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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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034「街道の野盗(2)」

 話しながら取りあえず馬にはゆっくり歩かせていたが、距離は気がついてから半分近くまで近づいていた。

 相手側の動きは無い。全く動かないという事は警戒するべきだろうか。

 しかも、道が森を陰にして曲がっているのが見えてきた。


 魔力持ちは一人もしくは一体。矮鬼などの魔物じゃないことは、オレにも何となく分かった。

 しかも敵意とは言わないまでも、警戒を要する気配が感じられた。魔力の波動というかそんな感じのものが、緊張感のようなものを伝えているからだ。


「オレたち襲うなら、道を曲がった直後かな?」


「こっちが気づいてなければ、不意打ちしやすそうね」


「で、そろそろ決断の時間って感じだけど、襲ってきたら返り討ちにするか?」


 少し身を乗り出して聞いてみる。

 馬の上にタンデムなので、近づきすぎないのがポイントだ。

 そしてオレが首を伸ばした右側に、彼女も顔を少しだけ向けてきてくれた。

 かなり近い距離だけど、彼女は気にした風ではない。


「馬で一気に駆け抜けるのが楽ね。防護魔法で馬共々防御してしまえば、普通の武器なら問題なく突破できるわよ」


「道にロープ張ったりしてたらどうするんだよ」


「その線は考えてなかったわ。けど、この子ならそのくらいの罠は飛び越えてくれるわよ」


「優秀なんだな」


「賢い子だし、神殿で戦闘訓練も受けてるからね」


 そう言って馬の首元を撫でる。


「じゃあ、襲ってきたら強引に突破するか?」


「治安維持はこの国の役目だけど、個人的には見過ごしたくないわね」


「じゃ、やっちまうか!」


 軽いノリのまま勢いよく答えると、意外に真剣な視線を向けてくる。


「場合によっては、人と戦って殺すことになるかもしれないのよ。覚悟もなしに、軽々しいこと言わないの」


「戦闘になったら、峰打ちとかで気絶させればいいだろ」


「言うほど簡単じゃないわよ。下手したらそのまま殺しちゃうし」


「なんかオレたちが怪力ゴリラみたいな言い方だな」


「女子にゴリラはないでしょ。魔力のない人との腕力差は、それこそ人と化け物くらい違うわよ。それにショウ君、気絶のさせ方も手加減の仕方も知らないでしょ」


 それに答えようとしたところで、馬の足元近くに3本の矢が突き刺さった。

 弓なりじゃなくてまっすぐ飛んできてたので距離は近い。せいぜい数十メートルだ。


 それを合図に、彼女は全員を対象にした『防殻』という防護魔法を構築する。短い集中だけど、すぐに二つの魔法陣が出現して発動する。

 今構築した防護魔法は長年の研究で簡単に唱えられるように改良されていて、この世界の魔法職の必須魔法になっている。


 そして防護魔法を構築した彼女が振り向き答える。


「選ばせてあげる。突破、撃退、どっち?」


「捕まえるんだろ。オレもいざって時の覚悟は決めた」


「オーケー。じゃ、手綱持ってて」


 一応馬を止めて手綱を渡すと、自身は魔法の準備を始める。

 その間、弓矢が何本か飛んでくるが、普通の弓矢では彼女の魔法の防壁を突破できない。「キンっ!」「ガキンっ!」と音を立てて弾かれていく。


 そして「逃げないみたいね」と、彼女が一言呟くと魔法陣が二つ出現する。

 しかし魔法はすぐには発動しない。別に小さな魔法陣が一つ浮かび、それが遅延か待機の魔法なのだろう。

 魔法陣がどこか時計っぽい。


「警告します。今すぐ降参して出てきなさい。さもなくば、魔法の矢があなたがた全てを瞬時に射抜くでしょう。警告は一度しかしません。5つ数えます」


 カウントダウンの間も、矢が殺到し続ける。魔力のこもった矢はないし、大きな手投げ槍など危なそうな武器も飛んでこない。

 ついでに言えば、魔法も飛んでこない。魔力持ちの人ってのは、戦士タイプなのだろう。


「時間です。光の矢よ敵を貫け!」


 彼女の周りに出現した6本の光る矢が、敵を求めて軌跡を残しつつ敵に向けて殺到していく。矢を射かけてくる辺りへと向かうが、普通の矢より何倍も早い上にひとりでに軌道を変更していく。

 マジックミサイルもしくはホーミングアローだ。


 使い手の魔力や技量によって一度に放てる数は決まってくるが、6本というのは相当な使い手の証だ。

 魔法自体は手早く簡単に魔法が構築できる上に、消費魔力もリーズナブルだ。


 しかも最大威力だと使用者の魔力や能力に応じた威力や数になり、達人レベルの魔法使いが全力で使うと中型のドラゴンすら一撃で倒せるという。

 その上、使用者の意思で数や威力がある程度調整できる。

 ビギナーからベテランまで使う人気魔法だ。


「容赦ないな」


 思わずつぶいやいた言葉に、冷静な声が返ってくる。


「相手は、こっちを殺そうとしてきたんだから当然よ」


 そう言っている向こうでは、魔法の矢の命中によってそこかしこで悲鳴が上がる。どさっと何かが落ちる音もする。

 矢の軌道から、木の上から狙っていた者もいたようだ。

 それを見た彼女は、再び魔法の準備に入る。

 そして再び魔法陣が浮かび上がってきたところで叫び声がした。


「ま、待ってくれ、命だけは助けてくれ! 頼む!」


「全員、動けるものは、私たちの前に姿を現し、武装をしていない事を見せなさい。5つ数える間に出てこなければ、二度目を撃ちます」


 彼女が静かに言い切るくらいに、ガサガサと周辺の森や茂みの中から、複数の人間が姿を現わす。数はちょうど10人。うち6人が負傷している。

 オレは馬から降りる際に一声かける。


「手加減したんだな」


「当たり前でしょ。それより手早くしてね。攻撃魔法の待機はけっこう面倒だから」


 小声で返してきたが、まだ緊張を解いていないし魔法も発動手前を維持している。オレの方は馬を降りると剣を抜いて前に出る。

 相手の装備はまちまち。

 基本的に軽装で、あまり良い防具は身につけていない。見た感じ武器は捨てていて、腰の剣や短剣は鞘だけだ。弓を持っている者もいない。


「まずは両腕を上にあげて、両手を開いてオレに見せろ。そして両手を頭の後ろで組んで、そのままその場でうつぶせに寝ろ。少しでも変な動きをすれば、どうなるか分かっているな」


 アメリカの警察ドラマによくある感じの指示を出す。

 その言葉にほとんどの者が首を上下して従う。中にはすでに土下座モードで「神官様だとは思いませんでした」と、詫びを入れる者もいた。

 けど一人、指示に従わない者がいる。

 そして指示を出したオレを呆然と見ている。


「……なあ、お前も『ダブル』なのか?」


 その言葉に、オレはドキッとした。


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