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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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023「廃鉱山(1)」

 夜明け前の戦闘が終わると、少し離れた風上で夜明けを待ち、そして明るくなり始めると戦った場所に戻り、あとを確認する。


 死体からは黒っぽいもやのようなものが立っているが、倒したばかりの時よりマシになっている。


「そう言えば、こいつらの装備ってどこで調達してるんだ?」


「金属以外は自分たちで作ってるって話よ。作ってるの見た事ある人もいるわよ」


「ヘーっ。もっと建設的な事に使えばいいのにな」


「まあ『鬼』で分類されるような魔物だし、人と同じような行動原理はないわよ」


「集落とかそう言うのはないんだよな」


「せいぜい野営地ね。文明程度も、自分たちで作るのは石器時代レベルらしいわ」


「弓とかけっこう作るの大変だよな」


 偶然近くに落ちていた壊れた小さな弓を手にしてみたが、小さい以外はそれなりにしっかりした作りだ。


「この見てくれなのに、意外に器用よね」


「捕まえたら利用できそうだな」


「同じように考えた人は一杯いるけど、捕まえてもすぐ死ぬそうよ」


「奴隷とかにできないんだ」


「ええ、体内への魔力の供給が関係しているらしいけど、何をしても1週間くらいで衰弱死するそうよ。それより、ありそう?」


 雑談しながら、先にハルカさんから言われていた場所、具体的には心臓の側を短剣で切り裂くと、体内に小さな輝きを見つける。

 そこでもう少し切り裂いて、その輝きを取り出す。


 どす黒い血に包まれているが、半透明の小さな石ころが取り出せた。


「おっ、これが魔石か?」


「ええそうよ。ラッキーね、思ったより大きいわ」


「金になるのか?」


「お金にもなるし、魔法使う時に魔力の電池にもなるわね」


「じゃあ、ハルカさん持っといてよ」


「いいけど、その前に洗ってくれない」


 それに軽く謝ると小川に戻り、戦闘場所の上流側で手に入れた魔石を念入りに洗う。

 そして周囲にはまだ悪臭が立ち込めているので、その場を移動。少し上流まで歩いて、そこで最低限の朝の準備と食事をとって街道に戻り、馬での移動を開始する。


 そして単調な移動になったので落ち着いたので、昨日の現実世界で『夢』バレしたことを話さないといけないと思った。



「えっ! もうバレたの?! どれくらい話したのっ!」


 予想通りの反応なので、なるべく慎重に言葉を選びつつ話すことにした。


「プライベートな情報はできる限り伏せてある。ハルカさんの事も、簡単な装備や格好と神官戦士の女性としか話してない」


「……ギリギリ合格ね。私の能力とかは?」


 口調までもギリギリ合格だと伝えてくる。

 これからは、もっと慎重に話そうと思わせる声色だ。


「物知りが多いから、ちょっとした話からもかなり分かるみたいだから、そこそこ詳しく話して、ます」


「そう……まあ、使う魔法や技術で身バレはしないだろうけど、十分以上に気をつけてね」


「うん、分かってる。個人名とかプライベート情報はできるだけ伏せる。けど、その」


「何? まだ何かあるの?」


「クラブの部活中にバレたんだけど、定期的に部員連中に話すことにさせられてるんだ」


 そこで彼女は、オレに見せるように額に手を当ててしまう。

 そりゃそうだろう。

 そしてしばらくすると、「ハァ」と深めのため息がもれた。


「今言ったように、プライベート情報だけ気をつけてくれれば別にいいわよ」


 完全に諦め口調だ。


「ごめん。けど、もっと怒られて、話すの厳禁とか言われるのかと思った」


「バレたのは仕方ないし、別にこっちのこと話すのも昔はよくあったって言うしね。けど、よく今どき聞く人がいたものね」


「オレ、文芸部にいるんだけど、何人か熱心なやつがいてね」


「高校の文芸クラブか。確かにいそうね。他にも『ダブル』がいたりするの?」


「いいや。少なくとも、学校内でカミングアウトはオレ一人っぽい」


「まあ、そんなとこでしょうね。同じ場所に居やすいとかは都市伝説だし」


それでその会話は終わったが、昨日の夜に野営交替時に思った事がスルリと口からでてきた。


「その同じ場所って事でちょっと思ったんだけど、昨日の夜交替で寝てそれぞれ向こうで一日過ごしているだろ」


「そうね。何か問題でも?」


「いや、先に寝たヤツが向こうで一日過ごした内容を交替の時に教えれば、後から寝るヤツはその内容に従って動けば、半ば未来予知的に動けるんじゃないのか?」


「ああ、そういう事。みんな最初に思う疑問の一つね。けど残念でした」


 いかにもな仕草で彼女が答えた。

 半ば予想していたが、小馬鹿にされるかとも思ったがそうでもないらしい。


「ダメなんだ」


「ええ。どれだけ準備しようと大人数でやろうと、遠距離同士で時差を利用しようと、それこそ何が有ろうと、未来予知的な記憶は向こうで起きたら話された事すら奇麗に抜け落ちているの。

 しかも酷い時は、フライングした丸一日分の記憶が次の1日まで抜け落ちるのよ。

 他にも、話す直前、記録する直前、話してる途中で思い出せなくなるとかもあったらしいわ。初期の頃の『ダブル』たちが散々試したらしいのよね」


「そりゃ試すよなー」


「ええ。けど普通は、近くにいないか、連絡方法がなければ大丈夫ね。逆に向こうで連絡手段作っただけで、互いに1日記憶が抜け落ちた状態になる事もあるから、気分的に良くないわよ。だからリアルの素性は教えあわないってのもあるの」


「なるほど。色々と不思議だな。あ、でも、書き置き、メール、あと動画送信とかでいけないか?」


「その辺も散々試したそうよ。長い時間かけて何重にも事前に決め事した事も」


「ダメだったんだ」


「どうにも、そういう場合は当事者の認識から完全に無くなるみたい。見えているのに見えていない、みたいな。現代の物理学や量子学で説明している事もあるらしいわよ。見た事ない?」


「いや、全然。でも、認識すらって不思議だな」


「そもそも、こうして日帰りというか実質一日置きで異世界を行き来してる時点で不思議なんだから、今更って感じもするけどね」


「そりゃそうだな。そうか、無理なんだ」


「そうよ。ちなみに逆も無理。チート、ズルはなしよ」


 それで彼女は、向こうで話すことにそれ以上話してくる事もなかった。




 そしてその後、何でもない雑談をしつつしばらく道を進むと、ちょっとした山並みが近づいてきた。あの山を越えると村があるとさっき話していた山だろう。

 ただ軽い違和感がある。近づいて分かったが、その山の辺りの空に妙なものが飛んでいるような気がしたからだ。


「なあ、何か飛んでないか?」


 指差した先に彼女が鋭い視線を向けるも、すぐに緊張を解く。


「ああ、大丈夫、大丈夫。岩が浮いているだけだから。それにあそこが次の目的地よ」


「え? 岩? 浮く?」


「そう岩。あっちでのまとめサイトにも情報あったでしょ。浮遊石 《レビテートストーン》のこと」


 言葉とともに彼女が手をフワフワと上下させる。


「あれもあるんだ。じゃあ、伝説の浮遊大陸もあるのか?」


「あるわよ。浮遊大陸アトランディア」


「さすがファンタジー世界だな」


「そうよねえ。私も、最初に浮いた島を見た時は驚いたわ」


「島や大陸は一度は見てみたいな。けど、どういう原理で浮くんだ? 魔法とか魔力のおかげ?」


 そう、原理が全然分からない。お気楽ファンタジーなら重力がどうこうと説明されるのだろうが、この世界はそうじゃなさそうだ。


「一般的には、魔力を含んだ石や砂が結晶化した説ね」


「魔法金属みたいに?」


「らしいわ。詳しくは知らないけど、磁気浮上、超伝導に原理が近いそうよ」


「魔法の不思議パワーじゃないんだ。けどそれなら、鉄の魔法金属の方が浮きそうだよな」


 オレの言葉に彼女が軽く笑う。


「そうでもないらしいわね。まあ何にせよ、見えているものが全てよ」


「そういうもんですか。で、あそこで何するんだ?」


「あの岩と岩の間を飛ぶのよ」


「マジで?」


 声が少し大きくなってしまった。それに反応して、彼女がこちらを振り向く。

 そして目がマジだと語っている。


「まじまじ。それぐらいできないと、生き残れないから」


(いやいや、この世界、どれだけ生き辛いんだよ)


 俺の内心の突っ込みや懸念をよそに、彼女は気にする風もなく馬を進める。

 山の側を抜けると村にもたどり着くし、道はそちらにしか伸びてないので行くしかなかった。


 そして20分ほど進むと、右手にさっきの岩が浮かんでいる低く小さな山に差し掛かる。山自体は多くが針葉樹林で覆われているが、一部の地面が露出している。

 その露出は浮かぶ岩が多くなると増えていく。


「あれに掴まったら浮かべるかな?」


「小さいのは止めた方がいいわね。浮いてる石って、それぞれの位置で浮力と重さのバランスが取れて浮かんでるから。

 あと、魔力を注ぐと上下できるけど、普通の物質とのバランスが崩れて岩が崩壊する可能性もあるから危険ね」


「大きいやつは?」


「人一人くらい大丈夫よ。これから飛び移る練習もするし」


「いやいや、そんなことしなくていいでしょ」


「いやいや、するわよ。ショウ君の能力を図るだけならいいけど、実用に耐えるようになるには、多少は必死になってもらわないと。

 大丈夫よ、丈夫な体だから落ちても簡単に死にはしないし、怪我したら治してあげるから」


 彼女は何でも無い事だとばかりに軽く話すが、飛び移れそうな浮かぶ岩と岩の間は5から10メートルぐらいずつくらいは離れているように見える。



 そうして裾野まで来ると一旦馬から降り、徒歩で岩がたくさん浮かんでいる場所を目指す。

 ハルカさんはかなりの速度で駆け上がり始めたが、馬も慣れたもので彼女の後を気軽に付いて行く。

 普通と比べると運動能力が高い事がよく分かる動きだった。


 それをオレは、慌てて追いかけることになった。


 山自体は小さく、街道から山頂までたいした距離もない。丘ほど小さくはないが、小山といった感じだ。

 そして彼女のペースで進むと飛んだり走るような超人登山になるので、あっという間に頂上付近だ。

 こうして見ると、『ダブル』の運動能力の高さを実感できる。


 しかし、超人的に激しく動くとそれだけ魔法を使った時のように魔力を一時的に消耗していくので、長時間は無理らしい。だから移動でも馬などを使うのだ。

 体内の魔力を利用した超人的な動きを、ブーストと表現する事もあるほどだ。


 そして全体が見渡せるようになって分かったが、そこらじゅうに小さな岩や石が浮かんでいる。

 中には、空高くに浮かんでいるものもある。さらに山の片側が大きく削れていて、進行方向からは見えていなかったが、片側が崩落したようになっている。


 見下ろしてみると足場や小屋跡などもあるので、何かの鉱山跡のようだ。

 そして大きくえぐれた場所のそこかしこにも、様々な大きさの浮遊石が色んな高さに浮かんでいる。


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