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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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019「下校(1)」

 話がひと段落して、部員たちからの質問を適当に答えながら視線を部室内を彷徨わせると、部室の片隅で一人静かに文学してる女子に目がとまった。


 他はみんなオレの周りに集まっていたので、ちょっと浮いている。


(確か同じクラスの、アマ……何だっけ)


 それほど人の名前を覚えるのが得意でないとはいえ、オレの彼女に対する認識はその程度だった。

 クラスでの最初の自己紹介と授業で当てられた時、あと文芸部の新勧以外で彼女の声を聞いたことは殆どない。

 当然だけど、会話をしたことも無かった。


 あまり記憶にないが、教室では一人が多いように思う。彼女は、クラスでオレ以上に孤立しているはずだ。女子は男子以上に群れるのが好きだし、友達認定も初日とかにする厳しさだ。

 文芸部内だと流石に孤立まではしていないが、似たような大人しいイメージの女子と話している姿を見るくらいだ。

 一人で本に向かっている姿が多いと思う。


 外見は、少し癖毛のある長めのボブカットというか、昔ながらのおかっぱ頭に近い。

 耳を隠して前髪も長くして顔を隠しているので、横からだとほとんど顔が見えない。さらに眼鏡もかけているので、よけい顔立ちや表情が分かりにくい。

 せめて髪を何かで留めたりしておけばと、オレでも思うほどだ。


 これがシャギーがかったもう少しショートの髪型なら、有名なアニメキャラっぽいかもしれない。

 しかも、ただでさえ小柄で華奢な体つきなのに、消極的な雰囲気が強いので余計存在感が小さくなっている。

 そのせいではないだろうが、苗字すら思い出せない。


 オレのカミングアウトに対しても、恐らく反応しないのではなく、この話しの輪に入ることができないからだと思えた。

 オレにも経験のあることだった。


 そんな事を思ったせいか、ふと顔を上げた彼女とオレの視線が合った。

 もっとも次の瞬間、彼女は慌てて目線を下げ、手にしていた本に視線を落とした。

 けど、その時見た思ったより大きな瞳には、かなりの驚きが感じられた。

 心なしか頬も赤らんでいるように見えた。


(よほど人付き合いが苦手なんだろうなぁ)


 気持ちはちょっと分かる。

 もっとも、オレへの強制インタビューが今度は部員各個人になって、その娘どころじゃな無くなって、その時は興味も霧散してしまった。


 

 オレの強制インタビューは、放課後の4時くらいから2時間近くも続き、先輩が気を利かせてミネラルウォーターを買ってきてくれなければ、声を涸らしていた事だろう。

 みんなの興味や疑問はなかなか尽きず、文化部の下校時間の放送が流れたおかげで、ようやく部員たちから解放されたほどだ。


 しかもタクミには最後まで付きまとわれたのに、薄情なことに塾があるとかで玄関ホールの下駄箱でオレを置き去りにして飛ぶように帰っていった。

 ただ最後に「明日も頼むぞ!」と勝手な事を言ってたけど。


(空気読めるヤツなのに、守備範囲の事となるとワガママオタクだよなぁ)


 タクミに勝手に論評をつけつつ、一人でのんびりと校舎を出て校門を目指す。

 既に校内の人影はまばらだ。

 運動部の部活は7時まで続くが、文化部は遅くまで活動している部は限られているので、下校する人の数は少ない。

 ましてやオレは遅めに下校しつつあるので尚更人は少ない。


 日に日に日没時間が遅くなっているが、六時半近いので少しずつ夕焼けが迫りつつある。そこで足早に学校を後にしようとしたのだけど、校門の所にたたずむ人影を認めた。

 誰かと待ち合わせをしていますと宣言するようだけど、その姿にどこか見覚えがあった。


(あっ、あの娘だ。なんだ、待ち合わせするような友達いるんだ。……名前出てこないけど)


 あと5メートルという所で、オレはようやく相手の正体に気付いた。

 とはいえ、あまり興味は無いので陰キャらしく挨拶もせず通り過ぎようとしたのだけど、その彼女が斜め後ろから異常なほど切迫した声をかけてきた。


「あ、あのっ! 月待君!」


「えっ、オレ?!」


 予想外に力強い声にグイッと振り向かされたようなオレは、多分かなりの間抜け面をしていた事だろう。

 けど、彼女の強い決意を秘めた瞳には、オレの姿は違って映っているよにすら思えた。


「う、ウン。月待君に、その、話しがあるの。ちょっとだけ、時間いい?」


 下校時、校門前で待っていた女生徒から声を掛けられるというシチュエーションは、年頃の男の子なら一度は憧れを抱く情景だろう。オレだって例外ではない。


(けど、この娘じゃあなぁ)


 というのが正直な感想で、驚きが引いたオレの顔には残念そうな表情も出ていたのではないだろうか。

 我ながら実に失礼かつ情けないが、それが偽らざる気持ちだった。


 けど、眼鏡の奥の彼女の瞳を見ていると、彼女への印象が変化していくのを感じた。


 大きく見開いてオレを見つめる瞳は、かなり大ぶりで意外なほど生気に溢れていた。そして普段は閉じがちでしか目を開いていないのを、この時初めて知った。

 また恥ずかしさのため少し顔が紅潮しているが、それが彼女の顔に表情と生気を与えているようで、彼女の魅力を高めていた。


 マジマジと正面から彼女の顔を見たのも初めてだけど、顔立ちの方も頬の半分ぐらいまで髪の毛で隠しているのがもったいないように思えた。

 夕方の校門前効果だったのかもしないが、これもまた正直な気持ちだった。


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