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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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027「ネームド(1)」

 自分の部屋で目覚めると、今日も『アナザー・スカイ』の記録をすることから始める。


 寝る前の悶々とした体の生理現象は意識に残っているだけで、こっちの体は意外に普通だった。


(意識だけが向こうに行くって言うのは本当なんだな)


 思わすそんな事を思うほどだった。

 記録自体は、小一時間ほどでとりあえず記録の箇条書きが終わったので、いつもより少し早くダイニングへと向かった。

 マイマザーの少し意外そうな顔で、今日の平凡な日常の幕開けだ。


 しかし今日からは、現実世界も今までとは大きく違っている。

 何しろ昨日、天沢とアドレス交換と二人だけのコミュニティまで作ったのだ。

 オレ様のハッピー・スクールライフ&リア充な生活の第一歩が始まりと言っても、言い過ぎではないだろう。


 『アナザー・スカイ』共々、どちらもまだ始まったばかりだけど、オレには妄想の彼方にしかないと思っていた光景がにわかに近づいてきただけに、我ながら少し浮ついてしまう。

 マイマザーにも「何かいいことでもあった?」と聞かれるほどだ。


 そしてせっかく早起きしたので、ウザい妹がダイニングに顔を出す前に出発する。

 妹はまだ近所の中学で、こっちは電車で通う高校なので基本オレの方が早く家を出るが、今日はいつもよりさらに早いので全く顔を合わさずに済んだ。

 朝は気持ち良くありたいものだ。



(明日からも、こうしようか)


 そんな事を思いながら学校の下駄箱までくると、タクミが待ち構えていた。どうやら、朝早く来て待ってたようだ。

 タクミの顔を見ていると、もう少し早く来るべきだったかもしれないと後悔しそうになる。


「よ、おはよう」


「おう、おはよう。わざわざ待ってるとか、何か用か?」


「つれないなあ。それより今日も部室来いよ。ショウは塾とかバイトないだろ」


「まあそうだけど、連絡ならスマホでいいだろ」


「顔合わす方が、ショウは断れないだろ。じゃあ、アポ取ったからよろしく!」


 オレの性格を見抜いているのは少し気に入らないが、朝から根掘り葉掘り聞いてこないだけ分かっている奴ではある。


(けど、下手したら、これから毎日部室呼ばれるのかなぁ。流石に毎日は顔出したくないんだけど)


 そんな事を思いつつも、昼休みとかに今朝起き抜けにメモったものを自分のスマホにも送っておいたので、それを確認しつつ今日の話す内容について少し考える。


 プライベートなど話せないことをチェックしておくためだ。そしてスマホに残しておく内容も、不意に見られたりした場合を考えて、確認した後は話せない内容を削除していく。

 メール自体も、作業が終わると破棄した。


 なお、教室でのオレと天沢だけど、軽く目線を合わせたぐらいで、特に何もしなかった。精々、目立たないように軽く会釈するぐらいだ。

 お互いクラスで変に注目されたくない事は分かっていたし、何より男女仲のことでクラスメイトから突かれるのはなるべく御免こうむりたい。


 クラスでのオレは、最低限と言える数のオレと似たような雰囲気の男子とちょっと話すくらいだ。男子は女子と違って明確なグループを作らない人間関係は正直は助かる。


 天沢の方は、やっぱりほぼ孤立している。

 いじめの一変形である故意に無視されたりはしていないが、オレから見てもこのままだと危険かもしれないと思えるほどだ。

 特に女子はかなりハッキリとグループを形成するのに、天沢はそのどれにも明確に属していない宙ぶらりんだ。

 既に入学から二ヶ月近く経過してこれは、かなり危険なのではないだろうか。


 ただ、ちょっと真剣にそしてコッソリと観察して見たところ、天沢の方が自分から一人でいるように感じた。

 『孤独を愛する』みたいに超然とはしていないが、一人でいるのが好きな性格なのかもしれない。


 一方、女子の会話を盗み聞いた限りでは、アメリカン・ハイスクールのカーストで言うところの『不思議ちゃん』扱いっぽくて、積極的に接触しない対象のようだ。

 教室でも本を読んでいるせいで、自然とそうなったようだ。


 あと、天沢で気づいたことが一つあった。

 体育の時は男女別だけど、その日は男女共グラウンドで体力測定のような事をしていたのだけど、当然というべきか女子の体操服姿は男子の注目を集める。


 伝説のブルマーは無くなって久しいが、それでも薄着で生足を惜しげもなく晒している姿は、これはこれで魅力に溢れている。

 測定を待っている間は、たいていの男子がグラウンドの反対側にいる女子たちに注目している。

 おバカな論評をしているグループも少なくない。


 まあ、オレも何となく女子たちを見ていたわけだけど、昨日の今日ということもあり天沢が少し気になった。

 小柄だけど、意外に遠目にも判別しやすいのだけど、彼女の動きが少し意外だった。

 やたらと身軽なのだ。特に足が速かった。


 クラスの男子の一部も「あれ、アイツ陸上とかしてたっけ?」と言っていたくらいだ。噂では、4月に陸上部がスカウトに来ていたらしい。

 見た目に違わず腕力はなさそうだけど、平均よりもずっと運動ができるようだ。


(意外な面の発見ってやつだな)


 まあ、オレが思ったのはその程度だったけど。


 その日の放課後、面倒だなあとは思いつつも文芸部の部室へと足を向ける。

 部活推奨の学校なので、あまり活発に活動したがらない生徒に対して文科系クラブが受け皿となっているため、旧校舎を利用したクラブ棟は意外に人が多い。


 それでも、美術部や科学部はそれぞれの専門教室を占領しているし、文科系最大勢力の吹奏楽部は音楽室中心にいてこの棟にはいないので、旧校舎は意外に静かだ。


 渡り廊下を超えて旧校舎に向かうところで、少し先を歩いている天沢を見かける。クラスでも一人なので、オレより先に教室を出ていたみたいだ。

 声をかけるか少し悩む。けれど、同じクラスメイト、同じ部員ならまあいいかと思えた。

 今までの影キャなオレだとあり得ないが、ここ数日のあっちでのハルカさんと一緒に過ごしてきた影響なのだろう。


「天沢ーっ、今から部室かー?」


 天沢はオレの声に一瞬ビクッとして、振り返ってホッとしている。

 そこに小走りで追いつく。


「びっくりした。誰かに声かけられる事ないから」


「で、部室?」


「うん、そう。月待君も? 連日は珍しいね」


「おう。朝にタクミから召喚命令が出ててな」


 天沢の言う通り、オレは毎日部室に顔出すことはない。週に2回顔出せば多いほうだ。加えて言えば、天沢がオレの普段の行動を把握していた事も少し驚きだった。


「元宮君が? よかった。じゃあ、今日も『アナザー・スカイ』の話、してくれるの?」


「まあな。けど、そんなに毎日も話すような事ないんだけどなあ」


「私は毎日聞ける方が嬉しいよ」


「マジか。じゃあ、毎日来ようかな」


 ぬけぬけとそんな事を言いつつ、部室へと二人で入る。


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