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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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071「廃墟の中の神殿(1)」

「神殿巡察官様、たいへん助かりました。最近はさらに魔物が増えており、外との連絡が取り辛く困り果てておりました」


「いえ、これも巡察官の役目です。それよりしばしの休息と、その間にこの辺りの状況を教えていただけますか?」


「もちろんでございます。それで、この先にも行かれるのでしょうか?」


「行ける所まで向かい、神々の威光がどれほど残されているのか確かめたいと考えています」


「誠にご苦労様です。我々も出来うる限りご助力させていただきたく存じます」


 ハルカさんと神殿の人との会話が続く。

 逆に神殿に入るなり、オレは付属物となり黙る。

 でないとボロが出てしまうからだ。そしてオレたちが入った神殿こそが、かなりの規模があった廃村で唯一健在な施設の神殿だった。


 ちなみこの世界の神殿は、教会や寺院より神社に近い。神殿ごとに主神を定めつつも他の神々も祀るのが一般的だった。

 また、基本的に世俗や権力に対して中立のため、人同士の争いによる破壊と暴力から辛うじて守られていた。


 ただし、戦争のとばっちりで破壊される事も少なく無い。

 この世界にとって、神殿とは病院組織、神殿騎士団が対魔物用の駆逐組織なので、戦争となっても手を出さず守られて当然と思うが、そうでもない。


 ここが無事なのは、この地を占領した軍隊がアクセルさんの属するアースガルズ王国だったおかげらしい。

 アースガルズ王国は、王都に大神殿を置いている事もあって、この近隣では最も神殿へ敬意を払うそうだ。


 逆を言えば、この辺りの国は神殿を蔑ろにしがちなのだけど、本来なら病魔も魔物も少ない地域だから、どうしても神殿の役割が低いせいらしい。

 半ば第三者のオレから見て、いつかしっぺ返しを受けるんじゃないかと思えて仕方ない。


 なおこの神殿には、20名ほどの人がいた。

 けど、最高位の神官位にあたる人がセカンドスペル程度の治癒魔法が使えるだけで、神官と助官、侍官など神に仕える者の数は十人に満たない。

 多少なりとも魔法が使えるのは、神官を入れて3人だけだ。


 他にも若干名いたが、彼らは神殿に属する兵士で、アースガルズ王国の大神殿から派遣されている守備兵になる。

 しかし、魔力持ちの戦士や神殿騎士は派遣されていない。

 アクセルさんから事前に聞いた話では、ランバルト王国など一部の国が圧力をかけているせいだ。


 なお、一定以上の位にあるか一定以上の魔法を使える者だけが白の法衣をまとえて、それ以外は黒く染めた地味な衣服や法衣、ローブ姿になる。

 黒は安価に染めやすい色で、白は汚れないようにするのが大変だから、逆に選ばれているらしい。


 また神殿の者以外にも、一般人も少しだけいた。

 彼らの半数ほどは王都から逃げてきた者だけど、移動が難しい小数の孤児の幼子と老人、移動が難しい治癒途中の重病人を神殿が預かっているだけだった。

 居るというより、取り残されているというべきだろう。


 一時期溢れるほどいたという難民は、周辺の神殿も協力して国外に避難していた。

 この神殿に避難した人のほぼ全ては、アースガルズ王国に忠誠を誓うのと引き換えにアースガルズ王国へと逃げている。



 そしてその神殿には、場違いというか、オレにとって凄いものがいた。

 来た時は神殿の建物に遮られて見えていなかったが、それは敷地内の広めのうまやにいた。

 普通の厩ではなく、もとからその凄いものの為の場所でもあった。


「ハルカさん、あれ昨日の大きな鳥じゃないか?」


「アラ、本当。巨鷲ジャイアント・イーグルね。真っ白だし、同じ鳥だったのかしら」


 位置関係からオレが先に見る事になったが、建物の影に隠れるような大きさではない。


「ここの神殿の鳥かな?」


「このぐらいの規模だと、せいぜい一時滞在の用意があるくらいだと思うわ。この辺りの状態の調査とかで中央が派遣したのかも。後で聞いてみるわね」


「珍しくないのか?」


「珍しいわよ。何より、あの大きな鳥を従えられる人がすごく希少ね。しかも白い巨鷲は、数えるくらいしかいないんじゃないかしら」


 そう言うハルカさんだけど、反応は意外に淡々としている。最低でも見たことくらいあるって事だろう。


「操る人は『疾風の騎士シュツルム・リッター』でいいのか」


「どうかしら。神殿所属でも戦闘できる『疾風の騎士シュツルム・リッター』はいるわよ。もっと地味に『空士カムエル・マイルズ』って呼ぶけど」


「『空士』は初耳だ」


「神殿では『空士』や『伝書使』って呼ぶわね。『疾風の騎士ゲイル・マイルズ』は神殿以外の、オクシデントでの名誉称号みたいなものね。『ダブル』にもたまにいて、ノヴァの空を守るかフリーランスで冒険してるわ」


「『疾風の騎士シュツルム・リッター』か。いいよなー。『竜騎兵ドラグーン』と双璧だよな。けどマジいるんだな、こんなファンタジーっぽいやつ」


「いるいる。それしてもレアキャラよね」


「だから、この世界はゲームじゃないんだろ」


 ただ、砂漠のオアシスのような神殿に着いた事で少し気の緩んだ二人の思惑は半分外れた。

 鳥だけが留守番で神殿に預けられていて、当人は出かけていた。


 巨鷲はこちらを興味深げに見ていたし頭も良さそうに見えたが、主人か訓練を受けた世話役がいないと不用意に近づくのは危険だそうで、遠目に見るしかできなかった。

 しかもしばらくすると、前触れもなく勝手に飛び立ってしまった。聞けば、巨鷲は主人がいない時は1日の多くを勝手に飛んでいて、疲れるか眠るかで戻ってくるそうだ。


 主人について聞いてみたところ、神殿と臨時契約しているお雇い『伝書使』のようだった。

 風よけのゴーグルとフード付きマントで風貌はあまり分からなかったが、来るときにかなりの食料や医薬品などを運んできてきた上に、中央の神殿の依頼を受ける形でこの地の調査で来たと言うことだった。


 そして今は、飛んで目立たないように神殿から馬を借りて王都の方に出かけていた。



 翌朝、神殿でゆっくり寝れたので快適な目覚めだったが、予定外の遭遇で当面の予定が決まらなかった。

 日没までには戻ると思っていたシュツルム・リッターが戻らなかったからだ。


「今日も馬で出かけたシュツルム・リッターが戻るの待つか?」


 神殿の敷地ギリギリといった場所で、王都の方を二人で見ている。どうにも手持ち無沙汰だ。


「ちょっと待ってみましょうか。話は聞いてみたいしね」


「りょーかい。とはいえ待つだけだと暇だし、神殿の周りでも調べとくか?」


「そうね。今日はここをベースにして、一日で戻れる場所まで調べるつもりだったし、ずっと神殿に居ても気が滅入りそうよね」


 戦火にはあわなかったが、戦後にアンデッド、魔物に荒らされたこの村は、異形の者達によってかなり破壊されてしまっている。

 村外れにある墓場は特に荒れており、亡骸がアンデッドとして復活したので穴だらけだ。

 だから村の中央にある神殿だけが健在な状態だった。


 そして一通り村を巡回し王都方向の村の門扉跡まで来て、二人して戻ってこないかとぼんやり突っ立つ。

 荒れ果てた田園が広がるも、視界は十分に開けている。


「昼になったら、少し進んでみましょうか。魔物さえ出なければ、数時間馬で駆ければ王都を遠くに見るくらいはできそうだし」


「そうだな……あ、何か来る」


「えっ? どこ?」


「ホラあっち。けど1人じゃないな」


 街道の遠くに小さく動く影がある。だからそれを指差した。


「私にはまだ見えないわ。昨日の巨人鷲もそうだけど、ショウって目良くなってない?」


 そう言って彼女は、手をひさし状にして目を細める。

 それに引き換えこっちは、特に良く見ようとしなくても見えていた。


「そうなのかな? 自覚はないけど」


「能力が上がったか、体と心が一つになったかでしょうね」


「体と心?」


 ハルカさんの言葉に思わず彼女の方を向くと、彼女もこちらに顔を向ける。


「そうよ。私たちは借り物の体に意識が入るから、ちゃんと使えるようになるには、慣れるか何かのきっかけがいるって言われているのよ」


「つまり、オレはやっと本来の能力が発揮出来るようになったってこと?」


 そう言って首を傾げるも、彼女は視線を再び街道の方に向けてしまう。


「全部かどうかは分からないけど。……あ、見えた。まだ遠いわね」


 話せば話すほど、あっちの情報にない事ばかりを耳にする。と言うより、体感しないと分かりづらいから、ハルカさんもその時々に話すのだろう。


 一方、話している間にも何かが近づいてくる。

 数は3体だけど、少し経つと人を乗せた馬というのが分かった。逆に魔力とかはまだ分からない。

 人や魔物の魔力を感じるには、専用の魔法でも使わない限り500メートルくらいまで近づかないとダメらしい。


 それはともかく、近づいてくるのは騎馬の3人の見た目はまちまちだ。武装をして自分たちの後ろを気にしているように見える。

 ただ少し軽い既視感があったが、今は気にしている場合ではないようだ。


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