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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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077「情報収集(1)」

 グルグル頭の中で色んな考え事をしているうちに、どうやら眠ったらしかった。

 しかもハルカさんと抱き合ったまま……。


「て言うか、ここで『夢』から覚めるのかよ! ヘタレすぎだろオレ!」


 いつもの天井を見ながら、オレは思わず怒鳴っていた。

 下からは、いつものように親の怒声が響いている。間違いなくマイマザーの声だ。


「もーっ、最悪。しかも、今から出ても遅刻寸前とか」


 かくして、二つの世界を行き来する不便を感じながら、その日も学校に向かう。

 『夢』で何があろうとも、こっちは平常運転でなければいけない事くらい、今のメンタルでも十分分かっていた。


 それにしても、向こうと違ってこっちは梅雨の蒸し暑さで辟易とさせられる。

 蒸し暑さもあってイライラして、早く向こうに行きたいと思いつつ登校しながら、ここで目覚めたのは逆に運が良かったと思い直した。


(こっちで色々調べれば、何か向こうで役に立つよな)


 そうと決まればと言いたいが、まずは学校だ。

 そして教室に入ると、自然と天沢に目がいった。向こうもこっちに気づいて視線を向けてきたが、特に変わった様子も反応はなかった。


(あれだけの事があったら、天沢なら分かりやすい反応がありそうなものだけどな。それともあっちのボクっ娘は寝てないから、記憶のタイムラグでも働いているのか? いや、もしそうなら、オレの記憶が変になっている筈だ。さっぱり分からない)


 少し首を傾げるし、向こうとこっちでは性格というか雰囲気が全然違うのも気になるのだけど、向こうで釘を刺されているし出来る限り触れない方がいいのだろう。

 それに天沢のことは後回しでもいいと思うので、まずはハルカさんの治療と看病についてだ。


 休み時間や昼休みに、スマホで検索や調べ物をする。こういう時は、クラスに友達が少ないのは助かる。

 そして放課後、タクミの教室に向かう。スマホで連絡も考えたが、それはタクミと会えなかった時だ。


(向こうのことが話せて、協力してくれそうなのは、あとタクミくらいだからなあ)


 そう思いつつ廊下を歩いていると、天沢が追いついてきた。そうしたことも、いつの間にか自然になっていた。

 クラスの連中も、部活だろうと特に気にしている感じはない。


「部室に行くんじゃないの?」


「とりあえずタクミのとこ。後はその場のノリで」


 「わかった」と返してくるが、やはり特に変わったところはない。オレの思い違いかと思えるほどだけど、向こうでの反応を見るに思い違いではない。

 何か事情があるんだろう……と今は思うしかない。


 タクミの教室は同じ校舎の同じ階だけど、相変わらず行動が早く、ちょうど教室を出るところだった。


「アレ? ショウの方から来るなんて珍しいな。ていうか、高校入って初めてか?」


「かもな。それより向こうの事で、ちょっと相談というか知恵を借りたい」


「オーケー。とりあえず部室行くか?」


 頼りになるかどうか別問題だけど、こういう時のタクミは余計な事は聞かないので助かる。

 軽く察したような表情を浮かべるぐらいだ。


「そうだなー、調べ物もしたいから後で図書室。それでダメなら図書館行く予定でいけるか?」


「ラジャ。今日は方向性が決まっているんだな」


「ちょい切羽詰まっててなー」


「何があったの?」


 天沢は自然な仕草と声で尋ねてくる。天沢に限って演技はありえないだろうから、やはり何も知らないと考えるべきだ。


(どうなってるんだ? やっぱり思い違いか? それともボクっ娘は、よく似た姉妹や従姉妹とかなのかも)


 天沢が小首を傾げ頭にクエスチョンマークを浮かべる感じで、オレを見返してくる。

 「落ち着いてから話すよ」とだけ応えてオレの相談となった。


 学期末試験が目前という事もあるし、今日は話す日でもないので部室は人は少ない。

 少しだけいる部員も、部室を図書室代わりに使って勉強しているようだ。

 だから部室の片隅に陣取って3人で話し始めても、特に寄ってくる者もいない。



「治癒職が1人の弊害だなー」


「いや、もう一人がオレじゃ、どうにもならないだろ」


「助けた人も治癒魔法は無理だったんだよね」


「応急処置は上手だったけどな」


「魔法の治癒薬は?」


「神殿に戻れば多少はある筈だけど、手持ちはもう全部使った。効果は低かったけど、あれが無かったらもっとやばかっただろうな」


「で、残るは現代医療頼りか」


 話の中でオレたちが助けたボクっ娘についても当たり障り内程度に触れたが、天沢は特に反応を示していない。

 天沢にとって無関係の第三者と捉えているようにしか見えない。

 どうしても意識を天沢とボクっ娘にもっていかれがちだけど、今は横に置いておくしかないと自分に言い聞かせる。


「スマホだと、あんまり情報ないんだったよね」


「ちょっと調べたぐらいだと、たいした事が書かれていないか簡単に覚えておける事じゃないかのどっちかだった」


「となると、ここで話してても仕方ないから図書室で調べよう。それとも保健室で聞いてみるか?」


「向こうのことで、事を大きくしたらダメだろ」


 そう言うわけで、次は学校の図書館へと向かう。

 この学校の図書館は意外に充実していて、別棟の校舎のワンフロアーを取った広い間取りを持っている。


 文芸部では第二の部室と言われ、入り浸っている本の虫もいるし、図書委員をしている部員もいる。オレたちが居て違和感の無い場所なので、調べものもやりやすい。


 今は試験前なので人口密度は高いが、席が確保できないほどでもなかった。

 しかし、図書館にある応急手当や応急処置、怪我をした際の対応や状態に関する書籍は少なかった。

 学校の勉強にあまり関係ないから当然かもしれないが、さすがにちょっとガッカリさせれた。



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