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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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047「強制退場?(1)」

 目が醒めると、オレの部屋だった。


「う、うっそだろー。オレが何したんだよ!」


 起き抜けに思わず叫んでしまった。


 しかし『アナザー・スカイ』での事を反芻しつつ、冷静になるよう努める。そう、まずは冷静になること。

 そして冷静さを失わないこと。あっちで学ばされたことだ。


(いやいや、待て待て。考えろ。そう、情報収集)


 すぐにパソコンの電源を入れ、同時にスマホでも調べ始める。

 まずは強制退場の原因を情報収集だ。

 今まで調べてきた中で、幾つかそれらしい現象のことを書いたサイトは見つけてある。

 しかし今回のようなケースは見られない。


 次に、突然意識を失う場合を探す。すぐには該当するような事例は見つからない。

 そこで考え直す。


(ハルカさんがこっちを見て驚いていたのは、単にオレが倒れかけていたからかな?)


 そう思うと、違うのではと思えてくる。例えば、何かから奇襲を受けた、とか。

 近くにアンデッドが潜んでいて突然オレに襲いかかってきたとか、いかにも有りそうな話だ。


 もしそうなら、即死系の能力や魔法でない限り、向こうで気を失ったと考えるのが妥当だろう。しかし不思議と、何かにやられて死んだという感覚はなかった。


(正しい事してたんだから流石に強制退場という事はないよな)


 希望観測的にそう考えるが、それ以上の答えが出て来ない。


「何にせよ情報が足りないなあ」


 ついでに、オレのオツムも足りてない。

 というわけで、文芸部で相談しようと思ったがスマホのカレンダーにふと目が止まる。

 そう、今日は休日だった。


「うっわ、タイミング悪っ!」


 もう、普段はしない独り言の連続だ。それぐらい動揺していることが自覚できてしまうほどだ。

 けど、そこで思い出す。そう、何かあれば、いや何もなくても、一報を入れる相手がいることを。


「持つべきものは何とやら、だな」


 と、スマホのアプリを起動してSNSにメッセージを送信する。


『アナザーの事でエマージェンシー! 今日会いたいけど、何時からいける?』


 30秒ぐらいで返信があった。

 これはこれでちょっと引く。


『いつでもok! もちろん今すぐでも!!(絵文字付き)』


『今日1日で何か分かれば問題なし。じゃあ11時に自転車でオレんち近くの駅前に』


『了解!で、何?資料いる?』


 そう返してきたので、とりあえず簡単に状況報告。あとはタクミが準備してくれる。

 足りないオツムは、足せば何とかなるだろう。こういう時、1日の猶予が取れるのは有難い。


 『ダブル』の中には、向こうで困ったら強引にでも寝て、こっちで解決策を考えたり、知識を仕入れてきたりする人もいるらしいが、その考えに今大いに賛同したい。


 少し落ち着いたので、起き出してまずは何があったかを記録していく。二週間もしていると、もうかなり慣れたものだ。

 記録だけじゃなく、調べた資料やまとめた資料もかなり増えていた。


「何、必死になってるんだろうなー」


 そんなことをしつつも、現状が単なる明晰夢かもしれないと心のどこかで思うオレ自身もいる。

 しかしそれでも、向こうの彼女の事は信じたいと思うので、行動に起こすしことにした。


 予定よりかなり早めに、自転車で家を出る。

 早めに出たのは、タクミに会う前に町の図書館に寄って役に立ちそうな本がないか少し調べておこうと思ったから。

 本には、ネットやスマホにはない情報も、意外に転がっているものだ。


 そして、もうかなり暑くなってきている6月の休日の朝を自転車で飛ばし図書館に着くと、図書館の前で偶然知り合いに出会った。

 天沢だ。


「……おーっす」


「ひぁっ! あ、月待君」


 声を掛け合って、二人して固まってしまう。ついでになんか見つめ合ってしまう。完全に予期せぬ遭遇だ。

 復活が早かったのは天沢の方だ。


「お、おはよう。月待君も図書館?」


「お、おう。そのつもり。天沢も?」


「うん。週末に読もうと思って」


 確かに女の子らしい色合いのトートバックには、本もかなり詰まっている感じだ。対するこちらは手ぶら。

 これでは図書館に時間つぶしに来たとしか見えないだろう。

 そこで取り繕う意味で、事の経緯を簡単に説明する。


「じゃ、じゃあ私も話し聞いてもいい、かな?」


 話を聞くと、すごく興味深々な眼差し、しかも上目遣いで視線を注いでくる。これは断りたくても断れない。

 さらによく見ると、少し子どもっぽいが初夏らしい可愛い服を着ている。

 それ以前に、天沢の私服姿を見るのは初めてなので、ちょっと緊張してしまう。

 が、それはおくびにも出すわけにはいかない、と思う。


「いいのか? タクミがいるから昼飯挟んで長くなると思うけど」


「全然大丈夫。お昼は、家にはいらないって連絡しておくから」


 もうこれで決定だ。サムズアップするしかない。と言うかした。


「オーケー。じゃあ、お願いするよ」



「で、なんで天沢さんと一緒なんだ? ボクってお邪魔? なーんて言わないよ。むしろ、よく誘ってくれたよ」


 タクミはすでにテンション高めだ。ついでに、女子同伴でも本当に気にした風はない。

 そういや、こいつ彼女いたっけ? いないでこれなら、聖人君主並みのメンタルじゃないだろうか。まあ、聞いたりはしないけど。


「とりあえず、ファミレス行くか」


「ショウのおごりな」


「ドリンクバーだけな」


「天沢さんの分もな」


「りょーかい」


「わ、私、自分で出します」


 そういうわけで、自転車で幹線道路沿いのファミレスに移動。天沢も自転車で助かった。移動しながらも、二人に大まかに話していく。

 向かう店はタクミがバイトしている店で、タクミ以外にはちょっとしたクーポンが利用できるようにしてくれる事を知っての選択だ。


 そして店に入ると、とりあえずドリンクバーとフライドポテトを頼み話し始める。我ながら多少迷惑な客だと思うが、店内の席は十分空いているから気にしない事にする。

そんな事より、オレにとっての重大事を相談する事の方が重要だ。


「うーん、確かに色々考えられるなー」


「だろ」


「けど、ショウは何も悪いことしてないんだよなぁ」


「ああ。リアル生物災害を体感してただけだぞ」


「で、アンデッドに襲われた自覚もなし」


「うん。神官戦士の人の驚きも、危ないとかじゃない感じだった」


 二人ではラチが明かない。

 天沢は何か言いたそうだけど、言えないでいる感じだ。


「天沢は、何かひっかかる事とかないかな?」


「え、えーっと、『アナザー・スカイ』って一日置きというか一晩おきに、あっちとこっちを行き来するんだよね」


「そりゃ当然だろ」


 タクミの言うまでもないという言葉が飛び出すが、それで萎縮して話せなくなったらどうすんだよ。と思ったが、天沢は話を続ける気満々のようだ。


「ねえ月待君、昨日は徹夜でいいのかな?」


「どうだろ、夜明けはもう少し先だから完徹じゃないと思うけど」


「でも、多分徹夜が原因だよ。ホラこれ」


 天沢がスマホの画面を向けてくる。

 そこにはとある『アナザー・スカイ』の情報サイトの記事があった。


「えーっと何々」


 タクミが、お約束の枕言葉とともに先に目を通す。

 オレが先に目を通すべきなんじゃねとは思うけど、タクミの方が詳しいし好きにさせる。


「なるほど、そうか。あり得るね」


「でしょ」


「当事者に答えを教えてくれー。モヤモヤしてるのに〜」


「「強制睡眠だよ」」


 文句を言ってみると、二人にハモられた。


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