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ケント会と犯権会と、人さがし本舗のその後

スケナリから話を聞いて、犯権会はユイガの登場によって急に発展したことがわかった。

しかし彼女はすでに引退して、現在の犯権会にはリーダーらしいリーダーがいないこともわかった。


さてその後、俺は時間が来たのでケント会に参加した。

俺はナデシカの話を(警察または犯権会に盗聴されていても問題ない範囲で)みんなに伝えたが、その衝撃はかなりかすんでしまった。


もっと衝撃的なニュースがついさっき発表されたからだ。


犯権会が、国会議員の任期を『期限を定めない』にするという、このあいだ否決されたばかりの法案の『改良版』を出したのだ。


期限を定めないのは、いちいち解散などの手続きをとらなくても、都合に合わせていつでも議員を選び直せるようにするためだという。

だが、実際は終身になってしまうだろうとみんなが思うことだ。


「任期を変える法律は、全会一致じゃなきゃ成立しないから無理だよね」


ラショウモンが言った。


「一度否決されたのに、どうして改良版をまた出したのだろう?」


俺がそう言うとマイミが


「今度こそ通せると思ったのではないかしら?

ジャーナリストのコメントを見たら『国会議員のなり手不足を解決できる』だって。今回は歓迎されているのよ。

私には、前回との違いがよくわからないけど」


と言った。


「いくらジャーナリストがほめたって、全会一致は無謀だな。

少なくともいつもの3人は反対するだろうし」


「どうかしら?

アサヒさんは間違いないと思う。

でもマナミさんやヨウコさんは、所属の党が賛成に回ると決めたら同調するかもしれないわ」


「終身を許すことになるとわかりきっているのに、彼らベテランがそんな簡単に賛成するかな?」


「私はもうあきらめてる。

法案が可決するのも嫌。でもアサヒさんが最後まで説得に応じない場合の結末も見たくない」


「たしかにそうだ。

ボンサイさんの例のように、妥協しない人は徹底した嫌がらせを受け、欠席または辞職に追い込まれるかもしれない」


彼女の意見に頷いて、マイクが言った。


「可決させる見込みがなければ法案を出すはずがない。

まさか議員の反応を見るとか、誰かをテストするためとも考えにくい」


俺は犯権会がひどく執念深いということを思い出した。

犯権会は、本当に終身で国会議員をやりたいのかもしれないし、そうではなく、これは目あての法案を出すための準備にすぎないのかもしれない。

どちらにしても、彼らは目標に達するためには手段を問わないだろう。



ラショウモン「じゃあこの法案は成立しちゃうね」


マイク「絶対ではないけど、今回その確率が高い」


マリエ「安心党の人たちは、どうして反対しないのかしら?選挙やり直したいでしょうに」


マイク「そのうち政権を取り返せると楽観しているのだろう」


マリエ「何年後の話をしているつもりかしら?」


ケント「僕は彼らの考えを聞いてみたいね。

楽観しているとしたら甘いし、もしも、野党の方が楽でちょうどいいと思っていたら問題だね」


ラショウモン「安心党が政権を取り返す見込みはないよ。

ハイスクールの授業でも、みんな言ってる。議員になりたければ犯権会に入るべきだって。

そのほうが勝てる確率が上がるから、自分の希望を実現しやすくなるっていうんだ。

僕が、他の党のほうがいいって言う人もいると思う、って言ったらみんなに否定された。

その選択は単なるミス。効率が悪いんだって」


ケント「効率!?

そうかぁ。

今の若い人たち、勝てなければ意味がないっていう気持ちが強いのかなぁ」


ラショウモン「損したくない、ってみんな言ってるよ」


マイク「損したくない人は、自分で党を作らない。かといって、どの党の主張にも賛同できない。

だから彼らにとってはどの党も、自分のために利用する存在として同じ位置にある」


俺「いろんな人が自分の希望を通すために政府を利用しようとすれば、いろいろな政策が脈絡なく出てくるのは当たり前だな。

それでも俺は彼らが、どうしてこんなに矢継ぎ早に法案を出し続けられるのか、ずっと不思議に思っている。

ニュースをしょっちゅう見ないとついていけない」


ケント「そうだね。

案外、質問したら彼らは答えてくれるかもしれないよ。どうしたらそんなに早くできるんですか?って」


マリエ「私は法案を作るチームの仕事が早いだけかと思ってた」


マイミ「仕事が早くてもアイディアが枯渇したら続かないのだから、早さだけじゃないんじゃない?

やっぱりグランドデザインがないと、無理じゃないかしら?」


マリエ「グランドデザイン?

そんなものがあるなら、教えてくれたらいいのに」


ラショウモン「グランドデザインは、犯罪者の権利を守ることじゃないかな?」


マリエ「でもね、それじゃ意味がわからないのよ。犯罪者の権利を守ることと法案の内容との間に、階段10段ぶんくらいの差がある感じじゃない?

間を埋めるところを教えて欲しい」


マイク「以前はジャーナリスト達が、そういうことを解説してくれた。

最近、解説がほとんどない。

ジャーナリストが変わらない限り、マリエさんの疑問は解けないと僕は思う」


こんな調子でケント会は続いた。

今回はとくに結論も出さず、議事録の細工もなされなかった。


会を終えて一息つき、俺は思った。

ケント会の人たちと、内緒話ができないことがもどかしい。

せっかく味方が目の前にいるのに、応援を頼めないのだ。


警察がもっと盗聴を厳しく取り締まってくれたらいいのに。

もっとも、どんなに厳しく取り締まってもらっても、警察による盗聴の疑いだけは残るわけだが。



数時間後、大学の先輩から久しぶりに連絡がきた。

画像ありの通話を要求してきており、俺は警戒した。


しかし俺の学生時代の行動から考えて画像を拒否するのは不自然なので、仕方なく、平静を装って許可した。


スケナリはいつも通り台所に隠れている。


「マサコ~、久しぶり」


「マグロさん、久しぶり」


相手は部屋着と思われるリラックスした服装で、表情は笑顔だった。

だが、なんとなくイライラしている様子を俺は感じ取った。


「あの部屋、空けちゃったんだって?決める前に連絡くれよ」


やっぱりその話か、と俺は思った。


マグロさんは、スケナリと同じ年に卒業した人だ。俺が別の先輩オサムさんから住みつないだ部屋に、もともとたむろしていた先輩の一人だ。


彼の早耳に俺は驚いた。

俺のあと部屋を引き継いだユナは彼を直接知らない。

彼女がよそへ引っ越したという情報が、どこから彼に回ったのだろうか?


それとも犯権会が彼を操っているのか?

考えすぎかもしれないと思いながら、ナデシカと彼との共通点を俺は心の中で探した。


俺は警戒しながらも、気軽に言った。


「連絡する余裕なかったよ。

顔見知りじゃない後輩が引っ越した事、なんでもう知ってるんだ?」


「なんで?じゃねぇだろ。

すみませんだろ」


俺の返事が気に入らなかったようで、彼は怒り出した。


怒られても、残念だが俺は彼には謝れない。

約6年間遊びに来ていただけで、一度も住んだこともなく家賃を払ったわけでもない人に、とやかく言われたくなかった。


「オサムさんになら謝るけど。

あのコンドミニアム、今、落ち着いて住める状況じゃないから」


「どういうことだよ」


「しばらく前から『人さがし本舗』が何故かしつこく回っていて、そうしたら急に隣の部屋の奴が消えたんだ。

気持ち悪いだろ?

しかも、その後も本舗は近所をうろつき続けている。

ちなみに探されてるのはジューローらしいよ」


「は?なんであいつ?」


「知らない。なんか彼の母親が言うには、職場に来なかったってよ」


「それだけか?

それだけのことで本舗を呼ぶアホいるか?カネかかるのに」


「なんで呼んだのか俺もわからない。

だけどとにかくあのコンドミニアムは、本舗の活動に迷惑してる。マグロさんはどこまで知ってた?」


「何も知らねぇよ。

ユナって子が住むことになった、ってマサコ連絡くれただろ。その子が最近、赤い家に移ったって聞いただけだよ」


彼はそう言ったが、かつて俺がユナの名前を教えた相手はオサムさんであって、マグロさんには何も言っていない。

お互い事情を知っている前提で途中を省略して言ったのか、それとも彼のプライドが記憶をねじ曲げたのか、俺にはわからなかった。


「聞いたって誰に?」


「リサって後輩。知ってるか?」


「ポーさんの友達の?」


「そうだ。あの部屋が代々、学生に受け継がれてきたことを彼女は知っていたから、心配して俺に話してくれたんだよ」


リサが直接マグロさんに言ったかどうかは怪しい、と俺は思った。

他人の会話を小耳に挟んだだけかもしれない。


しかしその点は今どうでもいい事だと思ったので、俺は何も言わなかった。


「そうなんだ。なんで引っ越しに俺が関わってるってわかったんだ?」


「わかったっていうか、聞いてみただけだよ」


ちょっと質問しただけで彼はキレ気味に言った。

なんだ、かまをかけられたのか。


というより、とりあえず連絡先を知っている俺に連絡したのだろう。

ユナが引っ越したことを俺が知っていたら報告しろと言えばいいし、知らなかったら無責任だと言うつもりだったのかもしれない。


「べつにいいよ。

とにかく、さっき言った通りの状況だから俺は彼女に、引っ越してかまわないって言ったんだ」


「いや、だからさ、気持ちはわかるよ。

わかるけど、そういう条件でもオーケーな奴を探してくれればよかったんだよ。

もうすぐ新年度なんだし」


「とんでもない。オーケーな奴なんて、いないよ。

あそこは今、空室がどんどん増えてるらしい。

マグロさんも行けばわかる」


「じゃ今度、寄ってみるよ。

今俺、研究職に戻っててさ。週イチは大学行くから」


「そうなんだ」


「とりあえず、現地見たらまた連絡するから」



通話が終わると俺はユナに画像なしで連絡した。彼女はすぐに通話を許可した。


「ユナ今、近くに誰かいるか?」


「姿が見える程度よ。今、大学の敷地内にいるの」


「リサって、ポーさんと付き合ってる奴…過去形かもしれないが」


「たぶん現在形。よく知らないけど」


「あ、そう。君が引っ越したことをリサから聞いたっていう先輩から連絡が来てさ」


「え?」


「代々のたまり場を、なんで相談もなく引っ越し許可したんだって文句言ってきたから、かんたんに状況を伝えたんだ。

本舗の奴ら、最近どうしてるかな?」


「あー…本舗ね、じつは引っ越し先まで追ってきたの」


「は!?」


「信じられないでしょ。ごめんなさい、マサコさんに言ったら心配されると思って黙ってた」


「心配するよ」


「ありがとう。

でも私は大丈夫」


この様子では、スケナリもどきは相変わらず外に出られないだろう。


スケナリ本人がとっくに逃げたのに、本舗はいつまで同じ場所を探し続けるのだろうか。

間違った場所を探し続けてくれるのは俺たちにとって都合が良いが、不気味でもある。


ユナはため息をついた。


「あのコンドミニアムを引き払った人はどんどん増えてるけど、結局みんな追跡されてるの」


「そうだったのか」


「それでね、引き払った人たちがその後どうしたか、みたいな情報を知りたくて、私、友達や先輩に聞いて回ったのよ。

それで私、大学の中でちょっと有名になってしまったの。

だからきっと噂されたのね」


「そうか…。

みんなに聞いてみて、どうだった?」


「たいしたことはわからなかったわ。

結局、みんな追跡されて迷惑してた。関わりたくないからみんな逃げ腰。中には、もう一度引っ越した人もいるのよ」


「ひどいな」


「本舗の人たち、マヌケね。

自分たちのせいでみんなが嫌がって引っ越したことに気付いていないの。

関わりたくないから誰も指摘しないし。

あいつら、私たち引っ越した人に『どうして逃げたのか?』なんて言うのよ」


「最悪だ。

俺がもし誰かを探したい時は、本舗には絶対に頼まない」


「本当ね。早く本舗から解放されたいわ」


「え?いまだに君が無関係だって理解してくれないのか?」


「いったん解放されたけど、あの部屋で『例の人』を見かけた、って言いつけた人が最近いるらしいの。

誰だか知らないけど」


「そんな!」


そうか。また新情報が出ていたのか。


「大丈夫よ、何年前の話?って突き返したから」


「ごめん、ユナに結局かなり嫌な思いをさせている」


「平気だって。気にしないで」


「そうか?」


「うん。危害は加えられてないから。

それにきっともうすぐ解決するわ。

あそこの大家さん、業務妨害で本舗を訴えようとしているみたいだし」


「そうか。決着がつくまでなるべく外で一人にならないように気をつけろよ」


「わかった。ありがとう」


「じゃあ、また連絡する」


「うん。また」



通話を終えると、俺はオサムさんに画像ありの通話を要求した。


数分後、許可された。


1年ぶりのオサムさんは、ほとんど変わっていなかった。

彼はユナが引っ越したことをまだ知らなかった。

俺の連絡が遅いとも言わなかった。


彼は、マグロさんが再び大学に関わっていることも知らなかった。


俺たちは近況などいろいろ話した。


「何が起きるかわからないものだな。それなりに平和な街だと思っていたが」


彼は言った。


「あの慎重な大家さんが訴訟か。本舗の奴ら、やりすぎたな」


「本舗の行動は本当に、意味がわからなくて不気味なんだ」


「そうだな。こっちは関わりたくないのに、向こうからやって来る」


オサムさんは腕を組んで、何か非常によく納得したという雰囲気で深く頷いた。


「そうだマサコ、部屋の備品類はどうした?」


「新居に持ち込んだと思う」


「それなら、マグロの奴にそう言ってやれ。

たしか食器ケースがいくつか、もともとあいつの物だった。たぶん、あいつはそれを一番気にしているんだ。

捨てられていないか、と」


「え?そこ?」


「そういう奴だろ。

いや待て、聞かれるまでは言わない方がいいか。

返してもらおうとして、赤い家に押しかけてしまいそうだ」


「たしかにマグロさんならやりそうだ。なおさら、こっちから言ったほうがいいか。

その前に、捨ててないか確かめる」


「そうだな。

壊れても不思議ではない、古いものだ。捨てたなら、知らないふりをしておけばいい。

まだとってあったら、マグロに教えてやってくれ」


なんだかんだ言って、オサムさんはマグロさんの肩をもつのだ。



通話を終えると、スケナリが台所から手招きした。

近付くと


「今日は懐かしい面々に会えた」


と、急に素直な感想を囁かれて俺は驚いた。



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