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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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038「チュートリアルの終わり(2)」

「と、ともかく、あっちでの事は週末の間も奴に一報入れることになった。天沢にもしようか?」


「え? いいの?」


 意外と言いたげな表情をオレに向けてくる。

 こういう不意打ちに成功した時の天沢の表情は、目を大きく開いている事が多いので可愛く見える。


「全然。というか、こっちから招待したのにロクにメッセとかしてないしな」


「だ、大丈夫。私もどんどん話するの苦手だから」


「オレもSNSで話すのも苦手だな」


「連絡くらいなら、まだいいんだけどね」


「離れててもずっと話あってるって、なんだかせっかちだよなー。あっちに行くようなって、余計そう思うようになったよ」


「あ、なんか分かる」


 こういう時の天沢は、向こうの住人でもあるように思える。

 けど、もしそうだとしても、当人が言わない限り触れないのが『アナザー・スカイ』関係者の不文律だ。

 オレみたいな間抜けじゃない限り、妄想や変人扱いされやすいので触れない方がいい。


 結局、天沢の言葉に変な突っ込みを入れる事もなく、ありきたりな会話をして分かれた。

 ちょっと週末に誘ってみようかと思わなくもなかったが、親しくなり始めてまだ一週間も経っていないので流石に厚かましいと思った。


 それに天沢と必要以上に仲良くなるのは、向こう側では四六時中一緒に、しかもすぐ側にいるハルカさんの事を思うと、何だか浮気でもしている気持ちになってくるというのもあった。

 もちろんオレの自惚れに過ぎないのは十分に分かっているが、それくらい思ってもバチは当たらないだろう。


 もっとも、帰ると容赦ない家族の声が待っていた。

 言うまでもないが、最もキツいのは我が妹の悠里だ。


「なんか、今週毎日ニヤけてない? ちょーキモイんですけど。受験勉強の邪魔ー」


「オレが何しようが、お前の受験勉強に関係ないだろ。部屋で勉強してろよ」


「はあ? オマエこそ邪魔にならないよう部屋でニヤついてろ。このオタク!」


 去年くらいまでは、まだ多少のかわいげも残ってたが、もはやオレの天敵だ。

 「お兄様」とか呼ばれても逆にキモイが、オマエ呼ばわりはさすがに口の悪さにも限度があるだろと思う。


 もっとも、マイマザーの方がよほど手強く、不意にキッチンからお声が飛んできたりする。


「翔太にも、やっと春が来たんでしょ。そっとしといてあげたら」


「はあ? このオタクに彼女とかマジあり得ないんですけど。キモイだけだし」


 こういう時、決まってオーバーリアクション気味に煽ってくる。


「キモイ、キモイ、うるさいんだよ。それにもっと言葉遣い気を付けとけよ。入試の面接とかで地が出るぞ」


「うるさい、オタク。知った風な口きくな」


「せっかく教えてやってるのに」


「『教えてやってる』って上から目線な時点でキモイんだよ」


 確かにそうかも。と、不意に思えた。


「そう、かもな。けど、マジ気をつけろ。泣くのはオマエだからな」


 突然真面目なオレに、妹は怪訝な視線を向けるだけだった。

 オレとしては、ここ数日の向こうでの毎日がああ言わせたに過ぎない。そう、経験者からの言葉を大切にしないと、碌な事にはならないのだ。


 そんな事もあったので、今日は少し神妙な気持ちで寝入ることになった。




 翌日、『夢』の向こうで起きるとすぐ、二人で突然意識を失った『ダブル』を寝かしている部屋に向かった。

 その『ダブル』はもう起きていて、こちらからの呼びかけに機械的に返しはするが、ほとんどボーっと前を見つめるだけだった。

 瞳はガラス玉のようで光はない。


「目覚めなかったな」


「当然の結果、だけどね」


 二人して、少し気が抜けた様に抜け殻の体を見つめる。


「そうか。けど、あいつもあっちじゃ普通の人なんだろうな」


「でしょうね。今頃悪い夢でも見たと思ってるんじゃないかしら」


「そうかもな。……オレ、ハルカさんに拾われて、いや出会えてよかったよ」


「何、藪から棒に? 恋の告白? 正直キモイわよ」


 言葉とは違って、口調と表情は冗談だと伝えている。

 言いたいことはすでに伝わっていたのだろうが、それでも言葉を続けた。


「違うって。もし初戦で即ドロップアウトじゃなかったら、こいつみたいになっていたかもしれないと思ったんだ」


「そう。けど、ショウ君の性格からして、大丈夫と思えるけど?」


「高評価サンキュー。けど、右も左も分からないと、どうなるか分からないだろ。なまじ強い力も持ってるし」


「かもね。『ダブル』の小悪党も時々いるって言うしね」


 その言葉に、ちょっと引っかかるものがるように思えた。

 だからそのまま次の言葉が出てしまった。


「そうなんだ。こういうのは今までにもあったのか?」


「『ダブル』の強制退場? それとも私が人に襲われた事?」


「そう聞き返されるとは思わなかった。聞いたつもりだったのは強制退場の事だけど、女の子が一人で巡回なんてしてたら襲われそうだよな」


「普通、余程人の道を踏み外さない限り、こっちの人は神官を襲わないわ」


 そこで彼女は、少し寂しそうに笑う。襲うバカはいるって事だ。


「なんとも酷い世の中だな」


「けど、襲われたのは数えるほど。全部返り討ちにしてるし。けど、『ダブル』にここまで真っ正面から襲われたのは初めて。向こうは私を現地人と思ってたみたいだけど。正直、ちょっとショック」


 その声も表情も、精神的に疲れた風だ。

 ここはオレが男の子としては、と思わざるを得ないと思わせる声と表情だった。


「じゃ、そのケアはオレの役目ってことでオーケー?」


「どうかしら。けど、期待していいの?」


「ま、まあ、応えられたらとは思ってるよ」


 やっぱり情けないオレの返答に好意的に苦笑する彼女だけど、オレへの視線が初日に見せた庇護する目から少しは変わっているように思うのは、自惚れだろうか。

 だからもう一度気を取り直す。


「それで神官様、頼りない従者へのオーダーは?」


「何度か言ったけど、フォロー・ミーよ」


「お安い御用だ。どこまでも付いてくぜ」


(それに、いつかハルカさんを引っ張って行けるくらいになりたいけどな)


 その思いは言葉には出さなかったが、彼女の表情はそれすら見透かして好意的なように思えたのは、出来うるならオレの思い違いでない事を願うばかりだ。


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