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解散

いつもながらフィクションです!

さっき、かつて衆議院と呼ばれていた『国会』が解散された。

それはある日の正午、何の前触れもなく発表された。


俺はその時事務所にいた。

ユウキさんとソウさんと俺がいて、ハンナさんはまだ病院から戻ってきていなかった。


解散の知らせは法律にのっとり、日本人が発信する全てのニュースサイトに掲載され、防災無線でも放送された。


俺たちはまず無線を聞いた。

無線はいつものことで言葉がほとんど聞き取れない。何か重大な情報が出た事がわかるためだけにあるようなものだ。

だが、それでいい。何か異常が起きたとわかりさえすれば、詳しい事は自分で調べる。俺たちはいつものようにそれぞれ、自分が見ているニュースサイトを確認した。


「そうか解散か。

いやー驚いた。でも、こうなって良かった。不正は正される。

日本も捨てたものではないとわかって僕は安心した」


最初に感想を言ったのは、もうすぐ日本を離れるソウさんだった。彼は妻から『私はもう日本にいたくない』と言われ、二人でどこかへ旅立つ事に決めていた。


彼らに行きたい場所があるわけではなかった。先に移住したエリカさんや外国移住アドバイザーの話をいろいろ聞いて行き先を決める、と彼は言っていた。

自分に関係ない事なので俺はそれ以後、どこへ行くのか質問していない。


ソウさんの妻が日本に愛想を尽かしたのは、彼女の友人が逮捕されたからだそうだ。

友人は政府つまり犯権会のすすめに従って指定地域に移住した。だが趣味の都合があり東京で過ごす事も多く、手続きの不備によって移住詐欺と認定されてしまったらしい。

素直に政府に従った人が犯罪者扱いをされるなんて理不尽すぎる!こんな国は嫌だ!と嘆く友人の話を聞いて、外国に出たいという思いが強くなったそうだ。


「政府は負けを認めたのだ。だから解散するのだろう」


彼は言った。

満足そうな表情を浮かべている。

だが外国への移住を中止するつもりはないようだった。


ニュースによると、解散のきっかけはアサヒさんが起こした裁判だ。

彼は数日前、大阪の裁判所に例の署名を提出して『東京の補欠選挙は無効だ』と訴えた。

それを受けた裁判所は、補欠選挙どころかそもそも総理大臣が殺された時点で国会を解散すべきなので、今いる国会議員は全員が違法だという判決を出した。


その通りだ。


俺は悔しくなった。

なぜ俺たちは、そんな単純な事に今まで気付かなかったのだろうか?事件から今まで一体何を考えていた?繰り上げるだの補欠選挙をするだの、あれは一体何の騒ぎだったのか。

アサヒさんもマナミさんもなぜ気付かなかったのか?それとも知っていて黙っていたのか?犯権会が怖くて言えなかったのか?


いや、もしかしたらみんな犯権会に目をくらまされていたのかもしれない。



誰もがあぜんとしていただろうに、犯権会政府の動きは今回も早かった。彼らは判決が公表された直後にコメントを発表した。

『違法とは知らなかった。すぐに解散する』と。そして本当に即刻解散した。再び無線が流れた。


計画性が感じられる、早すぎる対応だ。

今すぐならまた自分たちが有利な展開で当選できると思ったか。


でも、まさか本当に違法とは知らなかったのだろうか?

素人同然の彼らならそれもあり得てしまう。

いや、それなら急いで解散するのはやっぱり不自然か?


深く考えようとすればするほど、彼らの考えはいつもわからない。政治空白を作りたくないなどという真面目な考えを彼らが持つとは思えないから。


「仕切り直しというわけか。

まあ、俺たちにできるのは選挙になったら投票する事だけだね」


ユウキさんがため息混じりに言った。

誰が犯権会に勝てる?


彼の考えはすぐ仕事の話に移った。


「これで受注も回復するかなぁ?最近、業界全体で注文総数が減ってきていたんだよね。

問い合わせも減ってたし。

介護用品の需要が急に減るわけがないんだから、ショウゴさんが暗殺されて、ヨウコさんまで殺されて、みんな不安になって外出を控えていたに違いないんだ」


「ユウキさん、知っている?ヨウコさんを殺した人は、地上車ちじょうしゃのブレーキロック時間を短く改造していたんだって」


ソウさんが言った。


「いや、俺は知らなかった。それじゃ、そいつはヨウコさんを殺すつもりで準備していた事になるか?」


「わからない。偶然かもしれないし。

僕が心配なのは規制強化だ。

おそらく手動でブレーキロックを解除する機能は、これから地上車に限らず厳しく規制されると思う」


ユウキさんは腕を組んで渋い表情を浮かべた。


「ソウの言う通りだ。

規制が厳しくなったら介護カートにもとばっちりが来るだろうね。

道の真ん中で誤作動を起こしてブレーキがかかっても、手動ではロックを解除できなくなるかもしれない。

まあ、道の真ん中で止まっていたら誰かが助けてくれるけどね。後ろから来た何かにぶつかられる心配はないし」


「後ろから来た何かにもブレーキがかかるからね。そして助けを待つ間に渋滞する。

渋滞は嫌だからって地上車系の人気が落ちて飛行車の利用が増えれば、いずれ空中も渋滞する」


「その理論はよく言われるけど、ちょっと古いかもしれないね。

だけど俺たちがこういうことを考えるくらいだから、業界団体の誰かは介護カートの人気が落ちるリスクにとっくに気付いているはずだ。

そうすると業界としては、誤作動を誘発する地上の障害物を先に規制しろっていう主張になるだろうな」


「それって、砂利道禁止とかの案がまた出てくるのか?

規制ばかりでうんざりだよ。

規制じゃない解決策は無いのか?」


俺がそう言うと、ソウさんは


「残念だけど規制が強くなると僕は思うよ。

そして介護カートや車椅子の手ごろな商品が、わずかな誤作動の可能性のせいで市場から姿を消すかもしれないって事だ」


と言った。


俺は頷いた。

たしかに安全対策のために、性能が低い商品はどれもわずかな異変に対しておおげさに反応するように作られている。心配性なプログラムにしておけば、複雑な判断ができなくても事故は起こらないという理屈だ。

止まらなくてもいいところで止まったりするのだ。

それを動かすために利用者は、ブレーキロックを手動で解除する必要があった。



ソウさんは言いたいことを一通り言うと、トイレに行くと言って事務所から出ていった。するとユウキさんが


「今のうちに少し話したい」


と俺に声をかけた。


「マサコには言っておくけど、ソウの後任がなかなか決まらないんだよ。

予告しておくが、もし彼の退職日までに次の人が来なかったら社長の俺がしばらく会計を兼任するしかないと思う。その場合は営業活動を縮小するつもりだ」


「え?意外だな。会計の応募が少ないなんて」


「いや、応募が少ないわけではない。応募は普通に来ているけど介護関連商品に興味がない人ばっかりなんだ」


「そうなんだ」


「残念だろ?『何の商売か関係ないよ、会計を担当させてくれてお金くれるなら何でもいいよ』なんて人じゃ」


「そうだよね」


「それでいいっていう人もいるだろうけどさ。俺は違うんだ。介護の知識やセンスは無くても、興味ぐらい持って欲しいよ」


「うんうん」


俺はアキラちゃんが、アイドルから会計に転職した事を思い出した。


「ユキさんの友達が会計をしているけど、まわりにちょうどいい人がいないか聞いてみようか?」


「友達の友達?

いいね、頼むよ。ダメならダメでかまわないから。

マサコから連絡してみてくれ。そうだな、今日から一週間以内に返事をくれるように言って欲しい」


「わかった」


アキラちゃんに関わる口実ができてちょうど良かった。俺は早速ユキさんに連絡した。



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