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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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024「廃鉱山(2)」

「ちょっと見てて」


 彼女は気軽に言うと、ホップ、ステップな軽い調子で数メートル間隔を飛び跳ねはじめて、かなりの高さに浮いている岩の上に到達する。

 映画やアニメのようで、常人には不可能な動きだ。


「ねっ、けっこういけるもんでしょ!」


 地面のオレに一度軽く呼びかけると、さらに軽い調子で次々に大き目の浮遊石へと飛び移っていく。

 それぞれの岩の距離は更に開いているが全く気にした感じはなく、彼女が飛び跳ねるたびに長いダークブロンドの髪が軽やかに風になびいている。


 少し違和感があるが、それはどこか月面で人が飛びはねる記録映像に似ていたからだろう。身体能力に対して体が軽いせいだと思う。

 途中、ゆっくり、もしくは突然沈みこむ岩もあるが、危なげなく元の場所まで戻ってきた。

 その間わずか120秒って感じで、某有名障害物アトラクション番組に出ても、楽勝でゴールできそうな身軽さだ。


「さ、今度はショウ君の番ね」


 やはり気楽に言ってくる。


「……無理だろ。しかもオレ初見だし」


「大丈夫、大丈夫。まあ、最初だから私よりも間隔の狭い岩の間を飛ぶようにすればいいんじゃないかしら」


「けど、けっこう命がけだぞ」


「だからいいんでしょう。まあ、そこまで言うなら、まずは地面のある場所で色々と飛び跳ねる練習してみる? いらないと思うけど」


 「ああ」と訝しげに答えて、とりあえずその場で跳ねてみる。

 よく考えたら、戦闘こそしたが、自分の体力や運動力について全然把握していないので、確かにありがたくはある。

 ゲームなら数字で全てが分かるのだろうが、現実と同じくやってみないと分からないことも多い。


「おっ、おっ、ちょっとすごくない?」


 その場で垂直跳びすると、本気じゃないのに軽く3メートルぐらい飛び跳ねれた。

 アフリカのマサイ族もビックリだ。


 何度も繰り返してコツが分ってきて全力で飛び跳ねると、垂直跳びで4、5メートルくらいまで軽々と飛び跳ねた。トランポリンで飛び跳ねたイメージに近い。

 そして高く跳ねた時に、ちょうど頭上に浮かんでいた小さな石に触れてみる。


「まだそんなもんか」


 彼女は近くに座り込みあくびをしながら「まだまだね」みたいな顔しているが、オレにとっては十分驚くべきことだ。

 面白くなってきたので、その後も色々と試してみる。


 傾斜のある場所での100メートルダッシュぐらいの全力疾走。続いて200メートル、500メートルと距離を伸ばす。

 しかも、身体に慣れたのか怪我から完全に回復できたのか、多少のことでは息も上がらなくなっている。


 さらに地面のある場所での垂直跳びや幅跳び、反復横跳びなど、道具なしでできる思いつく限りを試していく。

 腕立て伏せや腹筋なども少ししてみたが、全く筋肉が疲れる様子がない。


 ついでに、どれぐらいのものが持てるのか、浮いていない岩を色々と持ち上げてみたりもした。

 鬱フラグブレイカーの宇宙海賊も真っ青なハイスペックさで、確かにこれなら大きな魔物を簡単に倒せるのも実感できる。

 さっき戦った食人鬼オーガーだって、現実世界なら銃でもなければ歯も立たなかっただろう。


 思わず自分の力が面白くて、長い時間色々と試してしまう。

 すると、時間をかけて色々とやりすぎたのか、気がつくと最初は様子を見てくれていた彼女が、近くの岩にもたれかかって舟を漕いでいた。


(魔物が出るわけもないだろうし、しばらくは自分の身体のスペック確かめるか)


 その後も、もう少し地面のある場所で飛んだり跳ねたりしてみたが、徐々に自信がついてきたので、いよいよ浮遊石に挑戦する。


「よっ!」


 最初の大きな浮遊岩には、簡単に飛び移れた。


 崖上の地面からの水平距離は、多分5メートルくらい。それに比べて、地面からの高さはゆうに30メートル。

 普通なら目が眩んでもおかしくないが、すでに自分の体のハイスペックに自信が持ててきていたので大丈夫と思える。


(後で高いところから飛び降りてみよう)


 そんな事も気軽に思えるほどだ。

 そして近くの浮遊岩に、多少もたつきながら次々に飛び移っていった。

 少し遠くて岩にしがみつく事もあったが、幸い彼女はまだ寝ているようで、間抜けなオレを笑う声が響いてくる事もなかった。


 そして最後に、地面までおおよそ10メートルくらいの高さにある岩に飛び移ると、そこで一度深呼吸して一気に飛び降りる。


 落下距離は10メートルを超えていただろう。フワッと落ちるときの感覚が全身を捉えるが、特に怖いとは感じない。遊園地のアトラクションよりも気軽に、「スタッ!」って感じで案外簡単に飛び降りられた。

 足の様子などを確かめてみるが痛めた様子もない。


 身体の確認が終わって周辺んを見渡して見ると、崩れて半ば採石場のような崖になっている壁面には、幾つもの坑道が掘られていた跡が見えた。

 横に伸びるものもあれば、斜め下へと向かうものもあるが、多くが途中から崩れて尚も坑道の形を維持している感じだ。


 一方では採石場の様に切り出した感じの区画もある。採掘場所によって、浮遊石の質や密度が違うのだろう。

 また、浮遊石の周りは草が生えにくいのか、崩れたあと随分時間が経っているっぽいのに多少の雑草程度しか生えていない。


 そこで崖の壁面まで近づき、穴として残っている坑道を少し覗き見る。

 暗くて奥までは分からなないが、かなり奥まで続いているっぽい。ゲームなどと違い明かりなどはないし、オレ自身照明になるものは持ってないので、奥に進むのは諦めるしかなかった。


 それでも外の光が届く範囲の天井部部分には、いくつか小さな浮遊石を含んだ石が、へばりつくように浮かんでいるのが見える。

 そして中の様子に関心をなくす直前、他とは違う何かが目に付いた。


 少し中に入って近づくと、小さな宝箱のような小箱が浮かんでいるのが目に付いたので、軽く飛んで掴み取った。

 箱は丈夫な金属製で、鍵がかけられているみたいで開かない。箱の周囲を見てみたが、浮遊石らしいものがはめ込まれていたりしないので、中に浮遊石が入っているんだろうという推測ぐらいしかできない。

 とはいえ、持ってもオレの体が軽く感じることも浮かぶこともないので、中身は大したことはないのだろう。


 突然輝き出せばドラマの始まりでも予感させるのだろうが、そんな事も無かった。

 そして他に同じようなものがないか周囲に視線を巡らせみたが、他に箱は見当たらないし、それどころかヒントになるような人工物一つない。骸骨が横たわっているという事もない。

 箱だけを、誰かが忘れたか捨てたのだろう。


(ゲームなら、何かのアイテムゲットってところなんだろうけど、お金になれば御の字ってぐらいだろうな)


 大した期待もせず箱を持ったまま外に出ると、ちょうど山頂の方から声がした。

 だから少し急いで、少し崖から離れてハルカさんがいたであろう場所から見えるような場所に移動し、上に向けて手を振る。


「あっ! 大丈夫〜?!」


「平気平気。自分で飛び降りただけだから!」

 

 そう返してから、改めて周囲の景色を見渡してみたが、やはり派手に崩壊した鉱山跡だ。

 それにしても崩れ具合が酷く、オレの居る辺りは派手な崩れ方をしている。


 そこでちょっと疑問に思ったので、飛んだり跳ねたりを併用しながら素早く彼女の待つ山頂まで急いで戻った。

 始めた時と比べて、自分でも動きが良くなっているのが分かった。彼女もオレの動きを、少し意外そうに見ている。


「随分はしゃいでいたみたいね。で、何してたの?」


「ちょっと、能力図るついでに下まで飛び降りて、廃坑でこれ見つけた」


「何、宝箱?」


「みたいだけど、鍵がかかってて中は不明。けどほら」


 手のひらを水平にして、箱を手の下に置いてみる。すると手にひっつくように箱が浮かんだ状態になる。

 彼女はそれを手に取って、さっきオレがしたように色々と試す。


「浮遊石を使ってるか、中に浮遊石があるのか。箱の表面には何もないから、中に精製物が入っているのかもね」


「だろうな。けどここって、採掘場だったんだな」


「そうね、随分前に放棄されたらしいけどね」


「採掘ってことは、浮遊石は利用できるんだな」


「できるわよ。そのままでも含有率の高い岩を使って、飛行船の材料にするのよ。他にも、集めて精製して錬金術で結晶化すれば、魔力を注いで自由に浮かぶのに使えるわね。

 他にも武器や鎧、鞄なんかに小さな結晶を埋め込んで、軽くしたりもするしね。私の装備にも少し使ってるわよ。他に魔法媒体に使うこともあるわね」


「で、取りすぎた結果が、この有様ってわけか」


 改めて廃墟となった鉱山の成れの果てを見下ろす。

 また、最初は目につかなかったが、少し離れた場所に建造物があったであろう跡があるのも分かった。昔は鉱山に隣接する集落もあったのだろう。

 オレにつられてか彼女も同じように集落跡を見ているが、どこか達観した風だ。


「そうなんでしょうね。珍しいしお金になるから、浮遊石の鉱山が見つかれば領主とか特権商人は、後のこと考えずに掘るらしいわ」


「それはそれで酷い話だなあ」


「まあ、ここは周りに何もない場所だから、崩壊した時の被害は最小限だと思うけど。それに当時は、この辺りは相応に潤った筈よ」


「なるほどねえ。じゃあ、次に行く村も豊かなのかな?」


「昔の話だから、それはないでしょうね。それとあの集落跡の子孫が、あっちの村を開いたって聞いた事あるわ。こんな場所で集落開いても、大した作物取れないでしょうに」


 そう言って彼女が視線を向けた先に、小さな森の向こうに農地とその中心に集落らしきものが朧げながらに見えていた。

 確かに豊かそうには見えなかった。


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