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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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049「退治完了」

 目を覚ますと地面に寝かされていた。強制退場させられたわけではない事が判り、まずはホッとする。


 だから少しの間、横になったまま空を見つめる。

 頭上はまだ薄暗く、ちょうど夜が明け始めた頃ぐらいだ。体を少し動かしてみたが、特に問題はなさそうだった。

 そしてゆっくりと体を起こして周囲を見渡す。


(今日の戦いは頼まれた魔物退治だから、ゲームだとクエスト達成って事になるのかな……)


 ぼーっと座り込みながら、その日最初に思ったのはそんな事だった。

 ちゃんと『アナザー・スカイ』で目覚められるかを心配していたオレにとって、戦闘後の廃村の風景は少しばかり自己嫌悪を誘わせた。

 だからつい現実逃避思考になる。


「やっぱ、しょーもねーなあ、オレ」


 そしてその独り言のすぐあと、後ろからハルカさんの気配がした。


「……おはよう。よく眠れた」


「多分。けど、こっちの体はどうだろ、2、3時間しか寝てないよな?」


「ええ。けど、問題はなさそうね。それにしても、倒れた時は何事かと思ったわ。で、その様子だと、向こうで理由は分かったみたいね」


「ああ、強制睡眠みたいだな」


 オレの言葉に彼女が頷き、そして軽めだけど頭を下げる。サラサラと流れるブロンドが朝日の照り返しを受けて奇麗だ。


「ごめんなさい。私が気づくべきだったわ。戦闘の緊張が続いている間は大丈夫と思い込んでた」


「謝ることじゃないだろ。それよりハルカさんは睡眠大丈夫?」


「私はまだ猶予ありよ。あれから2時間半しか経ってないし」


 その言葉に改めて周囲を見渡してみると、ちょうど大掛かりな鎮魂の祈りが終わったところのようだ。

 廃村の広場では、隣村の有志が片付けを始めている。


 彼女はぺたりと自虐状態のオレの側に横並びで座る。

 彼女が座るのを見ていたオレは、そのまま彼女の横顔を見続ける。穏やかさを取り戻した彼女の顔に少し救われる思いがした。


「なにガン見してるの? 何かついてる?」


「むしろ何か憑き物が落ちたみたいに思える」


「えっ、そう? 魔力吸いすぎた影響残ってたかしら? それより、本当に倒れたことは気にしないでね」


 向こうから軽くオレの顔を覗き込んでくる。かなりの近距離なので、少しドキリとしそうだ。


「あ、ああ。気にしてないけど何で?」


「だって、起き抜け一番にしょーもないとか言って凹んでるし」


「いや、実際オレはしょーもない奴だよ」


 彼女がオレの方に視線だけじゃなくて顔ごと向く。

 眼差しも真剣さを増していた。


「どうして? 立派だと思うわよ。あれだけの亡者の群れに怯まない人、すごく久しぶり」


「ハルカさんに付いていくのに必死だっただけだよ」


「そう、ありがとう。けど、しょうもなくないわよ。と言うか、しょーもないって関西の方言でしょ。自分の名前とかけたオヤジギャグじゃないわよね」


「ウワッ、違うって。マジしょーもないんだよ、オレは。こっちに来て2週間、毎日のようにろくでもない状況見てきてるのに、まだ『夢』とかゲームとか頭の片隅で思ってるんだぞ」


「仕方ないって言うか、こっちで寝たら現実に戻るから、そう思うのもある意味健全だと思うわよ。逆に、ヘタに背負い込んでメンタルやられる人もいるし」


 彼女の大人びた言葉は、ちょっと達観しすぎと思えた。だから、思ったままを口にした。


「そうなんだ。けど、ハルカさんはどうなんだ。オレなんかよりずっとこっちの世界に対して真剣に思えるけど」


「さあ、どうかしら。私入れ込みやすいのかもね。……それより、お祈りも終わったし帰りましょ。私もそろそろ寝たいし」


 彼女のあえて明るい言葉に、「どっこらせ」とオレも立ち上がる。こういう時は気持ちの切り替えが肝心だ。


「オウ。ホラー映画だと、最後に一組のカップルだけが逃げのびて朝日をバックにラブシーンって感じだけど、村に戻ればちょうどいい感じに朝焼けだな」


「減らず口になったわね。リアルでもそうなの?」


「さあ、それは会ってからのお楽しみだろ。お互い」


「かもね。とにかく、戻りましょう。風呂とは言わないけど体をお湯で洗いたいわ」


 そう言うと、戦闘中にほどけていたブラウンブロンドの髪を手で軽くすく。

 まだ日は昇っていないのに、輝いて見えるような気がする。


「そういえばさハルカさんって、悪い意味じゃなくて妙に清潔だよな。けど、それほど身だしなみに時間かけている風でもないし、そもそも野外じゃ無理ゲーだろうし。それも魔法?」


「ええ。この指輪には、一種の清浄化の魔法が恒久的にかけられていて、体と身につけているものを一定程度清潔に保ってくれるの。汗も汚れも勝手に落ちるのよ、便利でしょ」


 そう言って、左手の中指の指輪を見せる。

 指輪自体は銀色で簡素な作りだけど、はめ込まれている高級そうな魔石が魔力の揺らめきを見せている。


「うわ、マジ便利。あっちでも欲しいくらい」


「アハハハっ、ホントね。けどね、体をきれいに保つのは、病気を防ぐためなの。巡回する神官の必須アイテム。だからこの魔法も、神々の魔法、治癒魔法の一つなの。

 今度大きな街に行ったらショウ君の分も買いましょう」


「そうだな。けど、そんな便利なアイテムあるなら、風呂いらないだろ」


「それとこれとは話しが別。中身が日本人としては、たまには熱い湯船にゆっくり浸かりたいわよ」


「なるほど、違いない」


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