036「悪行の末路(2)」
その後、盗賊たちを連行して次の村へと入る。意識を失った『ダブル』は、馬の背に乗せてある。すごい光景を見たせいか、盗賊たちはその後ずっと従順だった。
当然村では大騒ぎだけど、昨日村で盗みを働いた盗賊団を捕えたという事と神官の一行という事も重なって、最初の村以上の歓待を受けた。
捕まえた盗賊たちは村人たちに引き渡し、俺たちは請われる形でこの村の村長宅にお世話になる事となった。
なお、盗賊たちがこの近くの潜伏先を素直に白状したので、村人たちが大挙して向かっていった。話を聞くと、村では怪我をした者もいたし、さらわれている女性もいた。
そこで手伝いを申し出ようとしたが、彼女に手で制されてしまった。
オレが見ない方が良いという事だ。
なお、今度の村は、最初に寄った村より豊かだった。
今までの道より少しましな街道沿いにあり、村の規模自体も前の村よりかなり大きかった。村の周辺の農地の広さや家畜の多さも違っていた。
それでも村には宿屋も商店もないが、神殿の規模は少し大きく魔法は使えないが常駐の者がいて、旅人に滞在場所も提供していた。
そしてオレにとって有り難いことに、そこにちょうど行商人が滞在していた。
道具や雑貨などを馬車に乗せて売り歩く商人で、多くが村で必要な雑貨類を販売していた。それでも、厚手のマントや毛布、旅でも使える生活雑貨など、足りていないオレ用の旅行装備のかなりを買い揃える事ができた。
そして何より、初めてまともにこの世界で売買、お金を使うということも体験できた。
銀貨1枚でもかなりの買い物ができるのは、オレにはけっこう意外だった。
ただ、貨幣については単純に十進法で価値が上がって行くわけではないので、一度には覚えきれそうになかった。
貨幣単位も一見『銀貨』や『銀』と聞こえたが、「ドル」や「円」のように各地で単位は違うものらしい。
そうした状況は、異世界よりも単に外国に来たって感じしかしないのは、この世界に慣れてきたせいなのかもしれない。
そしてその夜。村長らとの夕食後、前の村より少し立派な客間にやはり二人一緒に案内された。けど、これでようやく二人きりになれた。
「今日はマジごめん。いや、本当にごめんなさい」
まずは90度で頭を下げる。まったく不甲斐ない従者だ。
「ショウ君は悪くないわよ。私もあんなに簡単にロープがちぎられるとは思わなかったもの。『ダブル』でも簡単には引きちぎれない筈だから、あの小さな短剣で切ってたんでしょうね」
「じゃあやっぱり、武器を確認しなかったオレのミスだ」
「だからもういいって。あの魔法の短剣、隠し持つ為の幻術が施せるものだったもの」
「それでも、よくないよ。あの武器がハルカさんの防御魔法を簡単に突破する武器だったら、大変なことになってたし」
「うーん、あれは高圧的になった私も悪いから、これについてはお相こってことで手を打ちましょう」
「……ハルカさんがそう言うのなら。じゃあ、あいつが気を失った理由分かる?」
そしてうなづいた彼女が、淡々と語り始めた。
「知っていると思うけど、『ダブル』にはこの世界が嫌で離脱する人も多いけど、中には強制離脱させられる人もいるのよ」
「あれがそうなのか」
「ええ。あそこまで極端な例は少ないけど、ある程度の階位の神官に手にかけたらダメなのは、今までの情報から確かだったの。
私が最初に神官なろうとしたのも、『ダブル』の沢山いる場所での、まあ自警団や風紀委員みたいなものをしようかと思ったからなの。治癒職でも神官じゃない人も多いからね」
「へー、やっぱりハルカさん真面目キャラだったんだ。あ、ごめん脱線だな。えーっとつまり、この世界の権力に楯突くとオレたちを召還した何かしらから排除されるってこと?」
オレの真面目キャラ発言に少し反応し、ご機嫌斜めな表情を浮かべたハルカさんだったが、それも一瞬で真剣な表情にもどった。
「権力じゃないわね。貴族どころか王様殺した例もあるけど、別に平気だったみたいだから。けど、神官系はけっこうダメみたい」
「じゃあ、この世界にオレたちを喚んだのは、この世界の神様ってことなのかな」
「その可能性はあるわね。神々か、その辺が関わっているって説はけっこう強いわね。
私たちが『ダブル』として召喚される理由も、この世界の人たちの説だと神々が魔物と戦わせるためだし」
「排除される理由はそれだけか?」
そう聞くと彼女はおとがいに指をあてる。
彼女が何かを考える時の仕草だ。
「人の道から外れすぎた行いもダメみたいね。あの人の場合、色々悪事を働いてて積もり積もったから、即退場だったのかもしれないし」
「人の道って、ちょっと曖昧だな」
「人道に悖る行為って言っても、戦争はオーケー。けど、無意味な虐殺や破壊はアウト。行き過ぎた殺人、傷害、放火、拷問、強姦もアウト。未遂でもアウトの場合があったらしいわ。
逆に、陰謀、暗殺は意外に大丈夫みたい。今言った事につながらないなら、嘘や詐欺も問題ないらしいわ」
「じゃあ、異世界ファンタジーお約束の奴隷売買は? オレたちからしたらアウトだろ」
「問題ないわ。こっちの世界だと奴隷は割と普通のことだから。ノヴァなんて、世界中から大量に買い付けて解放した上で、市民にしていってるくらいだし。けど、虐待しすぎたらダメみたいね」
「じゃあ、奴隷ハーレムはアリなんだ」
「作りたいの、奴隷ハーレム?」
彼女が蔑むような目をしている。
内心、ご褒美ですと言いたいところだけど、さすがこの目は怖い。目力が強すぎ。
「ノーノー。場を和ますネタで言っているだけだよ。オレにそんな度胸ないし」
「ショウ君ならそうでしょうね」
「それ、なんか褒めてない気がする。それで、末路はあのパターンだけじゃないんだな」
話がオレにとって不利になりそうなので、慌てて軌道修正だ。
彼女も奴隷云々を本気で取り合う気はない。
「ええ。アウトになった日に寝たらそれっきり、というのがよく聞くパターンね。その場で即退場ってのは噂だけで初めて見たわ」
「じゃあ、神官殺しは即レッドカードて事か」
「そこまでじゃない筈なんだけどね。今回の場合、未遂だったわけだし。多分だけど、彼は今までに色々とやらかしてきたんでしょ。この村でも盗みをしてたし、アウトな事口走ってたし」
「なるほど、そうか。……そういえば、こっちで目覚めなくなった体はどうなるんだ?」
「二度とこちらで意識は覚醒しないわね。それでも体は普通に寝起きするけど、魂が抜けたみたいになるの」
「じゃあ、あの体は?」
「世話をしても数日で食事もしなくなって、1週間ほどで体は死んじゃうの。事情を伏せて、病気だと説明して葬ることになるわね」
「そっか」
うーん、会話がどうしても重くなってしまう。
少しは明るい方向に持っていけないか無い知恵をしぼってみて、ふと思いついた事に突き当たった。
「……じゃ、じゃあさ、逆のパターンとかあるのかな?」
「逆?」
彼女が目を大きく見開いてオレをガン見する。表情もすごく真剣だ。
(そんなに変なこと言ったかな?)
「そう逆。と言っても、向こうで悪人を排除する神様なんていないよな。じゃあ、アニメやラノベとかにある、完全な異世界転生みたいなパターンは聞いた事ある?」
「そもそも、あっちで寝ないとこっちには来られないんだから、無理に決まってるでしょ」
今度は呆れ気味だけど、深刻な話よりはいい。
「やっぱ無理か。あ、けど、寝ててこっちに来ている間に、あっちの体が病気とか事故とか災害とかで死んだらいけそうじゃん。夜中熱中症で死んだりとか……」
「不謹慎!」
怒られてしまった。ま、そんな事あるわけないよな。
けど、暗い話のまま眠りにつくよりは良かった。





