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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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074「未知の敵との戦闘(2)」

「所属を示す紋章なし。神殿も無視か……。追われてる人を保護しましょ」


 彼女はそう言って、決意を込めた顔をこちらに向ける。


「けど、数が多いぞ。それに魔力持ちも多いし、動きにキレがあるのはオレでも分かる。多分手練れだろ?」


「どこかの兵士や騎士でしょうね。動きが連携しすぎてる。魔力も高めの人が何人かいるわね」


「どうする? 戦闘は極力避けて牽制するだけでいいかな」


 オレの言葉に彼女が強く頷く。


「ええ、それで十分よ。とりあえず魔法で牽制してみるから、援護よろしく!」


 そういうと馬を駆けさせながら、彼女が魔法の準備に入る。

 まずは防御魔法を二人に素早くかける。

 こういう時にオレが何か魔法が使えたらいいので、本当に魔法を学ぶことを考えた方がいいのかもしれない。


 とにかくオレは、集団とハルカさんの間に入って、矢など飛んでくることに備えて騎馬スタイルで剣を肩に構える。


 さらに彼女は次に何かを準備しようとしたみたいだけど、もう距離がかなり詰まっていた。ハルカさんの得意魔法の光の槍の準備をする時間もなさそうだ。

 それでもハルカさんは、素早く魔法の矢の準備に入る。

 しかも敵認定した集団でも、魔法の準備を始めるフード付きが2人いた。

 どちらも魔法陣は二つ。


 攻撃魔法の発動はハルカさんの方が早く、魔法の矢が6本、敵に向けて飛ぶ。そして避けるのは不可能なので、次々に命中していく。

 しかし敵側も一人が、彼女のマジックミサイルが命中するまでに魔法を発動させ、4本の矢がこちらに迫ってくる。

 別の一人はもう一人より未熟らしく、魔法発動前に魔法の矢を受けて仰け反って落馬した。


 もっとも、放てた一人はその場で耐えていたので、先に命中していたも魔法は飛んできたかもしれない。

 他に命中した4人のうち3名も落馬し、1人が馬上で耐えたのでそいつは魔力も多い手練れだろう。


 こちらの問題は、迫ってくる4本だ。

 そのうち2本は、距離の関係からか逃げている人へと先に到達。しかし1本は、追われている人が射かけた矢と正面衝突して消え去る。


 別の1本は、命中寸前で輝きが生まれて大きく減殺された。

 防御魔法かマジックアイテムの効果だろう。それでもその1本が命中したが、落馬もすることなく駆け続けていた。

 追われている人も、相当の手練だとそれだけで察しがつく。


 残る2本は、1本ずつオレたちに命中する。

 魔法を防ぐには、防御魔法か強固な魔法の鎧で防ぐ以外に、自らの体内の魔力を高めて意思の力で押し返す方法がある。

 と言っても魔力を集中させて防ぐのであって、精神力が作用するなどの理由ではない。


 こっちに来てハルカさんに仕込まれているので、オレはその方法を実践した。

 すると防御魔法の効果もあって、軽く何かが当たった程度の衝撃しか受けなかった。

 念のため命中した辺りを手短に確認するが特に傷もなく、戦闘に支障が出ることはなさそうだ。

 ハルカさんの方も、見た目にはオレより平気そうだ。


 この結果から、魔力のキャパはこっちが多い、つまり1対1ならオレたちの方が強いことを示している。

 初手の魔法合戦で何とかなりそうだと思えたが、こっちに逃げてくる騎馬はまだ着いていなかった。


 敵の集団はハルカさんのマジックミサイルで数を減らすも、追撃の意思は固いようで、やや散開しつつこっちに向かって来はじめている。


 また、同時に普通の矢が半ダースほど射かけられてくるが、魔力は感じないので剣で落とせる以外は防御魔法に任せる。


 幸いというべきか、初手のマジックミサイル以外は追われている人を狙わずこちらに攻撃を集中している。

 おかげで逃げている人は、かなり距離を稼いでいた。

 その間、短い会話で作戦を立てる。


「オレが逃げてる人が逃げるのを援護している間、ハルカさんがあっちをけん制してくれ」


「分かった。それより人間相手だけど大丈夫よね」


「オウ、もう心の持ちようが違うさ」


 そう言ってサムズアップする。

 そうすると短く笑ってくれた。


「ウン。けど、絶対にためらわないで。スキを見せなければ、ショウなら負けないから」


「ああ、分かってる。行くぞ!」


 その声と共に、一気に馬の速度を上げた。

 当面の残りは9人。包囲するように二手に分かれて急接近している。

 そのうちオレは、直接逃げる人を追いかけている方向に真っ直ぐ向かう。

 こちらが突っ込んでくるのは予想外だったのか、包囲するべく動いていた別働隊の動きが一瞬遅れた。


 さらにそこに、ハルカさんの次の魔法が打ち込まれて混乱が広がり、それぞれ1人が落馬した。

 おかげでオレは、一気に距離を詰めてエンゲージすることができた。

 敵と交差するちょっと前に追われている人と少し斜めの位置ですれ違い、オレはその人の陰から敵の前に飛び出す形になる。


「ドッ!」


 風を切る音と共に大ぶりの剣を振る。

 相手の力量が分からないので、とにかく全力で切り掛かった。

 今まで習ってきた体内の魔力で身体能力を強化する事も、限界まで引き上げる。

 厨二病のように、剣にも力を込める感じにしてみた。

 もちろん気持ちの問題で、実際の効果などはない。


 そして一人と交錯すると、その相手の剣を持った腕が空に飛び跳ねるのが視界の隅に入った。

 腕を狙った攻撃がうまくいったのだ。

 剣の腕は向こうが上のように思ったが、魔力総量と身体能力はこっちがかなり上回っていたおかげだろう。


 それに治癒魔法や再生魔法があるので、手足くらいならあまり気にせず切り飛ばすことができるのは精神衛生上も有難い。


 続いてそのすぐ後ろの相手には、あえて鎧の分厚そうなところを狙う。

 相手の見た目は甲冑にマント。顔は兜で分からないが、目の前で仲間が腕が切り飛ばされたのに動揺は見られない。

 よほど訓練されているか慣れているのだ。


 そして動きからして技量は相手が上のようだけど、パワーではこっちが優っていると踏んで、すれ違いざまに動体視力と運動能力に任せて敵の剣をこっちの剣で逸らし、さらにそのまま相手の胴を思いっきり叩く。


 切り裂くには角度が浅いが、吹き飛ばすのなら十分だったので、相手はその場で落馬していった。

 胴を叩くとき変な感触と音がしたが、肉を斬った感覚はないので死んではいないだろう。たぶん。


 そしてもう一人と思ったが、流石にそうはいかなかった。

 直接追って来ていた5人のうち残り2人は、オレとのエンゲージを解くべく馬の進路を変更。

 こちらも動きを合わせて敵をすり抜け、追われている人に追いつく進路をとる。


 そこにタイミングよく、オレの後ろから追われていた人が放った矢が連中に射掛けられる。

 普通の矢ではなく、何か魔法の煌めきを放ち、美しい光跡を引きつつ追っ手の一人に吸い込まれていく。


 矢はその追っ手の剣で阻まれたが、剣で弾く時に激しい閃光が煌めいた。

 目眩しだ。


 この機を逃さず一気に馬の速度を上げ、追っ手と追われている人との間、殿しんがりへと入る。

 敵を追い抜く時に、一人を切り飛ばしておくのも忘れない。


 敵を引き離してからハルカさんの方を確認すると、ハルカさんもこちらの動きを見て後退を開始していた。

 相手をしていたのは最初4名だったが、初手で1人魔法で落馬させた事もあってかすでに半減している。

 魔法を使っていた残りのフード姿も見えない。ハルカさんが、共に馬上で2人と切り結んでいた状態だ。


 しかし、最初の魔法や俺が落馬させた者たちの多くはまだ戦闘可能らしく、馬に乗り直したりして態勢を整えつつある。

 腕を落としたやつは別のやつと後方に下がって、追いついてきた別のやつが治癒魔法をかけている。


 他にも2人が完全に脱落しているようだ。

 治癒魔法の使い手も直接戦闘には加わらないので、5人が再度エンゲージをかけようとしている事になる。


「当面の無傷は残り4人、復活中が5人か。けど、ここは逃げの一手だな」


 今は、戦闘の最初にハルカさんが派手に魔法を使ったから一時的に圧倒できているだけで、いずれ押し切られる事が戦ってみて理解できた。


 ハルカさんが接近戦になっているのも、魔法を使う暇がないのもあるだろうが、すでに魔力を消耗しているからだ。

 2対1と言うのもあるが、ハルカさんが押されていた。

 今日一日戦闘漬けだったのが、今になって響いてきている。

 パッと見だけど、ハルカさんの動きにいつもの切れがない。

 そうなると、長期戦は不利と言っていたハルカさんが少し気がかりだ。


 しかも敵は、集団としての動きが今まで見た敵とは次元が違っていた。明らかに厳しい戦闘訓練を積んだ集団だとオレにも理解できた。

 識別できる紋章とか印はないが、たぶんどこかの国の訓練された兵士なのだろう。


 そして敵は簡単には諦める気はないらしく、追撃されたら追いつかれるのは目に見えている。

 逃げるなら、敵が乱れて態勢を立て直している今が距離をあける好機だ。


 追われていた人も分かっており、今度はハルカさんが相手をしていた方に弓を射掛けている。

 弓の腕は相当らしく、狙われた敵は胸に矢を受けて落馬していった。


 その隙にハルカさんも馬首を巡らし、こちらへと向かってくる。

 こっちも敵から遠ざかりつつ距離を詰めていく。

 そして敵の方も、こちらが合流しつつあるのでハルカさんから一旦離れて、体制を立て直す動きを始める。


「ショウ! 少し距離を開けたら、でかいの一発お見舞いするから、魔力供給と援護よろしく! あとそっちの人もできれば援護して!」


「了解!」


「分かった!」


 追われていた人もうなづく。小さめの体格と声から、まだ子供か女性のようだ。

 そして敵から少し離れたところにあった、敵と木立や潅木などで少し視界が遮られたところで、ハルカさんが魔法の準備に入る。

 まずはオレの魔力を時間の許す限りの時間で吸収し、ハルカさんが得意とする『光槍陣』の魔法を長距離から仕掛けるのだ。


 なるべく短時間でドレインを終えると、オレは魔法発動の時間を稼ぐため、敵を牽制するべく立ちふさがるように敵への移動を開始し、木立の陰からは追われていた人が弓で援護する。

 矢のおかげと引き返してきたオレを警戒して、追撃してきた敵の集団は接近を躊躇する。


 そしてそこに、タイミング良く影から飛び出してきた1ダースの光の槍が降り注ぐ。

 射程距離も伸ばしたので、飛距離は優に100メートルを超えていた。


 対人兵器の射距離ではなかったので、これには敵も驚いたようだけど、同時に回避できる可能性がある魔法なのが分かっているのか一斉に回避動作へと移った。

 このため敵の追撃の足は大きく鈍った。


 ハルカさんの魔法の飛翔に合わせてオレは一気に敵との距離を詰め、手近な一人に豪快に切りつける。首など即死につながる急所は狙わなかったが、もう戸惑いもなく人に剣を突きたてることができた。

 そしてオレが一人切りつけるとほぼ同時に、光の槍が敵集団に殺到。


 態勢を立て直して人数を9人まで戻していた敵は、魔法回避のために大きく陣形を崩し、オレと戦うところじゃなくなる。

 ハルカさんの魔法を知っているのだろう、アクロバットのように魔法を回避する者が数人いた。

 しかしそれはそれで馬から下りる事にもなり、接近戦や追撃どころではない。


 そして魔法の到達に合わせて、怯んだ敵を一人切り倒すと一気に反転して馬を駆けさせた。

 そこにオレ達が助けた人が弓を射掛けて、オレの逃走を手助けしてくれる。

 魔力の帯を引いて飛んでいくなかなか派手な矢が、敵をさらに混乱させる。


 あとは尻に帆かけて逃げるだけだ。

 当然だけど、オレ達が助けた人も一緒だ。戦闘中すら言葉を交わすことはほとんど無かったが、戦い慣れているし、そうした呼吸の読み方は十分に心得ていた。


 一方、ちらりと後ろを確認すると、結局多くの敵が光の槍の餌食になったようで、大混乱している様子が伺えた。

 完全に倒れている者も少なくない。まあ、食人鬼すら一撃なんだから、魔力の高い人間でもまともに食らえばたまったものではないだろう。


 そのせいか、取り敢えずだけど、それ以上こちらを追う気配はなかった。

 むしろ、こちらの逆襲を警戒しているのか退却する動きをしていた。


 少し距離を開ける頃には、退いていくのが遠くの視界に確認できた。

 退くときの手際も素早く見事で、さらに拾える限り負傷者もしくは死体を、馬で移動しながらすくい上げていった。

 連中の健在な数は、せいぜい3分の1程度だろう。


 ハルカさんの魔法の治癒能力から連中の治癒能力を推測しても、残りが生きていても短時間での再起は無理だと判断してよいだろう。


 少なくとも当面の危地は脱したようだった。


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