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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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081「治癒魔法(1)」

「とにかく助かった」


「それはこっちのセリフだよ。助けてくれて、本当にありがとう。あのままだと、日が落ちるまでに殺されてた」


 時間は、ハルカさんを王都手前の神殿に担ぎ込んだその日の昼頃。

 まずはその場で、連れてきて神官の応急手当て代わりの治癒魔法を処置し、そして急ぎ神殿まで戻ることになった。

 敵の追撃なども神殿まではないだろうとの考えからだ。


 そして二人と神官は巨鷲で飛んで、オレは2頭の馬と一緒に神殿に戻り、諸々片付けたあとオレはしばらくぼーっとして過ごしていた。

 すると昼前には仮眠をとっていたボクっ娘が起き出して、外に出ようと誘ってきたのだ。


(つまりこれで、オレの推論が一つ崩れたって事か。時間差で寝たのに、オレに記憶のロックなり欠落が無いってことは、オレの近くにこのボクっ娘はいなかったことになるもんな。てことは、姉妹か従姉妹の線かなあ)


 レナと名乗った少女は、やはり見た目は少し少年ぽかった。お胸も少し残念な感じだ。

 じゃなくて、見た目がかなり現代日本風ファンタジーだった。


 栗毛の髪こそ、飛ぶとき邪魔にならないシャギーがかったボブ・ショートだけど、最初に確認したように、どことなく現代風なデザインと縫製のショートパンツとシャツが主な衣服だった。

 迷彩じゃないけど、ちょっとミリタリールックっぽくもある。


 手足は細身の革のロングブーツとグラブ(手袋)で覆っていたが、その下は基本的に素肌だ。

 そう、最初に見たように、オタクが大好きな絶対領域の持ち主なのだ。こんな格好のヤツが、この世界の一般住人なワケがなかった。


 主装備は、身体に不釣り合いな大弓を肩にかけ、大振りの短刀2本を腰の後ろに挿しているが、これらも魔法がかけられた恐らく超高級品のようだ。

 他にも巨鷲に据え付けで、投げ槍を数本装備していた。空と陸、両方での戦闘を考慮している。

 それ以上に、その基本的態度と装備からも、彼女がこの世界をエンジョイしている一派に属している事を全身で表現していた。


 そのボクっ娘はオレを外に連れ出すと、行儀よく地面に佇んでいる相棒の巨鷲まで連れてきて、挨拶のようなものを交わすとその毛づくろいを手伝い始めた。

 大きさのギャップもあって、なかなかシュールな光景だ。

 そして外見と言えば、見た目そのものがオレにとって大問題だった。


(さあ、どう切り出そうか)


 レナの後ろ姿を見つつ思案する。

 これがあっちでのオレだったら、ヘタレて巨鷲の事とか聞いて肝心なことは聞けなかっただろう。


「やっぱりボクの方から話した方がいいのかな?」


 オレが切り出すより先にボクっ娘の方から切り出されてしまった。

 「ハァ」と内心で思わずため息が出てしまう。こっちでもオレはヘタレのようだ。


「そうだな、ごめん。オレから聞くよ。で、単刀直入に聞くけど、あんたは天沢玲奈の姉妹か従姉妹で合ってるか?」


「えっ? なんでそうなるの?」


 振り向いたボクっ娘の意外そうな表情に嘘は感じない。

 ますます混乱しそうになる。

 だから言葉を重ねた。


「時間差で寝たのに、オレの記憶の一時的な欠落ってやつが無かった。てことは、最低でも現実世界でオレの側にいないって事だろ。じゃあ、天沢玲奈とは別人だ」


「なるほど。そうなるか。確かにそうだね」


 妙に感心しているが、目の前のボクっ娘の表情と言葉は、オレから意外な言葉をかけられたという風にしか見えない。

 つまり、別の可能性もあるという事だ。しかしどういう事だろう。


「違うのか? じゃあ、よく似た別人とか? それとも天沢玲奈本人とかないよな」


「うーん、後者が一応の正解。少なくともここに入ってる魂は、天沢玲奈本人で間違いないよ」


 右手を胸に当てているが、思わぬ返答がきた。

 確かに見た目は、天沢玲奈本人と言われた方がしっくりとくる。しかしオレのイメージとして、仕草や雰囲気が違うから別人という線の方が捨てがたい。

 第一、睡眠の誤差の記憶の問題がある。

 ちゃんと聞いておかないといけないということだろう。


「……何か訳ありなのか?」


「大あり。ショウはボクが許可した人以外に秘密って守れる?」


「それが話してくれる条件なら守る。約束する」


 ジーッと見つめてきた後、「じゃ、仕方ないか」と小さく呟くと、再び視線を向けてくる。

 大きな瞳はかなり強い意志を感じ、オレをじっと見つめている。


「ボクはね、いや天沢玲奈は解離性同一障害、いわゆる二重人格なんだ。……って言ったら信じてくれる?」


「演技というか、こっちでデビューしてそんな性格や口調をしてるんじゃないのか?」


「違うよ。自分で言うのもなんだけど、動き方や雰囲気からして別人でしょ」


 そう言ってクルリと警戒に動いてみせて、最後にニカッと陽性の笑みを向ける。動きはともかく、その笑みは別人にしか思えない。


「で、向こうの玲奈、もう一人の天沢さんは、ボクのことを中途半端に認識していて、今では別れた友達とおぼろげに思ってるんだよ。しかも、ボクの事が話題に出ても、知らない人としか思ってなかったでしょ」


 その言葉には頷く。信じてもいいけど、まだ腑に落ちないので言葉を重ねることにした。


「あっちの天沢が、演技で誤摩化してる可能性の方があり得そうだけど?」


「天沢玲奈に、それができると思う?」


 真剣な眼差しが、ギャグで返す事を強く否定している。

 それ以前に、流石にオレもここは真面目話な事くらい分かっている。


「思わない」


「じゃあ信じてよ。本当だよ」


「分った。じゃあお前、こっちのレナは向こうの天沢をどう感じてるんだ。二重人格って、互いを認識してなかったりしないか?」


「まあ、あっちが本体というか本当の人格なのは十分に分かってるよ。ボクはこっちだけの紛い物。天沢玲奈が『夢』から逃げたら消えちゃうだけの存在。

 それと、ボクと向こうの天沢玲奈には情報をやり取りする手段がないから、ショウの記憶の欠落もなかったんだと思う」


「二重人格って、どっちも本物じゃないのか?」


「どうだろ。どっちも、それぞれの世界でしか表に出てこれない人格なんだよね。天沢玲奈は、こっち来る手前の前兆夢で怖いけど行きたいっていうのをクリアするのに、心の自己防衛のためボクを生み出したんだ、多分」


 ボクっ娘が天沢の姉妹だとか、天沢本人と言ってくればいいだけの単純な話だと思っていたのに、ややこしい話になってきた。

 けど、最低限話を整理しておかないと、この先やっていけないと思うので話を進めることにした。


「一応聞くけど、お前、こっちのレナは向こうの事を意識できているんだな」


「そうだよ。向こうの事は夢を見ているような感じだけど、だいたいは見ているからね。ショウの事もよく知ってるよ。それに、もう一人の天沢さんの中にボクがいることも理解してる」


「なのに、向こうの天沢は違う、と。つまり向こうの天沢は、現実逃避している先の事を、さらに現実逃避して記憶を変えてレナを別の存在にしてしまってるってところか?」


「そんな感じだね。面倒臭い奴でしょ」


「うん。正直面倒臭い。けどこれで、向こうの天沢に当面どう接すればいいかは分かった」


 そのまま本音を言ってしまったが、ボクっ娘は気にしていなかった。


「うん。それはボクも助かる」


「で、こっちではどうすればいい? 正直今は、ハルカさんの事で頭がいっぱいなんだ」


 思わず頭を掻いてしまう。

 漫画の主人公みたいに、全部受け入れて何とかしようとは、なかなか思えない。


「特に問題もないし、ボクの事は気にしなくてもいいよ」


「とりあえず了解。あと、出会った最初にオレに正体出さなかったのは?」


「正体不明のあいつらに、少しでもボクの情報をくれてやる義理はないからね」


「なるほど、そりゃそうだな。で、もう一ついいか?」


「どうぞ。って、シズさんの事?」


 ボクっ娘は、みなまで言うなという表情だ。

 何しろ二重人格という天沢とシズさんは親しい間柄だ。しかし、互いの素性は伏せるというマナーもしくはタブーもある。聞いておくべきだろう。


「うん。それで、二重人格で伝える手段がないなら、互いに知らなかったとか?」


「知ってるよ。かれこれ1年以上会ってなかったけどね。それとシズさんは、向こうのもう一人の天沢さんには何も言わなかったけど、シズさんの事は春くらいに察して噂は調べたんだけど、ボク一人でどうにか出来る事でもないから」


「まあそうだよな」


「うん。でも、ショウがこっちに来たって知ってから、ボクに協力してもらえそうだと思って。そしたらショウがシズさんに突撃してるから、慌てて来たんだよ」


「なるほどね。了解だ。じゃあ、そっちから何かあるか?」


「そうだねー、ハルカさんの事で聞きたい事があるんだけど、いいかな」


「別人格でも天沢の記憶があるなら、そうなるよな」


 「うん」と、レナはうなずく。困惑の様子も表情に現れている。

 まあ『ダブル』だと思っていた人が、こっちの人だったって事になるんだから仕方ないだろう。


「ショウはハルカさんの素性、どう思ってるの? ていうか、もうハルカさんから聞いてる?」


「オレから話す事じゃないと思うな。ハルカさんから、ちゃんと聞くのが一番だと思う。必要ならオレも立ち会うし」


「そうか、そうだね。でも、その口ぶりからすると、もう事情は知ってるんだ」


 その質問には無言でうなずく。

 レナはさらに何か言いたげだけど、どうするか悩んでいる風だ。


「まだ何か聞きたい事があるのか? そんなに無いと思うんだけど」


「プライベートは聞かないのがマナーだとは思うからいいや。逆にショウはボクに聞きたい事ある?」


「そりゃあ、何であんなところで、おっかない連中に追い回されてたんだ?」


 その言葉にボクっ娘が、どうしようって顔になる。


「できれば誤摩化すなよ」


「分かってるよ。でも、できればハルカさんには話さないでくれるかな」


「それはいいけど、ワケがあるのか?」


 そう聞くと、小さな苦笑が返ってきた。


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