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関東独立

今回ももちろんフィクションです!

根拠の無い願いはかなわないものだ。


『世界想像連盟』に加盟するかしないかを問う国民投票は、投票率約63%で有効、そのうちの81%が賛成。

賛成多数で可決という結果になってしまった。


まさか可決するとは。

俺は、賛成がもっと少ないか投票率が低すぎて無効になるだろうと思っていた。


賛成多数だとは、犯権会が圧力をかけたに違いない。

心配した通り投票所ではトラブルが多発したようだ。


投票用紙に記入する時に手元を何者かに覗き込まれたとか、出口ではなく入口で怖い人に意見調査されたとか、反対票を入れようとしたら知らない子供(犯権会の指示を受けていると思われる)が記入済みの用紙を覗き込んで『この人、反対だよ』と大声で言ったとか、知らない子供が記入済みの用紙を奪ったとか。


様々な圧力をかけられたせいで反対票を投票箱に入れられなかったという声が何件も投稿されていた。


「もっと危機感を持たなきゃいけなかったな。やっぱりこうなってしまったか」


ニュースを見ながら俺がそう言ったところスケナリは


「棄権を反対とみなせば、圧をかけてやっと51%の賛成だっていう計算になるよ。本音は反対の人が多いんだ。

まだまだ挽回のチャンスはあるね」


と、あくまでも前向きだった。

だからといってどうしたら挽回できるかわかっているわけではなかった。アサヒさんを見習って裁判に投票時の不正などを訴えればいいのだろうか?


連盟に加盟する事になってしまったから、敵は犯権会だけではなくなった。

犯権会とどう闘ったらいいか困っていたところに連盟という更に大きな敵が出てきた。


開票日の午後、俺は毎週定例のケント会に参加した。


「マリエさんとマイミさんとマイクがうらやましいよ。日本にいなくて今は正解だね」


ラショウモン君が言った。


「僕は頑張って反対票を入れたのに悔しい」


「僕も反対票を入れたよ。当然だよね、賛成なんて騙されているとしか思えない」


ケントさんが言った。俺は正直に話すことにした。


「ごめん、俺は棄権した。

投票所に行ったら圧をかけられるだろうと思ったから、賛成させられるよりは行かない方がましだと思った」


「うーん、そうか。警戒したんだね」


ケントさんたちは頷いた。


「投票率も賛成率もぎりぎりすぎて、いろいろ怪しいという噂は既に出始めているよね。開票作業と計算に不正の余地は無いにもかかわらず」


「犯権会の事前説明はひどい内容だった。だけど、理解できていないにしても脅されたにしても、わざわざ賛成票を入れる人がいた事に僕はショックを受けている」


マイクがそう言った。

彼は怒っていた。


「連盟に加盟したら主権を失う。

主権の放棄!僕から見ればそれは自殺と同じだ。投票する人々の姿が、騙されて自殺する人々のように見えて僕は恐ろしいと感じた」


「うん。笑えない状況だよ、間違いなく」


そう言ってケントさんはため息をついた。


「こうまでしてどうして犯権会が日本を連盟に加盟させたいのか、僕にも全くわからない」


「挽回できる方法が何かあるかな?」


俺が言うと、ケントさんは渋い表情を浮かべた。


「かなり難しいと思うよ。

契約されてしまうわけだからね。

国家ぐるみで加盟した例は今まで無いから、脱退した前例もないのは当然だけど、一度入ったらなかなか抜けられないのではないかな。

世界中に連盟のメンバーや賛同者がいるようだけれど、脱退した人の話を僕は聞いたことがない」


「そうだよな。こんな都合良い社会実験場を手に入れたのだから、連盟が日本を簡単に手放すわけがない」


「社会実験!嫌だわ!でもその通りよ」


マイミが自分の肩を抱いて身震いした。


「マサコさんが連盟から脱出するには、とりあえず日本から出ればいいかもしれないわよ。うちに来てもいいよ、本当に。

ケントさんもラショウモン君もね」


「ありがとう。でも僕だけ逃げてもなんだかなぁ」


「だけど出られるうちに出ないと本当にまずいかもしれないわよ。

法的機関がなくなっちゃうんだもの。みんなが逃げ出そうとしたら平気で出国制限しそうじゃない?」


マイミの言葉に、マリエやマイクが頷く。

ラショウモンは頭をかいて


「逃げようって僕が言ってもパパとママは動かなそうだなぁ」


と言った。


「今、思ったことがあるんだけど」


俺は歴史上の出来事を思い返した。


「関東を独立させることが現実的な逃げ道だと思う。

日本が再び一つになるまで関東が持ちこたえられるとみんなは思う?」


みんなは一瞬、驚いた顔をした。

ラショウモンが手をたたいて喜んで


「独立か。いいね~。

独立すれば日本じゃなくなる。連盟の支配からも外れる。関東なら僕も電車で行けるよ」


と言った。

マイクが


「ただ逃げるとか戦争するとかよりも、独立には夢がある。

政府がひどい選択をしたのだから、独立しても罪を問われないはずだ。仲間を集める事ができたら、独立の見込みがあると思う」


と言った。

ケントさんは少し考えて、なるほどと呟いた。そして


「やってみる価値はあるかもしれない」


と言った。


「ちなみに何故、マサコさんは関東という範囲を選ぶのかい?」


「理由は4つある。

まず東京を含むことで、国会とか最高裁判所とか防衛省とかの設備をそのまま使える。

次に、関東全域に観光スポットとして再開発された城跡群がある。それらはすべて古代の防衛拠点だった場所なんだ。そこに基地の機能を持たせることでそのまま国境を守る砦として使える。

そして、関東は過去に2度独立したことがある。

最後に、俺が今住んでいる地域だから」


へぇー、と言われて俺は今さら日本の古代史が日本でほとんど顧みられていないことを感じた。

大学で先輩たちがむきになっていた事を俺は思い出した。


「日本で独立なんてあったんだ。私は知らなかった」


「古代にしても、そんな乱暴な時代があったなんて意外ね」


マリエとマイミはそう言って顔を見合わせた。

俺はかんたんに説明した。


「うん。独立って昔は、今ほど珍しい事じゃなかったんだ。

最初の時は今から1500年以上前で、平将門の乱っていう名前がつけられている」


「名前がついてるの?」


「そう。リーダーの名前が。

その時は独立した後すぐに政府軍が派遣されて、関東は再び併合されて終わった」


「じゃあ失敗だったのね」


「うん。独立そのものは失敗だったけど、その後の影響がとても大きかったんだ。

2度目は今から1000年くらい前で、戦国時代と言われる。その頃は日本の各地で独立が起こったんだけど、初めに独立したのが関東だった」


「戦争時代?私はその時代にいたくないわね」


「そうだね。

だけど約100年後にそれらの独立地域が再び日本に吸収されるまで、戦国時代は続いた。その時、関東は最後まで独立を保っていたんだ。

ちなみに北海道や沖縄は別だよ」


「2度目は成功したのね。でもちょっと疑問。質問していい?」


「どうぞ、マイミさん」


「そもそもどうして関東は独立したの?」


「独立した理由は2度とも共通しているんだ。

つまり日本政府による政治のやり方に納得していなくて、俺たちの好きにさせろって。好きにっていうか、俺たちの正しいと思う政治をしたいって」


「昔はディベートなんてできなかった、って言うし古代の人はそういう時に独立しちゃうのかも。

でもとにかく、それは今の状況と似ているわね」


「そう思ったんだ」


ケント会の仲間は、独立運動を俺がやるなら応援すると言った。

会の最後にケントさんが言った。


「独立を実現するためには宣伝も必要だよ。

マサコさんの決心がついたら僕にも連絡くれる?人脈を持っているハルキさんに話したり、僕にもできることがあると思うからね。

それと、政府から警戒されながら生きてきた僕から多少アドバイスできる事もあると思うよ」



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