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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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097「決戦前?(1)」

 朝、スマホの音で目が覚めた。

 今日は日曜なので、アラーム音じゃない。


 本来なら、休日の開放感の中ゆっくり眠りたいところだけど、あっちとこっちで交互に過ごしていると、そうした感覚もあまり湧かない。

 とはいえ、こうして強引に起こされるのは気持ちのいいものではない。


 それはともかく、手探りでスマホを手に取って覗いてみると、メール着信のお知らせだ。

 少し前にSNSにも書き込みがあったが、それを知らせる音はオレの耳はスルーしてたようだ。


 どっちもタクミのものだ。


 3日前の木曜日の部室での話の続きを知りたがっての連絡だ。

 確か木曜の時点では、最初の空中戦の話をして、週末辺りに王都に突入してるだろうと話していたせいだろう。

 取りあえず、『王都入り明日になった』とだけSNSに返しておく。


 そこで別のグループにも目がいったので、そっちにも同じ内容を少し丁寧に送っておく。

 もう一つのグループはオレと天沢改めレナと作ったグループで、さらにシズさんも加わっている。


 返事はすぐにも両方から返されてきた。シズさんからの反応はまだない。

 どっちも話を聞きたいというものだ。

 タクミには、それなりに色々あったので『SNSやメールじゃ無理。長電話もしたくない』と返す。


 レナたちの方には、王都の現状や詳細を知りたいけど、何かしら話を聞いたりできないかという内容を、どちらかというとシズさん向けに書き込む。


 反応がすぐにあったのはタクミだけだけど、即座に電話してこないだけ分かっているヤツだとは思うが、ちょっと黙らせるため『全部終わっているはずの明日の方が、まとめて話せると思う』と送っておく。


 そしたら、少しでいいから話聞きたいとのタクミからの返答。ライブ感が大事なのだそうだ。


「ライブ感もクソもないだろ」


 ぼやきつつも、『午前中早めの1時間くらいならいけるかも』と、一応の友情を示しておく。

 そうすると、今日は朝食おごるからというので、9時に強引に時間を決められた。


 少しして玲奈からも返事。シズさんからの返答はないが、玲奈からも連絡するとの事。

 シズさんからの連絡は、それから1時間以上してからあって、アポokの返答がいただけた。


「ていうか、まだ7時じゃん。休みなのに早起きだなあ」


 少しぼやきつつ起きて、ノートPCを立ち上げて、向こうの日記を書き始める。

 しかし8時半には出ないといけないし、朝食がいらないことをマイマザーに伝えないといけないし、レナとシズさんとの会う時間も考えないといけないし、今日は忙しいかもしれない。


 1時間以上かけて日記を書き、そんな事を思いながらダイニングへ行くと、妹の悠里が一番大きなソファーに陣取っていた。



「「おはよー」」


 それほど気持ちはこもってないが、妹と普通に挨拶しあう。

 子どもの頃は普通のことだったけど、なんか久しぶりな気がする。

 だからそのあとの言葉も自然にでてきた。


「今日は早いんだな」


 ここで普段なら「うっせー」とか「関係ない」という拒絶の言葉を、「ウザい」「キモい」の言葉も入りでオタクやオマエ呼ばわりしながら続くところだ。

 しかし今朝は違っていた。


「うん。夏期講習」


「ああ、もう始まってるんだ。まあ頑張れよ」


「頑張れとかキモっ!」


 ウン。いつも通りの反応で逆に安心する。


「応援してるのにキモいはないだろ。まあ、オレより勉強できるし、頑張ればいい高校いけるだろ」


「えー、家から近い方がいいんだけどー」


「そういう決め方止めとけ。碌な事無いって」


 これはオレの心からの言葉だ。だから少し真剣に声をかけておいた。


「自分の事言ってんじゃねーっての」


「オレは今の学校が、ちょうどいい学力だっただけだよ」


「あっそ。で、今日早起きじゃん。なんで?」


 テーブルに肘をついて、手を頬に載せた偉そーな態度で聞いてきた。

 けど、もう生意気だとも思わなくなっている自分がちょっと悲しい気がする。


「朝飯いらないって言おうと思ったけど、母さんは?」


「さあ、外じゃない?」


「じゃあ、朝飯いらないって言っといてくれ。多分昼も」


 それだけ言って部屋に戻る。後ろでは「いいなー、私も遊びたーい」と嫌味な声が響いてくるが当然無視した。

 悠里の声と態度に険がなかったのもあるけど、このごろ普通に話せているのは、あっちでの経験でオレの内心の変化があるからかもしれない。

 そう思っておこう。



 そうして9時前に駅前のファストフードでタクミと落ち合い、食べながら手短に話していった。

 タクミは地上での戦いにはそれほど関心を示さなかったが、本格的な空中戦には強い興味を示した。


 ドラグーンやシュツルム・リッターの『ダブル』自体が凄く珍しいから、こっちで情報が出てくる事が殆ど無いらしい。

 ましてや空中戦となると激レアだ。先日の偵察の際の話でも、部室で注目を集めていたのを思い出す。


 しかしタクミがかなりエキサイトしたので、2時間近く話し込むことになった。

 その後は11時からシズさんの神社に行く予定だったので、危うく遅刻するところだった。


 慌てて神社の外に自転車を止めて境内へと入ると、二人の少女が立ち話をしている。

 どちらも私服で巫女姿は見受けられない。

 しかし二人のうち一人はレナだったので、そちらに足を向ける。

 もう一人も姿から見当はついていたが、ちょっと意外だった。


「こんにちは。お待たせしました」


「こんにちはショウ」


「こんにちはショウ君」


 やはりシズさんも私服だった。

 巫女姿と違って、ダーク系の色合いはあまり夏らしくない気もするが、落ち着いた雰囲気のシズさんには、巫女カラーよりこちらの色合いの方が似合っていた。


 それにノースリーブでロングのワンピース姿は、スラリとしたイメージがさらに強調されている。

 それよりも、むき出しの肩口が少し艶かしいし、豊かな胸もやや強調されていて目を奪われそうになる。

 それでいて絵になる姿なので、そのままモデル雑誌に載せたいくらいだ。


 レナの方は、夏らしい明るい感じのフェミニンなワンピースで、頑張ってきた感がオレにも分かる。

 そして服に目がいった以上やるべきことがある、というのをオレも思えるようになっていた。


「二人ともよく似合ってます」


 オレの浮いた言葉に、レナは耳を真っ赤にしてうつむき、シズさんは「慣れない事を言わなくてもいいよ」と軽く笑って返してくれた。

 目上の人の言葉には頭をかくしかない。


「で? 聞きたい事は何かな?」


「ここで話していいんですか?」


「あー、そうだな。ただ今日は社務所は仕事で使うから、うちに来てくれ」


 シズさんはそう言うと、社務所ではなく神社の隣にある家屋へと先導を始める。

 木々の間に少し入ったところにあるが、少し古い建物ながらモダンというか普通の造りの二階建ての住宅だ。

 木々に囲まれているせいか、ちょっとした古風な邸宅のような趣がある。


 そのまま家の中に案内されたが、玄関や廊下からして普通より少し広い間取りだ。

 そしてリビングなり客間に案内されるのかと思ったら、シズさんの部屋へと案内された。


 少し年上とはいえ同世代の女性の部屋は初めてなので、思わずキョロキョロしてしまう。


 普通に洋風の部屋だけど、大きく古い本棚が特徴的な落ち着いた部屋で、他にも女性らしく衣装棚やタンスも複数あり、さらに古い鏡台があるのも印象的だった。

最初から招き入れるつもりだったのか、最初から部屋の真ん中に折り畳み式の小さなテーブルが置かれていた。


「家はそれなりに大きいが、先祖伝来の土地と言うやつのおかげなんだが……一応、節度は保ってほしいのだがな」


「ご、ごめんなさい。つい」


「女の人の部屋初めて?」


 レナの言葉にうなずくしかない。

 シズさんは軽く笑っているが、レナはちょっと残念そうな顔をしている。オレが残念なヤツなせいじゃないとは思いたい。

 まあオレが恥をさらした事はともかく、さっそく相談を始める。


「フム。地図や状況か。状況説明はともかく、地図を描くのはあまり得意じゃないんだがな」


「そこをなんとかお願いします」


「まあ、私の為だからな。お互い頑張ろう。しかしこういう時は、こっちの地図がある程度は使えるから何とかなるだろう」


 そこからスマホで周辺地図を映し出し、紙とペンに大まかな形を書き写して、そこに必要な情報を書いていく。

 この方法は、こちらとかなり違っている海岸線ではあまり使えないが、『ダブル』が地図を覚える際によく使う方法だ。

 しかし海岸線が違う以外にも違う点があるので、現地で見た情報を入れて修正していく。


 そして30分もすると、拠点にしている神殿あたりから王都周辺の大まかな地図ができあがる。


 次に王都内の地図を、シズさんの記憶をもとに再現していく。

 こちらは正確とはいかないが、それでも大きな街でもないので、大きな道や目印、どこに何があるかなど十分に分かる地図を作る事ができた。


「こうして描き出してみると、よく見知った街だったのに全然知らないものなんだな」


「全然そんな事ないと思いますよ。めっちゃ助かります。あっちの地図って、抽象的というか適当な感じですから」


 シズさんが少し寂しそうにつぶやくのをフォローしようとしたが、フォローになってなかった。

 それでもオレに笑いかけてきてくれた。

 そして地図を覗きこんだのだけど、一つの違和感を感じた。


「あれ、この文字って向こうのやつですよね」


「ん? つい書いてしまったようだ。済まない、書き直そう」


「そうですね。オレも向こうだと分かるのに、こっちだと分からなくなってます」


「私は全然だけど、そういうものなんだ」


 玲奈の声が少し羨ましげだ。

 けど、ボクっ娘の知識も溜め込まれているなら、もしかしたら天沢も書けるかもしれないと思うと、少し複雑な気持ちになる。


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