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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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040「亡者との遭遇」

 オクシデントと呼ばれるなんちゃって中世ヨーロッパは、旅をしていても相変わらず道中人と出会う事はほとんどない。

 この辺りには『ダブル』も少なく、オレと彼女以外の『ダブル』もあれっきりだ。


 ここ数日は気候もよく、日差しや柔らかく風も軽やかだった。

 そう、過去形だった。


「前の方に何かいないか?」


「おっ、鋭くなってきたのかしら」


「という事は、ハルカさんはもっと前から気づいてた?」


「ううん。ほぼ同じ。けど、魔物じゃないわね」


 二人して意識を対象方向に集中すると同時に、周囲を油断無く警戒する。


 少し先には、うっそうとした原生林が街道そばまで迫ってきている。人の手が入っていないので光が届きにくい密生具合で、いわゆる「黒い森」というやつだ。

 いかにも何かいそうな感じだ。

 すると彼女が、いやーな感じの声を出す。


「あーっ、分かった」


「何? 聞きたくない気もするし、避けられるなら避けたい気もする」


「できれば私もだけど、これは避けられないわね」


「避けられないって、神殿がらみで?」


「ええ。彷徨える魂ってやつね」


「アンデッドかー」


 ついに来ましたアンデッド。

 ゲームなどのファンタジー世界では定番モンスターのカテゴリーだけど、『ダブル』からは嫌われている。

 奪取系の能力で魔力を吸ってきたり、魔力のない攻撃が通じないやつがいたりと、Cランク以上のモンスターに分類されると厄介さを増す。


 だけどそれ以上に、生き物が持つ潜在的な恐怖感を呼び起こすので、メンタルダメージがでかいからだ。

 アメリカ人『ダブル』でも、娯楽物ではゾンビ大好きなくせに、いざとなると弱腰どころか腰が砕けていると噂されている。

 しかし、彼女が行くと言っている以上、オレも怖気付くわけにはいかない。


「じゃ、まずは森のそばまで近づいてみるか?」


「お、従者殿はなかなかに積極的ですなー」


「前に出るのは従者の務めでございますからなー」


「じゃ、偵察よろしく。ここで馬の番してるわ」


「え?」


 思わず彼女の顔を見てしまうが、すました風だ。

 演技か本気か分かりにくい。


「り、了解。援護よろしく」


「え? 本当に一人で行くの。止めときなさい。私が行くわ。ビギナーには無理だから」


 慌てた彼女が、先に進みだしたオレに並ぶ。

 けど、オレも本気だ。そろそろ彼女の前に立てるようになりたいと思っているのだ。


「いや、行くよ。相手は大きな集団でもなさそうだし」


「止めなさいって。そう言って回れ右してきた人は、何人も見てきたわ」


「ハルカさんは平気なの?」


「慣れた。というか、慣れないと神官の戦士職はやってられないわよ」


 即答だけど、口調が少し硬い。仕方なく慣れたってところなのだろう。


「そう言えば、治癒職イコール神官のイメージだけど、神官はアンデッド退治もあるから尚のこと治癒職少ないって情報もあったけど、マジ?」


「マジマジ。神官や治癒職イコール可憐な可愛い女子とか、勝手なイメージする野郎やオタクが多いけど、ゾンビとか襲ってきたら女子は普通泣くか逃げるわよ」


「確かに。映画やゲームでも一瞬ビビるもんな」


「それが五感ありありのヴァーチャルよ。まあ、あり得ない速度で走ってくる、みたいな元気なゾンビは見たことないけど」


 そう言いながら、彼女が馬上でゾンビのように手を伸ばしている。

 仕草が無駄にかわいい。


「それなら大丈夫だろ。心配なら後ろから見ててくれ。ハルカさんの目があれば、それがオレを押しとどめてくれるから」


「何それ? 私の方が怖いって事?」


 一瞬で表情が変わる。ジト目でちょっと目力が強い。


「違う違う。女の子が後ろから見てて、逃げ出す男の子はいないだろ。そういう事」


「それ、ダメなパターンよ。似たような事言ったヤツに限ってヘタレだったわ」


 次はダメなヤツを見る蔑んだ目だ。

 ご褒美です。ありがとうございます。と言うわけにもいかないし、逃げる気もない。

 それに話しているうちに、もう森の際まで近づいてた。


「大丈夫だって。魔物や猛獣にもビビらなくなったし、無様は晒さないって。それにオレがアンデッド慣れといた方がハルカさんも今後楽になるだろ」


「確かに慣れてもらえれば助かるけど。ダメならすぐに言いなさいよ」


「仰せのままに。じゃ、行ってくるから馬を見といて。それで、アンデッド見つけたら合図送るよ。で、ダメそうなら一目散で逃げるから」


「最初から逃げる前提で話さない! さっさと行ってきなさい!」


「了解!(たまに命令口調になるよなー。こっが地じゃなきゃいいけど)」


 彼女の声に励まされ(?)つつ、そこで馬を降りて森の中へと足早に入っていく。


 原生林の森の中は、5メートルも進むと光がほとんど入らず、夜とは言わないが夕方くらいの暗さだ。

 この暗さだから、アンデッドも昼間に活動しているんだろうか。


 魔力による探知と最近できるようになってきた気配を感じる感覚を頼りに、目的の相手へと向かう。

 向こうも、こっちを察知したのか向かってくるのが分かる。


(数は……5、6体ってところかな)


 森の中へ2、30メートル奥へと進んだけれど、すでに街道の方はほとんど見えない。


 彼女はこっちの気配を追ってくれているので問題ないだろうけど、徐々に不安になってくる。まさにホラー映画の登場人物たちの気分だ。

 そう思った時「カラン」や「カシャン」という乾いた感じの音がした。そして予想に違わず、白くて細いヤツらが姿を見せ始める。


「スケルトンか。思ったほど気持ち悪くないな」


 自身の士気を鼓舞するためつぶやく。

 そしてこれなら合図送るまでもないと考え、一気に数体いるうちの右端へと飛ぶ様に接近する。


 多数を相手にするのなら、常にイニシアチブを取って、可能な限り1対1の状況を局所的に作るのがセオリーだ。

 そして相手は、鈍く単調な動きしかしないスケルトンだ。


 完全なガイコツではなく、所々にミイラ的な干涸びた肉片や皮、頭髪の一部が残っている。服の一部もそのままという個体もいる。ただし武器らしきものは持っていない。

 服の一部から、貧しい階層の人の成れの果てのように見える。


 こういう見た目でのリアルさは、魔物と違ってゲームではなく現実というものを嫌でも突きつけてくる。

 しかし容赦する気もない。


 「ガキッ!」「バキッ!」などという乾いた音とともに、オレの一振りごとにスケルトンがバラバラになっていく。


 スケルトン相手だと剣はあまり有利な武器ではないが、オレの剣は大ぶりで物理的な破壊力も十分にあるので、下手な鈍器以上の破壊力を発揮している。

 頭蓋骨が砕け、肋骨が破砕され、背骨や腕、足がバラバラになっていく。


 相手は掴み掛かってきたり体当たりまでしてきたが、スローモーでまるで話にならない。難なく避けて次々に倒していく。

 ただ、砕く時の感覚が地味に気持ち悪い。


 そしてすべてのスケルトンを倒すと、さらに周囲を警戒する。けどそれ以上、スケルトンなどアンデッドの気配は感じられなかった。他の魔物もいない。

 スケルトンの気配に怯えてか、森に住む普通の動物たちの気配もない。


 オレは一度深呼吸すると、剣を払って鞘へと納める。

 一見冷静に見えたかもしれないが、心臓の方はバクバクだ。アンデッドが「心にくる」ってのがマジなのを思い知らされる。


「やるーっ!」


 そこに、後ろから彼女が歓声をあげながら駆け寄ってくる。

 

「すごいわショウ君。スケルトンとはいえ、初アンデッドでこれだけできれば大したものよ!」


 かなり嬉しそうな声で、ちょっと興奮気味だ。おそらく戦闘音がしたから、慌てて駆けつけてくれたのだろう。

 心配させないためにも、強気を表に出す。


「スケルトンなんて、ゲームじゃ雑魚中の雑魚だろ。楽勝さ」


「すごいとは思うけど、『なんて』って言わないで」


 アレ? いきなり少し不機嫌になった。女の子はよく分からない。

 が、分かっていないのはオレの方だった。


「このスケルトンだって、元は人だったのよ」


「そうなのか? 魔物みたいに湧くんじゃないんだ」


「そうよ。魔力が悪い形で影響しているのは同じだけど、墓地からはい出してきたりするから、人の成れの果てに間違いはないわ。……けど、複数ってのは気になるわね」


「近くに墓地があるとか、滅びた集落があるとか?」


「鋭いわね。予習してきた? 多分、正解。この様子だと墓地から出現じゃないわね。この森で集団で偶然合流したとかじゃない限り、この近くにある廃村から生き物、特に人間を求めて彷徨い出て来たんだと思う」


「じゃあ、探して原因突き止めた方がいいってことか」


「また正解。けど情報が少なすぎるから、次の村で聞いてみましょ。さっきの標識だと、多分もう直ぐだし」


「リョーカイ。けど、次の村が発生源とかだったらどうする?」


 オレの言葉に彼女が少し考え込む。そして恐らく村の方を凝視する。魔力か気配形を感じ取ろうとしているようだ。


「大丈夫……と思う。そういうのは多少離れていても気配で分かるから」


「そりゃ何より。じゃあ次の村をベースにできそうだな」


「そうね。じゃあ供養してから、村に行ってみましょう」


 どうやら次は、本格的なアンデッド退治のような。

 いや、この世界での場合は退治ではなく、供養とかになるのかな。

 ハルカさんの真剣な言葉と表情から、そんな事を思った。


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