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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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054「人との戦い(2)」

 その後、さらに数本の弓矢が襲ってきたが、もう相手に気付いているので難なく振り落とすことが出来た。

 今度は馬も狙われたが、『防殻』という文字通りバリアのような防御魔法が効果を発揮して弾いていく。


 どうしてもこの先に行かせたくないらしい。


 しかも隠れている先には、恐らく二人の魔力持ちが潜んでいた。けど、魔力の本当の気配は感じる以上なので、魔力を隠して潜んでいるのだろう。


(簡単な相手じゃなさそうだな)


 目配せするとハルカさんも気づいており、さらに今度は手抜きをする気はないらしく、馬を止めるとすぐにも攻撃魔法の準備に入る。

 彼女の周りには魔法陣が二つ出現するが、魔法はすぐには発動しない。

 そして前と違って、相手へのアナウンスは彼女の前に位置するオレの役目だ。


「今すぐ降参しろ。でないと、魔法の矢がお前たち全員を瞬時に射抜く。これは脅しじゃない。いいか、今らか5つ数える。その間に、武器を捨てて姿が見える場所に両手を頭より高く上げながら出てこい!」


 警告の間も矢が何本も射掛けられるが、魔力が込められているような脅威となる矢は一本も見られない。

 適当に剣で払うが、面倒なので当たるに任せる矢もある。


「待ってくれ!」


 4つまでカウントを数えたところで、数十メートル先の茂みから大声がした。

 そしてバラバラの場所から武装した6人の人影が姿を現わす。

 一応出てきた奴らは両手を上げているが、手には武器を持ったままだ。鎧もチェインメイルに一部鉄製の鎧にさらに兜と充実している。

 盾持ちもいる。


「武器を捨てろと言ったはずだ。その場で止まり捨てなければ、数えるのを再開する」


 オレは馬上から油断なく剣を構えているが、オレの乗っているのは乗用馬で軍馬じゃないから、戦闘になれば飛び降りるつもりだ。


 連中はその場で止まるも、武器を捨てるそぶりはない。伏兵を置いて奇襲でも仕掛けるのかとも思ったが、気配は感じられない。

 それに魔力を持つものじゃないと、よほど威力がない限りハルカさんの防御魔法を貫通できない。そのことは連中もすでに理解できているはずだ。


「待ってくれ! オレたちはこの村に雇われてる傭兵だ。警告抜きで矢を射かけた事は謝る」


 なるほど、そのパターンもありうるのかと一瞬思ったが、オレが甘いだけだった。


「神官の法衣と神々の紋章に、矢を射かける者の言葉を信じろと言うのですか!」


 オレの後ろから彼女の厳しい声が飛ぶ。

 その通りだ。連中も話しかけてきた者以外が、バツの悪い表情を浮かべる。


 改めて連中の装備を確認すると、それぞれやや不揃いな鎧や武器で武装している。印や紋章はないので、どこかの組織に属しているわけではない。


 特定の弓手はなく、6人とも石弓を腰に下げて、手には接近戦用の武器をそれぞれ持っている。

 動きやすそうな金属製の鎧や大ぶりの武器が多いことから、警護より襲撃寄りの武装なのが見て取れる。

 しかも2人、魔力持ちがいた。


「傭兵崩れね」


 彼女の侮蔑を込めたつぶやきが聞こえたのだろう、開き直ったかのような傭兵達が近づきつつ卑下た声と罵声を浴びせてきた。

 両手に掲げた武器も手を下ろし、戦闘態勢ではないが手に持ったままだ。


「崩れじゃないぜ、本職の傭兵様よ」


「神に仕える神官様は、そんな事も分かんねえのか」


「それより、元来た道を引き返して全部忘れな。これは俺たちからの忠告だ」


「もういいだろ。やっちまおう。たった2人だ」

「バカかお前。あの魔法陣見ろ。できないからこうなってんだろ」

「なーに、結果として距離も詰まった。集団でかかれば大丈夫さ」

「それに上玉の女だぞ、逃す手はない」

「だな。女は残して、男は殺ろう」


 最初の二言三言以外はコソコソと話し合っているが、五感も常人離れして優秀なオレの耳には全部まる聞こえだ。

 当然、彼女も聞いているだろう。

 オレは傭兵達から彼女を隠すように彼女より前に出る。


 それにしても、魔法を軽視しすぎてないだろうか。それとも強力な魔法に出会ったことがないんだろうか。

 その辺りは傭兵と自称する割には、実力差が分かってないバカに思えてくる。


 そんな事を思っていると、気がつくと彼女がすぐ後ろにまで来ていた。

 そして切羽詰まったようにオレにささやく。


「ショウ君、逃げるなら今よ。私たちの足なら十分逃げられるわ」


「その選択肢はないな。捕まえるんだろ」


「今までの魔物や盗賊なんかより腕が立つから多分殺し合いになるけど、ショウ君は人が斬れる? その覚悟がある? 魔物や獣とは違うのよ」


「大丈夫じゃないかもしれないけど、この先の村には連中の本隊か何かがいそうだし、このままってわけにはいかないだろ。聞いただろ、連中の卑下た言葉を」


「……そうだけど」


 彼女は、あくまで理由が何であれオレが人を殺すかもしれないことを危惧している。


「なら、これくらい私一人で何とでもなるから、ショウ君は手を出さないでくれる」


「ハルカさんだけにさせるってのは、流石にできない。むしろ、オレ一人でやりたいくらいだ」


 オレは、少しだけ後ろを見つつ、出来る限り不敵に笑って見せた。そして彼女より一歩前に出る。

 こっちが相談しているので、傭兵崩れはニヤニヤとしている。


「どっちが先にくたばるか相談は済んだか、坊ちゃん、嬢ちゃんよ。ああ、心配するな、オレ達は信心深い方だから、べっぴんな神官様の方は俺達とちょっとした話し相手になってくれたら、命だけは取らねえから」


 リーダー格の男の声の挑発的な声に、オレの身体が勝手に動いた。

 身体中の血とおそらく魔力が、限界以上に暴れているのが自分でもわかった。

 体内の魔力は、激しい感情にも反応するらしいが、実感したのは初めてだ。


「ドッ」


 オレの周りで風を突き抜けるような音が轟き、周囲の情景が車が急加速した車外の景色ようになった。

 それとは逆に、目標に見据えた男の動きは、まるでスローモーションのように見える。


 そして最初に挑んだのが体内の魔力の高い男だったが、それでもオレと比べると動きは数段劣っていた。

 この男がいるからオレ達を侮ったんだろう。


 男たちはすでに構えていた剣で対応しようとするが、あまりにも遅すぎた。今のオレから見れば、面も小手も胴も脚も全てガラ空きだ。

 鎧が急所の幾つかを隠しているが、それもオレには意味はなかった。


 けど、いきなりまっ二つに叩っ斬るほど、理性は失っていない。

 素早く剣の柄頭を急所に強く叩き込んで無力化する。

 魔力持ちでもオレより動きが悪いので、気を失わなかったとしても痛みで数分は動けないだろう。

 殺しはしないが手加減もしなかった。


 しかし相手が魔力持ちということで勢いがつきすぎて、その男は吹っ飛んでいった。 


 普段よりかなり熱くなっているオレは、気にせずぶち当てたと感じた次の瞬間には、すぐ側の別の男を捉えていた。

 その男も魔力持ちだけど、隊長格よりさらに少ない魔力しか感じないし動きも遅かった。


 相手はまだ戦闘態勢に入れていない。

 オレから見て、無防備な武器を持つ腕に柄頭を叩きつけへし折った上で、足蹴にして吹き飛ばす。


 しかしそこで、とっさに石弓を構えていた後ろにいた3名から集中砲火を浴びてしまった。

 本来は後ろのハルカさんを狙おうとした動きだったが、こっちを脅威と認識したようだ。


 その3人は、弓を放った直後に彼女が放った魔法の矢に次々と腕や脚を射抜かれていったが、放たれた矢はオレへと殺到する。

 そしてその矢に反射的に剣で対処していたら、残り一人への対応が遅れてしまった。


 そいつは当たると痛そうな戦斧を大上段から振り下ろしてくる。

 防御魔法で弾けるかもしれないが、戦斧は魔力の反応が見えていて、しかもこれほどの勢いとなると無事で済むか分からないと思うと、咄嗟に体が対応した。

 そのあとは、食人鬼を相手にするより簡単だった。



「ねえ、ねえ大丈夫、ショウ君」


 蒼くなった彼女は、驚きと不安が渾然一体となった複雑な表情をオレに向けている。顔がかなり近い。両肩を両手で掴まれてもいた。

 その時、初めて自分が何をしたのかに気が付いた。


 オレに大きな戦斧で切りかかってきた男は、肩口からお腹近くまでザックリと地面が見えるほどに切り裂かれ、一撃で絶命して倒れていた。

 剣の切れ味もさることながら、我ながら凄まじい膂力だ。人間業ではない。けど、間違いなくオレがやったことだ。


 そしてオレの全身には、生暖かい返り血がシャワーのように浴びせられて赤くなっていた。

 けど、オレの心はその時は妙に平静だった。いや、このときのオレの心のタガが、一つか二つ外れていたのかもしれない。

 もしくは逆に、自己防衛で心を閉じていたかもしれない。


「ああ、大丈夫だ。それより先を急ごう」


「そ、そうね。こいつら、村を封鎖してたんだと思う。けど、ホントに大丈夫?」


 先を急ぎながらも、彼女はオレの事を奇妙なほど気遣っていた。

 この時彼女は、オレの様子に何かを感じ取っていたのだろう。けどこの時は、人を殺したという感覚はほとんどなかった。

 理解が追いついていなかったんだと思う。


 そして村に入るまでに、村から逃げてきた何名かの村人に遭遇した。

 村人はオレたちの姿に一瞬ひるんだけど、彼女の神官の法衣のおかげで誤解されることもなかった。

 そしてごく簡単に村の様子を聞いて、村人達をそのまま逃がしオレたちは先を急ぐ。


 さらに進むと村の入り口には木製の門があるが、半ば破壊されていた。その先に何件が燃え始めている家屋と逃げ惑う村人たちがいた。

 そして悪鬼のごとく村人を追いかけ捕らえ、そして斬り伏せる野蛮な男たちの姿も。


 俺の目には、もはやそいつらただのモンスターでしかなかった。


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