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チームを乗っ取られてもやめる訳にはいかない

もちろんフィクションです。

投票ウィークスが始まる前日の事だ。


俺は『独立日本』スターティングメンバーズ定例会に参加して、衝撃を受けた。


新しい参加者として画面に姿を表したのは、約30人いる定例会の参加メンバーを決める時に、俺が頭を使って排除したはずの人間だった。


そいつはシキシマと言った。

彼女は独立日本がほとんど完成した後で、独立活動に参加した。

独立日本はできたてほやほやなので本来なら、後から加わるメンバーも大歓迎だ。賛同してくれる人を一人でも増やしたい。


しかし、彼女は厄介な主張を持っていた。

『王政復古派』のメンバーを名乗っていたのだ。


俺は『王政復古派』に独立日本を乗っ取られる危険があると思っていた。

残念なことに、独立日本に賛同した若者の多くが王政復古派という過激な組織のメンバーだった。俺は政治に関心がある普通の若者に集まって欲しかったが、結局のところ変な奴ばかりが来た。


それでも俺は、彼らを仲間として受け入れた。

理由は、独立に賛成する仲間を一人でも多く集めたかったからと、彼らが少しは聞く耳を持っていたからだ。スターティングメンバーと言える人たちに限れば、彼らは明らかに意見の違う俺を、人間として認めていた。


だがシキシマのような後から来た奴らは、もっと強硬で俺の意見を聞き入れなかったし、現実的な妥協もしなかった。周りが見えていなかった。


だから俺は定例会を開くにあたって、あえてメンバーをスターティングメンバーのみに絞ることに固執した。

独立日本が『犯権会』から政権を奪った時すでに独立運動に参加していた者だけが参加できるルールにしようと俺は言った。


俺の意見は通った。


でも、妥協はさせられた。

俺のルールでは年月と共にメンバーが減っていくことが明らかで、会自体が年月と共に衰退していくからだ。だから俺たちは、初代メンバーの誰かが引退する時には、引退者と同数の後任を指名できることにした。



「私、病気の治療に専念したいから、ちょっと早いけど引退するね。みんな、短い間だったけどありがとう。

みんなと独立のために頑張った事、私にとってすごく特別な思い出になった」


アヤさんが言った。

俺は泣きそうになった。

彼女が持病と闘っていることを俺は知っていた。体調に波があって苦しい中、情報発信を頑張る彼女の姿を見ていた。


「私の後任に、シキシマさんを指名するわ。しっかり者の彼女なら安心して何でも任せられるの」


安心だなんて、どうしてそんな事が言えるのか。

王政復古派としては安心なのだろうか。

アヤさんも所詮、王政復古派の活動に利用できるから独立運動に加わっただけだったのか?


せっかく排除したのに。どうしていい人の後任にこんな奴が入って来るのか。

こんな奴が。こんなに、警戒せざるを得ない奴が。



「アヤさん、私を紹介してくれてありがとう。私をほめてくれてありがとう。

みんな知ってる人だけど、改めてよろしくね。というわけで、とりあえず自己紹介すると…」


シキシマの明るい言い方に、和やかな笑いが起きた。だが俺は笑えなかった。

彼女が挨拶している間、俺はこれが偶然か必然かを考え続けていた。

俺が彼女の参加を良く思っていない事に、彼女は気付いているのだろうか。いや、気付いてもらいたい。


自己紹介で彼女は名前の由来を説明しなかったが、彼女が自分自身の名前の由来を知っている事は間違いなかった。

敷島。それは1700年代から1900年代という古代に、当時の国学とか愛国とかそういう関連で象徴的に使われたネーミングだ。

彼女がそれを知った上で名乗っていると判断するしか、俺には選択肢が無かった。もしかしたら改名したのかもしれなかった。

それは彼女の強硬さの象徴に見えた。



「それでは、今日は直近の選挙に関して認識合わせをしよう」


持ち回りリーダーのマリオが言った。

それまでに彼はいくらか発言していたようだが、俺はシキシマのことをぼんやり考えていたため聞き逃した。


「僕たちは結局、全員が立候補した。まあ、当然と言えば当然だよね」


彼は話を続けた。

『全員』にはシキシマも含まれるのか?俺は気になったが質問しにくいと感じた。まあいい。後で調べればすぐにわかる。


マリオの当然という言葉を聞いて数人が笑った。

何がおかしいのだろうか?俺にはわからなかったが、マリオ自身も微笑していた。まあ、たいして深い意味もないのだろう。


「残念だけど、僕たち全員が当選することは無理だ。選挙は地域ごとに行われるから、僕たちの一部は対立候補になってしまう。だけど初心を忘れないために、選挙の結果に関係なく僕たちは仲間であり続ける必要がある。

そこでだ」


彼は一度言葉を切って、俺たちを見渡すしぐさをした。彼の頭が上下に動くのを見て、彼が参加者を上下に並べて画面表示していることがわかった。


「誰が当選しても、選挙後に確執を残さないことを今約束しておこう。当選したメンバーを僕たちは全員で応援しよう。いいね?」


皆、頷いた。俺も頷いた。シキシマが当選したとしても俺は応援できないが、今から反対してトラブルを作るのは得策ではないだろう。

彼は続けて


「そのために投票ウィークスの間は、お互いの意見を否定しないようにしたいと思うんだ。

僕たちのうち、一人でも多くが当選することに集中しよう。主張が異なるメンバーも含めてだよ。

みんな、それでいいか?」


と言った。

いいよ、と数人から声が上がった。

嫌だと言うほど反対ではないから俺も同意したが、この提案は少し残念だった。


俺たちはもともと日本の独立を保つという一点だけで集まったメンバーだ。どうやって独立を保つのかとか、独立に関係ない政治課題に対する考え方はそれぞれ違うし、違うとわかった上で協力している。


そんな俺たちがもしバラバラになったら、それこそ敵の思うつぼだ。『犯権会』や『想像連盟』のようなおかしい組織に一人ずつ飲み込まれてしまうだろう。

そうならないために定期的に集まって、危機感を確認し共有し続けることが、このチームの目的だ。


俺たちはお互いをスターティングメンバーの一人として尊重する。それは意見の違いも立場の違いも関係ない。


それなのに、ここで改めて一人でも多く当選とか協力とか何とか言われると、むしろこれから当選・落選によってグループに亀裂が入る予感がしてくる。

しかも『否定しない』とわざわざ言われると、何か否定されたくない事があるのか?俺たちを言い負かすための伏線のつもりか?と勘繰りたくなる。


だがこの気持ちを、マリオに伝わる正しい言い方で表現する自信が俺には無かった。

だから俺は黙っていた。


俺は壁に映るメンバーの顔を見渡した。

改めて数えると、31人のうち8人は主張がバラバラで、残る23人が『王政復古派』のメンバーを名乗っている。

一派の割合がちょっと多すぎる。過半数をとっくに超えているのだから。


でもこれが現実だ。

王政復古派という過激な勘違い組織に入るような奴と、俺のような歴史マニアとは紙一重だ。

俺たちの主張は一見似ている。


今はどちらにも属さないマリオがリーダーだから良いが、王政復古派の誰かがリーダーになった時は、彼らの主張に振り回されないためにはもっと必死で抵抗しないといけない。


「対立していない地域なら、どうすれば勝てるかアドバイスし合いたいよね」


「無投票の人たちうらやましい」


「マサコさん、トーキヨーは厳しいよ。安心党と改革党が相変わらず複数ずつ出ているから。しかも謎の人って言うかマサコさんの真似みたいな人もいるし。

どうする?」


いろいろな発言がある中で急に話題にされたので、俺は驚いて答えに困った。


「え?どうするって?

いや、とくに何も…各ニュースサイトの取材にちゃんと答えるくらいか。あとは一応、発信用のページを作った」


「それだけじゃダメだよ。アドバイザーは頼んだのか?」


「頼んでいない、て言うか頼まない。アドバイザーは無難なことばかりさせそうだから俺は好きじゃないんだ。

みんなアドバイザーに依頼するものなのか?」


「するよ!当たり前じゃないか!」


「そんなことはない。

実は俺、マナミさんの秘書にリサーチさせてもらったうえで、アドバイザーをつけなくても大丈夫だと判断した」


俺がそう言うと、驚く人、頷く人、首をかしげる人など反応はいろいろだった。ところが


「マナミさんって誰?」


というとんでもない質問が出た。

なんだって?マナミさんを知らないのか?犯権会と対立した数少ないマトモな国会議員であるマナミさんを知らずに、国会議員に立候補したのか?


「は?安心党の人だよ、有名だと思うけど」


「そうなの?知らなくて悪かったわね」


「だってめちゃめちゃ有名だし。犯権会に家のドアを塞がれた人、と言えばわかるか?」


「あー!わかる。彼女、マナミさんって言うんだね。

そしたら厳しくない?その人、当選しそう」


するとマリオが笑って


「東京は4人も当選できるから、マナミさんを落とそうとしなくても多分大丈夫だよ」


と言った。

すると、王政復古派のジョンが


「マサコさんは若者の間ではカリスマ的な存在だ。独立日本を最初に作った人だからさ。初代国王みたいなものだ」


と言い出した。


「えー?俺が?」


「そうだよ。ニュースサイトをちゃんと見ている大人たちやお年寄りたちにも応援されている。

だけど安心党や改革党の支持者たちには、マサコさんの存在が知られていないようだ。

だからマサコさんは、そういう人たちにどんどんアピールして、知名度を上げれば良いと思う。

逆にそれしかしなくても当選できると僕は思う」


「そうね。私もそう思う」


「うん、私も賛成。マサコさんは独立に関心が無かった『変化に気付いていない人』の票を少しでも集めることができれば当選すると思う」


「なるほど…ありがとう」


思わぬ相手から応援とアドバイスを受けて俺は意外に思った。

しかしジョンさんの次の言葉を聞いて、やっぱり王政復古派は駄目だと思った。


「そのために『大君たいくん復活』を訴えるといいよ。家康や義満みたいにマサコさんが大君を目指したらいい」


まさか。

何故彼らは、自分たちの基準でしか物事を見ないのだろうか。


「いや、それはない。それは俺の考えではないから」


俺は言った。


「俺は純粋に、三つの事を言うだけだ。

何がなんでも独立が大事だと訴え続ける事、様々なアイディアを言い合える国会を維持する事、外国や世界組織に操られるのではなく自らポジティブな社会実験を行い続ける事。

以上、ってわけだ。

俺は『当番派』サークルに入っているけれど、当番派の意見はアイディアのひとつでしかない事を理解している。

ジョンさんたち『王政復古派』の意見も、アイディアのひとつでしかないと思っている」


「違う。王政復古派は真実を訴えている」


ジョンは言った。

恐ろしい事に、王政復古派の面々が深く頷いた。


「マサコさんは国立大学の日本史学研究室で勉強して知識もあるし、頭の回転も早いのに、惜しいよ。

今の政治じゃダメだって気付いているけど、古い常識から抜け出せていないんだ」


いや、惜しいって何だよ。何様だよ。

民主主義にこだわるのが古いなら、王政はもっと古いだろ。


ムッとしたが何をどう言えば良いのか、俺はわからなかった。


「喧嘩したってしょうがないだろ。今はお互いの考えを尊重しよう」


マリオが言った。


「ああ、その通りだな」


言いながら俺は思った。

そうか、既にこのチームは王政復古派に乗っ取られていたのだ、と。


それでも俺はチームから抜ける訳にはいかない。

俺が抜けたら、このチームは完全に王政復古派の広報機関になってしまうだろう。


そうなったら日本は再び誰かに奪われるだろう。それでは独立した意味がないのだ。



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