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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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060「帰るための一歩(2)」

(まあ、参拝者としか思わないだろうからな)


 そう思いつつも、まずは神社に対する礼儀として、一通りお参りを済ませる。その間も、彼女は静かに、そしてオレの邪魔にならないように境内の掃除を続けている。

 しかしオレは、当初の目的通り彼女への突撃を敢行した。


「あ、あの!」


「ハイ、何か御用でしょうか。それとも何かお探しでしょうか?」


 マニュアルに載せたいくらいの完璧な営業スマイル。

 しかし多くの男性は、その笑顔だけで撃沈されてしまうだろう。オレもその例外では無かった。

 男って悲しい、ではない。


「えっと、おみくじ引きたいんですが」


「これは申し訳ありません。まだ社務所を開けておりませんでしたね。少々お待ちください。今準備しますね」


 あくまで丁寧でビジネスライクな言葉使いだけど、かなり手慣れた様子で、何より媚びのない良く通る声が耳に心地よかった。


(ファンがいそうだよな)


 おみくじの結果は大吉。無駄に大吉だった。嫌味なくらい良い事ばかり書いてある。

 なんだか今日一日の幸運をすべて使い切ったように思わなくもなかったが、めげずになけなしの勇気をふるい起こそうとした。


 けど、遠くからの声に出鼻を挫かれてしまう。


 裏門の方から、太い犬の鳴き声複数と少女の声が響いてきたからだ。少女の声には、聞き覚えがあった。何しろ昨日も聞いた声だ。


「だ、ダメだって、きっと今掃除してるんだから〜」


 情けない悲鳴の主は、やはり天沢だった。

 大柄な二匹の犬、白いシベリアンハスキーと黒めのシェパード。どちらも大柄でペットというより番犬な感じで、狼とタイマン張れそうな程立派な体格をしている。

 天沢はその二匹の散歩なのだろうが、主導権は完全に犬たちの方にあった。


 体重が40キロあるかないかであろう華奢な天沢よりも、二匹合わせた犬たちの方が体重ありそうだし、何よりパワーが決定的に違っていた。

 「ヒエーっ」という、お約束な声が響いてきそうなほどだ。

 あの二匹の散歩を毎日しているなら、自然と体も鍛えられるだろうと納得してしまう。


 そして、社務所の窓口から少し顔を出した美人の巫女さんが、その様子を見てクスリと笑みを浮かべる。

 今度の笑みは本物で、さっきの何倍も魅力的だった。


「あ、申し訳ありません。あの子は私どもの知り合いなものでして」


「そうなんですか。あの娘、オレのクラスメートなんですよ」


 笑顔につられるように、自然とそんな言葉が出た。

 「アラ、そうなんですか」と、巫女さんが意外そうな顔をオレに向ける。無防備な顔もまた魅力的だった。

 そんなオレの生物としての葛藤をよそに、二人の少女が会話を進めている。


「もういいぞ、玲奈。人もいないし、もう境内の掃除は終わってるから、茂みの方なら構わないぞ」


「あ、ハ〜イ、静さん。ホラっ、あっちはダメだからね」


「相変わらずだな、玲奈は」


「ヘヘヘ〜、あの子たちのために、いつもすみません。……あ、アレ、アレレ」


 いつもと違う明るい調子の天沢の声が、朝の境内に響く。当然視線は、オレ様に釘付けだ。


「よっ! おはよう」


「お、おはよう。えっ、でも、どうしてここに?」


「厄払いのご近所神社巡り、だったりして」


「何それ、ちょっと可笑しい。けど、ホントなの?」


「おいおい玲奈、私にも早く彼氏さんを紹介して欲しんだがな」


「か、彼氏!? ち、違います。た、ただのクラスメートです」


 巫女さんのからかうような雰囲気が込められた言葉に、天沢は耳まで真っ赤にしている。

 オレは天沢が連れいる2匹の犬からの遠慮ない品定めを受けつつ、巫女さんの方に向いて軽く頭を下げる。


「月待翔太です。見ての通り、天沢のクラスメートです」


「私は常磐静じょうばんしず。玲奈の友達なら、好きに呼んでくれていいよ」


「じゃ、常磐さんで。えっと、目上ですよね」


「ああ。玲奈と同い年だと、3つほど違う事になるかな」


 常磐さんの少し偉そうな感じの独特の口調が、妙に堂に入っていた。

 実のところ、既にフルネームもニックネームも知っていたのだけど、ここはあくまで初対面で通した。実際初対面だし。


(にしても、『御前』ってニックネームもうなづけるな。て言うか、親は子の名前で遊んじゃだめだろ)


 おれの心の声を見透かすような視線を軽く流した常磐さんは、特に気にするでもなく「で?」とそのまま天沢に視線を送る。

 面白がっているのは明白だった。


「シズさんは何か誤解しているのかもしれないけど、クラスメートで同じ部活なだけで、全然彼氏とかじゃぁ……」


「そうか、じゃあ男友達の月待君でいいのかな?」


「別にわざわざ男を強調しなくてもいいでしょう」


 いつもの天沢とは違う姿に、オレは呆気にとられていた。


「見ろ、月待君が目を丸くしてるぞ」


「えっと、違うの。いや、違わないのかもしれないけど違うのよ、月待君」


「どっちだよ。それより、天沢と常磐さんは友達って事でいんでしょうか?」


 思わずつられて笑ってしまう。それにこんな明るい天沢は、とても新鮮だ。

 それに引き換え、常磐さんはクールで知的な印象だ。いや、見た目通りの人だというオーラが違う。


「家同士でつき合いがあるんだ。私はこの神社の子で、天沢の家は昔はこの辺りを拠点にしていた豪農だったんだ。うちにとっては、大切な氏子様だよ」


「そんなの昔の話しだよ。ホントだよ、月待君。今はもう全然大したことないから」


「それでも氏子なのは変わりないし、こうして家族でつき合いさせてもらっているんだ」


 そう言うと、長身の常盤さんが小柄な天沢を少し上からガバっと抱きこむ。


(なんか、家族より親密そうなんですけど)


 天沢がオレの前だからかどうか小さな悲鳴をあげているが、面白がった表情の常盤さんはますます天沢を玩具にしている。多分、いつもの光景なのだろう。


 そうしたスキンシップを一段落させると、天沢を抱き込んだ姿勢のまま常盤さんの顔と視線がオレの真正面に向けられた。

 天沢の方は、恥ずかしさでグロッキー状態だ。


「月待君、ありがとう。玲奈は人見知りが激しいのに友達になってくれて。私が言うことではないと思うが、これからも仲良くしてやって欲しい」


「いや、そんな。……ハイ、分かりました」


「ウン、いい返事だな」


 そのまま右手を差し出してくる。

 その手を握り返すとひんやりとして気持ちよかった。


「これで私とも知人、いやトモダチだ。ヨロシク頼む」


「はい、こちらこそ」


 そこでようやく天沢を解放した常盤さんは、魅力的な細いおとがいに右手の指を折り曲げて親指と人差し指だけを当てる。何をしても絵になる人だ。

 ただ、若い人同士が握手というのは少し珍しいが、そういうところは『ダブル』っぽい気がした。


「ところで月待君、今さっき厄払いのご近所神社巡りと言っていたが」


 本当かとその瞳は語っている。意外という以上に真剣な眼差しに、思わず気圧されそうになる。

 少し視線を逸らせた先の天沢も、オレの事情を察したかのようにコクリと小さくうなずく。


 オレも今度こそ腹をくくった。予定とは随分違うが、状況はずっといいと思えた。

 これも多分、天沢のおかげだ。


「えっと、出来れば笑わないで聞いていただけますか。オレとしては真剣なんです」


 常磐さんはオレの瞳を見据え、オレも逸らさずに頑張った。こんな場面じゃなきゃ、顔を逸らすか赤面していた筈だ。

 そうして何秒が経過したのだろう。常盤さんの隣では、天沢の視線がオレと常磐の間を何度も行き来していた。


「……フム。いいだろ。込み入った話みたいだし、こっちに来てくれ」


 それだけ言うと、常盤さんはオレ達を社務所の方へと導いた。


まずは第一部完結です。

随分前に書いた本作のリファイン部分がここまででしたので、私自身にとっての一区切りとして一旦完結としました。

この後も、別作品としての投稿の形で、「本編」として第二部、第三部と続いていきます。

(プロットとしては第五部で完結予定です。)

もしよろしければ、「チート願望者は異世界召還の夢を見るか? 〜聖女の守り手〜」をご覧頂ください。

今後とも、応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れさまでした。 ぼくっこ。というかレナちゃんの恋の行方はいかに! かんばれレナちゃん、現実世界のヒロインは君しかいない! てことで続きも楽しみにしています。
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