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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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030「儀式魔法(2)」

 彼女が言い終わると、まずは背負われた老人や見るからに重病人が入ってくる。

 そして次々に、彼女が言ったものたちも入る。人が縦て3人並んで横になれるくらい、直径5メートル以上ある魔法陣だけど、そのほとんどが埋まった。

 村人全体の数から考えても、かなりの数だ。見た感じ、熱を出しているか風邪のような症状の者が少なくない。


 そうして村人達で一つ気付いた事は、出で立ちのみすぼらしさだ。

 着ている服は、裾が擦り切れてあちこちが継接ぎだらけ。

 小さな子供の一部は服のサイズが合っていないので、兄弟姉妹のお下がりだろう。

 服の色もバリエーションも乏しく、しかもくすんだ地味な色ばかりだ。加えて、あまり清潔ではない。


 髪の毛も、色は異世界ファンタジーらしく現実ではありえない色もいて多彩なのだけど、鮮やかな印象は受けない。

 体毛もしくは髪の色が現実世界より多彩なのは、魔力が影響しているというが、もっといい方向に影響与えればいいとすら思える。


 女性だと髪を櫛で梳いているが、少なくとも天使の輪が見える者はいない。

 肌も遠目で見てもガサガサな感じがするし、衣服や髪と同じようにあまり清潔には見えない。


 要するに、体をあまり洗わないのだろう。臭いもいいとは言い難い。

 しかしこれは異世界あるあるの一つで、体を洗う石鹸が普及していないせいらしい。髪を洗うシャンプーのようなものもない。

 これらは『ダブル』がもたらしたが、価格の問題で庶民への普及には程遠いそうだ。

 旅のオレたち、というか彼女の方がよほど物持ちだ。


 そんな中にハルカさんが立っていると、いつも以上にキラキラして見える。

 純白の法衣は魔法で純白が維持されるので、実際に朝日を浴びてキラキラしている。

 村人たちとの差は、『聖女と民の図』とでも題を付けたくなるくらいだ。


 ちなみに彼女が長く伸ばしている見事な髪も、魔法が使える者の証になるそうだ。

 何しろこの世界は、貴族でもない限り清潔に保つのが難しい。

 ましてや魔法抜きで美しく艶やかな長髪の維持には、かなりの資金と労力が必要とされる。旅路とあってはなおさらだ。


 美しく髪を伸ばすのは権力者か金持ち、そして一部の魔法や魔力の恩恵を受ける者に限られる。

 村人の目も、神官を示す上着(法衣)よりもキラキラと輝く髪に向いているように思える。


(まあ、それ以前にやはり不潔だな。病人が多いわけだ)


 オレでもそれくらいの事が分かるほどだ。村長宅だって、オレたち現代人の基準から見たら、あまり綺麗とは思えなかった。


 そんなどうでもいいことを思っている間にも、儀式魔法の準備は進む。

 彼女は魔法陣のオレとは反対側に立って、目の前の地面にはミスリルの刀身を持つ愛刀を突き刺してある。

 そして最初に彼女の体がぼんやりと輝き始め、最初の魔法陣が出現してくる。


 周囲の魔力が徐々に高まっているのが、オレにも分かった。体の魔力が、それを感じ取ってくれているのだ。と同時に、オレの体から何かが抜けていくのも感じる。

 よく見ると、体から何かぼんやりとした輝きが流れ出している。


(これがハルカさんが言ってた事か)

 

 見ていると、二人から溢れてきた魔力の輝きで、地面に付けた魔法陣に水を流し込むように広がっていく。さらに普通の魔法のように、本来の魔法陣が1つ、また1つと増えていく。

 しかし今回は、直径5メートル以上ある大きな魔法陣だ。彼女の体と長い髪も大量の魔力でかなり光っていく。


 まあオレはそれを見ても、「ファンタジーらしいなあ」くらいにしか思えなかった。


 けれどオレの体からも、かなりの魔力が引き出されている事が、何となく分かった。それでも全部絞り出されても死ぬわけじゃないだろうと楽観していたが、徐々に力が抜けてくるような感覚になる。

 だから、少しずつ体に力を入れないと、普通に立つのも億劫になってきた。

 彼女は、そんな中で精神集中して頭の中で魔法の呪文を構築しているのだから、大したものだと思うしかない。


 また、周辺の魔力か生命力のようなものかもしれないが、空気が集まるような感じで何らかの力の流れが集まってきている。

 深夜の戦闘でも彼女の魔法の時に似たような何かの流れのようなものがあったが、その時よりずっと大きい流れだ。

 そして始めてから3分ぐらいは経過ぐらいに、魔法が最終段階に入る。


「数多の神々よ、大いなる聖霊よ、汝の御子らに等しく癒しの恩寵を与えたまえ」


 彼女が目の前の地面に突き刺していた愛刀を手に取って目の前で掲げ、それっぽいと言っては失礼かもしれない言葉で儀式魔法が完成する。


 その時点で、地面の魔法陣以外に大きな魔法陣は4つ。さらに、幾つか小さな魔法陣が連動するように浮き上がり、そしてゆっくりと動いたり回転している。

 それぞれ違う模様の魔法陣なので、同時に違う魔法も発動しているのかもしれない。


 魔法が発動すると、魔法陣内の人々の体がぼんやりと光る。中心に近いほど、光は大きいようだ。さらにそれだけでなく、魔法陣を取り囲んでいた、おそらく健康な村人も多くが光っていた。

 外の者は光も小さいが、儀式魔法なだけに影響が広がったのだろう。


 その光はピークに達したあと霧散するように消えていく。



 魔法が完全に終わると、彼女は一度大きく深呼吸して、ゆっくり周囲を見渡たす。


「以上で、癒しの施しを終わります。すぐに効果が現れない者もいるでしょうが、神々の恩寵は皆さんに等しくもたらされる事でしょう」


 村人たちのどよめきや歓声に混じって、傷が治った、熱が下がった、気分が良くなった、なんだか元気が出た、など口々に言っているのが聞こえてくる。


 村長が村人を代表して、彼女にこの世界での土下座モードでお礼を長々と言っている。ほとんど聖女や救世主を前にしたかのようだ。

 もっとも、彼女はそれを早々に切り上げさせた。


「これも神々に仕えるものの勤め。過分な礼は不要です。それよりこれから従者と共に、神殿内で祈りを捧げます。他の者は入らないように。さ、従者よ」


 と、オレに軽く視線を向ける。ここはオレも乗るしかないだろう。


「はっ。畏まりました」


 なるべく様になるように、教えてもらった礼を行う。

 そして彼女のマジックアイテムだけ素早く回収すると、二人して小ぶりな石造りの神殿へと入る。


「大丈夫か? めちゃ消耗してない」


 中に入るまでに小声で聞いてみた。

 近づいて分かったが、彼女はかなりお疲れというか、顔色が少し青いくらいだ。

 儀式魔法とやらは、ずいぶん消耗するみたいだ。


「強がれるくらいには大丈夫。けど、ちょっと休憩したいわね」


「肩貸そうか?」


「平気。それより、あれだけ魔力引き出したのに、なんで元気なのよ」


 強くは無いが、オレを責める目線だ。


「えっ、そうなのか? 確かにダルい感覚あったけど」


「ビギナーとか嘘じゃないの? 実はチートなんじゃない?」


「おっ、マジか。ちょっと嬉しいぞ」


「……はぁ。まあ、中で休みながら話しましょ」


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