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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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068「再出発(2)」

 この町で飲食できる店は幾つかあるけど、小さな店が多い。しかも店で買って、家に持って帰るか広場の座席で食べるパターンがほとんどだ。

 店内でゆっくり話しながら飲食できる店となると、宿兼食堂と酒場兼食堂の二つしかない。


 宿兼食堂は酒場も兼ねていて、街道を行き来する人が主に使う。男の鉱夫や職人が多いこの町では、酒場兼食堂の方は『夜の店』も兼ねている。


 どちらにせよ庶民の利用する店で、領主や高位の神官つまり貴族様が出入りするような店ではない。

 旅人でも庶民以外は、アクセルさんの屋敷を訪ねて利用する。

 彼女の諦め顔の原因もここにある。しかしアクセルさんはよく使っているらしく、宿の方へ全く違和感なく入り、店員とも気軽にやり取りしている。

 物腰は優雅で洗練されているけど、こういう気さくさは全然貴族らしくない。


「メニューとかはやっぱりないんだな」


「ないない。あるわけない。普通の人は文字が読めないのに。それにカウンターに置いてある作り置きの簡単な酒のツマミ以外だと、その日のシチュー1種類しかないのが普通ね。温かいまま出せる料理は結構手間だから」


「そうだね。でも、もう少し待てば食事はいけるそうだよ」


 確かに、何かを調理する匂いがする。何かを煮込む匂いだ。


「じゃあ、それまで飲み物くらい頼めるのか?」


「お茶かハーブティーはあると思うわ。あとはお酒ね。ちなみに飲み水も有料よ」


「ああそうか、日本とは違うよな。じゃあお茶が一番無難か」


「そうだね。お茶を飲みながら、食事の準備ができるのを待とうか」


 そんなことを話しながら店内を見渡すと、オレたち以外にも数人の客がそれぞれのテーブルで陣取っている。

 基本旅人か行商人風で、今日の定期市に来た人たちに見える。中には武装している人もいる。


 昼間っから屋内でもフードを被っている者もいるが、特に気にする人もいない。そんなもんなんだろう。

 それよりもオレは、初めてお店に入って食事する事の方に関心が向いていた。


 もちろん相談も忘れていない。オレたちは最初は雑談をしながら、次第に近隣情勢の簡単な話や揃えるものの話題へと移っていく。

 食事を終える頃には、揃えるものもほぼ固まっていた。

 情報の方は、おおっぴらに話さない方がいい事もあるので、屋敷に戻ってから話す事になった。


「だいたいはそんなところだね。屋敷で足りない分は、屋敷の者に買わせておくよ」


「けど、個人で必要なものだから、直接店で見て買った方がよくないんですか?」


「品定めならショウよりアクセルの使用人の方が確かよ」


「確かにそうか。オレ初心者だし」


「まあ、全部揃えた後で、念のため店ものぞいてもいいんじゃないかな。そこまで急がないんだろ」


「はい。それでいきましょう」


「決まりね。じゃあ、そろそろ屋敷に戻りましょうか」



 屋敷への帰り道。宿屋の食堂を出てすぐ、屋敷への道を歩いている時だった。

 ハルカさんが、前を向いて歩きながら小声で話しかけてきた。


「ショウは気づいてた?」


「何を?」


 彼女は軽く眉を寄せる。


「ハァ。対人鑑識能力は要修行みたいね」


「何か、というか怪しいヤツがいたのか?」


「念のため、という程度だけどね」


 アクセルさんも、前を向きながら小声で慎重に返す。


「このまま屋敷に戻っても大丈夫かしら? 尾行はされてないみたいだけど」


(だから小声なのか。全然分からなかった)


「それは流石に大丈夫だろう。傍から見れば領主と神官、その従者だから、怪しまれる所がない。けど、念のため屋敷の警備は少し固くしておくよ」


「誰かここを探りにきたんでしょうか?」


「この町は旧ノール王国への入り口にも当たるから、ノール王国に行こうとする者が立ち寄っただけだろうとは思うけどね」


「けど、気配からしてけっこう腕は立つわよね。魔力の気配も消してたし」


「魔力って消せるんだ」


「ええ。アイテムを装備するか、多少の訓練をすれば簡単には察知されないようにできるわね。そしてさっき居た連中は、ショウが気づかないくらいには魔力を消せるって事ね」


「見た目には軍人の動きではなかったと思うよ。女性もいたし」


 そこでハルカさんとアクセルさんが共に軽く悩む顔をする。


「さすがに隠密とかじゃないわよね」


「それはないだろうね。魔力を消していただけで、隠れたりする素振りもなかったからね」


「で、どこにいたんですか?」


 取りあえずオレが聞きたいのはそこだ。全然分からない以上、そこからスタートするしかない。


「お店の中だよ」


「カウンターの隅にいた人ですか?」


「違うわ。ショウの背中側の離れたテーブルに、フード付きマントの男女3人連れがいたでしょ」


「行商人の護衛かもね。行商人が護衛を連れている事は多いから。護衛する側も移動中の副業でも小遣い稼ぎにはなるし、生業にしている者も少なくないからね」


 なるほどと思うしかない。それにしても、ゲームやアニメのように如何にもな格好の冒険者はご同業でも少ないのはちょっと意外だ。


「それで、目的地はやっぱり隣の滅びた国か」


「間違いないでしょうね。入る前の最後のまともな宿がここになるから」


「あれだとノール王国に入るまでは、それほど素性や行動を隠す気も必要もないんだろう」


「と考えると、傭兵か冒険者ってとこかしらね」


「冒険者はこの世界にいないんじゃあ?」


「あの人たちが『ダブル』の可能性もあるって事。若い女性がいたし、雰囲気がそれっぽい気もしたし」


「ああ、そうか」


「お宝があるって話だからね。それに『ダブル』でも、人の多い場所で重装備を付けたまま歩く人は少ないわ。武器所持がうるさい村や町も多いし」


「ちなみにこの町も、身分で認められていない上に許可なく武装したままで入る事は認めてないからね」


 そういえば、目立つ武装はした人は町にはいなかった。

 今日見た一番大きな獲物は、アクセルさんが腰に下げている長剣だ。


「じゃあ武器はどうするんですか?」


「何かに収納して装備しないのが基本ね」


「もしくは、町や村に入る時に装備したままの許可証を発行してもらうかだね」


「この制度は、大都市になるほど充実してるわね」


「場合によっては、預ける場合もあるわよ」


 この世界で物品を預けるとか、何かの保証や担保がないと成立しなさそうに思える。だから少し失礼な言葉が自然と出てしまった。


「役人や兵士に騙し取られたりしないのかな?」


「そういう所は、魔法の道具で登録や管理ができるから大丈夫よ」


「へーっ。妙に便利なところもあるんだな」


 そういえば、ハルカさんも法衣は着ているが武装は護身用の短剣くらいだ。病み上がり扱いのオレなど、この世界で初めての丸腰だ。


「話が少し逸れてるけど、もう警戒せずに屋敷戻りましょうか」


「そうだね。過剰な反応は逆に怪しまれたりもするからね」


 そう言って、二人が緊張感を解く。


「もうっ。ショウがお店行きたいとか言わなければ、変に警戒することもなかったのに」


「えーっと、オレのせいなの?」


「そりゃそうでしょう。何度かこっち見てたから緊張したわ」


「それはルカが魅力的だからなんじゃないかな」


「ハイハイ。だといいけどね」


 オレの自虐をハルカさんがまともに釘を刺したが、それをアクセルさんがやんわりと路線変更してくれる。実によくできた人だ。異性だったら、もう惚れてしまいそうなくらいだ。

 しかしハルカさんは、アクセルさんとのやり取りはごく普通っぽい。


「と、とにかく、戻ったら準備進めよう」


「ああそうだね。ボクの方はもう少し情報を集めておくよ」


「お願いします」


 こうしてオレは、再スタートをかなりうまく滑り出すことができた。

 と、思いたい。


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