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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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073「未知の敵との戦闘(1)」

 王都ウルズから逃げてきた3人連れの『ダブル』たちは、怪我をしていた男がある程度動けるようになると、仲間との合流場所に行かなくてはならないので、翌日にはアースガルズ王国に向けて発っていった。


 怪我をしていたガタイのいい男性は、いかにも体育会系の明るい男性で、3人揃ってお礼を言う姿がいかにも日本人なのが新鮮だった。

 何しろ彼らは、オレが見た初めてと言える『ダブル』のパーティーだった。


「結局あの人たち、オレたちをこっちの人と思ったのかな?」


「さあ。けど、素性に触れないのもマナーみたいなものだし、気にしなくてもいいわよ」


「そうか。それにしても、ハルカさん以外で初めて野外活動する女の人見たよ。なんか新鮮」


「女の子は私だけじゃ不足?」


「えっ、いや、そういう意味じゃなくて」


 思ったままだったけど、藪蛇だったのだろうか。

 まあ、彼女の口調も態度もからかっている感じだから問題ないようだ。


「冗談よ。けど、こっちの人たちだと、女は神官か魔法使いがせいぜいで、しかも危険な場所に行かせてもらえないのが普通ね」


「魔力の恩恵が肉体にあってもか?」


「そうよ。そもそも庶民で拾われる魔力持ちの女の子は、お妾候補以外だと荒事はしない神官か魔法使いだけ。

 貴族なんて庶民の10人に1人もいないのに、魔力ありの支配階層はさらに少ないもの。

 だから魔力が身体能力面に傾いている女性は、魔力持ちや強い子供を産むのにとても重宝されるのよ。貴族が魔力持ちの平民を妾にする制度もあるくらいだし」


「じゃあ女の人の戦闘職、戦士職はゼロなのか?」


「基本ゼロね。男女差別や身分とかの問題もあるから、貴族ですら騎士や軍人は以ての外ね。

 それに高い魔力を持つには、相当の年齢を重ねる以外だと魔物を倒すか魔力の濃い場所に行くしかないけど、どっちも危険だから若くて強い女性って、ほとんど存在しないのよ。神官と神殿騎士に少し居るくらいかしら」


「じゃあ、『クッ殺』もなしかー」


「……ねえ、前に別のオタクも言ってたけど、その『くっころ』て何?」


 あ、すごい蔑んだ感じの目だ。

 今度は間違いなく地雷踏んだ。誤魔化すしかないな。ハルカさんも『くっころ』系の雰囲気があるから、オレの口から話すのは避けたい。


「えっ、いや、まあ、創作物の異世界ファンタジー・ネタの一つだよ。気にしないで」


「そのオタクも似たようなこと言って誤魔化してたんだけど」


「そんなに気になるなら、向こうでネットでも調べてくれ。オレの口からはちょっと言いたくないよ」


「そこまでする気にならないわよ。どうせロクな事じゃないでしょうし」


「まあそうだな。で、話の続きだけど、『ダブル』でも女性の戦士職は少ないのか?」


 本当に気にならないのかは不明だけど、それ以上気分を害するでもなく話を戻してくれた。


「そうねー、魔法使い、神官とか後方支援や遠距離攻撃系がほとんどじゃないかしら。戦闘職の男女比も多めに見ても4人に1人か5人に1人くらいだったと思うわ」


「じゃあハルカさんは例外な方?」


「神官戦士や魔法戦士だから半分魔法職になるけど、少数派なのは確かね」


「女子の戦士職とかアニメでもよく見るし、身軽で格好いいイメージあるけど、少ないんだな」


「何でもなます斬りにできる軽い武器でもあれば別だけど、戦士職はやっぱりスピードよりパワーとタフネスさね。

 急所攻撃は難易度高くて集中力いるし、避けるにしても、ぴょんぴょん飛び跳ねるのは体力も魔力も消耗するもの。

 神官戦士は魔法のおかげで防御力は高いけど、私も打撃力は魔法頼りね。ショウみたいに何でも剣でどうにかはできないわ」


 そう言って軽く肩を竦めるが、そうしたいのはむしろオレの方な気がする。


「オレの場合、何でも剣でどうにかしないといけないだけなんだけどな」


「そうとも言うわね。嫌なら勉強して魔法を学ぶことね。属性や適性がなくても、セカンド・スペルくらいまでなら努力次第で何とかなるわよ」


「勉強かー。考えとくよ」


「何なら基礎くらい教えてあげる。それより、私たちもそろそろ出発しましょうか」




戻っていった3人連れとは逆に、オレ達は王都ウルズ方向に向かった。

 神殿でもシュツルム・リッターの事が心配になっていたので、その捜索も兼ねていた。


 だから、昨日『ダブル』たちが戻ってきた道とは違うルートも通ることになったので、回り道というより危険なエリアをうろつく事になる。

 その代わり、日暮れまでに神殿に戻ることにしていたので、旅の荷物の多くは神殿に預けているので身軽だ。

 

「この辺りは見当たらないな。いるのは雑多な魔物ばっかりだ」


「ホントね。太陽が頂上を超えたら、いったん神殿まで戻りましょう」


「それじゃあ、もう少し王都の方に近づいてみないか。神殿で見た地図が確かなら、あの尾根みたいになってる丘を超えたら遠くから見えそうだけど」


 オレが指差す先には、人の手の入った森で覆われた横に広がる丘がある。

 太めの街道もそっちに伸びているから行けなくはない筈だ。


「けど、あの森は魔物が沢山いそうよね。この距離からでもかなりの魔力を感じるわ」


「だな。けど、さらに迂回するにはかなり横に逸れないといけないし、あの森の様子だけでも少し探らないか?」


「うーん、少しくらいならいいか」


「よし決まりだ」



 しかしその判断は間違っていた。

 森に入ってすぐにも、矮鬼の襲撃を受けた。

 数も能力もたいした事ないので蹴散らしたが、その後も続々とモンスターと出くわした。

 魔物の中には、濃い魔力を浴びて魔物化した獣も少なくなかった。魔物化した動物のかなりとオレは初対面なので、最初は面食らったりもした。

 当然前進ははかどらず、森を通る街道を道半ばで戻らざるを得なかったのだけど、引き上げ時を間違えた。


 瘴気とでも言える濃い魔力の影響で、人の手が入っているはずの森が原生林のようにうっそうとしている。

 しかも歪にねじくれたりしているので、おとぎ話に出てくる悪い魔女の森のようになっていた。


 しかも森の中だと、街道沿いでも大陽がどのあたりにあるのかすら分からない有様で、引き上げる道には行きよりも多い魔物がひしめいていた。

 どうも行き道で倒した魔物の臭いや拡散した魔力に引き寄せられたようだった。


 しかもこちらは、度重なる戦闘でかなり魔力を消耗させられた。



「すっかり遅くなったわね」


「しかも神殿からさらに離れたし、散々だったな」


「魔力も随分消耗したわ」


「じゃあ戻った方がいいな」


「そうね。魔物を減らしたら、その分治安は良くなるって慰めるしかないわね」


 ハルカさんの声は、お疲れ状態だ。

 オレの声も似たようなものだろう。


「けどさ、あの3人連れ、怪我もしてたのによく逃げてこれたよな」


「彼らの使ったルートに魔物が少なかったのかも。もっと詳しく聞いておけばよかったわね」


「とにかく、このルートは王都からも神殿からも遠いし再考ありだな」


 森を出ると既に太陽はかなり傾き、逆方向には大きな月が顔を出している。けど、高緯度で時期的にほぼ夏至の頃なので、まだ空はかなり明るい。

 おかげで見つけることができた。草原と化したもと畑を見ていたオレの視界の右端を、素早く動く者の姿を。


「何かいる!」


「また魔物?」


 咄嗟に、ハルカさんもオレと同じ方を見る。


「分からない。距離はまだかなりあるな。……かなりの速さで二組いると思う」


「あっ、あれね。私には一組というより一体しか見えないわ。騎馬の人っぽいわね」


 ようやく彼女も気づいた。しかしオレの高性能になったらしい目はさらに別のものを捉える。


「その後ろに、数はわからないけど集団がチラッと見えた」


「湿った場所を走ってるのかしら。土けむりが立ってないわね。で、追いつ追われつでいいと思う?」


 そう言って視線だけこちらに向ける。

 そしてその視線に対して、小さく首を立てに振る。


「だと、思う。助けるか?」


「追われてる方が悪人で、後ろの集団がどこかの騎士団とかの可能性は?」


「遠すぎて流石に分らないな」


「じゃ、確かめましょう!」


 言うなり馬を駆け始める。

 オレも慌ててついて行くが、今乗っているのはアクセルさんから借りた軍馬なので修羅場でも恐れず走ってくれる。


 オレ達が目指す一人と集団にはすぐにも急接近し、白夜の弱めの陽の光を受けて遠くに伸びる長い影が複数見えてくる。

 オレ達の遠望する先には、たった一人を追いかける多数の騎馬があった。

 逃げる方も騎馬だけど、追う側はオレ達に気づくとオレ達とその一人を近づかせないように連携して動き始める。


 どちらも兜かフードで顔を隠しているので、容姿など判別は難しい。ただ集団の方は、装備や装束がほぼ統一されていた。

 しかも追っている集団の方は、攻撃体制を取っている。

 実際、矢や魔法を射かけていないのは、余計な動作で距離を開けられてしまうからだろう。

 つまり互いの距離は、100メートルは開いているって事だ。


 追われている方は、まるで馬と一体化しているかのように馬の扱いが巧みだった。

 しかし近づいて分かったが、馬はかなり疲れているようだった。

 元気だったら、十分引き離せていただろう。

 そしてどちらも馬なので、こちらとの距離はすぐに詰まってくる。


「後ろがオレたちの敵でいいよな」


「決めつけるのは危険よ。ちょっと試してみるわね」


「何かできるのか?」


「まあ見てなさい。世間体を気にする相手ならこれで止まるから」


 言うなり右腕に小さな魔法陣が一つが出て、そのまま右手を高くかざす。そうすると手から光の長い棒が伸びて、その先に輝く四角い布が広がっていく。

 光の布の中央には神殿の紋章が描かれていた。

 幻術と明かりの魔法を掛け合わせたような、大きな魔法の旗だ。


 その旗ができると、彼女はそれを両手で持って振り、相手に見せつける。魔力で作られた、擬似的な旗なのだろう。


「神々の御名のもとに戦闘停止を求めます。双方剣を収めなさい!」


 魔法発動とともに彼女が大声で双方に伝える。

 まだ距離があるから声は届いていないかもしれないが、旗は十分見えている筈だ。

 けど、少なくとも集団の方は無視してかかるみたいだ。


 一方逃れている騎馬の主は、こっちに向かって大きく手を振って応えて駆けてくる。


 しかし敵の騎馬集団は、逃げている人をまっすぐこっちに向かわせないように、二手に分かれて牽制し、さらに距離があるのに弓なりで矢を射かける。

 おかげで逃げている人は、斜めに接近するしかなかった。

 こちらも接近を急ぐが、進路変更を余儀なくされる。


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