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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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090「空中偵察(2)」

 そうしてしばらくは、レナが冗談で言った通り空の遊覧飛行だった。

 翼を広げると戦闘機くらい大きな巨人鷲の上での空の旅は、思いの外快適だ。

 昼間となれば尚更で、空を切る風さえなければお弁当でも広げたいぐらいだった。


 しかもヴァイスに乗っていると、ヴァイス自身の魔力的な防壁というか結界のようなものに包まれるので、かなりの速度を出していても乗っている側に大きな負担はない。


 空の旅だけど、せいぜいバイクに乗っているぐらいの感覚しかない。たわいのない雑談をしながら、のんびり景色を楽しむ事ができた。


 しかし呑気な空の旅は、行程の半分程度しか続かなかった。

 ノール王国領内深くに入れば入るほど、翼の下の情景は徐々に不穏というか凄惨なものへと変化していったからだ。

 自然、周囲へと向ける眼差しも真剣になり、周囲を油断無く警戒する。


 レナは、魔法の望遠ガラスの入ったゴーグルを付けているので普通より遠くが見えるらしいが、それがなくても特に問題はない。

 しかも騎乗している巨鷲とも感覚の一部を共有しているので、その分の視覚情報も分かるそうだ。


 そしてレナ自身は裸眼で視力5、ヴァイスは最低でも視力10もあるので、その気になれば人くらいのサイズだと10キロ以上先でも見つけることができる。

 昼間でも星どころか星座が分かり、ヴァイスの目を通すと昼間でも天の川すら見えたりするらしい。


 こっちのオレも随分性能が向上しているので、試しに集中して空を睨んでみると、昼間でも一等星くらいならすぐに見えるようになった。

 訓練すれば星座が見えるのではと、ボクっ娘は無邪気にアドバイスくれたが、今回のような事態でないとオレにはあまり意味はないんじゃないだろうかと思える。


 そのボクっ娘は、後ろの人は特に太陽の中に注意してくれると嬉しいと言って、オレに煤を塗ったガラス片を持たせていた。

 実に準備がいい。

 なんでも空での戦いでは、太陽の中から相手を奇襲するのが最も効果的なのだそうだ。


 ただ今回は、日食グラスもどきの出番はなかった。

 ボクっ娘が主に前方、ヴァイスが下方、オレが周囲全般に目を配っていたのだけど、オレたちより下の右側方の下に『何か』が飛んでいるのを見つけた。



「タリホー。見つけたよ」


 ボクっ娘が少し振り向いて、『何か』の方を指差す。

 そうして視線を向けたかなり先に、何か十文字のようなものが2つ浮かんでいるのが目に入った。

 オレが確認してうなづくと、レナは横顔を見せながら不敵に笑う。


「どうする? 数は2つ。あの並びな上に武装してるから、多分『帝国』の飛龍、竜騎兵ドラグーンだね」


「向こうは気づいてないなら、他の場所も探る方がいいんじゃないか?」


「ボク的には、こっちが連中に対して太陽の中に入る場所に移動して、しばらく様子見がいいんだけど」


「他の場所に行かないのか?」


「ボク的には、交代とかで他が飛んで来る前に、一気に叩いてしまいたいんだけどね。『帝国』には、こないだの借りもあるし」


 あっちの天沢とはかけ離れた好戦的な表情をしている。

 しかし慎重かつ無茶はしない方がいいし、何より偵察が今回の目的だ。


「まずは調べられるだけ調べよう。万が一見つかったら、さっさと逃げればいいだろう」


 オレがそれだけ言うと、ボクっ娘はしらばく内心で葛藤していたが、小さく肩を竦めて仕方ないという仕草を見せる。


「リョーカイ。じゃあ、あいつらからはなるべく離れて、ここから王都に対して反対側の空に行ってみよう。哨戒で別の連中がいるならそこだろうし」


 それだけ言うと、素早く翼を翻して一気に別方向へと飛ぶ。

 ただし、王都上空は念の為の用心で大きく避けて飛んだので、方位や位置の修正が少し面倒になり、思いの外時間を食ってしまった。


 それなのに、予想に反して別の群れというか編隊を見つけることはできなかった。

 そこで王都を中心におおよそ60度の間隔で、同じぐらいの距離が開いている場所へと移動してみると、今度は同じように少し低い場所をゆっくりと飛ぶドラゴンの編隊を確認できた。



「こっちも2つ。さっきの場所にいないってことは、120度間隔で3つの編隊がゆっくり旋回しながら地上の監視のために哨戒してるって事だろうね」


「よほど誰にも近づいて欲しくないんだな。昼間は地上からだと近づけそうにないな」


「空なら今からでも行けるけど?」


 そう言って振り向いたボクっ娘の表情は、挑戦的であり好戦的だった。

 もう戦う気なのだ。


「この編隊を倒せても、次に警戒されたらダメなんじゃないのか?」


「でも、結局空で戦えるのボクたちだけだから、先になるか後になるかの差だと思うけどねー。それに、」


「それに?」


「交替のための奴らが王都の中心部に待機しているかもって考えると、もっと数がいるよ。連中船で乗り込んで来てるなら、10頭以上トカゲを連れてきててもおかしくないし」


 好戦的になっていても、頭は冷静に働いているらしい。

 そしてボクっ娘の判断が正しいように思えた。


「ドラゴン10頭とか、もう数の暴力だな」


「でしょ。地上から行ったら、場合によっては空から押しつぶされるよ」


 その言葉に、オレはわざとらしくため息をつく。


「結局、バトりたいんだろ。勝算は?」


「奇襲&各個撃破ならよゆーだね。場合によっては、ショウにも協力してもらうかもだけど」


 いい笑顔で言葉を返してきたが、もう表情が獲物を見つけた猛禽類だ。

 オレとしてはもう止めることはできそうにない。


「何かできることあるか?」


「何のために腰にそれを下げてるの」


「えっ? これで戦えって?」


「そうそう。すれ違いざまにバッサリいっちゃっていいよ。その時は、そういう飛び方するから」


「で、できるのか、オレに?」


「ショウなら楽勝。あとは度胸、だね」


 その言葉に、男の子としては引き下がるわけにはいかない。

 ニヤリと笑い返してやる。


「いい笑顔だよ。よーっし、空中戦だ。手足縮めてしっかりヴァイスの背中に捕まっててよ。でないと、振り落とされても文句言っこなしだからね」


 最後にペロリと唇を舐めたレナは、ほんの少し頭を動かして相手の動きを一瞬たりとも逃さず確認しつつ、タイミングを計っている。

 チラリと見えた目は、いつもの人なつっこい大きな瞳ではなく、まさに猛禽類だ。

 そして短くも長い一瞬の後、不意に空中戦が開始される。



 ボクっ娘の「行っくよー!」という威勢のいい声と共に、太陽を背にして急降下。

 おそらくキロメートル単位で離れていた2匹のドラゴンの少し前を進む方に一気に降下していく。


 耳にはキーンと空気を切り裂く音が響くが、オレの目はかなり正確に状況を掴んでくれている。

 オレは念のため何時でも剣が抜けるよう片手は剣の柄を持っていたが、出番はないようだ。


 すれ違いざまにヴァイスの大きな爪が、ドラゴンの翼をほぼ根元から引き裂き、切り離してしまう。

 相手は気付くことすらできないまま、ドラゴンとライダー共々クルクルと回転しながら墜落していった。


 まさに疾風シュツルムだ。


 落ちていく騎士は、錐揉みで落下する飛龍の遠心力で振り回されているのか、脱出などをする素振りもない。

 それにこの高さだと、空を飛べない限り死亡確定だろう。


「スプラッシュワン! まずはひとつ!」


 そう叫ぶと、すぐにも姿勢を急激に変更して残る1匹に向かう。


 残る1匹は、狼狽しつつも空中戦へ対応しようとするが、ヴァイスと比べると動きが鈍かった。

 ヴァイスの方が見た目大きいのに、ボクっ娘に言わせればトカゲと鳥の差なのだろう。


 そして分厚く強固なドラゴンの鱗も、魔法金属並みの硬さを持つという巨鷲の爪とくちばしを前にしては意味がない。

 速度と勢いがついていればなおさらだ。


 乗り手の方は、慌てるように手槍をあるだけ投げてきたが、ヴァイスとレナの連携による高度な空中機動の前に命中させることができない。

 手槍が無駄と悟ると、今度は魔法を唱えてきた。

 空中戦で魔法は難しいというが、構築しやすいマジックミサイルなら出来るようだ。

 それが2本、すれ違う直前にヴァイスに放つ。


 空中戦で魔法が難しいのは、互いの速度差と魔法の射程距離の関係があるからタイミングが合わないのだけど、敵ライダーはそれを合わせてきたのだから魔法に関しては熟練者なのかもしれない。


 けど2本の光る矢は、ヴァイスが持つ魔力か何かの防壁に阻まれて届かなかった。

 風の膜のようなものが全身を守っているので、ボクっ娘とヴァイスには意味がないくらいだ。

 ボクっ娘の髪の発光が強まったので、魔力で弾いたのは確実だ。防御魔法のようなものなのだろう。


 お返しに空中で飛龍の首とライダーを片足ずつで豪快に掴んで、嫌な音とともに地上に向けて投げつけると、飛龍は首が変な方向に曲がり、ライダーは見たくない姿となって落ちていった。

 ともあれ、これで空中戦の第一ラウンドは終了だ。


「まずは完全勝利だね。発見や救援の信号とかも出してないから、今なら最低もう一回不意打ちいけるよ」


「始めた以上、行けるとこまでやるしかないんだろ」


「ショウも分かってきたねー!」


 上機嫌でそう答えると、ボクっ娘はヴァイスをもう一つの推定空域へと向かわせる。

 今度は湖の上での空中戦だ。

 そして次の戦いの始まりもうまく不意打ちができたが、二つ目の敵は最初ほど馬鹿ではなかった。


 1匹目が不意打ちで仕留められた時点で、残り1匹のライダーが照明弾のような魔法か何かを使った。

 その敵も逃す前に短時間で落としたが、これでこっちは選択を迫られる。


「空中だと、完全にやられてなくても落ちたら終わりって怖いな」


「逆にそれが空中戦の醍醐味だからね」


「醍醐味ね。ライダーだけでも、パラシュートとか浮遊石とかで助かるようにしないのか?」


「パラシュートは見た事無いなー。浮遊石は原石だと大きすぎだけど、精錬した結晶を持ってる人はいるよ。ボクもそうだし」


 そう言って、腰の後ろの辺りを左手でパンパンとする。


「なるほどね」


「それよりさ、逃げる? もう一組相手する? 待機組も上がってくるだろうから、逃げるのはたぶん無理だけど」


「どうして?」


「だって、ボクらが飛んできた方向に残りの敵がいるんだよ」


「逃げるなら、大回りすればいいだろ。ヴァイスの方が速いんだったら、今なら追いつかれることもないし」


「あ、そうか」


 ポンと手をつきそうな気づき方だ。

 歴戦の勇士かと思ったが、それなりに抜けているのだろうか。

 それとも、人は空の上だと思考力が落ちるっていう話を聞いた事があるけど、本当なのかもしれない。


「うーん、不意打ちはもう無理だし、敵の空の布陣は大きく崩せただろうから、まずは上々ってとこだね。帰ろうか」


「あっさりだな。戦闘に拘ってると思ったけど」


「十分借りは返したし戦闘で魔力も消耗したから、引き際は肝心だよ。それじゃあ大回りで帰るけど、念のため警戒は緩めないでね」


「リョーカイ、機長殿」


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