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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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55/118

055「殺戮の後で(1)」

ここからしばらく数話は鬱な展開になります。

 惨劇を目の前にしても、ハルカさんはオレよりずっと冷静だった。

 きっと以前に似たような状況に出くわしたことがあるんだろう。

 しかも一回ではないのかもしれない。もしかしたら、人同士が殺しあう戦争に参加した事があるのかもしれない。

 彼女の言葉もそれを肯定していた。


「襲撃者は二、三十人。リーダーとか指揮系統の主なところを倒して、相手を逃げさせるようにしましょう。村人を守りつつまとめて相手にするには数が多いわ」


「けど、村をあんなにしてる連中だぞ。許せるか!」


 そう、許せるわけがない。

 けれど、彼女はオレへの説得のような説得を続ける。


「雇い主のなくなった兵士や傭兵の中には、こういう連中もいるのよ。このくらいの数だと、本来の隊長がいない状態かもしれない。傭兵崩れなんて相手にしてたらキリがないわ。村を助けられたらそれでいいの」


「いいって、ハルカさんはそれでいいのかよ」


「そうよ。説教臭いけど、これもこの世界の一部なのよ」


「畜生。どこかの世紀末じゃないんだぞ! オレはやるからな」


 それだけ言うと、ちょうど目に付いた人の姿をしたケダモノに突進した。そのケダモノは、今まさに逃げまどう村人に槍を突き刺そうとしているところだった。


 オレの助太刀は寸前で間に合わず、悲鳴と共に血しぶきが飛び散る。


「ウオオオっー!」


 無意識に叫びながら『敵』へと突進していく。

 そして村人を襲おうとしていた傭兵へ向けて、剣を下から振り上げる。そして剣が何かの障害物にブチ当たったと感じた次の瞬間には、すぐ側の別の男を捉えていた。

 最初に左下から斜めに駆け上がった剣は、次は直滑降で別の男の右の肩口に鋭い斬撃となって振り下ろされた。


 すぐ側では、それまで仲間の行いに卑下た言葉を並べていた残りの傭兵が、「ヒッ!」という短い悲鳴と共に腰を抜かしていた。

 しかし動き続けるオレの体は、その傭兵にも容赦なく剣を振り下ろそうとする。


 けどその時、彼女が魔法の準備に入っているのが感じられた。


 敵の注意はどちらかといえば突っ込んできたオレに向いていたし、彼女の方まで距離もあったからだだろうか、とにかく多数を一度に攻撃することのできる魔法を準備している。

 隙ができるので、やるなら最初の一撃だけしかできないからだけど、一番の目的は相手の士気を挫くためだろう。


 そして彼女のやろうとしている事が理解できたので、オレも少しだけ冷静さを取り戻せた。

 とにかく、彼女に敵の攻撃をさせないように心がけた。


 それにオレが一人一人倒して走り回るより、当面はその方がより多くの敵を倒せるという合理的な思考もできた。

 そこで若干余裕が取り戻せたので、目の前の腰を抜かしていた傭兵は強めに蹴倒して気絶させるだけに止める。


 そして思った通り、10秒ほどすると10本以上の光の槍がオレたちを囲もうとしていた敵を次々に射抜いていく。

 魔法の槍の目標は周辺だけでは足りなかったので、遠いものは50メートル以上飛んでいった。

 容赦のない攻撃で、とても強力だ。


 「神々の槍だ!」と、絶叫して恐れている傭兵崩れもいる。

 直に敵を貫くのを見たのは初めてだけど、確かにこれほどの攻撃なら、1発で普通の人よりも強い食人鬼が倒せるわけだ。

 光の槍は、鎧や盾で威力は減らせるようだけど、普通の人ではひとたまりもない。


 完全な誘導タイプではないが、普通の武器より速い速度で殺到してくるので、避けられた傭兵崩れは一人もいなかった。

 ある一発は、偶然から2人を串刺しにしていた。


 彼女の攻撃でケダモノどもは混乱状態となり、動きから組織的な動きが無くなる。しかも彼女は、矢継ぎ早に次の魔法を準備する。

 次は『魔法の矢』だ。


 先ほどの『光槍陣』より数も威力も劣るが、すぐに魔法が発動できるので乱戦でも便利だ。

 そして威力の調整も出来るのだけど、手加減されていない『魔法の矢』が次々に放たれていく。


 こっちは完全な誘導タイプなので逃げても無駄で、背中を見せて逃げ出すものもで始める。

 遮蔽物に隠れても無駄で、大きく軌道を変えて目標を射抜く。

 遮蔽物の向こう、見えない敵に命中するのは『魔法の矢』の真骨頂だ。


 もはや一方的戦いだけど、ちらりと見た彼女の表情はすごく厳しかった。ケダモノどもが許せないのもあるだろうが、自分が何をしているのか理解しるからだろう。


 彼女の圧倒的と言える攻撃で、敵は算を乱して逃げ散るかと思ったが、少し離れた場所で10名ほどが秩序を維持して移動しつつあるのが見えた。


 それだけなら、もう見逃してもいいかと思ったが、どう見ても傭兵だけではないので見逃すわけにいかなかった。

 しかも逃げ際に、進路上にいた別の村人を切り捨てているところまでが見えた。


 それを見て、戻りつつあった理性が再び吹き飛ぶのが分かった。

 後ろでは、オレを制止する彼女の叫び声も聞こえたが、それに耳を傾けることもなく敵に向けて突進した。




 気が付くと戦いは終わっていた。

 村の中心辺りで、周囲の建物のいくつかが炎に揺れている。そしてオレの周りには武装した人の死体が幾つも横たわっていた。


 オレ自身は身体のそこかしこに傷があったが、ほとんどはかすり傷。全身血まみれだったが、ほとんどは返り血だ。


 少し後でハルカさんから聞いた話では、傭兵の中にオレたちと同じく人間離れした動きの戦士と魔法を使う者がいたのだけど、オレはものともせずに全員を力任せに切り倒し、命乞いをした者にも一切容赦しなかったそうだ。


 そしてオレが倒した集団が、村を襲った傭兵崩れたちの最後だったらしい。

 残っていたとしても、オレたちが来た逆方向の街道を塞いでいたであろう者たちぐらいだろうという事だった。


 あと、二度目に通せんぼした連中は、村人達の証言からオレたちの迎撃に向かって行った者たちだったと聞いた。だから、本隊にほとんどいなかった魔力持ちが2人もいたのだろう。



 半ば呆然としたまま歩きはじめると、村の惨状がオレの視界と脳裏に飛び込んでくる。

 足元で切り伏せられていた傭兵は、ひどい切り口からして殆どオレがした事だった。


 そして、所々に倒れている村人達もひどい有様だった。もちろん襲撃していた傭兵崩れがしているもので、死者のほぼ全てが男性と老人だ。

 見た感じ人が魔物に襲われた時よりマシだけど、何の慰めにもならない。


 一方で、こういう場合は女性は彼らの欲望のはけ口兼奴隷として売れるので、可能な限り無傷で捕らえられる。

 男も肉体労働用の奴隷として需要はあるが、襲撃の最初は歯向かうので殺す事が多い。

 子どもも、小さ過ぎる者は奴隷としては売れないので、邪魔だと殺されてしまう。


 そして戦乱中の地域では、雇い主がいなくなり金も尽きた傭兵の、戦争が終わった後の主な『仕事』の一つが奴隷狩りだと言われることもあるほどだ。

 それどころか、国丸ごとが攻め込んだ相手国で奴隷集めをする事も珍しくない。

 世界全体で見ても、奴隷売買はビジネスの一つだ。


 焼かれた家屋は思っていたよりも少なく、村自体の被害もそれほどではないように思える。動ける村人は、火事を消火したり隣人を助け出している。


 それほど大きな被害を受けていないのかもしれないが、だからといって納得できる状況じゃない。

 思っても仕方ないが、もう少し早く到着していたらと思えてしまう。


(そういえばハルカさんは?)


 姿が見えないと不安になる。無事な事は確信していたが、少しでも早くこの目で確認しておきたかった。

 しばらく村をさまよい歩くと、向こう側から彼女が歩いてくる。腕に小さな子供を抱き抱えていた。


 向こうもオレを確認したことは分かったが、ほとんど無表情で能面のようだった。着衣や鎧も、ススや血で汚れている。能面ともども、今までに無かったことだ。


「子供、助けたのか?」


 互いに目の前まで近づいたところで、ようやく言葉を交わした。

 オレの言葉に彼女は力無く首を横にふる。


「手遅れだったわ。私の力じゃどうしようも……」


「そか。じゃあ、せめてちゃんと葬ってあげないとな」


「……ウン」


 辛うじて感情が戻った声だった。


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