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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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018「夢バレ(2)」

「そういや、入学の頃言ってた『アナザー・スカイ』探求って、まだしてるのか?」


「オフコース。いつでも旅立てるよう準備万端さ。今度の会誌にも何か書く予定。それよりショウがそんな事聞くとは、何、何か情報をご所望? 何でも聞いてくれ。それともボクの同士になってくれるのか」


 自分が興味のあることなので、タクミは顔もこっちに向けて矢継ぎ早に言葉を浴びせてくる。

 この辺りがオタクっぽいんだよなと思いつつも、どう話しを切り出すかを逡巡してしまう。


「いや、その、本当に『ダブル』なんているのかなと、改めて思ったり……」


「いるさ。一番信頼できるリソースでは、日本人のティーンなら見始めるのが500人に一人、見続けるのが2500人に一人。つまりこの学校にも、いる可能性は十分にある。

 そしてボクが選ばれる可能性も十分にあるさ。そして見始めたら、絶対に残ってみせるね。

 それと、これはチョットしたご近所ネット上での噂だけど、ショウの住んでる隣町にいるらしいぞ」


 オレの言葉を最後まで聞かず、ハイテンションのまましゃべり続けるタクミ。けど最後はヒソヒソモードで、顔の方もさも聞いてくれと言いたげだ。


「ハイハイ、どんな人だ。チート勇者か? 俺様な魔王か? まあ可憐で従順な金髪エルフ娘ならオレ様ちょーうれしいけどな」


「うわっ、全然聞きたくなさそう。けど、どれも外れ。というか、『アナザー・スカイ』での詳細は分からず。でも、その人の素行から『ダブル』は確定って話し。しかも美人いや美少女だよ。それだけは保障する」


「見たのか?」


 美少女の言葉でハルカさんの事が頭をよぎり、思わずギョッとしてガン見してしまう。


「まさか。ボクはそこまで不謹慎じゃないさ。でもシャメはあるぞ。見るか?」


 オレが食いついて来たと見たタクミは、このGWに出たばかりのスマホを取り出して誘惑してくる。


「どうせ見せる気なんだろ。ていうか、盗撮はダメだろ」


「ボクが撮ったんじゃないよ。ネットで拾ったんだ。ホラこれ。ファッションモデルらしいぞ」


 スマホの画面には、バストショットでズームされた和風美人が写っていた。

 黒絹のようなと表現できそうな黒髪を後ろで結わえ、白い着物らしき和服に負けない白い肌、黒目の多い切れ長の目、確かに美人だった。けど……


「……なんだ、別人か」


「別人?! 何か知ってるのか。教えろよショウ!」


 オレの不用意な言葉と表情に、タクミが即座に大声で反応した。

 シマッタと思ったが、多分その感情も表情に現れている筈なので、もはや隠しておける状況ではなかった。

 タクミも、さあゲロしろ(吐け)と、全身で半ば脅しにかかってきている。胸ぐらを掴みかねない勢いで、現に立ち上がってこちらに迫りガッシリと両手で肩を掴んできた。


「分かった、話すよ。話すから、まあ落ち着け」


「オーケー、ボクも悪かった。で、何、まさか?!」


 そう言いつつも、肩から手を離そうとしない。

 これは言うしかなさそうだと諦める。


「うん。オレ『厨二病』みたいなんだ」


「マジか!」


「連日だし、記憶もはっきりしてて、ちゃんと向こうで一日経ってたから、多分間違いない」


「畜生、おめでとう!」


 そう叫んで、一度オレ話したオレの肩を、バンっと叩く。

 自嘲気味のオレの言葉に、二人の一連のやり取りに聞き耳を立てていた部員たちが、声なき歓声をあげた。そしてその後は、言いたい放題だ。


 「マジ?」「ヤバっ」「ウソ、月待君が」「遂に我が部にも『ダブル』顕現か!」「うちの学校、他にいたっけ?」「少なくともカミングアウトしたヤツはいない筈だ」「今までに何人かカミングアウトしたって、こことPC研の記録で見たことあるよ」「で、月待、どんなだった?」「かついでるんじゃないよな」「ただの夢じゃないのか?」


 気がつくと、既にほぼ全員がオレとタクミ、いやオレの周りに群がっていた。

 椅子と一緒にやってくる奴も居る。聞く気満々だ。


「まあまあ皆さん、ここは聞き出したボクが進行役って事でいいでしょうか」


「お、おう、元宮。月待にゲロさせろ。マジなら次の会報のネタにする」


 先輩の容赦ない言葉によって、オレは証言台に立たされることになる。

 みんなは根掘り葉掘り聞く気満々で、オレに拒否権はないらしいし、これだけの人数相手に拒否するメンタルもない。


 すぐにも近くの机には、複数のスマホが録音状態で置かれていく。

 インタビューか事情聴取されるみたいな気分になってくる。手書きメモの準備や、スマホで関連サイトを開く者もいた。


 その後は、文字通り根ほり葉ほり、まあ流石に個人情報と嬉し恥ずかしな部分は話しから注意して除外したが、2日間の概要を書記付きで話す羽目となった。

 そうして一旦話し終えた時には、1時間以上経過していた。


「流石というべきか、無駄にリアルな内容だな」

「仕草付きとか、動画公開でも滅多に見ないよな」

「『夢』の見始めってのは、貴重な情報だね。実のところ、まとめサイトにもなかなか無いよ」

「海外だと、SNSで日記風に書いている人もいたわよね」

「動画で話すヤツもいたよな」

「けどああいうのって、なんか東洋風ファンタジーで、月待のは西洋風ファンタジーでしょ」

「そりゃ日本人『ダブル』の行き先と言ったら『なんちゃってヨーロッパ』でしょ。合ってるよ」

「それより月待、ノヴァって実在するのか?」


 やはり言いたい放題だ。


「う〜ん、雑音多いなあ。お前ら勝手にしゃべりすぎ。これじゃ半分も文字起こせないぞ。ったく、専用のレコーダーが欲しいなあ。誰か家族とかが持ってないか?」


 副部長でもある鈴木先輩は、無責任にそんな事をのたまっている。今後も定期的に話しをする事を、オレに無理矢理承諾させたからだ。


「それにしても、ショウが剣士ねえ。まあ、微妙に情けない所まで、妙にリアルだよな」


「アハハハっ、言えてる。けど、その神官戦士か魔法戦士の女の子は名乗ったのか?」


「名乗りましたよ。向こうでの通り名っぽかったですけど」


「月待は?」


「思わず本名名乗ってしまいました。だから彼女からはショウって呼ばれてます」


「迂闊なやつだな。けど、向こうも名乗ったという事は、本名とは全然違うからだろうな。でないと、月待みたいな男に無警戒すぎる」


(みたいって、なんだよ)


 終始言いたい放題だけど、それでも最後に辛うじてフォローを入れてくれた。

 『ダブル』出現の事はともかく、オレが当事者だってのは完全にオフレコ。名前を晒すのは厳禁。ご丁寧に、全員の署名までしている。SNSのグループも新しく作った。


 意外に結束力は高いところを見せたのだけど、単に秘密を独占したいだけなのかもしれない。

 しかもこのままでは、この秋の文化祭のウチの出し物の一つは確定的だ。でもまあ、これで他の部員とも距離を縮められたと思えば、これはこれで良かったのかもしれない。


 そう思いはしたが、その後もギリギリまで容赦のない質問が続いた。

 逆の立場ならオレもそうだったけど、勘弁してほしい。


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