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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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045「アンデッド退治(5)」

「ハルカさん。あと何体だ!」


「さあ! 多分あと二、三割。けど、やっぱりやるわね!」


「そうか? なんだか自分じゃないみたいだ!」


「大丈夫、間違いなくショウ君そのものよ。私惚れちゃいそう!」


「惚れてくれて全然オーケーだぞ!」


「けど残念でした。私、一時の気の迷いとか吊り橋効果って嫌いなのよっ!」


 威勢のいい言葉を交わし合っているが、オレと彼女が背中合わせとなった周囲は、某生物災害のアミューズメントや、ホラーハウス真っ青な状況だ。


 相変わらず中天に輝く派手な二つの月光に照らされた夜の廃村で、二人の人間の周囲をかつて人間だったものの群れが取り囲んでいた。

 ようやく、多少はアンデッドの向こうの景色が見えるようになってきたところだ。


「ところでさ、何でスケルトンばっかなんだ? こういうのって、ゾンビがお約束だろっ!」


 素早く足を動かしてステップを踏み、まとめて二体を横凪の剣風で切り伏せながら、背中に向けて叫ぶ。

 見た目が骨なのに、薄く覆っている魔力の膜のせいで、妙に感触というか質感のある叩き具合だ。

 慣れてきたが、気持ちのいい感触じゃない。はっきり言って、吐き気をもよおす。


「せいっ!」


 反対側では、気合いの入った声とゴキンという音のすぐあとに、複数の何かが衝突する音が響いてくる。

 恐らくは、魔法で大きく強化した盾でスケルトンを激しく叩き、後ろにいた哀れな数体が巻き添えをくったのだろう。


 「ガラガラ」とか「ガッシャン」とか派手な音が後から追いかけてくる。

 戦いの最初の方で彼女が見せた、シールドアタックもしくはシールドバッシュという剣技の一つでだ。


 剣だけで攻撃しないのは、骨相手だから鈍器か鈍器に近いものが効果的だからだ。

 これがゲームだったら喝采の一つ贈っているいる事だろう。


「最初はゾンビだったのよ。ハリウッド映画と違って、こっちの世界のゾンビは完全な死人だから、すぐに腐って肉が落ちて骨だけになるの。

 けど、墓から出てくるのも多いから、最初から骨かミイラって場合も多いわね」


「なるほどね! けど、なんで骨格標本になっても動いてるんだよ!」


「さあ、だから亡者なんでしょ。せいっ!」


 また哀れなスケルトンの砕ける音がした。


 空を切る音からして、鋭い剣撃を浴びせたのだろう。こちらも負けじと、密集して襲いかからんとしていたスケルトンどもをまとめて蹴散らす。


 もとが戦闘訓練を受けていない人のなれの果てなので、一体一体はたいしたは事ない。けど、一度に100体以上の群れと戦っているので、最初に群れを目にした時は内心卒倒しそうになったほどだ。


 ・・・


 少し時間を戻すが、村はの住居のある地区は周囲から少し高い位置にあるのだけど、その村にはスケルトンとスケルトンになりかけているゾンビが群れていた。


 情報と違い、溢れた分より留まっていた分の方が多いようだ。しかも事前情報より数が増えているようだった。

 どうやら、村の墓地に埋葬されていた者たちのうち、スケルトンとして活動できる状態のやつが根こそぎ起き出していたようだ。


 見た目で堪えるのは、子どもサイズや幼児サイズのスケルトンが、かなりの数混ざっている事だ。こればかりは、流石に士気が萎えそうになる。

 また士気を削がれる相手として、時折腐った肉だらけのゾンビも見られた。しかも新鮮な亡者が混ざっているということは、犠牲者が増えつつある証拠だ。


 オレは、「村の外であれだけ倒したのに」くらいしか思わなかったが、彼女の表情やかなり厳しいものだった。


 そして廃墟となった村の中心にある広場が見える辺りまで進むと、新たなアンデッドの集団が詳しく確認出来るようになった。

 100体前後が群れており、その中心にはさっきと同じかそれ以上の魔力を有する半透明のアンデッドが漂っていた。


「ねえ、あの中心のやつに光の槍の魔法使うから、最低限の治癒以外期待しないでね。それも多分緊急時以外は、戦闘後に治すことになると思う」


「オレにも何となく分るよ。危険なヤツがいるんだろ。気にせずやってくれ。ゾンビ、スケルトンなら、魔法抜きでもなんとかなるだろ」


「ありがと」


 その言葉の後、すぐに精神集中に入り3つの魔法陣が次々に浮かび上がる。

 以前、矮鬼共に夜襲を受けた時に使っていた魔法だ。

 そしてその魔法に気づいた半透明のやつの命令で、アンデッドどもが一斉に動き出す。オレは彼女の少し前に出て、その先鋒を次々に斬り伏せ、たたき壊していく。


 そして10体ばかり破壊した後だろうか、オレの背後から何度か聞いた事のある言葉が、彼女の口から紡ぎ出されていく。


「高貴にして光輝なる神々の王よ、我が前の愚か者に裁きの鉄槌を下さん! 『光槍撃』!」


 前見た魔法とは少し違っていた。

 槍の数が8本と少なく、しかも全ての槍が1体を集中的に狙っていた。飛距離は100メートル近くあったと思うが、目標手前で四方から集中するので避けようがない。


 向こうが少し透けていた幽霊タイプの亡者は四方から魔法の槍に貫かれ、遠くからも聞こえる断末魔の叫びと共に消え去っていく。

 さらに、破壊力を余らせていた光の槍の何本かは、周囲にいたゾンビやスケルトンも何体か貫いていった。彼女の予測より、ボスキャラは弱かったのかもしれない。


 消えた後も念のため警戒したが、隠れていたり復活する事も無かった。


(最初にボスキャラ倒せるとか、ゲームだったらクレームものだろうな)


 なお、魔法を発動させる時、半ば景気付けの発動時の言葉だけで、相変わらず複雑な魔法言語のような詠唱はない。

 発した言葉も、魔法のイメージを明確にするために発するようなものだ。

 呪文を思考の中に浮かべることと同様にイメージできるも大切で、やはり何かを口にする方が良いそうだ。


 日本人の場合は、日本語以外にもジャパニーズ英語でもいいらしいが、いつの間にか現地語を翻訳した日本語のそれっぽい言葉が定着していた。

 ちなみに、アメリカ人『ダブル』の間では、妙なニンジュツ・ワードが流行っていると、まとめサイトなどに書かれていたりもする。


 それはともかく、彼女は魔法を放つと同時に、魔法の槍が飛翔していくのに合わせて自身も駆け出す。


 オレも慌てて続いたが、彼女が仏教の短い念仏を繰り返し小声で唱えているのには、流石にずっこけそうになった。

 とはいえ、別に怨霊退散やターンアンデッドの呪文ではない。彼女の弔おうという気持ちが、自然と口にさせたのかもしれない。

 しかも彼女の表情は真剣そのもので、横に並んだオレに懇願するような視線を送ってきた。さっきとは大違いだけど、これが本来の彼女なのだろう。


「そんな目されたら、男子は頑張るしかないだろ」


 オレの言葉に彼女が少し笑みを浮かべ、二人は亡者のただ中に躍り込んでいった。

 そうして数十分が経過したのが、今の状況だ。



 廃村のスケルトンは実質的に骨の身体だけで、他で出くわした奴らと同じく武器らしいものを持っているものもほとんどいない。

 持っていても壊れた農具や棒きれ、最強装備で鉈や手斧くらいだ。

 動きはこっちが格段に上だし、たいていは武器のリーチもこっちが有利だ。


 アンデッドの注意すべき点は、死と痛み、そして自身が破壊されるのを恐れない事だ。それと生への執着からか、人間を見付けると襲ってくる習性がある。

 さっきはそれを利用して一ヶ所に集めたが、廃村でも待っていれば向こうからノロノロと襲いかかってくる。


 しかし待っていては数に押しつぶされてしまうので、二人で移動を重ねながら各個撃破に専念する。二人というのはこういう場合かなり都合が良い。


 陣形を組んだり背後に回り込まれないようにしないといけない場合は全く別だけど、今回そう言った事はもう気にする必要はない。

 遠距離攻撃してくる可能性のある亡者は先に屠ってあるので、あとは半ば作業のようなものだ。


「なあ、アクセルさんが最初に言ってたけど、廃村から溢れ出した分を倒したら、しらばく大丈夫だったんじゃないのか?」


「ハッ! そうね。うまくいけば一週間くらい大丈夫かも。アクセルもそれくらいしか期待してなかっただろうし」


 会話ができるほど相手の動きは鈍く、話しながらもアンデッド退治は続く。


「いや、明日出直して、さっきの魔法でここのも一撃で葬れば楽だったんじゃと思えて。今更だけどっ!」


「確かに、今更ね。それにこっち置いといて、他の援護に回れたかもねっ!」


「けど、もうだいぶ倒したよな。っと」


「そうね。それにアクセルなら、私たちより早く終わらせていると思うわ。ハイっ、そっち行ったわよ!」


 彼女のステップで、ノロノロと数体がオレの前で標的となる。


「了解! アクセルさん、そんなに強いのか!」


「近隣一って言われるくらいの使い手よ。Aランクかそれ以上ね」


「こっちにも、そんなに強い人いるんだな」


「Aランクは流石に数えるほどだけど、それなりにいるわよ」


「じゃあ、その人たちに任せていいんじゃねえの、っと!」


「この辺りじゃ、私たちより稀少よ」


「じゃあ、続けるしかないか!」


「うん、頼むわねっ!」


 映画やテレビの中のゾンビは、死体ではなく病原菌などに冒されていて素早い動きの奴もいるけど、こいつらは人間以下の動きしかしない。

 肉の抜け落ちたスケルトンはノロノロとしか動けないし、ゾンビも腐敗が進みすぎると無茶な動きができなくなっているからだそうだ。


 そして戦い自体は、醜悪な姿と臭いに慣れてしまえば、後はどうって事なかった。

 それに彼女が言うように鎮魂や供養だと思えば、多少罪悪感も薄れる。


 さらにオレは、初対面で不甲斐ない面を見せた負い目のようなものがあるため、今までの魔物との戦い同様に、とにかく自分を鼓舞しつつ戦い続けた。


「終わったらさ、風呂に入りたいなッ!」


 さらに一体を、頭蓋骨を砕く形で粉砕した。頭蓋の中から何か乾いたものが飛び散ったように見えたが、何かは考えないことにした。

 背中で彼女も相手を叩きつぶしながら応える。


「いいわね。あっついお風呂。セイッ!」


「おお、混浴しようぜ! こっちって綺麗な水って貴重なんだろ」


「貴重っていうか、硬水だから毎日入ったら逆に大変よ!」


「そんな話もあったなっ!」


「そうよ。けど、この辺りだとサウナの方が普通かしら。ハッ!」


「それもいいなッ!」


 なんだかランナーズハイのような状態で、ほとんど作業のような骸骨の群れを叩き壊す戦闘が続く。

 けれど、オレと彼女とでは心の内は大きく違っている筈だ。


 オレは、自身を鼓舞するため無理矢理士気をあげよとして、彼女は内心はともかくオレに付き合ってくれているのだ。何しろ戦いでは、心が萎えてしまえば何も出来なくなってしまう。


 だから出来るだけ自身の士気を鼓舞しつつ戦い続けた。

 そして動く亡者がいなくなって、オレがようやく一息つこうとした時だった。

 彼女が戦闘体制を解くことなく、再び口を開いた。


「さあ次は、ゲーム大好きな人用のラスボスよ」


「えっ? まだいるのか?」


 そう言って見渡しても、それらしい亡者はいない。

 倒したアンデッドから漏れ出した澱んだ魔力が、周辺に満ちているだけだ。


「数が少ないと倒してお終いなんだけど、この数だと魔力が拡散する前に暴走を始めやすいのよ」


「さっきは無かったよな」


「そりゃあ、爆発で魔力も一気に拡散させたもの」


「で、今回は、拡散してないから次があるのか」


「そうよ」


 そう言いつつ、彼女は次の魔法の準備をしている。

 間違いなく攻撃魔法。恐らく『光槍』の魔法。つまり強い攻撃力が必要な魔物なりアンデッドが出現すると言うことだ。

 だからオレも、周囲の警戒を強めて次の戦いに備える。


 そして彼女の言った通り、澱んだ魔力の中心辺りの地面で、魔力が集まって蛇か軟体動物のようにうごめき始める。


「あれはなんだ?」


「もう、亡者じゃないわ。触手みたいなものを含めて全部魔力が暴走してるだけ。けど、魔力のある存在を取り込んで自分のものにしようとするから、捕まると取り込まれるわ」


「えっ? じゃあどうすれば?」


「いい、私の魔法と同時に斬り込んで。そして動くものがなくなるまで斬りつづけて。ショウ君の剣は魔法金属製だから、切り刻めるわ」


「それだけでいいんだな」


「ええ、魔法のあとは私も加わるから。何も考えずにやって。私達なら、このくらいの規模はどうって事ないわ。自分の力を信じて!」


「オーライ! そろそろ来そうだぞ!」


「ええっ! 行け『光槍撃』!」


 彼女の魔法と同時に、実質第3ラウンドが始まる。

 しかし見た目のグロさと大きさに比べると、確かに十分対処できた。手数が多くて図体が大きいだけで、1発1発は大した事がない。

 見た目はアメーバーとかスライムが触手で攻撃してくるのだけど、戦闘力的にはゾンビなどが一体化したようなイメージだ。

 そして1分もしないうちに、その戦闘もケリがついた。


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