぎりとダイコンのサラダとアザラシミルクのヨーグルトだ。そのメニューにした理由は安上がりだから。


次にどうしようか。

今日は攻撃する日とするか。


次の相手は安心党か改革党か、それとも3人いる謎の人たちか。


安心党からはは3人も、改革党からも2人立候補している。安心党はマナミさんがいるからまだましだが、改革党なんて犯権会に完敗したじゃないか。

今さら2人も立候補するとはどういうつもりだ?


俺は改革党の候補者がアピールページや討論ページに何を投稿しているか確認した。


さすがにプロは上手い。

アピールページの構成は見やすいし、目立たせたい事がわかりやすい。

俺の箇条書きページとは全く違う。


でも内容は十年一日だった。

タダヒコさんはもういないんだぞ、と俺は言いたくなった。

俺は討論ページに、このまま変革しないようでは再び同じ失敗を繰り返すぞ、俺は新しい事を言っている、と書き込んだ。


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