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疑心暗鬼の国民投票

いつも通りフィクションです。

下心があって連絡したわけだが、期待以上の結果で俺は信じられない気持ちだ。

まさかアキラちゃんが俺と同僚になるとは!


かつて、好きになれそうなアイドルを探しに探して俺がやっと見つけた、それなのにすぐ解散してしまったアイドルグループ『サクラ・ジョウルリ』。

そのリーダーがアキラちゃんだった。本人が俺の隣にいる日が来るなんて驚く他ない。


こうなったきっかけはソウさんの退職だ。

ソウさんの後任探しの件で、俺はアキラちゃんがアイドルをやめてから会計の仕事に転職したことを思い出した。


そこで俺は彼女に、本人ないし知り合いが新しい職場を探しているか聞いてみることにした。でも彼女の連絡先を知らなかったから、俺は仲介を求めてユキさんに連絡した。

事情を話したら、ユキさんは快諾してくれた。しかもすぐに行動してくれた。


その翌日、アキラちゃん本人から俺に直接連絡があった。


「介護関連商品を扱っているアプソルファンタス社さんの方が今の職場より、世の中の役に立ってることをストレートに感じられると思うから、よかったら私そっちに行こうかな」


と。


アキラちゃんと同僚になれるかもしれない!俺は浮き足立った。


俺は、是非来て欲しいと答えた。ただし『社長が承認すれば』と言うことを忘れなかった。どんなに嬉しくても最低限のリスク対策は必要だ。

アプソルファンタスは社長1人と社員が3人しかいない小さな会社だ。会計は1人。つまり1人で会計の仕事を完結できる人じゃないと採用できないのだ。


でも余計な心配は必要なかった。社長のユウキさんとの面接や『一般業務能力診断』を経て彼女は採用された。

採用が決まったのは、ソウさんの退職するわずか3日前だった。


その日、帰宅した俺はスケナリに


「なんか今日は浮かれてるよ。なんで?」


と言われた。俺はニヤニヤしていたらしい。アキラちゃんの事を話すとスケナリは


「え?ユナは?彼女がマサコの愛人じゃないのか?

アキラちゃんのファンなのは自由だけど、付き合い始めそうな勢いだぞ」


と言った。俺は不意をつかれた気持ちになった。


「付き合えるかどうかわからないし。

そもそもユナは友達だけど」


「友達が、毎日連絡して欲しいなんて言うか?愛人だから言うんだ。

で、言われた通りに友達に連絡するか?愛人だから連絡するんだ」


「それは単純に、彼女とは気が合って話すのが楽しいからだよ」


「いやー、愛人の対応だろ」


「だけど彼女も俺の事を愛人とは思っていないと思うよ」


「本当か?確かめたこと無いだろ」


「確かめてはいない」


「だろ。やっぱり愛人だ」


「わからん」


俺はスケナリがなぜユナにこだわるのかわからなかった。

それはそうと、今は何でも愛ですませているが古代は愛人という言葉と恋人という言葉を使い分けていたようだ。

恋とか今言ったら、ふざけているのかと思われて笑われるだろう。



さて、あれから2週間が過ぎた。

俺は週に2日事務所に行くが、10:00数分前に着くとアキラちゃんはいつも先に来ている。


「まだ仕事を覚えたてで、私、ソウさんにもらったマニュアルを見ながらやってるの。時間がかかっちゃうから、慣れるまで早く来るわ」


「頑張ってるね」


「ありがとう。早く慣れて、自分の仕事ができる人になりたいから」


「さすが」


ユウキさんが来るまでの間、早く出勤すればするほど二人だけの時間が増える。だからといって俺はべつに出勤時間を変えなかった。


帰りはアキラちゃんも一緒に退勤する。社長が施錠するのを待って3人で駅まで歩くのが習慣だ。ソウさんがいつも15:00になるやいなや帰り支度をして他の人を待たず即座に出ていったのとは対照的だ。

ちょっとした行動が人によって違うのは面白い。それは仕事に対する考え方の違いにつながると思う。


そういえば俺の前任のエリカさんは、自分の仕事が長引いたときは俺たちに『もうちょっとだから待って』と言って引き留めたがったが、15:00より前に仕事が終わると『私、今日は少し早いけどこれで終わりにする』と言って先に帰ることもあった事を俺は懐かしく思い出した。


「もうすぐハンナさんが戻ってくるよ。あと3日だ」


帰り道、ユウキさんが言った。


「また4人に戻る」


「うん、良かった」


俺は頷いた。

ルミエルくんの治療はうまくいっているのだろうか?定期的な治療のための入院だとハンナさんは言ったが、治療には苦しい事もあるだろう。ハンナさんが元気なルミエル君を連れて来てくれたらいいと俺は思った。


俺は自分のその気持ちを言おうとしたが結局、言わなかった。

アキラちゃんにとってハンナさんもルミエル君も全く知らない人だし、ここにいない人の話をされて彼女がどう感じるかわからないと思ったのだ。



駅に向かって三人で歩いていると、防災無線が何かを告げた。


「また無線だ」


無線を放送する必要があるニュースが出たということだ。つまり何か重大な事が起きたのだ。


「今度は何のニュースだ?総選挙の日程発表か?

まあ、一応確認しとくか」


ユウキさんがイライラした様子で立ち止まり、ニュースサイトを見始めた。俺とアキラちゃんも立ち止まった。道を行く人々も多くが立ち止まって、それぞれ情報を集め始めたように見えた。すると


「何だ、これは!」


「どういうことだ!」


ざわめきが見る間に広がっていった。


「これは深刻だぞ」


ユウキさんはそう言って俺たちに画面を見せた。

そこにはこう書かれていた。


犯権会が主催、『世界想像連盟』加盟の是非を問う国民投票は明後日!


さらに


プレスのカンファレンスは明日!日本時間12:00からリアルタイム配信される予定。


とある。

俺はゾッとした。


「なんで今、国民投票ができちゃうの?国会が解散されたばかりで総選挙もまだなのに」


アキラちゃんが言った。


「国民投票は国会と関係ないからね。

だけどこれを元政府の人たちが主催している事は大問題だな」


ユウキさんが答えた。


「今国民投票やるってずるくないか?責任逃れだし。

賛成しようと反対しようとこの投票に参加したら、政府に関係なく犯権会が日本を支配し続ける事を認めることになるし」


俺が小さい声で言うとユウキさんは眉をひそめて頷き


「二人はこのあと時間ある?軽く意見交換しないか」


と言った。彼の誘いで俺たちは、盗聴防止ミュージックを流している飲食店に入った。

勉強会の前にまず軽食を注文して休憩しよう、という事になって俺は『プライモーディアル・ビアー』と『ブラウンビーンズ』を注文した。


「わぁ、このお店プラビーあるんだ、初めて見るかも。私も注文する。

ACMアーティフィシャル・チキンミート』と合うかな?」


「よく合うと思う。けどその前にアキラちゃん、アルコール飲料を飲んだことある?」


「マサコさん、心配してくれてありがとう。

大丈夫。私、クラワイ(クラシック・ワイン)はけっこう飲んでたから。アルコール消化できる」


「OK」


「それでは、俺たちがどうしたらいいか考えてみよう」


ユウキさんが言った。


「さっきマサコが指摘したように、彼らはなぜ今国民投票をしたいのか。

おそらく再び政権を取る自信が彼らにないのだと俺は思う。総選挙では勝てない。しかし権力を失いたくないのだ。マサコはどう思う?」


「俺もそう思う。選挙したくないんだよ。

もともと総選挙を避けてたもんな。繰り上げとか補欠選挙で済ませようとして。

すでに総選挙は勝算が無いって結論を出してたのかもな」


「なるほど。

だけど裁判の結果が出たから解散させられて、総選挙は避けられなくなっちゃった。

それで総選挙を無効にしようとしてるのかもね」


アキラちゃんは『当番派』の会話についてきた。俺は嬉しいと思った。

ユウキさんも頷いた。


「そうだ。判決が出たあとすぐに解散したから、その流れですぐに総選挙をするつもりなのかと思ったら違った。

その代わり国民投票をすると言うわけだ。

だけど、国民投票は確か投票する人が少なすぎると無効になる気がする。

彼らは大体の人が投票する、しかも賛成すると思っているのかな」


「どうだろう?

ていうかそもそも俺は疑問なんだけど、彼らは世界想像連盟に日本が加盟すると嬉しいのだろうか?」


「俺もわからないねぇ。

明日のカンファレンスを聞くにしても、どこに気をつけて聞けばいいやら」


「アキラちゃん、どう思う?」


「なんか、無視しちゃってもいいのかなって。

犯権会も今は政府じゃないし、国民投票に参加しなくても反体制的って言われる危険は無いよね」


「たしかに。

みんなが投票しなければ投票率を低く抑える事ができて、国民投票が無効になる」


「うん。そうなの。

そのうち総選挙しなきゃいけない日が来て、ちゃんとした政府ができてくれるんじゃないかな、って私は思った」


総選挙しても、ちゃんとした政府ができる確率はかなり低いと俺は思った。でも国民投票を無効にさせるのは当面の作戦としてアリだと思った。


「とりあえず投票しないっていうのもアリだね」


「若い二人がそう思うなら、俺も投票しないでおこう。でもプレスカンファレンスの配信は一応見るよ」


ユウキさんは言った。



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