表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/118

075「負傷(1)」

 相手の動きを警戒しつつ長い夕闇の中を馬を走らせ、とりあえず少し前に軽く調べた近くの廃村まで移動した。


 王都への別の進入路を探すためかなり大回りしていたせいで、ベースにしている神殿まで戻るにはかなりの距離があったので、すでに北欧の太陽も没していたのでこれ以上の移動は危険と判断した。


 追われていた人の馬はかなり疲れている筈だし、夜は魔物も多いのにこちらの魔力、特にハルカさんの魔力は消耗しすぎている筈だからだ。

 そして廃村に入ったのは、夜中の10時を超えているはずだ。もしかしたら日付を跨いでいたかもしれない。


 なお、逃走中は逃げるときの位置で移動を続けたため、前にハルカさん、後ろに三角形の形でオレと助けた人が並んで走った。

 その人は、チラチラと盗み見た限り少年のようだった。


 身長は150センチくらい。前留め付きのフード付きマントを深くかぶっているので顔も体格もほとんど分からなかったが、シルエットと覗いている手足から華奢な体つきなのは分かった。


 口や鼻など少しだけのぞく横顔は、どこか見覚えあるような気がしないでもないが、より興味を引かれたのが身につけている衣装だった。


 フード付きマントで全体を知ることは難しかったが、細く少年のような足はよく見えた。

 そして太股の真ん中辺りまで伸びた細身の馬上ブーツからさらに伸びるニーハイの上は恐らく素肌だった。


 夕闇や夜なので確証はなかったが、下に履いている脚絆とでもいうべきパンツも、見た感じどこか現代風というか野外服ぽいデザインのショートパンツだ。

 もしかしたらデニム生地かもしれない。

 そしてそこから細く少年のような足が伸び、細身の馬上ブーツが覆っている。


(絶対領域ってヤツですか? 『ダブル』だとしたら、お約束なのがきたなあ)


 とりあえず一番の危機を脱した事もあって、思わず現代社会に思いを馳せそうになる。

 そして廃村に入り、馬の歩みもだく足程度になって一安心した時、隣に並んでいた追われていた人が意を決したように両手を掛けてフードを取った。


 既に暗くなっていたので顔立ちは少し分かりにくかったが、大きな目とその中で輝くエメラルドの瞳がその人物の内面の活力を感じさせた。


「お礼が遅れたけど、ありがとう。本当に助かりました。お二人ともボクの命の恩人です」


 溌剌とした元気な口調で、見た感じも少年ぽい中性的雰囲気を持つ少女だった。

 髪はベリーというほどでないがかなりのショートカットで、シャギーがかったちょっとしたボサボサ感が口調と合っていた。

 初対面だと少女か少年か判断がつきかねるほどだ。


 しかしオレには、女性だという確信があった。

 多少違うが見た事がある顔だからだ。


「アレ? どっかで会ったこと無かったっけ?」


「初対面の女の子にそのセリフって、完全ナンパよ」


 助けた女性の容姿にかなりの驚きはあったが、ハルカさんが居るのであえて遠回しに言ってみた。

 案の定というべきか、聞かれた当人は悪戯が成功したと言いたげな笑みを一瞬浮かべるも、まだ本当の事を言うなとばかりに少し強めに見つめ返してくる。


 そしてハルカさんからは、いつも通りのツッコミが入ったのだけど、ただそれよりもハルカさんの声で『謎の』ボクっ娘よりハルカさんの方が気になった。

 魔法を使いすぎたせいか、かなり疲れている感じの声だ。


 そして今まで戦闘集団への警戒と追われていた人物への関心と好奇心で見落としていたが、改めて見るとハルカさんはかなり疲れているのか肩で息をしていた。

 馬で駆けただけでは、こうはならない筈だ。

 『謎の』ボクっ娘も同じ事に気付いて、一転して顔を曇らせる。


「大丈夫ですか神官さん」


 その間にオレは、ハルカさんの方に馬を並べる。


「やっぱり、魔法を使いすぎたか?」


「それもあるけど。いや、そのせいでしょうね」


 そして間近でハルカさんを見て驚いた。

 全く気づかなかったが、改めて見るとかなり負傷していたのだ。

 オレが別働隊の4人と一人戦わせていたせいだ。


 オレたちからは見えていなかった右肩から右胸の上辺りに血が広がり、左脇腹にも魔法で焼けたような跡がある。

 戦闘中は光る魔法の鎧で分かり辛く、逃げる時はマントを羽織っていたのもあって、気付けなかったのだ。


 しかも、これも暗くてよく分らなかったが、出血もかなり酷いようだ。

 戦闘中に合流した時は一見平気そうにしていたので、馬を飛ばしている間に一時的に魔法で癒したのが再度傷口が開いたのかもしれない。


「酷い傷じゃないか! 気付かなくて済まない。魔法で治せそうか?」


「攻撃受けた時、自動発動で一回治した。けど、しばらく無理。ていうか、そんな気力も魔力も残ってないわ」


「治癒薬は?」


「もう使った。光槍を撃つ前に」


 つまり誰も見ていない状態の時に使ったと言う事だ。


「分かった、もうしゃべるな。あの建物に行こう。取りあえず無事そうだ。手伝ってくれ」


「う、うん」


 二人のやり取りに、助けたばかりの少女がオロオロしている。可哀相だけど、今はハルカさんが最優先だ。

 けど、二人いるというのは助かった。

 オレがハルカさんを抱えて降ろし、まだ名も知らない少女に馬の世話を頼んだ。

 馬だって、あれだけ激しく走ったあとだから、色々と世話をしてやらないといけない。


 拝借したのは、ほぼ密閉できる部屋の残っている家屋だった。壁が石造りな上に屋根もほとんど残っていた。

 中は荒らされてほとんど何もないが、移動型のベッドが残っていたので、まずは最も密閉できる部屋に持ってくる。

 暖炉のある居間なので、おあつらえ向きだった。


 そしてベッドに手持ちのマントなどを敷いてハルカさんを寝かせる。

 こんな事なら、馬に旅の道具一式括り付けておけばよかった。


 けど、『謎の』ボクっ娘はある程度の装備を馬に載せて持っていたので、それでなんとか毛布など用意できた。

 近くの厩で使えそうなワラとかないかと思ったが、略奪も受けた廃村にそんなものがあるわけなかった。


 とにかくハルカさんを寝かせると、鎧や服を脱がせていった。当然だけど、『謎の』ボクっ娘がそれをする。女性がいる以上、可能な限り男のオレがするわけにはいかない。


 意外にテキパキとこなすボクっ娘だけど、顔は半泣き状態でハルカさんを脱がせていく。

 少し急ぎすぎたせいで、時折ハルカが苦悶の表情を浮かべる。

 その時は、ハルカさんが苦しんだことに気付くことすら出来ないぐらいオレは動揺していた。


 どうにか下着以外を脱がせると、各所の傷口が露わになる。

 幸い魔法で焼けたのはせいぜい衣服までだったが、右肩に深い斬撃、左脇腹に槍か何かで突き刺したような深い傷口があった。

 脇腹は、魔法による傷のようだった。そして一度塞いだけど、それが再び破れたような跡あった。


 魔法や魔法の治癒薬で一時的に傷口を塞いでも、すぐに魔力を使いすぎると、パテや接着剤が剥がれるように傷口が開くという話を聞いたことがあるので、恐らく魔法の使いすぎも影響しているのだろう。


 傷はどちらも、戦闘中に展開していた魔力の鎧と白銀のチェインメイル、さらには自身の魔力の力で威力は大きく減殺されていたが、それでもかなりの傷口で既に血もかなり失っているらしかった。


 着ていた服は、どれも血でぐっしょりだった。

 魔力総量の低い者、防御力の低い者なら、片方だけでも致命傷だっただろう。

 相手していた数は少なかったが、オレが相手したよりも強いヤツがいたに違いない。


 それでもハルカさんの癒しの魔法があれば、これぐらいの傷口は塞いで癒してしまえるだろうが、当のハルカさんが息も絶え絶えではどうにもならない。

 術者当人の精神集中がなければ、魔法の構築どころではない。


「どっちも、仕込んであった、魔法と、治癒薬で、塞いだんだけど、逃げている間に、傷が、開いた、みたい。体の、魔力、切れの、せい、ね」


「黙ってろって。で、ここどうすればいい?」


 とにかく、途切れ途切れのハルカさんの指示で、荷物の中らか医療道具を取り出して応急処置をする。

 応急道具は、ハルカさんがいつも馬に乗せているものだ。

 治癒薬も効果の低いものだけど少し残っていたので、これも全部使う事とした。


 『謎の』ボクっ娘も加わり、治療や野営の準備などを手際よくこなしていく。かなり旅慣れた様子だ。

 しかも『謎の』ボクっ娘は、自分の荷物の中にそれほど効果は高くはないながらも魔法の治癒薬を持っていたので、それを患部に使う。


 それで少し状況は良くなったようだけど、ハルカさんの魔法のように傷口が塞がるほどじゃない。

 酷い傷口が、ちょっとマシになった程度だ。


 そしてハルカさんの容態は、悪くなる一方だった。

 消毒のためのブランデーを傷口に口で吹きかけたりしたときは、少女に強く押さえ付けられていたにも関わらず、激しく暴れた程だった。


 けれども、開いた傷口を無理矢理にでも縫合するため、イヤでも消毒しなければならなかった。

 取りあえず出血を防いでおけば、あとで魔法で癒せばいいからだ。


 魔法前提の治療は、欠損とか斬り飛ばされたりしていないのなら、血と体力を失う事を避ければいい。

 幸い応急処置の手順から取りあえずの縫合に至るまで、『謎の』ボクっ娘がある程度心得ていたので、無力なオレは託すしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ