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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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085「戦力増強(1)」

 第一回作戦会議の後、まだ休養が必要なハルカさんを部屋に寝かせて、ボクっ娘と二人で屋敷から村の方へと向かっていた。

 特に用事はないが、それは屋敷にいても同じなので、単なる暇つぶしだ。


「ねえショウ、どうしてお前ってボクの名前を呼んでくれないのー?」


 ボクっ娘が、体を前に傾けて少し見上げる感じで、オレの顔を軽く覗き込んでくる。


「向こうで、天沢を下の名前で呼びかねないと思ったから」


「あー、なるほど。じゃあ、向こうで下の名前で呼び合うように話つけてきてよ。あんまり気分よくないよ」


「ごめん。じゃあボクっ娘でどうだ」


「オマエ呼ばわりよりいいけど、属性で呼ばれてもなー」


 さすがのボクっ娘も苦笑いだ。

 今後もボクっ娘と呼ぶのは、心の中だけにしようと思う。


「分かった分かった。明日にでも何とかしてくるよ」


「よろしくねー」


 しかし、本当に別人格なんだろうかという疑問が改めて頭をよぎる。

 それも表情に出ていたらしい。


「……何度も言うけど、ボクはもう一人の天沢さんの別の人格だよ」


「頭では理解出来ても、同じ姿だと違和感半端ないぞ。もう、別人か姉妹か従姉妹でいいだろ」


 失礼かもしれないと思ったが、心からの言葉だ。

 それを察してくれたらしく小さく苦笑する。


「まあ分からなくもないけど。……それじゃ、姉妹くらいに思っていてよ。ボク的にもそういう気持ちはあるから」


「そうなんだ。じゃあ、それくらいに思っとくよ」


「うん。気軽に思っておいて」


 完全に納得はできないが、当人がそう言っているのだから取りあえず妥協するしか無いのだろう。


 そうして話しているうちに、小さな町の中心部へと出た。

 相変わらず小洒落た感じの噴水を中心に、ヨーロッパというよりは確かに異世界ファンタジー感を醸し出している。

 なんちゃってヨーロッパと言われるが、確かにヨーロッパとは雰囲気が少し違う気がする。

 魔力や魔法があるせいだろうか。


 ただ今日は、以前のような市場は立ってなくて、農民も鉱山労働者も働いている時間なので閑散としている。

 夕方になれば、労働者が食事や飲みに繰り出してきたり、街道を行く旅人や行商人が入ってきたりもするらしいが、静かな昼下がりそのものだ。

 宿と食堂はまだ開いていないので、噴水の際に二人して座るぐらいしか居場所はない。


「なんもないなー。食堂くらい開てるかと思ったけど、ミスったかもな」


「まあ、町といっても田舎だからねー」


 ゆっくり見渡すも、静かな昼下がりでしかない。


「都会って、やっぱり賑やかか?」


「街にもよるけど、ここよりは賑やかだね。でも大きい街は、ボクは用事がない限りあんまり近寄らないなあ」


「そうかー。まあオレは、こういう雰囲気好きだけどな」


「ボクも都会よりこれくらいの方が好きだね」


 どうでもいい事を話していると、神殿から人が出てきた。

 3人連れで見覚えがあった。これで三度目なのだけど、いまだ名乗ったりしていないのに少し違和感を覚えるほどだ。

 向こうもオレに気づき、軽く手を上げながら近づいてくる。


「こんにちは。先だっては、お世話になりました」


「はい。ですが、もうお礼は受けましたし、お気になさらずに」


「そうですけど、あの時はマジ助かりました」


 あのとき大怪我をしていた、ごついガタイの戦士風の男性が丁寧に頭を下げる。20代前半くらいで、前に会った時はかなりの重装備だった。

 今は村の中なので武装はほとんどしておらず、鎧も下に着ているチェインメイルの上に上着を羽織っているだけだ。

 他の二人も武装はしていないが、もともと見た目で軽装なので格好はあまり変わっていない。


「ねえショウ、この人たちは?」


「ウルズ近くの神殿で、ルカ様が癒した人とそのお連れだ」


「あ、じゃあウルズの中に入れたの?」


「入れたけど収穫無し。そちらはオレらのご同郷?」


 アメリカ人のように、両手を上向きに軽く上げる。

 そしてその態度以上に、ボクっ娘に興味津々な視線を向けていた。


「うん、『ダブル』だよ。そっちも全員そう?」


「ええそうです。ところで、関係聞いてもいい?」


 某魔法学園風魔女っ娘な女の人は、まだ疑いを捨てていないらしい。その疑いは正しいんだけど。


「えっ? ああ、ボクは形だけ神殿で郵便バイト中」


「バイト?」


「ウン。ボクはシュツルム・リッターだからね」


「マジか。ヤバっ、レア上級職じゃん」


 ボクっ娘が合わせてくれたおかげで、「それで神殿の人と一緒なのね」と隣にいる某魔法学園風魔女っ娘が得心している。

 ただ、聞いてくる時の雰囲気と改めて関係を聞くあたり、こっちの人間と『ダブル』が共に行動するのは違和感があるようだ。


「それで、君たちはこれからどうするの? リトライ?」


 ボクっ娘が続けて聞くと、3人とも頷いた。


「ああ、今バラバラに逃げた連中をリーダーが再集結させている。他にも応援呼んで、それ待ってるところだ」


「次も10人以上で仕掛ける予定です」


「もっと集まりそうだけどな」


 先日と違い、3人ともやる気満々な答えだ。

 けど、先を越されるのはオレの目的を考えると避けたいので、遅らせるか思いとどまらせられる事を考える。

 そこでふと思いつくキーワードがあった。


「もう一度向かうのなら、『帝国』軍に気をつけろ」


「マジっ? 『帝国』軍がいるのか?」


「オレ、いや我々は遭遇して戦闘になった。君たちを遠くから追跡していたのも『帝国』軍だったかもしれない」


 オレの言葉に3人の態度が一変する。


「マジかー、ヤバいな。連中がお宝独り占めにする気って事だろ。となると、よほどの物があるんだろうけど、ガチでやり合うとなると『軍』編成がいるな」


「それは無理でしょ。ノヴァで募集しないと集まらないだろうし、こんな辺境からじゃ時間かかりすぎ」


「そもそも、『帝国』軍とやり合おうって骨の有るヤツが、どれだけいるんだよ」


 思った通り『帝国』軍の相手は、『ダブル』でも躊躇させるようだ。

 そしてしばらくは3人で話し合っていたが、不意にコチラを向く。


「なあ、あんたら『帝国』軍と事を構えたのか?」


「ボクが連中からガチで追われていたのを、神官様たちに助けてもらったんだ」


「どうして追われた? 空飛んでたんだろ。ドラグーンでもいたのか?」


「用心してウルズに地上から向かってたら問答無用。何か見たと勘違いされたんだと思うよ」


「何かあったのか?」


 かなり興味深げだ。一度向かった先なら当然だろう。


「それはボクが知りたいよ。王都に先に入った君らの方が、知ってるんじゃないの?」


「例の魔女と大量の魔物とアンデッドがいるだけだった。そっちの兄さんから聞いてないのか?」


「いちおう聞いたよ。それとボクは本当に何も見てないんだ。何か見たと思われたのかも、ってのも推測だし」


 「なるほどー」と考え込むが、今度は明確にオレの方に3人の視線が向いてくる。


「あんなところに来る『帝国』軍が、本気で追っていたヤツをただで逃すわけがない。あんたら戦ったんだろ」


「ああ。何とか撃退した」


 勢いよく聞いてきたので、思わず答えてしまう。

 しかし躊躇させるには丁度いいとも感じた。


「撃退? 敵の数は?」


「十二、三ってところだ」


「黒ずくめで手練だったか?」


「そうだ。装備も良かったし統率もとれていて、魔力持ちも多かった。攻撃魔法を使う者が最低2人。魔法の矢は1人が4本出してた。他に治癒専門の魔法使いもいたな」


 オレの言葉に、ガタイのいい男が腕組みをする。

 軽戦士も似たような考える仕草だ。そして先に口を開いたのは軽戦士の方だった。


「2チーム分か。『帝国』軍の特殊部隊スペシャルで間違いないだろうな」


「それをたった2人で?」


「一応ボクもいたよ」


 「それでも3人か」と答えるが驚きは変わらない。

 オレたちが少数で『帝国』軍を撃退したのは、かなり衝撃的みたいだ。

 そのあとしばらく、どうやって撃退したのかを聞かれたが、細かい手の内を他人にわざわざ話す理由も無いので適当に答える。

 しかし余計に関心を向けられてしまったようだ。


「なあ、あんたら、オレらと組まないか? あそこに居たって事は、ウルズの事調べてたんだろ」


「失礼でしょ。ごめんなさい。えっと、私たちが護衛って事ならどうでしょうか。護衛代は、ウルズで見つかったお宝の、一部って事でもいいので」


「も、申し訳ありません、私には決定権がありません。主に伺った後で返事してもいいでしょうか」


 ぐいぐい来るので、そう言うのがやっとだった。

 礼儀はそれなりに弁えている人たちだけれど、こうしたところは身分とかあまり気にしない現代日本の若者だ。

 ついでに言えば、オレはあっちでこういう人があまり得意じゃなかった。


 けど、オレの言葉は効果を発揮した。しかし次は、ハルカさんに会いたがってしまう。

 仕方ないので領主の館で仕事中って事にして、明日改めて返答するとだけ答えて這々の体で村を後にした。

 3人組も、仲間が集まるまでしばらく宿に滞在するので、返事はそれまでで構わないと返してくれた。



「まずかったかな?」


「ギリギリ合格ってところかな。ちょっと話しすぎ」


「なるべく何も話さないようにしたんだけどなあ」


「要修行ってとこだね。とにかく、ハルカさんが起きたら話してみよう」



 夕食前にハルカさんが起きたので、一緒に部屋で夕食を食べてアクセルさんも退席したあと、3人で話し合いとなった。


「ボクは仲間増やすのは限定的に賛成」


 そう言って小さく手を挙げる。


「空から行くのは止めか?」


「空からの偵察は、地上から進む途中にすればいいでしょ。地上行くにしても、『帝国』軍のドラグーンの数くらいは知っときたいし」


「そもそも4人で、何人いるか分からない『帝国』軍の精鋭相手はやっぱり自殺行為よね」


「ボク一人追いかけるために、10人以上出してくる連中だしね」


 二人して腕組みして考え込む。

 確かに頭数は多いに越した事はないだろう。


「じゃあ、やっぱり協力してもらうか?」


「けど、シズさんの事があるのよね」


 難しそうな表情でハルカさんが口にする。

 常磐さんと言わず、シズさんと言っているのはボクっ娘の影響だ。

 自然オレも、シズさんと言うようになっていたので、あっちで再会したときに断らないといけないだろう。


 そして、シズさんを何とかするのが目的なので、シズさんの素性と起きた事は、出来るだけあっちの世界で暴露するのは避けたい。


「その辺は誤摩化せばいいんじゃないかな。シズさんは亡者で、ハルカさんが鎮めにきたので手出しするなって、感じで」


「お宝目当てじゃなくて、強敵目当ての『ダブル』がいたら、絶対協力するって言ってくるわよ」


「そんな脳筋は、『帝国』軍の相手をしてもらえばいいじゃん。あいつらより骨のある敵なんて、大型ゴーレムかドラゴンくらいでしょ」


「あいつらそんなに強いのか」


「そうだよ。正直、二人が実質撃退しちゃうとは思わなかったよ。まあ、ボクがヴァイスと一緒なら一蹴できたけどね」


 その言葉に、ハルカさんが何かを思い出したという風な顔を向けてきた。


「そう言えばショウ、敵の騎士を切るとき何かしてた?」


「いいや、普通に戦ってただけだけど」


「その割には、敵の腕を簡単に斬り飛ばしてたわよね。その剣って、そんなによく切れる剣だったのね」


「どうだろ? オレこれしか知らないし」


 そう言って、ハルカさんも見つめるオレの剣をポンポンと叩く。


「ごつい食人鬼を一太刀、二太刀で倒してるんでしょ。『帝国』軍の鎧相手でもあんなもんじゃないの?」


 ボクっ娘もオレ同様気にしていないけど、ハルカさんは少し気になるようだ。

 もっとも、武器が違えば戦闘力も違ってくるので、気にした方がいいのだろう。

 何しろ苦戦させられたばかりだ。


「けど『帝国』軍の精鋭だと、魔力持ちなら頑丈さが違うわよ。それにかなりの力がある魔法の鎧を着てるだろうし、防御魔法かけている可能性も高いし……鎧の隙間にでも入ったのかしら」


 ハルカさんが、そのまま半ば呟きながら考え込んでしまった。それをボクっ娘が制する。


「落ち着いたら、どこかでちゃんと剣の鑑定した方がいいかもね。それよりどうする?」


「レナの案でいいと思うわ。けど私たちが『ダブル』って明かしておきましょう」


「いいのか?」


「ショウが、へたくそな演技続けられるとは思わないもの」


「ご、ごもっともです」


「嘘よ。一緒に戦う以上、信頼関係は大事でしょ」


 ハルカさんはからかい半分の言葉だけど、言葉の最後は確かにその通りだ。それで話はまとまり、明日朝に3人で向かうと宿に使いを出してもらっておいた。

 それとアクセルさんにも、ある程度の事情を話しておく。

 アクセルさんも、味方が多い事には賛成だった。


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