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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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083「仕切り直し(1)」

「え〜、第一回、魔女討伐会議。パチパチパチ。ドンドン、パフパフー」


「パフパフーって、なんでボクっ娘が仕切ってるんだ」


「まあ、いいんじゃない。私はまだ病み上がりで、ショウはまだビギナー。レナの方が、ショウより確実にこっちの事に詳しいわよ」


 今までとは大きく違う雰囲気が、オレにボクっ娘への非難の言葉を言わせたのだったが、言葉通り病み上がりのハルカさんに静かに諭されては、黙るより他なかった。


 なお、ランドール村への帰路は、予定通りボクっ娘はハルカさんを乗せて一足先に飛んで帰り、オレは翌日の早朝から行きに連れてきていた馬を連れて戻った。

 持っていた荷物のかなりは、また来る予定なのでそのまま神殿に預けたので、帰りは軽くなったおかげもあって早かった。


 帰路に魔物や亡者に出会わなくもなかったが、数が減っていたのと、見晴らしの良い場所を選んだので、身軽になった馬を駆けさせれば振り切るのは簡単だった。

 それでも人が住む最後の村に着まで1日がかりで、ランドール村に戻れたのは2日後の日も暮れた頃だった。


 その間、一度ボクっ娘が空から様子見にお弁当を持って来てくれたが、こっちは馬連れなので同行するわけにもいかないし、緊急事態以外で話すなら3人の方がいいと思ったのですぐに帰させた。


 いっぽう先に飛んで帰った二人は、低めの高度でゆっくり飛んでも2時間程度のフライトで戻っている。

 巨鷲は速いと言うが、さすが空を飛べると全然違う。

 出るときは、ボクっ娘がハルカさんに軽く肩を貸していたが、オレが戻ったらもう普通に立って出迎えてくれた。


 なお、オレが戻るまでに二人はそれぞれの複雑な事情を話し合ったそうで、随分打ち解け合っていた。

 それぞれの事情についてはオレも事前に聞いていたし、二人が仲良くなっているのも嬉しい事だけど、自身がいないところで話されていることに少しだけ疎外感を感じた。


 それと、オレを見る二人の目線が少し気になったので、勇気を奮い起こして聞いてみたが、あえなく「乙女同士の秘密」と言って答えてもらえなかった。


 まあ確かに、同性同士でしか話せないこともあるだろう。


 なお、ランドールのアクセルさんの屋敷に再び厄介になったが、何も聞かずに暖かく迎えてくれた。

 それどころか、ハルカさんに過保護とも言えるほど心配してくれたそうだ。

 先に二人が戻った時は、かなりの騒ぎだったらしい。


 また、ボクっ娘の方は、滞在費、特に相棒の食費などを自腹で出すと言ったが、最初は強く断られたそうだ。

 なんでも巨鷲ジャイアント・イーグルとそれに乗る疾風の騎士シュツルム・リッターの世話をする事は、アクセルさんの地方では名誉なことらしい。

 何しろ巨鷲は、神殿に属している事が多いように神々の使いとも言われるからだ。


 けど、ボクっ娘が譲らなかったので、アクセルさんの客ではなくハルカさんの客という事にして、神殿ではなくアクセルさんの屋敷で預かることになった。


 ちなみに、巨鷲や龍など大型の魔物のほとんどは、見た目に反して食事量は少ない。

 魔力そのものが大きな体を維持するエネルギー源の多くを占めていて、食べるのは生き物としての習性としてだったり、人で例えるならお菓子を食べる程度の感覚だそうだ。


 普通に考えれば、生物学的にも巨体過ぎる時点でおかしいし、そもそも魔法や魔力のある世界なのだから、色々変わっていて当然だろう。

 というより、魔力という謎の力があるからこそ、こうした魔物が存在出来るのだ。


 また、巨鷲ジャイアント・イーグルを駆る疾風の騎士は、魔法の契約によって巨鷲と魔力的に深い繋がりを持っている。

 一つになっている間は五感なども共有できて、騎乗者は意のままに契約している騎乗生物を操る事もできる。

 逆に巨鷲に動きを任せる事も問題ない。


 そして「騎士」と名乗っているが、分類的には魔物を喚び出し使役する一種の召還魔法もしくは動物や魔物を従える従属魔法の使い手にあたる。

 この点が竜騎兵とは大きく違う。

 竜騎兵は、調教した飛龍や翼竜を馬と同じく家畜と同じように使役するからだ。

 そして完全に操れるからこそ、疾風の騎士が空では最強と言われる所以でもあるそうだ。


 それとボクっ娘は小柄だけど、乗り手が小柄だからといって特に有利という事は無い。

 何しろ巨鷲と大きさが違いすぎるので、乗り手の体格程度は誤差の範囲でしかないそうだ。

 この辺は、重装備の龍騎兵を乗せる騎乗用のドラゴンも似たようなものらしい。


 まあ自分たちを「イーグル・ライダー」と言って小柄の方が有利だと力説する当人は、あっちの世界と違って雰囲気も非常に軽かった。

 今も明るい視線を、興味深そうにオレに注いでいる。



「……まあ分かった。二人の間の事はまあいいとして、あの神殿辺りでの事って二人の間でどのぐらい話してるんだ?」


「それぞれの身の上ばかり話して、ほとんど話してないわよ」


「そうだったっけ?」


 ハルカさんは素で、ボクっ娘は少しとぼけた感じで返答があった。


「そうだったっけ? じゃなくて、オマエが話してくれないと事情が分からないだろ」


「う、うんうん、話す話す。本当はショウが戻るの待ってただけだよ」


 口調も態度も、どこまでも軽い。

 しかしハルカさんが頷いているので、言葉に間違いはないようだ。


「マジ頼むよ。ちゃんと話さないと、連れていかないぞ。オマエは大冒険を期待してるのかもしんないけど、こっちは本気。マジじゃないぞ、本気なんだからな」


「分かってるよぉ、ショウのイジワル。ボクも冒険を全部ほっぽり出してここまで来たんだからぁ」


 向こうの世界の天沢とは、かなりのギャップだ。

 ただ、天沢と似た外見だけど、全体的に明るく大らかで、さらに派手というか華やかさも違っていて、それがなおさら違和感を大きくしていた。

 さらに言えば、雰囲気や仕草が完全に別人のものだった。

 姉妹や従姉妹と言われた方が、素直に信じそうなほどだ。


 ただ天沢を知っているオレには、過剰演技気味に見えなくもない。それと、こっちだけの人格というけど、言動が現代日本人なのはどうなのだろう。

 もっとも、当人はオレの内心など気にするはずもなく続ける。


「あのね、ボクは冒険を求めて旅してるよ。だからその手の情報には詳しいんだ。

 それでこっちに来る直前に寄った自由都市で、ノール王国の都の地下に古代遺跡が発見されて、隣国や対岸の近隣諸国が懸賞金すら出して、トレジャーハンター募集してるって話を聞いたんだ。

 しかもボクは、本当の事もシズさんから聞いてる事にもなるから、ちょっと調べておいた方がいいかなって思って」


「その話は初耳だな。アクセルさんの情報にも、そこまでの話はなかった」


「そうね。けど、だから『ダブル』もいたんでしょうね」


「他の『ダブル』に会ったの? モンスターだらけで、あいつら以外に人いなさそうだったけど?」


 ボクっ娘が意外という顔をする。


「ええ、知らない人たちだったけど、這々の体で王都の方から逃げてきたところに出くわしたわ」


「ボクはそういう連中には会ってないなあ。空から行かなかったのは、途中でトカゲどもを見たからなんだけど」


「トカゲども?」


「えーっと、飛龍ね。きれいな4騎編隊だったから、どっかの竜騎兵だと思うよ」


 言葉と共に両手で編隊がどういうものかを表現しているが、今ひとつ分からない。


「オマエが見つけたってことは、向こうにも見られたからヴァイスから降りて地上行ったのか?」


「ボクらの方が目は断然いいから、たぶん見つかってないよ。馬にしたのは、念のためだけどね」


「それであの黒い連中に見つかって追いかけられたんじゃ、世話無いな」


「あんなの居るとは思わないじゃん。けど、マジ怖かったよね、あの兵隊さん達」


 言うなり膝を抱え込む。表情も怖いと表現しているが、コロコロと表情が変わるのは天沢との大きな違いだ。


「へー、やっぱりどっかの兵隊だったんだ」


「知らずに戦ったの? ある意味勇者だねショウは。でも、匹夫の勇は良くないよ。ハルカさんは、分かってたでしょ」


「だいたいね。けど、少し信じられないなあ。アレって『帝国』軍でしょ」


 新ワード登場だ。多分、今のオレは間の抜けた顔をしている筈だ。

 思わず口にも出てしまう。


「え、何、『帝国』軍て? 全身真っ白な兵隊や全身黒づくめの鎧武者みたいなヤツでもいるのか?」


「ショウもベタなネタで攻めてきたねえ。でも、当たらずも遠からず。まとめサイトとかで見たことないの?」


「いや、『アナザー・スカイ』の国際情勢とか興味なかったし」


「ダメだなあ。常に視野は広く持っておかないと。ねえハルカさん」


 表情と仕草も合わせて、ボクっ娘がこれみよがしに煽ってくる。ハルカさんは、オレに呆れているかと思いきや苦笑ぎみなだけだ。


「じゃあ『チュートリアル』してくれよ。このビギナー様に」


「こそこそスマホでもいじって調べな。って、ウソ、ジョークだよ。そんな怖い顔しないで!」


 オーバーアクションで次々に仕草が変わっていくのは、見ていて飽きない程だ。この怒りが無ければ、だけど。


「アハハハ、こんな雰囲気久しぶりー」


 オレ達のやり取りに、静かな雰囲気のハルカさんが楽しそうに笑っている。

 まだ、大量に出血した体の血が戻ってないが、あれから二日も経つとかなり元気になった。あまり言いたくないが、スゴすぎる食欲の賜物だとオレは確信している。


 オレが初日に怪我をした後も、彼女はかなりの量を用意してくれたが、その時のオレより食べているはずだ。

 今もカロリー高そうなお菓子を口にしつつ話している。

 そして笑い終わると、トリビアが再開した。


「えっとねショウ、『帝国』は大西洋上の浮遊大陸に本国がある、多分『アナザー』最強の国家の事よ。前に何度か話したでしょ」


「だから、ショウの例えも外れてないって寸法。あいつら、マジ『帝国』軍だもん」


 そう言って「ブーッ」とブーイングな表情をする。

 追いかけ回されてトラウマになるどころか、そうとうおかんむりらしい。


「ええ。すごく強い軍隊と艦隊、それに100騎を超える竜騎兵の騎士団を持っていて、自分達が欲しいモノは何をしてでも手に入れに来るって言うわね」


「悪の帝国ってやつか。そんな国もあるんだな」


「どうかしら。悪だったり侵略的ってわけじゃないわよ。ただ、珍しい宝や魔導器、ドラゴンなんかを、強引にでも手に入れるって言われてるわね」


「でもさあ、国同士でヘタに戦争吹っかけたりしたら、ボコボコにするって話しも聞くよね」


 話す二人は、どこか他人事だ。今まで関わる事も無かったのだろう。

 それに『ダブル』は、この世界の政治的な事に極力関わらないという話だから、彼女達も気にしていないのだろうか。


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