086「戦力増強(2)」
翌日、ハルカさんの様子もさらに良くなったので、朝食を終えると3人で村の中央にある宿屋へと向かう。
すると村の広場には、すでに先日助けた3人が出てきていた。
それと他に1人。見るからに『ダブル』っぽい出で立ちの女性がいた。
姿勢がよくスラリとした戦士もしくは騎士風の装備で、村の役人と話しをしているみたいだった。
ストレートのボブの髪にキリッとした顔立ちに合った、ダーク系の色合いの服や鎧で、精悍でシャープな印象が良く出ている。
ボクっ娘が、「見るからに『クッコロ』系だよね」と小声で面白そうに話を振ってくる。
それには小突いて「失礼だろ」と苦笑しながら答え、先だっての会話もあって気になって見たハルカさんの顔には、小さな驚きとも言える表情が浮かんでいた。
その答えかのように、役人との話を終えてすぐ、こちらに気づいた騎士風の女性がこちらに手を振る。
「やっぱり。ハルカ、久しぶり!」
騎士風の女性は、見た目とは違って柔らかい物腰と声だ。
もっと武人風や男っぽい口調や態度かと思ったが、雰囲気はあっちでの出来るOLや秘書みたいな感じだ。
ハルカさんも最初の軽い驚き以外では気負う風もなく、「久しぶりー」と笑顔で気軽に挨拶を交わしていた。
ただ挨拶がグータッチなのは、女性同士の挨拶としてはちょっとマッチョな気がする。
体育会系だとそうなんだろうか?
「この辺で慈善活動してる高位の神官戦士がいるって噂があったから、多分そうだろうと思ってたのよ」
「たいした事してないわよ。けど、会えて嬉しい」
「私も。けど、無茶してたんでしょ」
「分かる?」
そう言って悪戯っぽい表情で首をかしげる。
「顔が少しやつれてる」
少しおどけたハルカさんに対して、その女性が苦笑した。
随分体調は戻ったと思ったが、よく知っている人にはまだそう見えるようだ。
「そっかー。ま、ちょっとあってね」
「フフ、相変わらずね。じゃあ、紹介してもらっていい?」
「ええ。じゃあ、どこかに落ち着きましょ。時間あるんでしょ」
「ええ。宿の食堂でいいわよね」
二人の間で話がテンポよく進む。それだけで、気心の知れた間柄なのがよく分かる。
そうした二人のやり取りに、先日助けた3人組は軽く驚くような表情を浮かべている。
宿の食堂はまだ閉まっていたが、4人は宿泊客なので店の方もオレたちを入れてくれた。
そして客がいないので、完全に貸切状態とするためチップを多めに渡してしらばく準備中としてもらい、飲み物と軽食だけ出した後は店の人にも奥に下がってもらった。
そして席につくと、ハルカさんが立ち上がって4人に頭を下げる。
「まずはそちらの3人に謝ります。行きずりの関係だと思ったので素性を偽りました」
「いや、気にしなくていい。神官やガチの治癒職の面倒は色々知ってるから、オレらみたいなのを避けるのは分かる」
「でも、全部嘘じゃないですよね。神官なのは本当ですよね?」
軽装の男性がこっちをおもんばかってくれたが、魔女な人は真実を追求したいらしい。
「ええ、神殿巡察官よ。嘘でこの法衣は着れないわ」
「すげー、神殿の上級職じゃん。よくなれたな」
「ハルカの腕は確かよ。えっと、取りあえずそっち全員終わってからこっちでいい?」
こうして話していると、現実世界で話をしているようにも思えてくる。
「あ、はい構いません。オレはショウ。ハルカさんの従者してます」
「『振り』じゃなくて?」
「仮だけど契約済よ。あくまで私個人の従者ってことにしてるけど」
首を軽く傾げる騎士風の女性に、ハルカさんが説明を添える。
「『ダブル』同士で主従とかよくできるな」
「高位の魔法使いや神官がそもそも珍しいものね」
「けど、神官の従者でも、こっちじゃ身分は俺らより上なんだよなー」
「俺ら自称で何言ったところで無職扱いだからな」
こっちが聞かなくても、色々と話してくれるのはありがたい。まあ、会話に入るタイミングが掴めないだけだけど。
その点、ボクっ娘はオレと違っていた。
「職名に騎士ってつくボクも、実質無職だしね。あっ、最後いいかな? ボクはレナ。さっきも言ったけどシュツルム・リッターね。あとで相棒も紹介するよ」
「おおマジか。ちょっと楽しみだ」
そこで一拍置いて、今度は3人改め4人組の方だ。
まずはハルカさんのお友達。
「私はマリア。見ての通り戦士職の魔法戦士。炎を使うわ。それと、ハルカとは古くからの付き合いよ。ちなみに『ア』を抜くとあっちの名前になるわ」
「それとオレらのリーダーな。で、俺はジョージ。あっちの名前と同じだけど、普通の日本人だ。見ての通り戦士系で、昔流行ったゲーム的に言えばタンクしてる。盾代わりに使ってくれ」
先日重傷を負っていたガタイのいい兄ちゃんが、闊達に答える。
見るからに体育会系で、刈り込んだブラウンの頭髪も相まってラガーマンか格闘技などしてそうな感じだ。
また、リーダーと紹介されたマリアさんの「オレら」の数が、かなりの数に上っている事を後で教えられた。
「俺はレン。戦闘職だけど射撃がメインな。弓なら大体は扱える」
「レンジャー気取りなやつよ。私はサキ。まんま魔法職です。属性は月帝、空皇、水皇。一応複合魔法職で第三列、サード・スペルまで使えるけど気圧系の攻撃メインで、治癒含めて他はファーストが精一杯。だからハルカさんには期待してます」
「俺ら、回復は魔法薬頼りだもんな」
最初に出会った時によく話した二人が最後に締める。自己紹介通り軽戦士風のレンさんと見るからに魔法使いなサキさん。
そして名乗り終わると、それぞれで握手も交わす。
現実世界だと友達紹介で握手とか堅苦しい事は社会人ぐらいじゃないとしないけど、『アナザー・スカイ』では命を預ける間柄になるので、挨拶は意外にしっかりと行うのが普通だ。
『ダブル』の中にはチャラいヤツもいるが、そういう態度のまま冒険を続けるヤツは少ないという。
見た目が『ウェーイ系』の腰にチェーンを下げた軽そうな人でも、そういうところはしっかりしているそうだ。
オレは仲良くなれる気はしないんだけど。
「そういえば、そっちの魔法は?」
「陽帝の攻防、陸皇の治癒のどれもサード・スペルまでカバーしてるわ」
「おーっ、そりゃ頼もしいな」
「マジックミサイルは? 私は3本。あとちょっとで4本いけそうなんですけど」
「私は2本。私の魔法は炎の魔剣と格闘戦の補助に特化しているの」
「私は5本だけど、アイテムブーストで6本まで行けるわ」
「ハルカさん、パねぇレベルだな。そりゃ『帝国』兵ともガチで戦えるわけだ。そっちの二人は?」
共通攻撃魔法とも言える魔法の矢は、簡単に強さを測る尺度になるのでよく聞きあうらしい。
けどオレは、首を横に振るしかない。
ボクっ娘もそうだろうとタカをくくるが、そうでもないらしい。
「一応サードだけど、ボクは徹底的に特化してるから魔法列で測らないでね」
「シュツルム・リッターだと、そうだろうな。やっぱりイーグル関係の特化か、遠距離攻撃補助?」
「そんなとこ。あとテイム系とファーストのコモンを少しね」
「やっぱレア職の人は勉強してるなぁ」
ボクっ娘が勉強家だとか、ちょっと惨めになりそう。オレも勉強しようと心に誓ってしまうくらいに落ち込んでいる間にも会話は進む。
こっちではずっとハルカさんと二人だったので、ちょっと戸惑うほどテンポが早い。
「で、次いくけど、どれぐらい集まりそう?」
「あと2パーティーが合流予定ね。私たち含めて合計12、3人。2属性以上の魔法職は5人で、うち治癒ができるのが2人。全員最低でも騎馬で、魔獣乗りも私を入れて3人いるわ」
「おっ、マリアさん何に乗ってるの?」
ボクっ娘が俄然興味を示して、少し身を乗り出す。
「騎龍よ」
「騎龍かぁ。お利口さんだし戦闘でも頼りになるよね。後で会わせてもらってもいい?」
「もちろん。で、そちらは3人でいい?」
そこで言うべき事を思い至る。誰が喋るか目配せするが、ハルカさんが小さくうなづく。
「私、今この地域の領主にスポンサーになってもらっているんだけど、この村の領主をしている人も行きたがってるのよ」
「こっちの人か。数、いや戦力は?」
「領主の人は魔導騎士で、私たちより強いわ。あとは騎士二人に、魔法使いと神官が一人ずつ。他は一般兵ね。
軍として出すなら2、30人にはなると思うわ。これを機会に、旧王都辺りの安定化もしたいみたいだし」
「じゃあ領主さんには、兵隊率いて道中の雑魚の相手と退路の確保してもらうのが無難じゃね? こっちの普通の兵隊だと、王都突撃は死に行くようなもんだ」
「ちゃんと話てみないと分からないけど、その案には賛成ね」
「私も賛成です」
「意義無し」
向こうの4人は、リーダーのマリアさんを中心に統率がとれている。慣れているんだろう。
こっちは、オレがそもそも集団行動に慣れてないので、情けないけど二人に期待するしかない。
「一度、領主と話し合ってみましょう。明日にでも場を設けるわ」
ハルカさんの言葉に全員が頷く。
「それでいいよ。それよりボクは、空から一度偵察しておきたいなー」
「危険じゃないのか?」
「じゃあ、ショウもついてきてよ」
「え? オレ空だと攻撃手段ないぞ」
「戦闘目的じゃなくて偵察目的だから、目のいい人が複数いる方がいいんだよ。ハルカさん、ショウは目がいいんだよね」
「私よりかなり良い事は保証するわ」
その後話を詰めて方針を決める。まだ血が戻ってなくて、体が本調子じゃないハルカさんは療養待機。マリアさんたちは、仲間の集合待ち。
そして明日はアクセルさんとの話し合いをするけど、オレとボクっ娘は空中偵察。
そして取りあえず、今日の夕食は親睦を兼ねた夕食会と決まった。





